#マーケティング #ミッションとビジョン #存在意義
あなたの会社や組織に、明確なミッションとビジョンはありますか?ある場合も、ミッションやビジョンが単なる飾りの言葉になっていないでしょうか?
企業が掲げるミッションやビジョン。しかし現実にはいつしか形骸化し、日々の業務に反映され活かされていないケースが少なくありません。
ご紹介したいスターバックスでは、ミッションが6万人を超えるパートナーに浸透し、スタバの店舗での業務から地域貢献まで、様々な活動を生み出しています。
今回は、スタバがどのようにミッションとビジョンを組織活動や事業展開の原動力にしているのかの秘密に迫り、そこから学べることを紐解きます。
スタバのミッションとビジョン
1996年、東京の銀座に1号店をオープンし、2026年に日本上陸30周年を迎えるのがスターバックス (スタバ) です。
国内の店舗数は2000を超える規模で、単一外食ブランドとして店舗数最多の日本マクドナルドに次ぐ数です。
スタバは店舗数をただ拡大しているわけではありません。1店舗ごとに、地域特性や景観にふさわしいデザインを考え、出店先の各地域では、積極的に住民らとの交流機会を設けるなど、地域課題の対処に取り組んでいます。2000の画一的な店舗を運営しているのではなく、個性に富んだ2000店が存在するわけです。
私たちがここにいる理由
スタバは創業以来 「人々の心を豊かで活力あるものにする」 ことを、自分たちのミッションの中心に据えてきました。スタバの他社にはまねできない強さの根源はミッションにあります。
スタバの自社サイトによれば、スタバのミッション (私たちがここにいる理由) は、次のように宣言しています。
この一杯から広がる
心かよわせる瞬間
それぞれのコミュニティとともに―人と人とのつながりが生みだす
無限の可能性を信じ、育みます
ミッションを体現する取り組み
スタバのお店で提供されるコーヒーやドリンクはもちろん、サービスのしかたや店舗づくり、商品開発まで、あらゆる活動がこのミッションを基盤としています。
ミッションがもたらす効果のひとつは、組織全体が自らの存在理由を共有できることです。しかし、大きな企業になればなるほど、部分最適や効率性が優先され、会社の理念が形骸化していくケースは少なくありません。
一方のスタバは違います。例えば採用時にもミッションへの共感を最も重視しています。6万人を超えるスタバのパートナー (従業員) の誰もが 「自分たちは何のために働くのか」 という問いに対して、同じゴールを共有しているのです。
スタバ独特のものとして、お客さんにわたす紙カップに店舗スタッフが手書きのメッセージを書くというサービスがあります。これはマニュアル化された業務ではなく、パートナー自身が 「目の前のお客様に元気を届けたい」 という気持ちから自然に発生したもので、ミッションに従った行動している結果です。
また、地域のイベントへの自主的な参加や、店内イベントの企画なども 「心を豊かにする」 というミッションからの使命感が後押しするために生まれています。
ミッションのアップデート
スタバは時代や環境の変化にあわせてミッションの文言をアップデートしてきました。
最近では2023年のグローバル全体でのミッションの変更をきっかけに、スタバの日本法人もミッションへの独自の大規模な翻訳プロジェクトが行われました (参考記事) 。
約80時間もの対話を通じて一字一句を議論し、最終的に全員が腑に落ちる言葉として仕上げられました。ミッションはただのスローガンではなく、実際の行動を左右する力になるとスタバは認識しているからこそ、ここまで全社的に徹底したのです。
ミッションの翻訳作業を経たパートナーたちは、より一層、自分たちの存在意義を明確に理解でき、日々の業務で実践しやすくなったと語っています。
スタバのビジョン
では次にスターバックスのビジョンについても見てみましょう。
スタバにおけるビジョンは 「一杯のコーヒーで人々をつなぎ、地域やコミュニティに豊かな多様性を生み出す社会」 を、目指す大きな世界観として表現されています。人々が心をかよわせる瞬間が広がっていて、人と人とのつながりが生みだす無限の可能性があるという世の中を描いています。
ビジョンとは端的にいえば、「スタバが目指す未来の姿」 です。コーヒーショップにとどまらず、店舗が地域の拠点となり、そこに集う人々が 「自分らしくいられる場」 や 「前向きな気持ちになれる場」 、「人と人とのつながりを感じられる場」 をつくり出すという世界観をスタバを生き生きと描写しているのです。
ビジョンには、スタバが社会をこんな風に変えたいというメッセージが込められています。
ミッションとビジョン
ここまで、スタバのミッションとビジョンについて見てきました。後半のパートでは、ミッションとビジョンの違いについて一般化して掘り下げていきます。
ミッションとビジョンは似ているようで、役割や焦点には違いがあります。
ミッションとは 「存在理由」
ミッションとは、「私たちは何のために存在しているのか」 、「この仕事を通して、社会にどう貢献するのか」 という存在理由を示すのがミッションです。
