#マーケティング #学び #本
学ぶことに遅すぎるなんてことはない——。
そう聞いて、あなたはどう感じますか?
年齢や環境、過去の失敗を理由に、新しい挑戦をあきらめていないでしょうか?
小説 「宙わたる教室 (伊与原新) 」 は、そんな私たちに問いかけてくれる物語です。
小説のストーリーでは、様々な困難を抱えた生徒たちが、定時制高校で出会い、科学を通じて自分の可能性に気づいていきます。主人公たちの姿は、学ぶ喜びや挑戦する勇気を思い出させてくれます。
ビジネスにも共通する大切な学びが詰まっています。
本書の概要
物語の舞台は、東京・新宿にある都立の 「東新宿高校」 の定時制です (実話をもとにしたフィクションです) 。
東新宿高校の定時制には、多様な事情を抱え、年齢も背景も異なる生徒たちが集います。物語は章ごとに主人公が変わり、それぞれの視点から紡がれていきます。
ディスレクシアという言語障害に悩む岳人 (たけと) 、不登校生徒として過去のトラウマを抱える佳純 (かすみ) 、教育機会を逸したフィリピン人女性のアンジェラ、時代に翻弄された経験を持つシニア生徒の長嶺 (ながみね) など、それぞれが 「ままならない過去と事情」 を背負っています。
物語の中心となるのは、定時制高校の理科教師である藤竹先生のもとに集った生徒たちが結成した「科学部」です。
部員が挑むのは 「火星のクレーターを再現する」 という壮大な実験です。
火星の地表に隕石がぶつかってできる火星特有のクレーターを、火星とは全く異なる環境である地球上でです。それも宇宙専門の実験施設ではなく、定時制高校の教室で自分たちで一から実験設備を作って忠実に再現しようというものです。
それぞれが困難と向き合いながら、共通の目標を通じて絆を深め、成長していく姿が描かれます。
著者の伊与原新さんは、地球惑星科学の博士号を持つ作家です。
専門知識は、火星のクレーターという題材選択、宇宙や科学・物理、実験設備への小説物語での詳細さとリアリティさに表れています。科学的知見と人間ドラマが融合し、物語に深みをもたらします。
主要テーマと作品が描き出す世界
では、本書 「宙わたる教室」 を読み、特に心に残った主要なテーマをいくつかご紹介します。
多様な個の再生と挑戦
本作の大きなテーマのひとつが、多様な個の再生と挑戦です。
年齢、国籍、置かれた状況も全く異なる生徒たちと先生が、定時制高校というひとつの教室に集います。
彼ら・彼女らはそれぞれに他人には言いたくない過去と事情を抱え、負のスパイラルや胸に重苦しいものを経験してきました。そんな彼らにとって、定時制高校はもう一度学校に通いたいという学び直しの機会であり、人生の再出発を期すための大切な場となります。
この本をおもしろく読み進められるのは、各々が抱える困難の多様性を様々に描いている点です。
例えば、主人公の一人である岳人のディスレクシア (識字障害) や素行不良、佳純の不登校や精神的なトラウマ、アンジェラの教育機会の逸失、長嶺の学歴コンプレックスなどが丁寧に描写されています。読み進めると登場人物たちの生きづらさに対して、多角的な思考と共感を寄せることができます。
小説で描かれる境遇や困難は、登場人物の個々人の問題であると同時に、日本の社会が抱える教育格差や貧困といった問題の縮図とも言えます。
既存の社会規範や画一的な成功モデルから一度はドロップアウトした生徒たちが、新たな自分自身を発見するための場として、定時制高校という舞台が機能します。そこは再生と挑戦を象徴する存在なのです。
科学への探求心、学ぶことへの根源的な楽しさ
ストーリーでは、定時制高校の科学部が 「火星のクレーターを物理的に再現する」 という実験が出てきます。
当初は科学に縁遠かった定時制の生徒たちが、ひとりまたひとりと科学部に参加するようになります。実験に没頭する中で知的好奇心を刺激され、学ぶことの楽しさ、真実を探求する根源的な喜び、仲間との協力にやりがいを見出していきます。
作中で強調されるのは 「どんな人間でも、その気にさえなれば、必ず何かを生み出せる」 という言葉です。学歴や経歴といった外面的な条件に関係なく、純粋な探求心と地道な努力が具体的な成果につながる可能性を力強く示しています。
科学部の生徒たちは、仮説を立て、失敗と試行錯誤を繰り返し、仲間と協力し、論理的に考察するという実験プロセスを通じて、科学的な思考法を実践的に身につけていきます。
様々な理由で過去に学ぶ機会を十分に得られなかった登場人物たちにとって、学ぶことの楽しさは自己肯定感の回復や生きる意欲の再燃に直結する体験です。
困難を乗り越える絆と成長
主人公たちは、それぞれに困難な状況や過去のトラウマを抱えながらも、それでも定時制高校に期待を抱き通い続け、学び、新たな挑戦をあきらめません。
物語の中での 「あきらめる理由を探すのはもうやめたい」 というセリフが出てくるように、失敗を恐れずに再挑戦しようとする前向きな姿勢が読み手にも伝わってきます。
