投稿日 2024/11/10

アサヒスーパードライ ドライクリスタル。市場ギャップを見抜いての商品開発

#マーケティング #市場ギャップ #顧客価値

少なくない企業が、優れた商品を開発しても売上が伸び悩む状況に直面しているのではないでしょうか?その原因のひとつは、市場の変化や顧客ニーズを捉えきれていないことにあります。

とはいえ、市場の潜在的なニーズを見抜くことはそう簡単ではありません。変わりつづけるお客さんの嗜好や行動を的確に捉え、既存の商品やサービスでは満たせていないニーズ、その要因を見極めることが必要です。

今回取り上げたいアサヒビールの 「アサヒスーパードライ ドライクリスタル」 は、市場の潜在的なニーズに着目しました。アサヒビールはどのようにして市場のギャップを発見し、新たな価値を提案したのでしょうか?

ドライクリスタルの開発事例から、マーケティングにおける市場理解と価値提案の方法ついて探っていきます。

アサヒスーパードライ ドライクリスタル


出典: PR TIMES

2023年10月、アサヒビールは新商品 「アサヒスーパードライ ドライクリスタル」 を発売しました。

ドライクリスタルの特徴は、通常のスーパードライより低いアルコール度数 (3.5%) です。

 「クリスタル」 という名前には、「透明感のあるクリアな後味」 と 「お客さまの人生を躍動的で充実した輝かしいものにしたい」 という意味が込められています。

缶のパッケージは、通常のスーパードライのデザインを踏襲しつつ、白を基調としました。正面の八角形の枠とプルタブには赤色を採用し、缶体の中央下部には、商品特長である 「3.5%」 を目立たせています。

アサヒがとらえた市場での 「潜在的なニーズへのギャップ」 


 「スーパードライ ドライクリスタル」 は、市場における潜在的なギャップをとらえた事例として学びが得られます。

お客様を取り巻く環境の変化

現代社会では 「人生100年時代」 と言われるように、人々のライフスタイルは多様化しています。従来の 「教育 → 仕事 → 引退」 という皆が同じような人生のライフステージから、個々人が自らの価値観やライフスタイルに合わせた多様な人生を歩む時代になっています。

この変化に伴い、消費者の嗜好や行動も大きく変わっています。

アサヒビールは、「お客様の人生が大きく変化しているのに、ビールとお客様との関係性がずっと同じとは考えにくい」 という着想から、ドライクリスタルの開発をスタートしました。ビールをただのアルコール飲料とみなすのではなく、生活者のライフスタイルや価値観に応じた存在であるべきという発想です。

グローバルでのビール市場のトレンド

次に、グローバル市場のトレンドに目を向けてみましょう。

世界的にアルコール消費量は減少傾向にありますが、その一方で、アルコール度数 0 ~ 3.5% のミドルレンジアルコール市場は拡大しています (参考記事) 。

アサヒビールはこのトレンドを捉え、3.5% 前後の度数帯を 「ミドルレンジアルコール帯」 と位置付け、需要の高まりに注目しました。

ミドルレンジアルコールのトレンドには、以下の3つのポイントが挙げられます。

✓ スマートな消費行動
  • 消費者は酔うためだけにお酒を飲むのではなく、日々の充実や楽しみのためにお酒を飲むようになっている
  • 健康や生活の質を重視する消費行動のあらわれ

✓ 選択肢の拡充
  • 消費者は、シーンや気分に応じて飲み物を選びたいと思う
  • 顧客ニーズに応じてアルコール度数や味の異なる多様な選択肢を提供することが求められている

✓ 新しいライフスタイル
  • 健康的で無理をしないビールライフを送る人が増えている
  • 各国で展開されているミドルレンジアルコール商品は、スマートで生活に馴染むデザインを採用しており、消費者の日常に溶け込みやすい形となっている

日本におけるビールのアルコール度数の状況

こうしたグローバルでのトレンドに対して、日本国内の市場に目を向けると状況は異なります。

国内市場では 4 ~ 6% のアルコール度数帯が全体の 97.8% で、特にアルコール度数 5% 台のレギュラービールが約7割を占めています。

アルコール度数が 3% 台の商品は 1.7% と非常に少なく、消費者が低アルコールのビールを飲みたいと思っても、選択肢がほとんどない状況でした。

市場を理解しての価値提案


ここまで見てきた環境の変化を踏まえ、アサヒビールは、ミドルレンジのビール商品に可能性を感じました。

消費者が 「今日はアルコール度数が低いビールを飲みたい」 と思っても、そのニーズを満たす商品がほとんど存在しないという状況をビジネス機会ととらえたわけです。

市場ギャップを埋める商品開発

市場のギャップを埋めるために、アサヒはドライクリスタルを開発しました。

プロトタイプを作成し、消費者の声を調査した結果、「体への負担が軽くなる」 「長時間楽しめる」 「翌日に残ることが少ない」 といったポジティブな反応を得ました。消費者からのフィードバックをもとに、アサヒビールは低アルコールビールに対する潜在的なニーズが確実に存在することを確認し、商品化に踏み切りました。

アサヒビールはドライクリスタルによって、新しいビールの在り方を提案します。

消費者が健康的で多様なライフスタイルを送る中で、低アルコール度数のビールを提供することで、気軽にビールを楽めるのを目指してのことです。

市場での 「潜在的なギャップ」 に注目する

アサヒビールは生活者の潜在的なニーズと既存のビール市場のギャップにいち早く気づき、成功に導きました。

学びを一般化すると、ビジネスでは、お客さんの状況や変化するニーズを的確に捉え、お客さんの文脈に合う新しい価値を提供することが大事です。

参入している市場における 「潜在的なニーズ」 と 「現状へのギャップ」 を見つけ出し、それを満たす商品・サービスを届けることで、新しいチャンスを切り拓けます。

まとめ


今回は 「アサヒスーパードライ ドライクリスタル」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 市場環境や生活者のライフスタイルの変化をとらえ、お客さんの潜在ニーズと既存商品 (競合他社も含む) とのギャップに着目することで、新たなビジネス機会の発見につながる

  • 市場でのギャップを埋める商品開発のためには、プロトタイプを用いた調査によって潜在ニーズを確認していき、どういった顧客文脈で、どんな顧客価値をもたらすかを検証するといい

  • 変化する顧客ニーズやお客さんの置かれた状況を理解し、満たせていないニーズに応える商品・サービスを提供することで、新たな市場をつくりだすことができる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。