投稿日 2025/07/31

ニチレイフーズ 「everyONe meal」 の売場施策とエリアマーケ。マーケティング 4P からのメンタルアベイラビリティとフィジカルアベイラビリティ

#マーケティング #認知と配荷 #フィジカルアベイラビリティとメンタルアベイラビリティ

どんなにすばらしい商品やサービスでも、必要なときに消費者の頭に浮かばなければ選ばれることはありません。また、思い出してもらえても、お店の売場で見つけられなければ購入には至りません。

これが、メンタルアベイラビリティ (思い出しやすさ) とフィジカルアベイラビリティ (買いやすさ) の考え方です。

ふたつは、どちらかが欠けても効果を発揮しません。両者を組み合わせることで、消費者が自然とブランドのことを思い出せ、迷わず手に取る状況をつくることができます。

今回は、ニチレイフーズの新ブランド 「everyONe meal (エブリオンミール) 」 の売場施策とエリアマーケティングの事例をもとに、メンタルアベイラビリティとフィジカルアベイラビリティをマーケティングに活かすポイントを解説します。

ニチレイフーズの新ブランド 「everyONe meal」 



ニチレイフーズは健康というコンセプトを取り入れた冷凍食品開発に挑んできました。

しかし、大豆ミートを使用し、健康価値を訴求した 「大豆ミートのからあげ」 や 「大豆ミートのハンバーグ」 などの商品を2021年に発売しましたが、ハンバーグや唐揚げなど既存カテゴリーの中で埋もれてしまい、期待ほど伸びませんでした (参考記事) 。得られた教訓は、機能性のある食品を定番化させるには、消費者にどうアピールし、どうやって売場をつくってもらうかが大事であるというものです。

こうした背景から、2025年3月から新たに登場したのが 「everyONe meal (エブリオンミール) 」 です。

everyONe meal という名前に込められた意味は、一人ひとりのお客様を表す 「エブリワン」 と日常の食事 「ミール」 を組み合わせ、必要な栄養素を 「ON」 するメニューを消費者に届けたいという思いです。

製品の特徴は、100g あたり 9g 以上のたんぱく質を含み、主食系・惣菜系・軽食系など全13種類のバリエーションをそろえた点です。

マーケティング 4P への当てはめ


では、everyONe meal の製品特徴や各種施策について、マーケティング 4P (Product, Price, Place, Promotion) に当てはめていきましょう。

Product 製品

ニチレイフーズの everyONe meal は、シリーズとして各ラインナップをまとめ、パッケージデザインもこだわりました。

シリーズ化では、たんぱく質を強化したメニューを、主食・おかず・スナック系など複数のジャンルにとりそろえ、機能性と毎日の食卓で飽きずに使える実用性をアピールしています。

パッケージでは、ニチレイフーズのロゴをあえて全面に出すことをやめました。たんぱく質含有量などの情報を大きく目立たせ、ブランドの統一感と分かりやすさを重視したデザインです。everyONe meal 全体として健康的で高たんぱくとイメージづけられる形をとっています。

Price 価格

everyONe meal は、一般的な冷凍食品にくらべ1袋あたりおよそ100円ほど高い設定です。

低価格路線が多い冷凍食品の中で、ニチレイフーズはあえて高めの価格をつける背景には、消費者の健康志向や高たんぱくへのニーズがあり、顧客ニーズに応える製品であればこの値段でもいけるという認識があったからでしょう。

高付加価値商品は、小売店にとってもそれだけ利益率が高いというメリットがあるため、陳列方法や販促から売場づくりへのモチベーションを高める効果も生まれます。

Place 店頭

新しいブランドを成功させるためには、消費者やお客さんが手に取りやすい場所に商品を配置することが重要です。

ニチレイフーズは、スーパーマーケットに対して、everyONe meal のシリーズをまとめて陳列してもらうよう働きかける方針を取りました。


かつての教訓として、商品ごとにバラバラに置かれた結果、埋もれてしまった経験があるので、冷凍コーナーでひと目で everyONe meal とわかる売場構成の提案です。リーチインケースに everyONe meal の9品目以上を並べることを目指しています。

また、棚落ち防止も小売店に要請する意向です。ニチレイフーズは半期に一度の棚替えまでは棚から外さないように小売に依頼し、everyONe meal シリーズが十分に認知されるための時間を確保することを目指します。これはメーカー都合だけではなく、小売店にとっても消費者トレンドの取り入れと売上増のメリットがあるという提案です。

Promotion 広告・販促

ニチレイフーズは everyONe meal のテレビ CM を大々的に打つ前に、まずはエリアマーケティングを展開しました。

具体的には、店舗商圏へのチラシ配布の強化です。


一気に全国放送の CM を流しても、商品の取り扱い店舗が少ない初期段階では、CM で存在を知った消費者が買いたいと思っても買えないという状況になってしまいます。そこで、ニチレイフーズは取り扱い店舗の商圏にチラシを重点的に配布し、商品認知とお店での購買をスムーズにつなげました。

