#マーケティング #情報発信 #営業とマーケティング
BtoB (法人向けビジネス) 企業でマーケティング部門が立ち上がっても、営業との連携がうまくいかず、せっかくの施策が頓挫してしまうケースは少なくありません。
「営業は目先の売上しか見ていない」 「マーケは現場を知らない」 。そんな対立構造に陥っていないでしょうか?
老舗鉄鋼メーカーの大和鋼管工業 (だいわこうかんこうぎょう) は違いました。最初は営業部門からの反発を受けながらも、5年間愚直に情報発信を続けた結果、月間アクセス数を20倍に増やし、年間4500万円の商談をつくりだすことに成功しました。
今回は、大和鋼管工業の事例から、営業とマーケティングが本当の意味で協力し合い、全社一丸となって成果を生み出すためのヒントを探ります。
老舗鉄鋼メーカー大和鋼管工業
栃木県さくら市に本社を置く大和鋼管工業は、創業90年を超える1932年創業の老舗鉄鋼メーカーです。工事現場の足場などに使用される 「単管パイプ」 を製造する企業です。
課題に対処するためデジタルマーケティングに着手
従来のビジネスモデルは、専門商社を通じて製品を販売する形が中心でした。しかし、国内需要の減少や業界再編の波を受け、商社にマーケティング機能を依存する状態に限界を感じていました。
自社で新規顧客を開拓する必要に迫られた大和鋼管工業は、デジタルマーケティングに活路を見出します。
目指したのは、販路の拡大です。デジタルマーケティングからの情報発信により、リース企業や施工会社にも大和鋼管工業を知ってもらい、問い合わせを獲得する。その問い合わせを受け、商社に紹介する商流を生み出そうと考えたわけです。
デジタルマーケティングを駆使して確度の高いリードを生み出し、商社と連携することにより、新規顧客開拓や既存顧客の受注金額の増加に寄与しようという発想でした。
営業からは猛反発
そこで大和鋼管工業は2020年、わずか2名の担当者でメールマガジンの配信から着手。ところが、これが営業部門からの猛烈な反発を招きます。
「何かトラブルがあったらどうするんだ」 、「取引先からクレームが来たぞ」 。営業の現場からすれば、自分たちが築いてきた顧客との関係を乱される 「余計なこと」 に他ならなかったのです。
地道な取り組みを続けての成果
マーケティングチームはあきらめませんでした。
メルマガ配信から始まり、オウンドメディアでのブログ発信へと展開。毎週ブログ記事2本、専門用語集3本という厳しいノルマを自らに課し、営業日報から顧客の困りごとを収集してコンテンツ化する仕組みを構築しました。
5年間、粘り強く情報発信を続けた結果、月間アクセス数は20倍に増加。2024年にはマーケティング経由で4500万円の商談を創出しました。
日経クロストレンド BtoB マーケティング大賞 2025 において、年商1000億円未満の部での 「デマンドプロセス部門」 部門賞を受賞するまでに成長しました (参考情報) 。
では、大和鋼管工業の事例から学べることを掘り下げていきましょう。
BtoB 企業でのマーケティング部門からの情報発信、そして営業とマーケティング部でいかに協力体制をつくるかに示唆がある事例です。
BtoB デジタルマーケティングの成功要因
当初の営業部門の懐疑的な視線を跳ね返し、マーケティング部門が泥臭く情報発信を継続した努力と成果の裏には、緻密に設計された仕組みがありました。
1つ目は 「地道な説得と関係構築」 です。
大和鋼管工業のマーケティングの担当者は、営業部門からの苦情に対し、「有益な情報なので必ずお客さんの役に立つ」 と辛抱強く説得を続けました。すぐには理解されなくとも、目的と意義を伝え続けるという地道なコミュニケーションが、後の信頼関係の礎となりました。
2つ目の成功要因は、「日報」 を宝の山に変えるネタ元の活用にあります。
情報発信を継続する上で壁となるのがコンテンツのネタ探しです。大和鋼管工業には、社員が Excel に記録する日報がありました。日報には、営業担当者が現場でつかんだ 「お客さんの困りごと」 という一次情報の宝が眠っていました。
ファクトをもとに企画を膨らませ、お客さんに本当に役立つコンテンツをつくれるようになりました。
3つ目の要因は 「部署の壁を越えた連携体制」 です。
発足当時は2名だったマーケティングチームは、品質保証、調達、カスタマーセンターなど他部署のメンバーや、さらには外部ライターも巻き込んだ8人体制へと拡大。編集会議では、各々が持ち寄ったファクトを基に全員でアイデアを出し合う仕組みをつくり上げました。
組織全体を巻き込んでの多様な視点からのコンテンツ制作が可能になりました。
成功につながった4つ目の要素は 「経営層の強力な後押し」 です。
現場の奮闘を支えたのが、経営層の強いコミットメントです。代表取締役社長自らがマーケティングツールの選定を主導するなど、会社としてデジタルマーケティングを重要視する姿勢が明確に示されました。
トップの理解と後押しが、社内での逆風の中でもマーケティング担当者があきらめずに走り続けるための支えとなったのです。
目指したい営業とマーケティングの相乗効果
大和鋼管工業の事例は、営業とマーケティングの理想的な関係性について、普遍的な教訓を示しています。
営業とマーケティングの連携を円滑にする第一歩は、それぞれの役割と本質を正しく理解することにあります。営業の役割から順番に見ていきましょう。
営業の役割
営業の役割は製品やサービスを直接顧客に販売し、売上を得ることです。お客さんとの一対一の対話を通じて、お客さんのニーズを理解し、適切な製品やサービスを提供することが求められます。
営業の主なタスクには、お客さんとの直接的なコミュニケーション、製品やサービスのデモンストレーション、契約の締結などがあります。これらの活動を通じて、営業はビジネスに直接的な収益をもたらします。
マーケティングの役割
一方のマーケティングの役割は、市場のニーズを理解し、製品やサービスの価値を広く伝えることです。
マーケティングは、マーケティングリサーチで顧客や競合、市場トレンドを理解し、広告や広報を通じて製品やサービスの認知度を高め、新しいお客さんを獲得し、既存のお客さんも維持することを目指します。
マーケティングは、市場調査、広告キャンペーンの企画と実施、ブランドイメージの構築などを行います。これらの活動によりマーケティングは長期的なビジネスの成長を支え、新しいお客さんを引き寄せる役割も果たします。
部分最適ではなく全体最適の実現へ
それでは、ここまでの考察を踏まえ、営業とマーケティングの部門がうまく連携でき、部門ごとの部分最適ではなく全体最適を追求するためにはどうすればいいのでしょうか?
