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最強のデータ分析組織 - なぜ大阪ガスは成功したのか という本をご紹介します。
エントリー内容です。
- 本書の内容、おもしろく読めた3つの視点
- データ分析者に必要な5つのこと
- リーダーに求められる3つの力
本書の内容
以下は、本書の内容紹介からの引用です。
日経情報ストラテジーが選ぶ 「データサイエンティスト・オブ・ザ・イヤー」 の初代受賞者である、大阪ガスの河本薫氏による待望の2冊目となる本。
同氏が所長を務めるデータ分析組織 「ビジネスアナリシスセンター」 の生い立ちから数々の失敗、乗り越えてきた壁、そして分析組織のリーダーに求められる信念と行動を初告白します。
社内外の誰からも注目されていなかった無名のチームが、いかにして日本一有名なデータ分析組織に生まれ変われたのか。チームを率いる著者がこれまで語ることがなかった苦悩や挫折、そして、ある日突然有名になってからの状況の変化などを、余すところなく赤裸々につづった一冊です。
本書がおもしろかった3つの視点
この本は、私は以下の3つの視点で読みました。
- データ分析に必要なこと (分析者として求められる姿勢・考え方・行動)
- マネジメントや組織論。自分たちの組織の存在意義をどのように見い出し、会社内でどう信頼を確立したか
- リーダシップ。人をどう育てるか
1つめは、データ分析そのものです。2つめと3つめは、データ分析という切り口で、組織マネジメントとリーダーシップを興味深く読みました。
今回のエントリーでも、この3つの視点で印象的だった内容、読んで思ったことを書いています。
データ分析者に必要な5つのこと
本書で書かれていたデータ分析者に必要なことから、興味深かったことを5つご紹介します。
1. データ分析の前後が大切
この本では、ビジネスでのデータ分析者に必要な3つの力が提示されます。
- 見つける
- 解く
- 使わせる
それぞれは、以下のような能力です。
- データ分析を活用できる機会を 「見つける力」
- 実際にデータを使って分析課題を 「解く力」
- データ分析から得られた結果を現場に 「使わせる力」
一般的にデータ分析者が求められることは、2つめの 「解く力」 です。データ分析の経験が豊富で、高度な分析ができ、早く正確にデータ分析の結果と知見を提供する能力です。
しかし、解く力だけでは十分ではありません。その前後となる 「見つける力」 と 「使わせる力」 は、解く力と同じように、時にはそれ以上に重要です。
3つの力について、詳しくは以下のブログエントリーで書いています。よろしければ、ぜひご覧ください。
2. データ分析は 「手段」 。分析結果は 「成果」 ではない
本書で強調されているのは、データ分析でいかにビジネスに貢献するかです。
データ分析が自分たちに依頼した相手組織のビジネスにどれだけ役に立つかです。著者が強調するのは、単なる業務改善のレベルではなく、事業にイノベーション (業務改革) を起こすことです。
データ分析や手法自体はそのための 「手段」 です。分析結果が出た時点でも、たとえ苦労して時間がかかっていたとしても 「成果」 とは見なしません。
ビジネスに貢献できて、初めて成果になります。分析から得られた結果や知見を相手に持っていき、実際に現場で導入され業務プロセスや意思決定をより良くし、ビジネスに貢献できるところまで実現することです。
3. はじめから 「どうすれば役に立てるか」 という意識を持つ
「どうすれば役に立つか」 を常に意識することです。
データ分析の成果を出す、ビジネスに貢献するために必要な意識です。データ分析の3つのプロセス 「見つける」 「解く」 「使わせる」 の、いずれにおいても同様です。
自分たちの位置づけは、「データ分析を依頼されている」 や 「データ分析屋」 ではありません。一緒に業務改革を起こす 「ビジネスパートナー」 と考えます。自らの責任範囲を、データ分析結果を提示して終わりではなく、事業部門と一緒にイノベーションを起こすところまでというスタンスです。
4. 答えを見い出すのは自分たちという姿勢
「どうすれば役に立てるか」 という意識とともに、大切なのはデータ分析者がいかに相手の現場に入り込めるかです。
本書では、データ分析チームのメンバーが現場に同行し、仕事のやり方を間近に見ながら学ぶことを、積極的に行っていることが書かれています。
相手へのアプローチも、「データ分析でどんな予測をすれば、意思決定に役立つか」 という分析者からの視点で質問するのではなく、「普段はどのように仕事をしているのかを教えてください」 という相手に請うようにしているとのことです。
つまり、どうすれば役立つかを直接相手に答えを聞くのではありません。相手がやっていることを実際に聞いたり見て、時には同じように体験し、そこから問題点や変えられること、業務改革のためにデータ分析で何ができるかを、自分たちで見い出すというやり方です。
5. 単なる分析で終わってしまうパターン
