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キャンプブームの行方。ブームをとらえ、定着後も持続可能なビジネスへ

#マーケティング #ブーム #顧客獲得

顧客ニーズは、世の中の流行やブームの段階によって変化します。

売り手は、一過性のブームに乗ったビジネスから持続的な事業へと発展させるために、市場トレンドの状況に合わせて的確に対応できるが問われます。

今回は、ブームが巻き起こっているとき、成熟したときのそれぞれの段階で、マーケティングをどのようなアプローチとするべきなのかを考察します。

ブームの波を乗りこなし、持続可能なビジネスモデルへとつなげるためのヒント、ぜひ一緒に学んでいきましょう。

キャンプブーム


新型コロナウイルス禍によって、一時的に盛り上がったキャンプやグランピングなどのアウトドア消費。その勢いが衰えつつあるのではないかとの声も聞かれます。果たして実際はどうなのでしょうか?

キャンプ人口と活動の変化

日本オートキャンプ協会のデータによると、オートキャンプ人口は2019年時には推定850万人以上でした (参考記事) 。しかし実は、2020年のコロナ禍でキャンプ人口自体は大きく減少し、約610万人に落ち込みました。その後、2021年には750万人程度に回復しています。

同じく日本オートキャンプ協会のデータで見ると、1人当たりのキャンプの回数および宿泊数は増加傾向にあります。

具体的には、1人あたりの年間の平均キャンプ回数は2020年の4.6回から2022年には5.4回に、また、宿泊数では2020年の6.1泊から2022年には7.2泊に増えています。

さらに、キャンピングカーの登録台数も2021年は前年比で 3.6% の増加を示しており、アウトドアライフへの関心の高さがうかがえます。

キャンプ関連の検索データ

LINE ヤフーのデータ分析チームが、検索データなどからキャンプブームの実態に迫った分析がおもしろかったです (参考記事) 。

ポイントを3つに整理すると、

1. 検索数の推移

キャンプの検索数推移 (出典: 日経クロストレンド

2020年以降の 「キャンプ」 の検索数には増加が見られ、特に2021年にピークを迎えています。

2. キャンプ場の指名検索

検索数トップ100の中で指名検索されているキャンプ場の数 (出典: 日経クロストレンド

指名検索される 「キャンプ場」 の数が年々増加。キャンプが一定の層に根付いたライフスタイルとして定着していることを示しています。

3. 検索キーワードの変化

キャンプに関連するキーワードランキング (出典: 日経クロストレンド

 「キャンプ場」 から 「キャンプ用品」 、そして 「キャンプ飯」 と、キャンパーの関心が 「場所」 から 「道具」 、さらに 「食事」 へと移行しています。


キャンプブームへの考察


ここまでキャンプ人口や利用回数、キャンプに関連する検索の変化を見てきました。

思ったのは 「ブームが一巡するとはどういうことか」 です。

ではここからは、LINE ヤフーが行った検索データを使った分析から、ブームをテーマにマーケティングの観点から掘り下げてみます。

ブームからライフスタイルへ

ブームが続いているときは、新しいお客さんがどんどん増えていきます。売上を客数と客単価の掛け合わせで分解をすると、前者の客数が増えている状況です。

次に、ブームの勢いが徐々に和らぎ始め、成熟してくると客単価のほうが上がっていきます。客単価もさらに分けると、購入回数や購入個数、商品単価になりますが、これらのいずれか、またはすべてにおいて上がっていき、ブームはより定着し一過性ではなく根付きます。

キャンプの例に当てはめれば、キャンプ回数が増えたり、一回あたりの宿泊日数が伸びる、あるいはキャンプへの用具を増やしたりするなど、キャンプへの支出が増えていくという状態です。

これによって、一時的なブームではなく、生活者の中でひとつのライフスタイルや習慣になり、普通のことになっていきます。

習慣として定着するためには

ただし、定着したからと言ってこれからずっと長く存続するかというと、必ずしもそうとは限りません。分かれ道があるからです。

それは引き続き新しく買ったり利用する人が一定数いるかどうがです。ブームが定着してライフスタイルになったからといって、100% 全員の人たちがやり続けるわけではなく、一定数離れていく人は存在します。

流出する人数規模に比べて、新しく入ってくる流入層が少なくとも同等、あるいはそれ以上の規模であれば、本当の意味で末永く定着するわけです。

これをキャンプに当てはめれば、今後10年間で今の8 ~ 18歳ぐらいまでの未成年が18歳以上の青年になる間に、新しく自分のお金でキャンプに通う人が彼ら・彼女らの中から、継続的に増えてくることです。

