#組織変革 #八段階の変革プロセス

企業の不正・不祥事が起こるたびに指摘される 「企業風土」 。

上にものを言えない体質、失敗が許されない職場環境など、組織内だけのルールや価値観に無自覚でいることは、企業の成長を阻み、不祥事の温床にもなりかねません。

今回は、自動車メーカーのマツダの企業風土改革の事例から、組織変革を成功に導くためのヒントを探ります。

マツダの企業風土改革

電動化や自動運転、移動サービスの多様化など、100 年に一度の大変革期と言われる自動車業界。

そこにトランプ関税が大きなインパクトを与える中、この激動の時代を生き抜くため 「企業風土改革」 に本気で乗り出しているのが、自動車メーカーのマツダです (参考情報) 。

全従業員約 2 万 3000 人を対象として、2 年前から始まったマツダの改革。そこには、目に見えない 「企業風土」 を変えることへの難しさを感じながらも、困難に立ち向かう人々の挑戦の姿がありました。

オランダ発のプログラムを導入

マツダが全社を挙げて取り組んでいるのが、企業風土改革プロジェクト 「ブループリント」 です。オランダの企業が開発したプログラムを導入しました。

指針となる設計図には 「情熱を分かち合う」 「オープンマインドで接する」 「認め合う」 など、実践すべき 16 の基本行動が示されています。これらは 100 人以上の従業員の意見を聞いて作られたものです。

5 カ年計画の 3 フェーズ

マツダの企業風土改革プロジェクトは、5 カ年計画で進められ、大きく 3 つのフェーズ (段階) があります。

  • 第 1 フェーズ: 研修によって 「目指すべき風土」 を導入
  • 第 2 フェーズ: 各職場で行動を起こし、浸透させる
  • 第 3 フェーズ: 日常に定着させる

2025 年 5 月には地元のサッカースタジアムを借りて約 4000 人に研修を実施し、従業員のほぼ全員が研修を受けました。2026 年現在は第 1 フェーズがほぼ終わり、第 2 フェーズである浸透 (実践と振り返り) に入ったところです。

八段階の変革プロセス

ところで、ハーバード・ビジネス・スクールの名誉教授であるジョン・ P ・コッターが提唱した 「八段階の変革プロセス」 というものがあります。

数多くの企業変革の成功と失敗を分析して導き出された理論で、変革を成功に導くための普遍的な 8 つのステップを示したものです。

  1. 危機意識を高める
  2. 推進チームをつくる
  3. ビジョンと戦略を立てる
  4. ビジョンを周知する
  5. メンバーが行動しやすい環境を整える
  6. 短期的な成果を生む
  7. さらなる変革を進める
  8. 新しい方法を文化として根づかせる

詳しくは、書籍 「企業変革力 (ジョン・P・コッター) 」 という本に書かれています。

他には、ペンギンを主人公にした小説 「カモメになったペンギン」 に変革のプロセスがわかりやすく書かれています。こちらもおすすめです。

では、マツダの組織変革の事例が、このプロセスにいかに当てはまるのか、詳しく見ていきましょう。

マツダの組織変革プロセス

マツダの企業風土改革を企業変革の 8 つのステップに当てはめて見ていきます。

危機意識を高める

変革の第一歩は、現状のままでは立ち行かないという危機感を組織全体で共有することです。

マツダにとっての危機意識の源泉は、自動車業界の 100 年に一度の大変革期にあります。車の電動化・自動運転・移動サービスの多様化、そしてトランプ関税のインパクト。マツダの毛籠 (もろ) 勝弘社長は 「我々は規模では大きくない会社」 と語り、このままでは生き残れないという切迫感を社内に示しました。

マツダの 「ブループリント」 のプロジェクトの司令塔を務める塩見洋さんは、社員に向けた講義で 「マツダの本社の風土は悪い。他の企業と比べて極めて悪い。悪いということはのびしろが大きい」 と率直に伝えます。耳の痛い言葉ですが、こうしたストレートで正直なメッセージが危機意識の共有につながります。

推進チームをつくる

変革を進めるには、権限・専門性・人望を兼ね備えたメンバーで強力なチームを編成する必要があります。

マツダでは、ガイトン CFO (最高財務責任者) が塩見さんを改革の司令塔に抜擢しました。その理由についてガイトン CFO は、「注目したのは彼の日々の仕事ぶりだけでなく、同僚との向き合い方。そこには革新性がありオープンで、モチベーションの高い仕事の進め方があった」 と語っています。

塩見さんを含む 14 人の社員がオランダで 1 カ月間プログラムを学び、コアチームを形成。さらに自薦・他薦で集まったプログラムの 「ナビゲーター」 を 700 人育成し、各職場に変革の旗振り役を配置する推進体制を構築しています。

ビジョンと戦略を立てる

組織変革の 3 つ目の段階は、目指す姿を明確にし、実現するための戦略を描くことです。

マツダは 「前向きに今日を生きる人の輪を広げる」 という企業理念を軸に、16 の基本行動を設計図として策定しました。100 人以上の従業員の声を集めて作られており、現場の実感にもとづいたビジョンです。

