#マーケティング #商品のサービス拡張 #顧客価値
今回は、商品をサービスへと拡張するアプローチやポイントを、具体的な事例から探ります。
ご紹介したいコクヨの 「大人のやる気ペン」 は、ただの筆記具ではなく、学習を続けるための体験を提供するユニークな IoT ツールです。学習の可視化とモチベーション維持をサポートしてくれます。
この事例をもとに 「商品のサービス拡張」 がどのようにお客さんに価値をもたらし、継続的に選ばれる理由を生み出すかを掘り下げていきましょう。
コクヨ 「大人のやる気ペン」
製品の特徴
「大人のやる気ペン」 は、コクヨが開発した勉強を可視化できる IoT 文具です。もともと子ども向けにコクヨが販売していた 「しゅくだいやる気ペン」 をベースに、大人の学習習慣をサポートする仕掛けが追加された製品です。
2025年1月29日から3月15日までの期間、クラウドファウンディングの Makuake (マクアケ) で先行販売されました。
大人のやる気ペンの特徴は、ペン軸に装着するだけで筆記動作がデータ化され、あとから学習状況をデータで可視化できる IoT デバイスという点です。加速度センサーが文字を書く動きを感知し、その量や時間を記録することにより、勉強の進捗が数値として蓄積されます。
大人のやる気ペンはただの珍しもの好きの人に向けたガジェットにとどまりません。専用アプリと連携し、勉強データの可視化や学習習慣の継続を促す機能が充実しています。
スマホアプリと連携するので、学習データをカレンダーやグラフで振り返ることができます。 「今日はどれくらい勉強したのか」 「先週より進捗があったのか」 といった状況がすぐに把握できるため、勉強管理がしやすくなります。
また、後ほど触れますがユーザー同士のコミュニティ要素も取り入れられています。
このように、大人のやる気ペンは単なるペンではなく、学習のモチベーションを可視化し、維持するというサービス的な価値を提供している点が、大人のやる気ペンの特徴です。
商品のサービス拡張
大人のやる気ペンは 「商品のサービス拡張」 という視点で捉えると、示唆が得られる事例です。
商品のサービス拡張とは、商品にアプリなどのソフトウェア連携、他にはオンラインでのサービスの要素を組み合わせることです。お客さんと関係を築き、物売りではなく、継続的な価値提供を目指します。
たとえば、スマートフォンはわかりやすい例です。スマホ本体というハードウェアを販売するだけでなく、アプリやクラウドサービスによって価値を加えています。
コクヨの 「大人のやる気ペン」 も、筆記具のモノとしての枠を超え、アプリ連動、アプリ上でのデータ管理、ゲーミフィケーション、コミュニティといった要素を組み合わせ、長く使いたくなる仕組みを構築しています。
では、大人のやる気ペンがどのように商品のサービス拡張を実現しているのか、もう少し具体的に見ていきしましょう。
学習データからの進捗把握
大人のやる気ペンは、勉強の記録を日・週・月ごとに可視化し、学習の習慣化をサポートします。スマホアプリと連携しグラフやカレンダーを使って、 「今週はどれくらいがんばったか」 「先週からどれぐらい進んだか」 といった現在状況をわかりやすく把握できます。
アプリ内では学習傾向にもとづいたフィードバックが提示され、適切なタイミングで叱咤激励のメッセージも届きます。
ゲーミフィケーション
学習を継続するには、モチベーションの維持がポイントになります。大人のやる気ペンでは、ゲーミフィケーションの要素を取り入れることによって、学習を楽しく続けられるように設計されています。
たとえば、筆記量に応じてアバターが成長したり、すごろくのステージが進んだりするという仕掛けが用意されています。ポイントを貯めることでアバターのカスタマイズができ、 「次のアイテムを手に入れるためにもう少し勉強をがんばろう」 といった前向きな気持ちになれることでしょう。
コミュニティ形成
ひとりで勉強を続けることは、人によっては孤独感を感じ、マンネリも起こりやすいです。学習を継続して続けていくには、同じ仲間がいると心強いです。
大人のやる気ペンでは、すごろくマップを進めると他のユーザーのアバターに出会う仕組みが採用されています。直接コミュニケーションを取ることはできませんが、ほどよい距離感のコミュニティがあるので、自分と同じように勉強している人がいるという一体感を感じられます。孤独感が和らぎ、モチベーションにもつながることでしょう。
