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アドバタイジングウィーク アジア 2017 というイベントが、2017年5月29日から6月1日の日程で日本で開催されました。会場は六本木の東京ミッドタウンでした。アジアでの開催は去年に引き続き2回目です。
「若年層を動かすマーケティングアプローチ」 セッション
去年のアドウィークでは、私も講演する機会がありました。今年は純粋にオーディエンスとして参加し、いくつかの基調講演やセッションを聞いてきました。
おもしろかったセッションの1つが 「若年層を動かすマーケティングアプローチ ~ 動画は今、どう見られているのか ~」 でした。博報堂 DY メディアパートナーズのメディア環境研究所 所長の吉川昌孝氏と、C Channel 取締役 CCO の三枝孝臣氏による、対談形式のセッションです。
若者の動画視聴傾向
セッションの前半は、若者が動画コンテンツを具体的にどのように見ているかが話されました。
博報堂の吉川氏も C Channel の三枝氏も、調査を通じてや、ユーザーの動画視聴動向を肌感覚で把握し、実態への理解をベースに語っていたのが印象的でした。若者のスマホ利用や動画視聴について、興味深いと思った点は以下でした。
- 気分のおもむくままに、次から次へと見る。面白いところだけをつまみぐい
- 動画を見ていても Line が来たら即返信。メッセージを返した後はまた動画に戻る
- 全ての利用動向が 「サブ」 。「メイン」 がない
吉川氏は、次々にアプリやコンテンツを見ていく様子を 「チェーンビューイング (Chain viewing) 」 、全てがサブでメインがない利用を 「サイマルビューイング (Simul viewing) 」 と表現しました。
若年層が、1つの動画を見ることができる時間の長さの限度について、吉川氏と三枝氏は共通の認識を持っていました。三枝氏は 「動画で見られるのは45秒から1分」 、吉川氏は 「調査では30秒から1分くらいまで」 と言っていました。
注意が必要なのは、動画が1分以内であれば見てもらえるかというと決してそうではないということです。C Channel の三枝氏が 「たとえ1分でも、ムダ・おもしろくないと思われたら、見てもらえない」 と言っていたのが印象的でした。
アテンションをいかに獲得するか
2人のディスカッションは、どうすれば若者に動画コンテンツを見てもらえるかに移っていきます。アテンションをいかに獲得するかです。
三枝氏が言っていたのは、動画の冒頭が大事であることでした。動画を見てもらう人に 「これはムダではない」 と思ってもらえるかです。
三枝氏は具体例として、C Channel の動画を自らのスマホで紹介しました。ヘアアレンジの how to 動画です。動画の長さは41秒です。再生マークをタップ/クリックすると再生できます。
— C CHANNEL 女子のための1分動画 (@CChannel_tv) 2017年5月12日
この動画で見てもらうための冒頭の工夫は、最初にいきなりヘアアレンジの方法から入るのではなく、街でのシーンが4秒あることでした。まず、髪型と全体の雰囲気のイメージを見ている人に持ってもらうためです。
ポイントは、リアリティを見せ、パッと見て直感的にかわいいと思ってもらえるかです。ここで視聴者の関心を引けば、その後のヘアアレンジの how to もそのまま続けて見てもらいやすくなります。
獲得したアテンションをいかに維持するか (見続けてもらえるか)
アテンションを獲得して終わりではなく、見続けてもらえる工夫も紹介されました。動画の再生スピードの緩急です。
ヘアアレンジのやり方を見せるシーンでは、早回しで再生されています。一方の冒頭と最後で見せる髪型のイメージシーンでは、通常の再生速度です。
この緩急が大事で、How to 部分の早送り再生については、これくらいのスピード感でないと見ている側はダレるとのことでした。
スマホでの動画視聴の時間感覚は、テレビの60倍