また、ニチレイフーズは店頭販促ツールによる小売への支援も行っています。everyONe meal の9品目を訴求する POP や、来店客の目をひくパネルなど、ブランドの世界観やデザインを統一した各種ツールを用意しました。お店での売場そのものを広告のように機能させることを意図してのことです。

メンタルアベイラビリティとフィジカルアベイラビリティ


ここまで見てきたマーケティング 4P を組み合わせることによりニチレイフーズが狙っているのは、一過性の話題の健康商品として終わらせず、everyONe meal を定番商品へと育てることです。

消費者にとって買いたいと思ったときに、身近なお店の売場でその商品を見つけられないと、せっかくの機会をつかみそこねてしまいます。

ニチレイフーズは、まず小売店へ 「シリーズ陳列」 や 「棚落ち防止」 を提案することで、ブランドとしてのまとまりのある売場づくりを実現しようとしました。さらにチラシ配布によるエリアマーケティングを軸に置き、買える人に確実に情報を届けることに注力しました。これにより、商品認知と実際に買える状態を結びつけるわけです。

この2つの要素、すなわち 「メンタルアベイラビリティ」 と 「フィジカルアベイラビリティ」 がマーケティングにおいては重要になります。

メンタルアベイラビリティ

メンタルアベイラビリティとは、消費者やお客さんの頭の中でどれだけそのブランドや商品が思い浮かびやすいかを示す概念です。

今回の場合で言えば、たんぱく質を摂りたい、健康的な食品を探しているといった状況 (顧客文脈) において、最初にニチレイフーズの everyONe meal を思い出してもらえるかどうかがメンタルアベイラビリティです。

パッケージの統一感や店頭でのブロック陳列、あるいはチラシの訴求によって、everyONe meal は高たんぱくで便利な冷凍食品というイメージが強まれば、自然と消費者の記憶に残りやすくなるでしょう。普段の買い物中に思い出されやすいブランドになることで、買ってもらえる可能性が高まります。

フィジカルアベイラビリティ

フィジカルアベイラビリティは、消費者やお客さんが実際に商品を購入できる機会の多さを意味します。

どんなに魅力的な商品であっても、近所のスーパーなどの身近なお店で売られていなければ買うことはできません。あるいは、店頭には置かれていても売場で見つけにくかったり、すでに棚落ちして欠品していれば、やはり手に取られることはないわけです。

ニチレイフーズが採用したのが、9品目以上まとまったブロック陳列を冷凍ケースで行ってもらう提案でした。消費者からすると、いつ行っても一定の品数がそろっている、売り切れ状態になることはないといった安定したフィジカルアベイラビリティがあれば、消費者がいざ購入を思い立った際に確実に手に取れる売場状況を維持できます。

マーケティングからのメンタルアベイラビリティとフィジカルアベイラビリティへの貢献

今回のニチレイフーズの everyONe meal は、大豆ミートでのかつての苦戦をバネにした事例です。

教訓を活かしたポイントは、メンタルアベイラビリティ (思い出されやすさ) を高めるマーケティング施策と、フィジカルアベイラビリティ (消費者が買える場所の確保) を実現する流通施策をセットにした点にあります。

✓ メンタルアベイラビリティを高める
  • 認知度を上げるためのパッケージの統一、チラシでのエリアマーケティングで重点的に訴求
  • 高たんぱく・手軽・おいしいという魅力をブランドで一貫して発信
  • シリーズ陳列でブランド全体をまとめて目に入るようにする

✓ フィジカルアベイラビリティを強化する
  • 9品目以上のまとめ置きによる商品棚の占有
  • 半年の間で棚から落とさないよう欠品対策
  • 小売店へのメリット (高付加価値商品による高利益率) 打ち出し、流通網を増やし配荷を拡大


このように、ニチレイフーズはマーケティング 4P で整合性を持たせ、メンタルアベイラビリティとフィジカルアベイラビリティの双方を着実に押し上げる施策を展開しています。

まとめ


今回は、ニチレイフーズの 「everyONe meal」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • メンタルアベイラビリティとは、消費者やお客さんが商品を思い出しやすい状態のこと。「◯◯ ならこの商品」 「このシーンではこのサービス」 と直感的に連想されやすさを指す

  • フィジカルアベイラビリティは、消費者・顧客が実際に商品を購入しやすい環境を整えること。お店で扱っている配荷、売場での適切な配置、目立つ棚割などから買いたいときにすぐ手に取れる状況をつくる

  • メンタルとフィジカルはどちらかが欠けても効果が発揮されない。相乗効果を発揮させることにより成果を最大化できる

  • パッケージやメッセージでブランドの一貫性を保つことで記憶に残りやすくし、まとまった陳列で消費者からの発見確率を高めるなど実際に購入しやすい状況を実現する。これにより認知から購買までをスムーズにつなげられる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。