こうした長い目で見た時の流入が典型ですが、ブームになり定着し、それ以降も継続的に新しい利用者やお客さんが入ってくることによって、本当の意味での 「ライフスタイル」 として広く世の中に根付いていくのです。

マーケティングへの示唆


では最後に、ブームについてマーケティングにさらに寄せて考察をして終わりにします。

ブームに乗じた顧客獲得とロイヤル顧客育成

ブームの初期は新規顧客獲得に注力し、市場の拡大を目指すことが重要です。

積極的な広告宣伝、限定商品・サービスの提供などを通じて、お客さんからの認知度を高め、関心を喚起します。

しかしブームがピークを過ぎると、新規顧客獲得の難易度は高まります。そこで重要となるのが、既存顧客のロイヤルティ向上です。顧客満足度を高め、リピート購入を促進することで、売上を安定化させることを目指します。

これが功を奏すと、一過性のブームから恒常的な需要への移行が期待できます。

新規顧客の獲得の継続

ただし、既存顧客ばかりではなく、新規のお客さんの獲得は引き続き力を入れることが大事です。安定的な収益基盤を維持するには、新規層の継続的な取り込みが不可欠となります。

これを怠ってしまうと、いずれ既存顧客の高齢化や減少が避けられなくなります。広告だけでなく、若年層に合わせた新商品の投入や体験機会の創出など、積極的なアプローチが求められます。

顧客ニーズの深掘りと商品・サービスの拡充

ブーム初期は顧客層は比較的均一であり、ニーズも分かりやすい傾向があります。しかしブームが成熟するにつれて顧客層は多様化し、ニーズも複雑化していきます。

そこで顧客理解を進め、多様なニーズを把握することが大切になります。その上で、顧客ニーズに合致した商品・サービスを開発、拡充していくことで、顧客満足度を高めます。

コミュニティ形成とエンゲージメント向上

顧客同士の交流を促進するコミュニティを形成することも有効な手です。顧客エンゲージメントを高めるために、SNS やイベントなどを活用し、お客さん同士の交流の場を提供するといいでしょう。

また、お客さんとの双方向でのコミュニケーションを図ることで、顧客ロイヤルティの向上にもつながります。お客さんからの意見や要望を積極的に聞き取り、商品・サービスの改善や顧客対応に反映します。

長期的な視点に立ったマーケティングを

ブームから定着への移行は、マーケティング戦略にとって転換点となります。市場の変化や顧客ニーズの変化を的確に捉え、柔軟に対応することで、企業は持続的な成長を遂げることができます。

ブームは一時的なものであることが通常であるということを念頭に置き、長期的な視点に立ったマーケティング戦略を策定することが重要です。

ブームの立ち上がり期、定常期から成熟期において、マーケティング施策は段階的に変化させる必要があります。

新規顧客の獲得、既存顧客の活性化、新規層の継続的な取り込みを実行することが、一過性のブームを持続可能な事業につなげられるカギとなるでしょう。

適切なタイミングで、的確な施策を打ち出していくことがマーケターに求められます。短期的な利益にとらわれず、お客さんとの信頼関係構築、ブランド価値の向上に注力することで、ブームの終焉後も持続的に成長できるビジネスに貢献することがマーケティングの役割です。

まとめ


今回はキャンプへのブームに注目し、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

✓ ブームを捉えた段階的な顧客対応
  • ブームの時期に合わせて顧客対応を使い分けることが大切
  • ブーム初期は新規顧客獲得に注力し、広告宣伝や限定商品で認知拡大を図る
  • ブームがピーク過ぎると新規顧客を獲得する勢いは落ち着き、既存顧客のロイヤルティ向上に力を入れ、リピート購入を促進して売上の安定化を目指す

✓ 新規顧客層の継続的な取り込み
  • ただし、ブームが定着した後も、安定的な収益基盤を維持するには新規の顧客層を継続的に取り込んでいく必要がある
  • 既存顧客だけに頼っていては、いずれ顧客の高齢化や減少が避けられない
  • そうならないためには、若年層向けの新商品投入や体験機会の創出など、積極的なアプローチによる新規顧客開拓に取り組む

✓ 顧客理解からの商品開発やマーケティング
  • ブームが成熟するにつれ、顧客層は多様化しニーズも複雑化していく
  • そこで重要となるのが、顧客理解を進め多様なニーズを把握すること
  • 長期的な視点に立ち、顧客ニーズに合致した商品やサービスを開発し拡充する。マーケティング活動を展開していくことで、顧客満足度を高めることができる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。