おもしろいと思ったのは、三枝氏が言っていた、映像の尺 (時間) を短くする場合はテレビ的な考えではシーンのカットをするが、スマホでの動画は再生速度を早回しにする、というアプローチでした。
動画コンテンツの再生スピードについて、日テレでテレビ番組作成をしていた三枝氏は興味深いコメントをしています。「テレビのときは1分単位で番組構成を考えていた。スマホの動画は1秒1秒でどう作るかを考えないといけない」 。
スマホで動画を見るユーザーが、動画でスクロールの指を止めて見てくれるか、見ずに行ってしまうかは秒単位の勝負だそうです。
テレビは1分 (60秒) 、スマホは1秒という60倍の差を聞いて思ったのは、テレビ番組の時間単位としてドラマやバラエティは60分が普通である一方、スマホでの動画については2人とも 「見られるのは1分以内」 と実感値としての発言につながることです。
つまり、言われてみれば当然の帰結かもしれませんが、いずれも同じ 1/60 になっている点は発見でした。
- 視聴者側の時間感覚:視聴時間がテレビでは1時間、スマホだと1分 (60分 vs 1分)
- 作成側の時間感覚:テレビ番組では毎分、スマホ向け動画では毎秒 (60秒 vs 1秒)
スマホとテレビの時間感覚の体感比率が60倍というのは、ベンチマークとして持っておこうと思っています。
「これを見たい」 というパッションを持ってもらえるか
もう1つ、見続けてもらうために要素として言われていたのが、パッションでした。
動画に惹きこまれ見たいと思うか、なんとなく見ているかです。見たいと思うのは、動画のこれが好き・この人を見たいという気持ちがあるかです。動画コンテンツに感情移入が起こせるかがポイントです。
先ほどの C Channel のヘアアレンジの how to 動画も、冒頭で女の子の髪型も含めたイメージに 「かわいい」 という気持ちを直感的に持ってもらえるか、感情移入が起こるかです。
まとめ
最後に、このセッションでの学びのポイントをまとめておきます。
若者 (34歳以下くらい) の動画視聴
- 気分の赴くままに、次から次へ見たいものをつまみぐい。Line や動画など行ったり来たり、「メイン」 がなく全てが 「サブ」
- 動画で見られるのは長くて45秒から1分以内。ただし1分でもムダと思われたらもう見られない。次に行ってしまう
アテンションを獲得するために
- 動画の冒頭でいかに惹きつけられるか。パッと見て直感的に伝えられるか
- C Channel の how to 動画の例では、最初の4秒で、髪型の完成と雰囲気のイメージをまず見せる。How to はその後 (いきなり how to に入らない)
見続けてもらうために
- 再生スピードの緩急がポイント。ヘアアレンジの how to 部分は早回し (これくらいのスピード感でないと見ていてダレる) 。冒頭と最後の街でのイメージシーンは通常再生
- テレビでは1分単位で番組の構成を考えていた。スマホ動画では1秒単位になった (スマホでの動画視聴の時間感覚は、テレビ番組の60倍)
- 動画に対して 「これを見たい」 「この子がかわいい」 などのパッションをいかに持ってもらうか。感情移入を起こせるか。なんとなく見に来ているか、これを見たいという気持ちで見てもらえるか
以上を踏まえて、あらためて C Channel の動画を見ると、アテンションを獲得し、最後まで見てもらうための様々な工夫があります。
— C CHANNEL 女子のための1分動画 (@CChannel_tv) 2017年5月12日
セッションの動画
今回ご紹介したセッションは、以下のリンク先から動画で見られます。デジタルマーケティングの、特に動画コンテンツや動画広告に興味のある方には示唆に富む内容です。
若年層を動かすマーケティングアプローチ ~ 動画は今、どう見られているのか ~|Advertising Week Asia 2017 - Tokyo [May 31]
なお、デフォルトの音声は英語吹き替えです。日本語に変更するには、動画プレイヤーの右下にあるヘッドフォンアイコンで Japanese を選ぶと、日本語の講演音声に変わります。