#マーケティング #ジョブ理論 #顧客価値
日本のカフェ市場はコーヒーが主流ですが、台湾発のティーカフェチェーン 「ゴンチャ」 は、独自の戦略で日本市場にティーカフェで挑んでいます。
今回はゴンチャのマーケティングを 「ジョブ理論」 を用いて解説します。
ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
ゴンチャ
ティーカフェ市場の現状と課題
日本のカフェ市場は、スターバックスやドトールなどのコーヒーチェーンが大部分を占めています。
一方、ティーカフェはまだ少数派です。台湾発のティーカフェチェーン 「ゴンチャ」 の国内店舗数は約160店舗です。お茶の市場規模はペットボトル商品などで大きいものの、ゴンチャへのティーカフェとしての認知度は高くなく、日本での定着を図ることがゴンチャにとっての課題です。
「おしゃべり歓迎」 というカフェコンセプト
ティーカフェというイメージを日本で浸透させるために、ゴンチャは 「おしゃべり歓迎」 というコンセプトを打ち出しています。
一般的なカフェは、静かで落ち着いた場所を提供します。もちろん会話もできますが、おしゃべりをする以外にも仕事や勉強などのために訪れる人もいます。
多くのカフェは静かで個人の時間を楽しむ 「Me (私) 」 としての空間ですが、ゴンチャは 「We (私たち) 」 となるように 「おしゃべり歓迎」 のティーカフェというポジションをとろうとしています。
ゴンチャは、ティーカフェを友人や家族、パートナーとリラックスして会話を楽しむ場として位置づけることで、他のカフェと差異化を狙っています。
ゴンチャのストーリーテリング
ティーカフェの定着を目指すために、ゴンチャは 「 "物" から "物語" へ」 という訴求をしています。
"物" から "物語" へ
これまではゴンチャは、主にドリンク商品の特性や魅力という 「物」 に焦点を当てていました。たとえば、タピオカドリンクのおいしさやバリエーションなどが強調されていました。
しかし、2024年からはマーケティング戦略を大きく変更しました。「誰かと一緒にティーを楽しむ」 という体験、すなわち 「物語」 を訴求することに重点を置いています (参考記事) 。
具体的な施策と効果
ゴンチャはリラックスして会話を楽しめる環境を提供するために、店内のデザインや BGM にも工夫を凝らしています。
明るい色使いのインテリアや、心地よい音楽が流れる空間が特徴的です。
メニューも、シェアしやすいものや話題になる新商品を定期的に用意し、親しい人と一緒に訪れるきっかけを作っています。
具体的には、期間限定メニューやキャンペーンです。たとえば2024年3月に販売開始した 「いちご杏仁」 シリーズでは、ガールズグループの NiziU が主題歌を担当した映画とのコラボキャンペーンを行い、店内でオリジナル特別番組を放送しています。
また、バレンタインシーズンには 「ハートフルボトル」 を使った企画を実施し、大切な人にボトルを贈るという "物語" を提案しました。
さらに、SNS やテレビ番組での露出を増やし、「おしゃべり歓迎」 というゴンチャのコンセプトを広く認知してもらうことを狙っています。
ゴンチャの事例をジョブ理論で捉え直す
では、後半のパートではゴンチャの事例から学べることを掘り下げていきましょう。
マーケティングの 「ジョブ理論」 を使うことで、ゴンチャの話はよりおもしろく、示唆のある事例になります。
ジョブ理論
ジョブ理論 (Jobs to Be Done) におけるジョブとは、「特定の状況で人が遂げたい進歩 (progress) 」 のことです。
Jobs to be done を日本語に訳せば、「済ませたい仕事」 や 「片付けたい用事」 を意味します。
ジョブ理論で特徴的なのは、商品やサービスの捉え方です。お客さんが達成したいジョブのために商品・サービスを 「雇う (hire) 」 と表現します。商品はジョブのための手段であり、ジョブを済ませるために働いてくれる 「ワーカー」 となるのが商品なのです。
では、ゴンチャの事例にジョブ理論を当てはめて見ていきましょう。まずはターゲットとするお客さんと、お客さんのジョブは何かです。
ターゲット顧客とジョブ
ゴンチャのターゲット顧客は、10代と20代の若い女性です。
彼女たちが直面する解決したいジョブの中で、ゴンチャが捉えたいジョブは 「友だちやパートナーと楽しくおしゃべりをしたい」 というものです。
このジョブを完了するために、若い女性はさまざまな 「ワーカー」 を雇う候補の中から選んでいます。
ゴンチャを 「雇用」 する理由
では、複数あるワーカーの選択肢から、若年女性がゴンチャを雇用する理由はどこにあるのでしょうか?
