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書評: ティール組織 - マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現 (フレデリック・ラルー) 。生態系のように機能する分散自律型組織 (DAO)


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ティール組織 - マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現 という本をご紹介します。



エントリー内容です。

  • 本書の内容
  • ティール組織とは何か。なぜティール組織なのか
  • どうすればティール組織がつくれるか


本書の内容


以下は、本書の内容紹介からの引用です。

次の組織モデルは、これだ。

上下関係も、売上目標も、予算もない!?従来のアプローチの限界を突破し、圧倒的な成果をあげる組織が世界中で現れている。膨大な事例研究から導かれた新たな経営手法の秘密とは。

本書は、従来のマネジメントや組織運営、上司と部下の関係とは全く逆の、新しい組織マネジメントの考え方を提唱します。この本では、「ティール組織」 と呼ばれます。


このブログエントリーで書いていること


今回、書いているのは、前半でティール組織について本書に書かれていたこと、後半で思ったことです。前半のティール組織については、以下のように what 、why 、how という構成で書いています。

  • What:ティール組織とは何か
  • Why:なぜティール組織なのか
  • How:どうすればティール組織がつくれるか


ティール組織とは何か


ティール組織とは、「上司や経営者などの管理者のマネジメントを少なくし、共有・共感する組織のビジョンや目的を達成するためにメンバー各自が自律的に動く組織」 です。

目的を実現するために、メンバー全員がお互いの信頼に基づき、独自のルールや仕組みで工夫しながら、組織運営を行います。

明確な組織階層がなく、個人が主体的に判断し、自律的に動く組織です。結果的に組織全体がうまく機能するよう設計された組織です。

ティール組織は、本書では 「生命体」 や 「生態系」 でたとえられます。自然の世界では、生態系の全体を管理する存在はいません。お互いの生物が、それぞれの働きをします。結果的に、全体としてエコシステムが構築され、維持されています。

ティール組織も生態系と同じように機能します。


現在の主流は 「達成型組織」


本書では、人類の組織での発達段階として、7つの組織が説明されています。7つのうちの1つが、大企業で見られる 「達成型組織」 です。

達成型は、ピラミッド型の組織で肩書という序列を持ちます。組織の目標を設定し、成果を上げた人が評価され出世し、組織の上に上がる組織です。出世が動機になり、組織内では競争が起こります。階層の上に行くほど権限や情報が集中します。

達成型組織の弊害は、成果と効率を追求するあまり、人間らしく働くことが時に犠牲になることです。


達成型組織とティール組織の比較


ティール組織のイメージは、現在の主流である達成型組織と比較すると見えてきます。

以下は、達成型組織とティール組織の比較です。


組織構造と役割 (肩書)


達成型 ピラミッド型の階層構造。メンバーには肩書があり、職務内容や役割は決まっている
ティール 階層は最低限。役職や決まった職務内容はなく、流動的。自発的なプロジェクトチームがその都度できる


組織の目的


達成型 企業理念があっても、それよりも自分たちの組織が存続することが目的となる
ティール メンバーで共感される目的を組織が自主的に持つ


利益


達成型 計画した利益を達成することが目的になる。指標として重視される
ティール 自分たちが考える正しいことをやっていれば、利益は自然に後から付いてくる


情報


達成型 情報は権限の持つ者のみがアクセスできる。知る必要がある場合のみ開示される
ティール あらゆる情報が誰にでも開放され、いつでもアクセスできる


実績管理と報酬


達成型 個人のパフォーマンスを見る。評価は組織階層が上の管理職によって決まる。実力主義により社員の給与格差が大きくなる
ティール チームのパフォーマンスを見る。個人の評価は同僚間の話し合いによって決まる。基本給は他の社員とのバランスを見て自分で定められる。給与格差は小さい


オフィスの雰囲気


達成型 建物やオフィスは標準化され、機能に特化。オフィスに面白さや遊び心はない
ティール オフィスは自分たちで飾り付け、温かい雰囲気のスペース。子どもやペットを連れてきてもよく、解放されている


採用


達成型 採用は訓練を受けた人事スタッフが面接を行う。採用判断は職務記述書に適合しているかを重視
ティール 面接は、将来一緒に働く可能性のある社員が行う。自分たちのビジョンや企業文化に合う人かどうかを見る


教育研修


達成型 研修内容は人事部が決め、社員に参加を要請する。研修は、仕事上のスキルやマネジメントが中心
ティール 研修は各自が自由に自己責任で受ける。社員全員が参加する企業文化の構築を目的とする研修など、直接の業務スキルとは関連しないような研修が重視される


