投稿日 2025/10/12

バターのいとこ。「捨てられるはずだった」 から 「選ばれる理由」 へ。価値の再定義が生んだヒット商品

#マーケティング #価値の再定義 #選ばれる理由

あなたの会社に 「捨てられているもの」 はありませんか?

それは物理的な廃棄物かもしれないし、活かしきれていないアイデアやスキルかもしれません。

今回ご紹介したいのは、これまでも誰にも価値を見出されず廃棄されていたスキムミルクという "副産物" を宝に変えた 「バターのいとこ」 というお菓子です。

日常に当たり前のように存在するその課題や未利用のモノこそ、実は新たな価値を生み出す宝の原石かもしれません。

捨てられていたものに光を当て、価値を再定義し、お客さんに選ばれる理由をつくる――。事例からストーリーや仕組みを掘り下げながら、ビジネスやマーケティングのヒントを探っていきましょう。

バターのいとこ


出典: PR TIMES

 「バターのいとこ」 を企画・製造しているのは、栃木県那須町の企業 「GOOD NEWS」 です。那須地域は豊かな酪農が盛んなエリアです。

バターを作る際に出るのがスキムミルクですが、スキムミルクは安価で取引されたり、廃棄されたりしていました。

GOOD NEWS はスキムミルクについて、違う見方をしました。ここがおもしろいのですが、「おいしいミルクジャムにすれば、まったく新しい地元名物が作れるのでは?」 という発想から、お菓子として商品化されたのです。

 「バターのいとこ」 という名前がユニークです。生乳から作られるバターが 「兄弟」 に当たるなら、残ったスキムミルクは少し遠い親戚となる 「いとこ」 のような関係性だろうと。商品名はそんな着想を得たことに由来しています。

パッケージには 「04」 や 「90」 という数字が表記されています。これは 「生乳の 4% がバターで、90% はスキムミルクという成分構造を伝えるものです。

* * *

では、バターのいとこの事例から学べることを掘り下げていきましょう。

捨てられているものに光を当てる


バターのいとこの事例で注目したいのは、「これまで価値がないと見なされていたもの」 に光を当て、その可能性を最大限に引き出したことです。

資源の発見

バターのいとこを開発した GOOD NEWS は、スキムミルクに対する見方を変えようとしました。

スキムミルクはバター製造における副産物で、ともすれば厄介者のように扱われる存在です。しかし、バターのいとこではストレスなく育ったジャージー牛のスキムミルクが抜群においしいことに着目しました。

スキムミルクのことを廃棄物ではなく、価値ある資源として捉え直したわけです。

新たな魅力を探る

バターを作る際に生乳の実に 90% 以上がスキムミルクとなり、その多くが有効活用されずに安価で取引されたり、廃棄されたりしていたという現実がありました。

こうしたもったいない状況を当たり前として見過ごすのではなく、解決すべき問題として真正面から向き合ったことが重要です。身近なところに存在する問題を対処する課題に変え、ビジネスチャンスにする発想がバターのいとこの出発点となりました。

GOOD NEWS はスキムミルクのことを 「価値創出の源泉となる資源」 と再定義しました。その後、その魅力を最大限に引き出す方法が模索されたわけです。スキムミルクをそのまま飲んだり、加工するといった既存の方法ではなく、お菓子という形で新たな価値を付与する道を選びました。

コンセプトの反映


見出された新たな価値をコンセプトへと昇華させるプロセスも、バターのいとこの事例から学べるポイントです。

ストーリー性をもたせる

バターのいとこのコンセプトは 「スキムミルクの価値を高め、酪農家を応援する」 というものです。

消費者はバターのいとこを食べることで、美味しさと同時に、社会的な意義や背景にあるストーリーにも触れることができます。これが単なる味覚的な満足を超えた、共感と支持を生み出す源泉となっています。

コンセプトをより魅力的に伝える上で、ストーリーが活かされました。商品名 「バターのいとこ」 には、バターとスキムミルクの関係性を "いとこ" と表現することにより、新鮮な響きや親しみやすさに加え、商品が生まれた背景 (バター製造の副産物を有効活用していること) をうまく示唆しています。