他のユーザーの学習目標や進捗が表示され、自分自身の学習意欲を高める効果も期待できます。ユーザー同士のつながりをコミニュティのような形でもたらすことによって、より長く使い続けられ、勉強を継続的に習慣化できる環境をつくり出しています。
商品のサービス拡張を実現するポイント
では最後のパートでは、商品のサービス拡張を実現するポイントを整理してみましょう。
顧客のペインポイントに寄り添う
大人のやる気ペンの場合、大人が学習を続けるうえで直面する課題は、モチベーションの維持や孤独感の解消にあります。
子どもと違い、大人には学校のような勉強するのが当たり前の環境、みんなと一緒に勉強をする機会が限られます。学習を続けることが次第に苦痛に感じる人もいるでしょう。資格試験やスキルアップのために学ぶ場合、仕事や家庭との両立も求められ、習慣化する前に挫折してしまうことも少なくありません。
大人のやる気ペンは、このような問題に対し、勉強の進捗の可視化、モチベーションの維持を生む仕組み、コミュニティから、大人のユーザーの 「ペインポイント」 を解消することを目指しています。
コト体験を提供する
商品のサービス拡張を実現するためには、製品の機能を向上に加えて、利用者がどのような体験を得られるかを中心にし、モノとサービスを統合して全体を設計することが重要です。
具体的に、大人のやる気ペンが提供する体験価値は次のようなものがあります。
- 自分の成長を実感できる体験 (データの可視化)
- 勉強すること自体が楽しくなる体験 (ゲーミフィケーション)
- 仲間がいると感じられる体験 (コミュニティ形成)
大人のやる気ペンは 「学習を続けられる仕組み」 をペンとアプリ、サービスによって提供しています。普通のペンは、書くための道具ですが、大人のやる気ペンは学習のモチベーションを維持し、無理なく続けられるようサポートします。
ハード × ソフト × サービスの融合
商品のサービス拡張には、ハード、ソフト、サービスの3つの要素を適切に組み合わせることが大事です。
大人のやる気ペンは、バランスよくこれらの要素を融合させています。
1つ目のハードの要素は、学習の進捗を計測するための物理デバイスとして、ペン軸に装着する IoT デバイスという形を採用しました。加速度センサーが搭載され筆記動作を感知するので、ユーザーの学習時間や筆記量を自動で記録します。
2つ目のソフトは、連携する専用アプリです。収集した勉強データを活用し、学習の進捗を分析・表示するアプリが用意されています。
アプリが学習の習慣化をサポートし、ユーザーに適切なフィードバックを返し、勉強を楽しく続けられるようサポートします。
3つ目のサービスは、 ゲーミフィケーションやコミュニティです。
アプリ内では、学習量に応じてアバターが成長したり、すごろくを進めたりする機能が組み込まれています。コミュニティの要素から他のユーザーの学習状況が表示されることによって、モチベーションの維持につながるよう工夫されています。
以上のようにハード、ソフト、サービスの3つが有機的に結びつき、大人のやる気ペンは長期間にわたって使い続けられる学習支援ツールとなります。ハードウェアだけでは十分ではない、ソフトウェアだけでも効果が限定的、サービスだけでは魅力が実感できない——。しかし3つの要素が適切に組み合わさることにより、学習を継続するための総合的な体験価値が提供されているのです。
大人のやる気ペンのように、商品のサービス拡張には、物理的な製品としての便益だけにとどまらず、データ・アプリなどの活用、そしてコミュニティ形成といった 「使い続けたくなる仕組み」 を構築することが重要です。
まとめ
今回は、コクヨの 「大人のやる気ペン」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 顧客のペインポイントに寄り添う。今回の事例では、大人の学習における、モチベーションの維持、進捗の可視化、孤独感の解消といった課題と背景を深く理解し、ペインポイントを解決する価値を実現する
- コト体験を提供する。機能向上に加え、成長実感、楽しさ、仲間意識といった体験を付加価値とする
- 大人やる気ペンは、ハード・ソフト・サービスを融合させた。IoT デバイス (ハード) 、専用アプリ (ソフト) 、ゲーミフィケーションとコミュニティ機能 (サービス) を組み合わせ、長期的に使い続けたくなる価値のある存在になることを目指す
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