宗教のキリスト教的な言い回しをすれば 「神から与えられた使命」 のようなものがミッションで、ビジョンを実現するために不可欠な背骨のような役割を果たします。スタバの場合は 「人々の心を豊かで活力あるものにする」 という使命を起点に、スタバのあらゆる活動が展開されます。
ビジョンとは 「未来像」
次にビジョンについてです。
英語の vision の語源は、ラテン語の 「visio」 に由来しています。この visio は 「見ること」 や 「視覚」 を意味する言葉です。さらにその根源には 「videre」 という動詞があり、「見る」 という意味を持っています。
ビジョンとは 「未来を描く一枚の絵」 のことです。まだ実現していない理想の姿を言語化したものです。
ビジョンを支えるミッションの役割
ビジョンを掲げるだけでは、「理想はわかるけれど、どうやって実現するの?」 という状態に陥りがちです。そこで重要になるのがミッションです。ビジョンを現実へ近づけるための具体的な行動指針として機能します。
たとえるなら、ビジョンが 「山の頂上から見える景色」 で、ミッションは 「その山を登る理由」 になります。
ミッションが明確であればあるほど、目の前の困難や課題に直面したときも 「何のために登っているのか」 を再確認でき、組織全体の意思決定をブレなくなります。
スタバの例をとると、地域のコミュニティに貢献する、コーヒー生産者の持続可能な未来を守る、パートナーが心を通わせる空間を創るなどの一つひとつの施策に、ミッションが横たわっています。
店頭での接客やイベント企画が 「心を豊かにする」 ことにつながっているかどうかを常に振り返り、もっとお客さんに喜んでもらうために何ができるかを考えるわけです。こうした内省や対話を繰り返すうちに、ミッションのことが現場レベルでも強く意識されるようになり、結果として組織全体が同じ方向に向かって前進します。
また、ミッションが強くある企業ほど、環境や市場の変化に柔軟に対応できます。ビジョン自体は長期的に変わらない目指す世界観となりつつも、目指す先に向かう理由は時代に合わせたアップデートがときには必要です。
その際に 「何を変えてもよいか、何を変えてはいけないのか」 を判断する軸がミッションになります。スタバがコロナ禍でオンラインサービスを強化したときも、「直接会えなくても、心を豊かにする方法はないか」 という問いがスタバの顧客体験価値の新しい可能性を生み出しました。
ミッションとビジョンを持つことの重要性
スタバの事例からわかるように、ミッションとビジョンを明確に設定している企業ほど、「ブレない一貫性」 と 「柔軟な対応力」 の両方を兼ね添えています。
組織や個人がどんなに拡大し成長しても、最終的に 「私たちは何を大切にし、どんな未来を目指しているのか」 を共有しているからです。
ミッションは具体的な指針や行動に影響を与え、ビジョンはその行動を 「ワクワクする未来」 に結びつけます。スタバのパートナーたちは、社内研修や翻訳プロジェクトなどで対話から、自分がどうありたいか (個人のありたい姿としてのビジョン) と、会社として創りたい社会像 (組織として実現したい世界観としてのビジョン) の双方を意識する機会を得ています。
たとえ失敗しても、それを学びに変え、もっと楽しみながらミッションを体現していく。このような気概がスタバにあるのは、組織と個人のビジョンがつながっているからこそ継続できる姿勢です。
ミッションとビジョンは企業規模にかかわらず重要な概念です。
数字目標や目先の利益だけではなく、ミッションとビジョンは人の心を動かし、長期的な事業展開や持続可能な成長を支える原動力となります。スタバはそれを地道に実践してきたからこそ、いまも 「スターバックスらしさ」 が保たれ、コミュニティに深く根ざしながら展開を続けているのです。
まとめ
今回は、ミッションとビジョンについてスターバックスの事例に当てはめ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ミッションとビジョンの関係性は、ビジョンは 「未来の理想像」 、ミッションは 「その未来を実現するための行動指針」 。山の頂上から見える景色がビジョンだとすれば、ミッションはその山を登る理由となる
- ビジョンとミッションの両方があることで、組織が大きくなっても 「何を大切にし、どんな未来を目指しているのか」 を全員が共有できる。組織の方向性が定まり、全員が同じ目的を共有しながら行動できるようになる
- 目先の利益や数字目標だけでなく、共感され人の心を動かすミッションとビジョンを持つことが、長期的に持続可能な成長を支える原動力となる
マーケティングレターのご紹介
マーケティングのニュースレターを配信しています。
気になる商品や新サービスを取り上げ、開発背景やヒット理由を掘り下げることでマーケティングや戦略を学べるレターです。
マーケティングのことがおもしろいと思えて、すぐに活かせる学びを毎週お届けします。レターの文字数はこのブログの 3 ~ 4 倍くらいで、その分だけ深く掘り下げています。
ブログの内容をいいなと思っていただいた方にはレターもきっとおもしろく読めると思います (過去のレターもこちらから見られます) 。
こちらから登録して、ぜひレターも読んでみてください!