どうなってしまうと、事業現場での意思決定に役に立たず、単に分析結果を出すだけで終わってしまうかを、事前に見極められるかも大事です。
本書では、役に立たずに失敗に終わるときは、3つのレベルがあると書かれています。
- 意思決定に役立たない
- 意思決定には役立つが、現場では使えない
- 意思決定に使えるのに、現場に拒否される
自分たちの組織の存在意義をどう見い出すか
著者が所属する大阪ガスのビジネスアナリシスセンターについて、シビアに見ています。
大阪ガスにとっては仮に今日なくなっても、直接の売上には影響しない 「必ずしも必要ではない組織」 と言います。会社にとっては収益を稼ぐプロフィットセンターではなく、コストセンターです。
だからこそ、ビジネスアナリシスセンターの責任者である著者にとって、会社の中で自分たちの存在意義をどこに見い出すか、そして、それを社内や経営レベルでどう認識してもらうかが問われます。
本書には、ビジネスアナリシスセンターの立ち上げからこれまでに、どのような変遷だったかが詳しく書かれています。社内外から社内データ分析組織が信頼を得るために、どういった取り組みや苦労があったかです。
印象的だったのは、「ビジネスアナリシスセンターを大阪ガスのコンピテンシーになる存在にしたい」 という著者の強い意思でした。
通常、企業のコンピテンシーとは、顧客基盤、技術やシステムなどの資産、社員そのもの、研究開発力、ブランドなどです。
著者の決意は、データ分析組織を大阪ガスの新たなコンピテンシーにすることです。他社との競争において、「大阪ガスにはビジネスアナリシスセンターがあるから競争に勝てる」 と言われるようになることです。
コンピテンシーになるためには、成果を出すだけでは足りません。
データ分析という手段から他社が簡単には真似できないようなイノベーションを起こし、圧倒的な優位性をもたらすことです。そして、単発ではなく、継続的にイノベーションを起こし続けることです。
リーダーに求められる3つの力
著者のリーダシップのあり方も、興味深く読めます。
私が思うリーダーに必要な要素を3つは、以下です。
- 構想力:未来という夢を、なるべく具体的なイメージで鮮明に描けるか。描いた絵を人々に示し、語り続ける
- 決断力:明確な答えのない状況でも決断を迫られた時に、覚悟を持って決められるか
- 人間力:この人なら付いて行っても良いと思える魅力があるか。リーダーの姿勢が手本として示され、全体に影響を与える
この3つの視点で、本書にあった著者のリーダーシップをご紹介します。
1. 構想力
大阪ガスでは、3年ごとに中期計画が策定されます。
ビジネスアナリシスセンターの責任者である著者は、自分たちの中期計画をつくる際に、「会社に貢献できるポテンシャルはどこにあるか」 と 「世の中の IT などの技術の発展の方向性」 の2つを交錯させて考えると書いています。
簡単に達成できる計画ではなく、挑戦のやりがいがあるレベルにし、普段の仕事ではじっくり考えられないような未来構想を思い描きます。実現できたらどうなるかの絵を描き、夢を語ります。
2. 決断力
著者は、最後は独りで中期計画を覚悟を持って決めます。
メンバーにも意見や聞きますが、最後は1人で決断を下します。絶対の正解がない中、「メンバーの命運がかかっている」 という責任感、本当にできるのだろうかという不安もある中で、最後は 「やってやろうじゃないか」 と思い、腹をくくって決めます。
決して無謀な決断ではなく、無謀と紙一重であっても勇気を持って決めるのです。
3. 人間力
著者は本書の執筆を通して、あらためて自分自身にリーダーとして何を大切にしているのかを問いかけたそうです。
素直に出てきた言葉は、「メンバーの人生を預かる責任と、メンバーを幸せにする使命感」 でした。
リーダーはメンバー全員の人生を預かる存在です。
リーダーの何気ない一言、メンバーへの仕事の役割配分、学習する機会の提供など、その1つ1つの積み重ねが、メンバーのモチベーションやキャリア形成を変えます。メンバーのそれぞれがどんなビジネスキャリアを送るかは、リーダー次第です。
もう1つ、リーダーとして著者が大切にしている信条は、メンバーに依怙贔屓 (えこひいき) をしていると感じさせないことです。依怙贔屓しないだけではなく、メンバーから見て 「この人は特定のメンバーばかり依怙贔屓していると感じさせないこと」 が信条と言います。
他にも著者のリーダーシップとして、日頃からメンバーをケアするやり方や、何気ないコミュニケーションからメンバーの成長を後押しする姿勢は、私自身も考えさせられました。「メンバーはリーダーの言葉よりも背中を見ている」 というのが著者の考え方です。
最後に
本書のおもしろさは、「データ分析」 × 「組織マネジメント」 × 「リーダシップ」 の3つが掛け合わさっている点にあります。
外資系などの MBA が当たり前のデータサイエンティストが多く所属する、特殊な会社の話ではありません。一般的な日本の企業において、データ分析が組織として企業のビジネスにどう貢献するかを興味深く読め、示唆に富む本です。