
グーグルの提供価値とユーザーデータ
グーグルがやっていることを簡単に図にすると、以下のようになります。ポイントは、
- 検索や Gmail などのサービスをユーザーに無料で提供する (ユーザーは利便性を享受)
- 無料サービスを提供する代わりに、膨大なユーザーデータを取得する
- ユーザーデータをさらなるサービスの利便性向上や、データをグーグルの主要ビジネスであるネット広告事業に活用

ネット覇者の真実
ここ最近読んだ中で興味深かった本は、グーグル ネット覇者の真実 - 追われる立場から追う立場へ でした。
書かれている内容が非常にリアルでした。著者はグーグルの中に入ることを許可され取締役会などにも参加し、延べ数百人にもわたる関係者への取材から書かれています。
- グーグル創業から検索ビジネスはどう立ち上がったのか
- 検索エンジンのロジック
- 現在もグーグルの収益の大部分を支える広告事業はいかにして生まれたのか
- 数々のサービスのローンチ経緯
- 中国進出・撤退の経緯
その時々にグーグルは何を考え、どう意思決定しその後のプロセスがどうなったかが生々しく描かれています。著者がグーグルという巨人の内側に密着取材をしたからこそ完成したドキュメントであり、グーグルの歴史がよくわかりました。
Google のデータ至上主義
本書で印象的だったことの1つは、何よりもデータを重視するというグーグルの考え方でした。「データ至上主義」 と表現できるほど、確固たるグーグルの信念です。
グーグルはデータからユーザーについて学び、サービスをさらに便利にし続けてきました。
例えばグーグルの検索エンジンです。グーグルはユーザーがどういう検索をしたのかの全ての行動履歴 (ログ) を持っています。検索のために入力されたキーワード、その組み合わせ、入力された回数、検索結果のどれをクリックしたのか、など、ユーザーのあらゆる行動データです。
グーグルはこれらの膨大なログを解析しユーザーを知り学び、検索精度をさらに高めています。具体的には、検索キーワードを間違って入力しても 「もしかして」 と正しいであろうキーワードが表示されます。あるキーワードを入力すると、関連のある語句が自動的にいくつか表示されます。
例えば Google と打ち込むと、Google map 、Google カレンダーなどと自動で表示されます。多くのユーザーがこのような組み合わせで検索をしたデータから作られています。
無料サービスからユーザーの話し方を学習
もう1つ、グーグルがユーザーデータから学んだ事例としておもしろいものがありました。
音声認識についてです。グーグルはあるサービスを使って人間の話し言葉をデータから学習しました。無料の電話番号案内を開始し、ユーザーが連絡したい相手の企業名などを伝えれば、グーグルは番号を教え希望すれば相手先につなげるサービスです。
ユーザーメリットはこれを無料で使えることです。グーグルはその見返りとして人間がどう発話するかを学習していたのでした。
人が声で何かを尋ねる時の声のトーンや大きさ、話すスピードです。聞いた言葉の認識の正解/不正解は、相手とのやりとりでわかったとのことです。間違った場合は相手の反応でどこで間違ったかも判断できたそうです。ユーザーから学習したことは音声認識技術に活かされるのです。
グーグルはデータを取得し学び、サービス改善や新しいサービスを開発します。それによりユーザーは利便性を享受できますます使うようになります。グーグルはさらにデータを取得する…、という好循環です。
Google の描く未来
グーグルの創業者の1人であり現 CEO (2012年現在) のラリー・ペイジは、グーグルの未来像について 「人間の脳の一部になるのでは」 と言っています。
もう1人の創業者であるセルゲイ・ブリンもこれに同意し、次のように語っています。「現時点では検索で文字を入力する必要あるが、将来的にはもっと操作を簡単にし周囲の状況から自動的に有益な情報を提示するかもしれない。最終的には脳内に機器が移植され、質問を考えただけですぐに答えを教えてくれるだろう」 。
岐路に立つ Google
ブリンとペイジは、創業当初からグーグルは人工知能の会社であると定義しました。
2人の目標は、膨大なデータを集め自動学習アルゴリズムで処理し、人間の脳を補強するものを開発することであったと書かれています。
グーグルが検索エンジンロジックを考案する時、検索結果の判定を人間の判断で行なうのではなく、データに基づいてアルゴリズムを活用したほうが偏見のない公平な結果が得られるはずと考えました。
しかし、今、グーグルは岐路に立たされています。
「世界中の情報を整理してアクセスできるようにする」 ことを使命とし、ウェブ上のデータを集めてアルゴリズム処理から実現しようと邁進してきました。
しかし、必要なのに、一部で集められないデータが増えてきています。フェイスブックなどでユーザーがやりとりする、近況や写真の共有などの情報です。
グーグルのロジックは非常にシンプルなものでした。人々がネットを使えば使うほど、グーグルの提供する検索などのサービスを使う機会も増え、ユーザーの役に立つことができる。そして、そこに表示される広告からマネタイズもできる。
しかし、SNS で過ごす時間が増えると、ネットを使う時間が増えても、増加する大部分はグーグルの領域の外です。このロジックが成り立たなくなってしまいます。
Google のソーシャルへの取り組み
本書の最後のほうで、グーグルの一部の社員がソーシャルの可能性に気づき、サービス開始や拡大を主張する話が書かれていました。
しかし、結局はグーグルは会社としては積極的な姿勢を打ち出すことはなかったようです。ツイッターやフェイスブック、フォースクエアなどのアイデアやサービスが生まれようとしていたにもかかわらずです。
現実は、フェイスブックは拡大を続け、ツイッターや他のソーシャルサービスもプレイヤーが展開しています。
1つ前のエントリーでグーグルがなぜソーシャル検索に取り組むかを取り上げました。
参考:Google がソーシャル検索にシフトするのはウェブの世界が変わりつつあるから
ソーシャルというユーザー同士のつながりのデータも使うという、これまでのグーグルの考え方から大きく舵を切ってきている印象です。
簡単なことではないと思いますが、それでもグーグルの未来は Google+ に託されました。本書では執筆時点はグーグルプラスという名称はまだ明らかになっておらず、「エメラルドシー」 という開発コードネームが使われていました。
本書の続きは今後どうなっていくのでしょうか。これからも冒頭のグーグルのモデルが成立するのかは、興味深いテーマです。