なぜティール組織なのか


ティール組織が注目されるのは、従来型組織の限界からです。具体的には達成型組織の弊害です。

ピラミッド型という中央とその下に労働者を配置する組織形態は、効率的な組織運用で成長を目指します。一方で、行き過ぎた成果主義や過剰な管理体制になり、人間らしく働くことが難しくなる環境を生みます。

ピラミッド型の組織が大きくなると、階層ごとの上下と、部署ごとの左右において、情報共有や意見調整に時間と手間を取られ、硬直的な組織になっていきます。外の変化に組織が取り残され、イノベーションを起こせません。

こうした背景から、変化への適応、個人のエンパワーメント、人間尊重が求められ、ティール組織が生まれました。本書では、ティール組織は 「進化型組織」 と表現されます。


どうすればティール組織がつくれるか


では、ティール組織をつくるにはどうすればよいでしょうか。

本書で提示されるのは、ティール組織には重要なポイントが3つあることです。

  • 自主経営 (self management)
  • 全体性 (wholeness)
  • 存在目的 (evolutionary purpose)

以下、それぞれについてご説明します。


1. 自主経営 (self management)


自主経営とは、社長や管理職からの指示命令からではなく、メンバーや組織が自律的に機能することです。

そのために必要なのは、情報共有の透明化、意思決定プロセスの権限委譲 (自分たちで決める) 、評価や採用の人事プロセスの公平化と明確化です。組織メンバーの全員が主体的に関われるような組織環境であることです。


2. 全体性 (wholeness)


全体性とは、個人が組織の中で一体感を持てることです。メンバー全員の能力が存分に発揮されている状態です。

そのためには、職場でも本来の自分でいられること、自分自身が同僚や組織に受け入れられていると実感できていることが大切です。個人的な不安やメンバーとの関係で気になることがあっても、組織として寄り添うことができているかです。

考え方や物の見方に多様性があり、かつお互いがお互いの違いを尊重し、多様な能力を発揮できる環境です。


3. 存在目的 (evolutionary purpose)


組織が何のために存在し、今後どの方向に向かうのかを常に探求し続ける組織です。存在目的は、原本の英語では evolustionary purpose (進化する目的) と表現されます。

ティール組織では、組織自体を生命体と捉えます。生き物には生きるという目的があるように、組織も生きていて、進化し存続するための目的があるという考え方です。

存在目的は、組織が描くビジョンや、そのために何をやるかのミッションに相当します。


ティール組織で思ったこと


ここからは、本書を読んで思ったことです。3つあります。

  • ティール組織とは分散自律型組織
  • ティール組織のマーケティング
  • ティール組織の次はあるのか


思ったこと 1: ティール組織とは分散自律型組織


1つめはティール組織という自律型組織についてです。

以下の表は2つの軸で整理したものです。1つめの軸 (表側) は組織の管理者は誰か、2つめの軸 (表頭) は組織を構成するメンバーが誰か (何か) です。

表側の管理者は、人が管理、AI が管理、管理者がいないの3パターンです。表頭の組織メンバー (労働する側) は、人かロボットかです。


労働者 (人)
が働く
ロボット
が働く
人が管理 従来の組織 ロボットが
導入された工場
AI が管理 AI の指示で
労働者 (人) が働く
完全自動化の工場
管理者が
いない
管理者はいないが、
人が自律的に働く
(DAO)
管理者はいなく、
ロボットが自律的に働く
(Auto-DAO)


ティール組織は、上司や経営者という管理者は存在しますが、従来の達成型組織に比べると役割は最低限です。

組織メンバーは主体的に判断し自律的に動きます。ティール組織では、明確な組織階層はなく、個々人の肩書・役割もあらかじめ決まっていません。これらは、ティール組織に必要な3つの要素の1つである 「自主経営 (セルフマネジメント) 」 です。

先ほどの表に当てはめると、ティール組織は、管理者と労働 (組織メンバー) は共に人というマトリクスの左上ですが、実態としては左下の分散自律型組織に近い組織形態です。

管理者から組織メンバーへの細かい指示や管理がなくても、組織として機能するのがティール組織です。「存在目的」 に共感し、メンバー間で共有されているので、管理者による事細かい管理 (マイクロマネジメント) がなくても、メンバーはそれぞれが判断し、自律的に働きます。

別の言葉を使えば、ビジョンという why が共有され、ミッションというビジョンを実現するために何をやるか (what) への共通認識を皆が持っています。 Why と what に対して、具体的なやることである how は、組織メンバーそれぞれの判断で進めます。


思ったこと 2: ティール組織のマーケティング


思ったことの2つめは、ティール組織でのマーケティングの考え方についてです。

従来型の組織である達成型組織とティール組織において、マーケティングのやり方を比較すると、本書には次のように書かれています。


達成型 顧客の調査と顧客セグメンテーションによって提供商品やサービスを決める (アウトサイド・イン)
ティール 自分たちが何を提供するかは 「存在目的」 によって決まる。直感や美意識によって導かれる (インサイド・アウト)