生徒たちははじめは現状に嘆いたりあきらめの気持ちばかりでした。しかし、科学部に関わる中で少しずつ自らの意思で一歩を踏み出します。藤竹先生からの誘い、科学部への参加、実験の継続、学会発表への挑戦といった一連の行動は、すべて彼ら・彼女らの主体的な選択の結果でした。
挑戦を支えたのが、科学部というコミュニティの中で育まれる仲間とのつながりや絆です。
はじめはお互いのことが理解できず反発も起こりました。しかし、徐々に自分たちの違いを理解し、受け入れ、支え合い、協力することで、途中で科学部が空中分解を起こす中でも、一人では到底乗り越えられない壁を突破していく。その姿は、人の強さと他者とのつながりの重要性を教えてくれます。
科学実験における失敗の捉え方も重要な役割を果たします。
小説のストーリーの中で、実験の失敗はネガティブな終わりとしてではなく、新たな学びや発見につながる必要なプロセス」として肯定的に描かれます。
教育の可能性と導き手の役割
科学部の顧問で、主人公の生徒たちの精神的な拠り所でもあるのが藤竹先生です。
藤竹先生の指導法は、本書における教育の可能性というテーマを考える上で示唆に富みます。
藤竹先生は、生徒たちに直接的な答えを与えることは決してしません。生徒一人ひとりの自主性や探求心を引き出すような、触媒のような役割を担います。
生徒たちの変化や成長の過程を 「実験」 と表現しますが、その言葉の裏には冷徹さではなく、生徒への信頼が根ざしていることが伝わってきます。実験という言い方には、生徒一人ひとりの未知なる可能性を信じ、自らの力で何かを生み出すことへの静かで強い期待が込められているのです。
藤竹先生の実験というアプローチは、教育における観察と介入のバランスという普遍的かつ難しい課題を体現していると解釈できます。
生徒たちを客観的に観察し、自律的な成長を辛抱強く見守りつつも、必要な場面では的確なサポートを行い、内発的な動機を引き出します。絶妙な距離感が、生徒たちの主体性を尊重し、彼らが自ら学び、発見するプロセスをうまく促します。
読者に投げかけるもの
本書 「宙わたる教室」 は、多様な困難を抱える人々が、学びと探求、そして仲間との絆を通じて再生していく姿を感動的に描き出し、読者に希望と勇気を与えてくれる作品です。
本作は、教育の本質、学ぶことの根源的な喜び、そして科学への純粋な興味を読者が再認識できる力を持っています。
年齢や社会的立場、過去の経験にとらわれることなく、誰もがその気にさえなれば新たな一歩を踏み出し、何かを生み出すことができる――。そんな力強いメッセージが作品全体から発せられます。
成果主義や効率性に重きを置かれる今の世の中において、本書は寄り道や学び直しを肯定的に示唆し、一人ひとりのペースで歩むることの重要性を間接的に訴えかけています。
主人公の生徒たちは、様々な理由で一度社会のメインストリームから離れた経験を持ちます。
しかし定時制高校で学び直し、新たな目標を見つけていくプロセスは、効率的とは言えなくとも、彼らにとって意味のある時間として描かれます。直線的なキャリアパスや早期の成功だけが人生の価値ではないという、現代社会へのアンチテーゼとなる生き方の提示と解釈することもできます。
定時制高校という、いわば社会の主流から一度は外れた場所が舞台となっていることが、そのような場所でこそ花開く可能性を象徴しているのかもしれません。
登場人物たちが抱える悩みや葛藤、そして乗り越えようとする姿に、読者は自分を重ね合わせていくうちに、読者の心をつかみ、物語の世界へと引き込まれます。
小説 「宙わたる教室」 は、読む人の心に温かな光を灯し、明日への一歩を踏み出すための静かな力を与えてくれる、そんな作品です。
まとめ
今回は、書籍 「宙わたる教室 (伊与原新) 」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 小説 「宙わたる教室」 は、多様な背景の登場人物が再生と挑戦を描く。定時制高校を舞台に、障害・不登校・移民・高齢など様々な事情を抱える生徒たちが、自分の過去と向き合いながら学び直しに挑む
- 科学実験を通して学ぶ喜びと仲間との絆を強めていく。科学部での 「火星のクレーター再現」 という実験により知的好奇心と協力することの意味合いを体験し、主人公たちは学ぶことの根源的な楽しさを再発見していく
- 失敗は成長の過程として肯定される。実験の失敗や人間関係の衝突も、すべてが学びの一部で描かれ、前向きな試行錯誤の価値が強調されている
- 藤竹先生の教育アプローチには、教師は生徒の可能性を信じ、答えを直接教えるのではなく導き手として支える存在として描かれる
- 寄り道や学び直しを肯定する希望の物語。効率や成果主義が重視される社会において 「遠回りにも意味がある」 というメッセージが読者の心に温かく響く
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