ゴンチャが提供する顧客価値を具体的に見ていきしょう。
ゴンチャのお店は 「おしゃべり大歓迎」 というコンセプトで運営されています。
友人やパートナーとリラックスして会話できるように設計され、明るく、居心地の良い空間になっています。静かすぎず、適度に賑やかな環境が整っているので、「楽しくおしゃべりをしたい」 というお客さんのジョブに適しています。
ゴンチャはティーカフェの専門店です。多くのカフェがコーヒーをメインにしている中で、ゴンチャはティーに特化しており、季節ごとに新しいフレーバーや限定商品を提供しています。
たとえば 「プレシャス シャインマスカット」 など、話題性のある飲み物が定期的に登場します。友だち同士で 「今度の新商品を試してみよう」 となり、来店のきっかけを生みます。
また、ゴンチャでは、トッピングや甘さ、氷の量などを細かくカスタマイズできる点もお客さんには魅力です。自分好みのドリンクを作れることで、ティーの多様な楽しみ方がお店ででき、会話も弾むことでしょう。
ゴンチャのドリンクは見た目にもこだわっています。カラフルで美しい飲み物は、写真映えすること間違いなしです。若年女性にとって、SNS に投稿するきっかけもでき、ゴンチャのお店にいる時間が一層楽しくなります。
ゴンチャは駅近やショッピングモール内など、アクセスの良い場所にお店を展開しています。友だちとの待ち合わせやショッピングの合間に立ち寄るのに便利な立地です。
これにより、ジョブが発生した状況で、気軽に行ける場所として思い出され、お店に行くという、ジョブのためにゴンチャが雇ってもらえます。
定期的に行われるキャンペーンやプロモーションも、お客さんを引きつける要素です。
特定の期間にしか手に入らない限定グッズや特典が用意されることがあります。お客さんは 「限定の期間が終わる前に今行っておかないと」 と思え、今すぐゴンチャに行きたくなります。
お客さんのジョブを済ませることでの提供価値
ゴンチャが、ターゲット顧客である若年女性が楽しくおしゃべりをするというジョブを完了できることで、ゴンチャはお客さんにどのような顧客価値をもたらしているのでしょうか?
最後にこの論点を掘り下げてみましょう。
ゴンチャの店内の雰囲気や座席の配置などは、長時間にわたってお店にいても居心地が良い環境になるように工夫されています。
気軽に長居できる場所としての安心感を持つことができ、楽しいおしゃべりの時間になります。
話題性のあるメニューやキャンペーンは、会話の話題を与えてくれます。新商品の話や、おすすめのトッピングなど、会話が途切れないことで、おしゃべりに花が咲くことでしょう。
ゴンチャでのおいしい飲み物やデザートを楽しむこと自体が、おしゃべりを楽しくする要素です。たわいのない会話であったとしても、むしろそうしたゴンチャでの体験が、友だちとの楽しい思い出となります。
以上のような顧客価値をもたらすゴンチャは、ターゲット顧客のジョブを片付けるワーカーとしての役割を果たし、お客さんから雇われる、すなわち他ではなくゴンチャを選んでもらえるようになるのです。
まとめ
今回はティーカフェの 「ゴンチャ」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ジョブ理論 (Jobs to Be Done) におけるジョブは、「特定の状況で人が遂げたい進歩 (progress) 」 のこと
- ジョブ理論で特徴的なのは、商品やサービスの捉え方にある。お客さんが達成したいジョブのために商品・サービスを 「雇う (hire) 」 と捉える。商品はジョブのための手段であり、ジョブを済ませるために働いてくれる 「ワーカー」 となる
- お客さんの状況とジョブへの理解にもとづき、自社商品やサービスをジョブの完了のために雇ってもらう理由をつくる。顧客文脈に沿った顧客価値をもたらし、お客さんに選ばれる状態にする
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