さらに、那須の酪農家が抱える悩み、地域への想い、そして一流パティシエとの出会いといった、開発に至るまでの物語も、商品の魅力を深める要素です。

数字やデザインによる見える化

バターのいとこには、コンセプトやストーリーを直感的に伝える工夫も入っています。

パッケージに記された 「04」 と 「90」 という数字は、生乳からバターになる割合の 4% とスキムミルクになる割合の 90% を示しています。

数字のデザインは、バターのいとこを買うことがスキムミルクの有効活用につながるというメッセージを物語ります。

顧客に響くメッセージとは


たとえ優れた商品コンセプトであっても、顧客の心に響かなければ意味がありません。

感情に訴える

バターのいとこが人々を惹きつけるのは、お菓子のおいしさにとどまらず、「那須の酪農家を応援したい」 「フードロス問題に関心があり解決に貢献したい」 「作り手の想いに共感する」 といった、消費者の様々な感情に訴えかけるからでしょう。

SDGs への文脈と相まって、社会的な問題解決に貢献できる商品であることは魅力となります。消費者は、バターのいとこを買うことによって、おいしさを味わうと同時に、社会に良いことをしているという自己肯定感を伴った感情を得られます。

多様な買う理由の提示

SDGs 的な要素以外にも、バターのいとこは多様な買う理由を持つ商品となりました。

  • 純粋なおいしさ: ふわっとした生地とシャリッとしたミルクジャムの組み合わせがおいしいから
  • お土産やギフトとして: おしゃれなパッケージとストーリー性があり、贈り物にぴったりだから
  • 応援消費として: 那須の酪農家や地域を応援したいから
  • 社会貢献として: スキムミルクの利活用というフードロス削減の取り組みに共感するから
  • 限定品への興味: 羽田空港限定の 「ご当地 BOX」 や、北海道限定の 「あんバター味」 など、地域限定フレーバーを試したいから


色々な角度から消費者ニーズや人々の価値観に応えることにより、幅広い層からの支持を獲得することにつながります。

マーケティングの役割


バターのいとこの事例は、マーケティングの本質を示唆します。

マーケティングとは、ただ単に商品を売るためのテクニックではありません。マーケティングは、消費者や企業にとっての価値をもたらし、自分たちがお客さんから選ばれる理由をつくり作り活動そのものです。

お客さんからの選ばれる理由をつくる

バターのいとこが行ってきたことは、お客さんからの選ばれる理由を丁寧に、そして多角的に構築していくプロセスでした。

スキムミルクという 「捨てられていたもの」 に光を当て、おいしさ、ストーリー、デザイン、社会性といった複数の要素を付与し、コンセプトや価値を効果的に伝え、わざわざこのお菓子を選んで買う理由をつくり出したのです。

新しい切り口から魅力を打ち出す

ポイントは、今までは知られていなかった・気づかなかった側面を捉え、新しい切り口から魅力に変えて提示したことです。

生乳にあるスキムミルクは元々存在していましたが、安価に取り引きされたり捨てられるなどの厄介者だったことに誰も疑問に持ちませんでした。しかし、スキムミルクを 「おいしいお菓子の原料」 や 「社会問題の解決」 という新しい文脈を与えることで、顧客価値や社会価値の源泉へと生まれ変わりました。

バターのいとこの事例は、身の回りにある 「当たり前となりすぎて見落としていたこと」 の中にこそ、新しい価値創造のヒントが眠っていることを教えてくれます。視点を変え、創意工夫を凝らすことによって、これまで見過ごされてきたものが、多くの人を魅了する 「宝物」 に変わり得るのです。

まとめ


今回は、スキムミルクを有効活用したお菓子の 「バターのいとこ」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 見過ごされていた資源や廃棄物に新たな視点を持つことで、価値創造のきっかけとなる。バターのいとこはスキムミルクという 「副産物」 に光を当て、宝に変えた

  • 価値の再定義は社会的文脈や意味づけを伴うことで効果的になる。スキムミルクは 「廃棄物」 から 「価値ある食材」 「社会貢献の手段」 へと意味を変えた

  • 商品のストーリー性を数字やデザインなどの視覚的要素も伴って伝えることにより、背景や意義を直感的にお客さんに伝えられる

  • 購入理由を多角的に構築することで幅広い顧客層にアピールできる。味わい、デザイン、社会貢献、限定性など、複数の価値提案が選ばれる理由を強化する

  • マーケティングの本質は 「お客さんから選ばれる理由をつくること」 。身近な当たり前の中には、視点を変えることで新たな価値創造のヒントが眠っている


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。