達成型組織とティール組織では、アプローチの方向性が逆です。

達成型では顧客ニーズを見極めることからマーケティングを始めます。一方のティール組織では、ビジョンやミッションから、自分たちが何をやるかを決めます。判断基準には、直感や美意識がより重視されます。

ティール組織のマーケティングの考え方は、「意味のイノベーション」 と共通しています。

意味のイノベーションとは、既存の価値に対して、新しい切り口からこれまでにない新たな価値をもたらすことです。商品やサービス自体は変えずに、使い方や存在意義などの意味合いをズラしたり変えることによって、従来とは異なる新しい価値を提供します。

意味のイノベーションを起こした良い例が、ロウソクです。

かつてまだ電球やランプがない時代は、ロウソクは照明として手元や部屋を明るくするために使われていました。しかし、現代の先進国ではロウソクは、異なる使い方で新しい価値を提供しています。

ロウソクは今ではレストランやバー、家庭でもロウソクならでは雰囲気を出すために使われます。

人は LED ライトなどの明かるさを、ロウソクに求めていません。ロウソクの炎によるリラックスできる空間や時間、ムードを演出できることがロウソクの新しい価値です。また、香りを楽しむこともできます。

意味のイノベーションでは、出発点は自分の中の思いからです。思いとは、ビジョンです。意味のイノベーションを実現するプロセスは、内から外へ向かいます。

意味のイノベーションとティール組織のマーケティングには共通点があり、興味深かったです。

なお、意味のイノベーションについては、別のエントリーで書いています。よろしければ、こちらもご覧ください。

参考: 「意味のイノベーション」 は、あなたの思いから始める、全く新しい発想でイノベーションを起こせる方法


思ったこと 3: ティール組織の次はあるのか


本書では、人類の組織での発達段階を、7つの組織で説明されています。7つのうちの最後がティール組織です。ティール組織は、これまでの組織で最も進化した組織という位置づけです。

読んで思ったのは、ティール組織の次があるのかです。

方向性の1つは、組織の非中央化がさらに発展することです。中央で管理する人は存在せず、各自が完全に自律的に動く組織です。結果的に組織は機能する、分散自律型組織 (decentralized autonomous organization: DAO) です。

もう1つの方向性は、逆に戻ることです。

世の中のことは、ある一方向に進むと、大きな流れとして、次は逆の方向に揺れ戻すというパターンが見られます。まるで振り子のように一方向から反対の方向に行ったり来たりします。

人間の組織にも当てはまるとすれば、ティール組織という管理者の権限をなるべく少なくした自律型の組織の次は、揺れ戻しとして中央の力が強い組織に戻る可能性です。

厳密に言えば、今の主流の達成型組織と全く同じ状態に戻るのではなく、達成型組織がティール組織を経て、新たな中央型管理組織に進化することです。

この組織の揺れ戻しで思い出したのは、ザ・会社改造 - 340人からグローバル1万人企業へ という本に書かれていた 「組織活性の循環動態論」 です。



 「組織活性の循環動態論」 の考え方は、組織の活性化を維持するためには、以下の2つの対立する状態をいかにバランスよく循環させられるかです。

  • 末端やたら元気:本社から離れている組織でも、若手社員まで含めた一人ひとりが、生き生きと仕事をしている
  • 戦略的束ね:上位が決断する方針や戦略ストーリーを皆が共有し、優先順位を尊重しつつ、外部競合に対して束になって攻めていく

大きな視点で見れば、1つめの 「末端やたら元気」 は自律型組織、2つめの 「戦略的束ね」 は中央管理型組織です。

なぜ循環するかと言えば、それぞれには弊害があり、是正するプロセスを通じて他方に揺れ戻り、再び弊害が起こり戻ってくるからです。

 「組織活性の循環動態論」 については、以下のブログエントリーで書いています。

参考:ベンチャーから大企業まで当てはまる 「組織活性の循環動態論」 が興味深い


最後に


今回取り上げた ティール組織 は、あらためて組織のあり方を考えさせられた本でした。

ティール組織を分散自律型組織と見れば、達成型組織からティール組織への進化は、ここ最近の世の中全体の流れである、中央型から非中央という分散型へのシフトに沿った組織変容のトレンドです。

歴史的な大きな視点で見れば、18世紀半ばから始まった産業革命で起こった中央型から、再び産業革命以前の分散型への揺れ戻しです。もちろん、産業革命前の社会構造にそのまま戻るのではなく、新しい次元での分散自律型の社会です。

本書は、これからの働き方はどうなっていくのか、組織マネジメントのあり方を考えるのに、示唆に富む一冊です。




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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。