両部門の役割の相互理解、共通の目標の下での密なコミュニケーションが不可欠です。実現のためにはいくつかのステップを踏む必要があり、その過程で遭遇する困難を克服する方法も考えるべきです。
では順番に見ていきましょう。
共通の目的設定
営業とマーケティングが一体となり、共通の目的に向かっていくことが重要です。
まず、営業とマーケティングの間で共通のビジョンと目標を設定することがスタートラインになります。
この過程では、両部門が定期的に会議を持ち、会社が達成しようとしている具体的な目標を明確にし、それぞれの部門がどのように貢献できるかを話し合います。ここで、お互いの部門の成功が他方にとっても利益であるという認識を深めることができれば、部門間の協力の土台が築かれます。
大和鋼管工業の場合、「販路の拡大」 という共通目標を設定。デジタルマーケティングで創出したリードを商社に紹介する新たな商流を生み出すことで、既存の商流を守りながら新規開拓を実現しました。
役割と責任の明確化
次に、役割と責任の明確化を行います。
営業とマーケティングの部門それぞれが企業内や事業の下でどんな役割を担い、どのような責任を持っているのかを明確にすることで、対立や不要な重複を避けることができます。お互いの役割が明確になることで、相互理解につながり、また部門間でのサポートの仕方もより具体的になります。
トップのコミットとサポート
営業とマーケティングの現場でメンバー同士が歩み寄ってのボトムアップに加え、トップからのコミットとサポートも不可欠です。
経営層が両部門の連携の重要性を認識し、全社的な一枚岩になるための協力する文化の醸成をリードするといいでしょう。たとえば、部門間の利害調整が現場では難航する場合は、両部門の責任者や社長が間に入りトップでの合意を得るなどが時には必要です。
大和鋼管工業の成功要因のひとつは、経営層の理解とサポートにありました。成果が出ない初期段階でも、社長自らがマーケティングの重要性を理解し、継続を後押ししたことが現在の成果につながっています。
コミュニケーションの強化
営業とマーケティングの連携を円滑にするためには、コミュニケーションの強化も欠かせません。
両者での定期的なミーティングはもちろんのこと、顧客管理ツールなどの社内ツールを共用することで、進行中の案件や施策についての透明性を高め、随時フィードバックを交換できる環境を整えることが大切です。
大和鋼管工業の事例のように、日報という日常的なツールが部門間の架け橋になることもあります。今では営業担当者から直接 「こんな記事を作ってほしい」 という相談が来るまでに関係が改善しています。
お互いの部門で起こっている状況を共有し合い、何か問題が生じたのであればすぐに営業とマーケティングが集まるなど、コミュニケーションの強化がお互いにとってメリットがある体制をつくります。
成功体験の共有
営業とマーケティング部門の連携の成功事例を共有し、協力体制が良い方向に向かっている機運を高めるといいでしょう。特に初期の段階では、クイックウィンという小さな成功体験を早く重ねていくと効果的です。
そして、成功体験やうまくいかなかった失敗事例からも改善を続けることが大事です。実際に連携がうまくいった案件の振り返りを行い、何が成功の要因だったのか、どのような点が改善されるべきかを定期的に検証することで、連携の質を高めることができます。
大和鋼管工業では、物流コンテナ不足を取り上げたブログ記事がアクセス数を大きく伸ばしたことや、単管キャップの検証記事がアップセルにつながったことなど、具体的な成功体験の積み重ねが、営業部門の理解と協力を得る転機となりました。
営業とマーケティングの連携を深めることは、一朝一夕に成し遂げられるものではありません。お互いの継続的な取り組みと忍耐も求められますが、うまくいけば、企業全体や事業への恩恵は計り知れないでしょう。
まとめ
今回は、大和鋼管工業のデジタルマーケティングの事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- BtoB ビジネスでの営業とマーケティングの役割の違いを理解した上で、売上向上などの 「共通の目的」 を設定する。経営トップがその連携を強力に後押しすることが不可欠
- 営業現場の一次情報 (例: 日報に書かれた 「お客さんの困りごと」 など) をマーケティングコンテンツの源泉として活用する仕組みは、部門間の連携を促進し、顧客に本当に役立つ価値提供を可能にする
- マーケティング施策から生まれた小さな成功体験 (問い合わせ獲得, 商談化など) を営業部門に積極的に共有し、マーケティング活動のメリットを具体的に示すことで、営業からの懐疑的な雰囲気を払拭し、協力的な文化を醸成できる
- BtoB のマーケティングはすぐに成果が出るとは限らない。初期の反発や成果が出ない時期があっても、長期的な視点で情報発信を粘り強く継続する姿勢が、最終的に成果を生み出す
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