戦略としては 5 カ年計画を策定し、「導入 → 浸透 → 定着」 と段階的に進める道筋を明確にしました。自分たちはどこに向かうのか、どうやって進むのかが示されたことで、社員一人ひとりが自分の役割を理解しやすくなります。

ビジョンを周知する

描いたビジョンを組織全体に繰り返し伝え続けることが重要です。

マツダは全従業員約 2 万 3000 人を対象とした研修を実施しました。2025 年 5 月には地元のサッカースタジアムを借りて約 4000 人に一斉研修を行うなど、大規模かつ印象的な形でビジョンを伝えています。

研修では所属や役職がバラバラの社員同士が 「マツダの風土とは何か」 を対話し、自分の考えをボードに貼り出すという参加型の手法を採用。ここでは 「自分ごと化」 を促しているのがポイントです。

研修を終えた社員は 「マツダで他部門の人の意見を聞くことは本当にない。みんなどういう気持ちや考えで働いているのかを聞けて良かった」 と語っています。

メンバーが行動しやすい環境を整える

ビジョンと戦略を実現するためには、行動を起こす必要があります。そのためには、古い仕組みや心理的な障壁を取り除き、挑戦や行動がしやすい環境をつくることが求められます。

塩見さんはナビゲーター同士の暑気払いの場を設け、悩みを共有できる機会をつくりました。そこでは 「冷めた人への対応が難しい」 「多分、うちの本部長はブループリントを認めていないと思う」 といった本音が出てきます。

これを受けて塩見さんは、本部長と部長約 300 人に対してアンケートを実施。すると 「役員が思いつきで仕事をする」 「言葉づかいがきつい」 「役員同士が話してほしい」 といった経営陣への不満が見えてきました。変革の障壁となっている幹部層の意識改革にも踏み込む覚悟を決めています。

短期的な成果を生む

変革を成功させるには、小さく目に見える成功事例を早期につくり、組織に自信と勢いを与えることが大切です。

マツダでは、広告部門に変化が現れました。以前は車のスペックを前面に押し出す広告表現がほとんどでしたが、今では 「犬と暮らす人の生活の中にある車」 「家族旅行のワンシーン」 など、顧客視点の伝え方に変わっています。

研究開発部門でも変化が起きています。モーターのベアリングを研究している堀端頌子さんは 「研究しつつ内側にこもるタイプだったが、人としゃべる、コミュニケーションを取る、特に社外の人と。いずれはお客様とコミュニケーションを取ろうというモチベーションが出てきた」 と語っています。

このように、一人ひとりの行動変容が、組織全体の変革への手応えにつながり、持続的な組織変革となります。

さらなる変革を進める

変革の初期段階の成果に満足せず、成功を横展開して改革を加速させるステップが 7 つ目です。

マツダのガイトン CFO は 「第 1 フェーズは成功に終わった。今取り組んでいるのは第 2 フェーズ。大事なのは、この勢いを失わせないこと。ここで止めてはならない」 と言います。

注目したいのは、プロジェクトの司令塔役を担う塩見さんが社内にとどまらず、他社にもブループリントの講義を行っていることです。競合関係にあるいすゞ自動車、ダイハツ工業、SUBARU など 10 社 19 人が集まる勉強会へと発展しました。マツダ一社の取り組みが 「オールジャパンで挑む企業風土改革」 へと広がりを見せています。

新しい方法を文化として根づかせる

変革で得られた行動や仕組みを組織の当たり前にし、企業文化として定着させることが企業変革の最終段階です。

マツダの 5 カ年計画における第 3 フェーズの 「日常に定着させる」 がまさにこの段階に該当します。現在は第 2 フェーズ (浸透) の途中であり、文化として本当に根づくかどうかはこれからの勝負です。

まとめ

マツダの組織変革の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

学びのポイントとして、八段階の変革プロセスのまとめです。

  1. 危機意識を高める: 現状のままでは将来立ち行かないという課題を共有し、変革の必要性を組織全体で認識する
  2. 推進チームをつくる: 権限・専門性・人望を兼ね備えたメンバーを集め、変革をリードする強力なチームを編成する
  3. ビジョンと戦略を立てる: 目指す姿を明確にし、実現するための方針として戦略を描く
  4. ビジョンを周知する: ビジョンに向かうためのわかりやすいメッセージを活用するなど、組織全体にビジョンを繰り返し伝え続ける
  5. メンバーが行動しやすい環境を整える: 古い仕組みや心理的な障壁を取り除き、挑戦や行動がしやすい制度や環境をつくる
  6. 短期的な成果を生む: 小さく目に見える成功事例を早期に実現し、組織とメンバーに自信と勢いを与える
  7. さらなる変革を進める: 初期の成果に満足せず、成功を横展開して改革を加速させる
  8. 新しい方法を文化として根づかせる: 変革で得られた行動や仕組みを組織の当たり前にし、企業文化として定着させる