いつか読もうと思ってずいぶん時間が経っており、ようやく読めた本が そうだ、葉っぱを売ろう!過疎の町、どん底からの再生 でした。
葉っぱビジネス
本書の内容
テレビや新聞・雑誌などマスコミでもよく取り上げられているので、ご存知かもしれません。ある田舎町で興した 「葉っぱビジネス」 について、仕掛け人である横石知二氏が書いた本です。
少子高齢化や過疎が進み、一時はどん底であったのが愛媛県上勝町でした。
本書には、いかに葉っぱビジネスが始まり、町を再生していったかが紹介されています。読んだ感想は、学べることが多く、かつ感動できる本でした。普段からよく本を読みますが、この2つを共に満たす本はなかなかありません。
葉っぱビジネスとは
葉っぱビジネスについてご紹介します。
料亭や寿司屋さんの料理には葉や花が添えられています。季節を彩る葉や花が、料理を美しく見せてくれます。葉っぱビジネスとは、この葉や花を販売する農業ビジネスです。
添えられる葉や花は妻物 (つまもの) と言います。料理が主役で、葉っぱはあくまで主役を引き立たせるものです。

出典: 株式会社いろどり
上勝町での葉っぱビジネスの特徴は、担い手の中心が地元のおばあちゃんであることです。
70代から80代、中には90才を超える方もいるとのことです。おばあちゃんたちによって葉っぱは育てられ、採集し、市場に出荷されます。
本書によると、上勝町での葉っぱビジネスは年商2億6000万円とのことです (2007年時点) 。年収1000万円を超えるおばあちゃんもいるそうです。たかが葉っぱではなく、それだけの価値を持っているのです。
ゼロからのスタート
葉っぱビジネスは、全くのゼロからのスタートでした。その後は上勝町だけでも2.6億円の売上高をあげますが、当初はマーケットすらありませんでした。
妻物として葉や花は使われていましたが、葉っぱビジネスが存在する前は料理人の人が自分で山とかに探しに行って葉っぱを取ってきていたそうです。つまり、葉っぱを売る/買うという発想がそもそもなかった。そこにマーケットチャンスを見出し、実現させたのが著者である横石さんでした。
「葉っぱがビジネスになる」 と横石さんがひらめいたのは、大阪の難波に立ち寄ったがんこ寿司でのことでした。
たまたま横石さんの席の近くに座っていた女子大生3人が料理についていた赤いモミジの葉を手に取り、「これ、かわいい」 と大喜びしたそうです。そして、女の子は自分のハンカチで丁寧に葉っぱを包み持って帰ろうとしました。
その光景を見て、横石さんは 「葉っぱを売ろう」 とひらめきます。
横石さんは葉っぱがビジネスになることを確信しますが、実際に売れるまでには紆余曲折がありました。
横石さんは早速、葉っぱビジネスを一緒にやろうと上勝町の人々に紹介しました。しかし、「そんなもん、売れるわけないよ」 と誰も賛同しませんでした。
あきらめなかった横石さんはその後なんとか賛同者を募り、上勝町で採れた葉っぱを市場に売りに行きました。しかし、全く売れなかったそうです。
思ったこと (ビジネスの立ち上げについて)
ではこの本から葉っぱビジネスの立ち上げを読み、思ったこと3つご紹介します。
全てはビションから
横石さん、葉っぱビジネスを思いついた当初から、確固たるビジョンがありました。上勝町の人たちに、自分の住んでいる町のことを誇りに思ってほしいという信念です。
背景は、横石さんが上勝町の農協に営農指導員としてやってきた当時、上勝町の人たちの様子を見て 「これではいけない」 と強い危機感を抱いたことです。男性は朝から酒を飲み、女の人は他人の悪口ばかり言うだけで何もしていないように見えました。
女の人の仕事がないことも、葉っぱビジネスを思いついたきっかけでした。葉っぱなら女の人でもおばあちゃんでも扱えることができるからです。
本書の最後の方に書かれていましたが、横石さんは 「みんなが働ける社会をつくりたい」 という思いを持っています。単に、葉っぱが売れそう、一儲けしたいという動機ではありません。社会を豊かにするというビジョンでした。
本書はリーダーシップという視点でも興味深く読めます。
リーダーとは、未来のあるべき姿を実現するためビジョンを語り、まわりの人を導き、実現していく存在です。
マーケティング: 強みを活かして差異化し価値を届ける
本書は、マーケティングの視点でも興味深く読めます。
葉っぱビジネスはゼロからのスタートでした。前例や参考となるものはなく、試行錯誤するしかありませんでした。「葉っぱが売れる」 という確信があっても、当初は全く売れませんでした。なぜなら、横石さんは葉っぱが実際に料亭でどう使われるかを知らなかったからです。
横石さんのすごいところは、現場主義を徹底されていることです。
妻物の実際の使われ方を自分が知らないとわかると、勉強するために料亭に2年以上も自腹で通ったそうです。葉や花がどう使われているか、季節ごとの違い、どういう葉っぱだと料理人やお店に喜ばれるのかなど、自分たちが売ろうとしている葉っぱの 「価値」 を直接現場に足を運び、学び続けたのです。
現場を見て歩き、横石さんはあることに気づきます。
妻物の葉は、山に生えている自然のままが必ずしもいいわけではないことです。例えば、葉にしみや虫食い穴が少しでもあると、妻物としては使えません。
妻物はあくまで料理を引き立てる存在です。器や料理とのバランスがあり、それぞれ適切な色合いや大きさ、季節感というタイミングもあります。
季節より少し早めに葉っぱを取れるような栽培をしたり、料理人が使いやすいように大中小とサイズを分け、そろえてパッケージするなど、現場での気づきや経験を葉っぱビジネスに活かしました。
ここに、おばあちゃんたち農家の知恵と技術が活きました。
実際の季節よりも先に花をほころばせる、狙った時期に小ぶりな葉っぱを採取するなどのノウハウを持っていたのです。おばあちゃんたちの根気強さ、丁寧さ、仕事への意欲が、上勝町の葉っぱビジネスに大きく貢献します。
戦略は、強みを活かして差異化することです。
「強みを活かす」 と 「差異化する」 の2つを満たすことがポイントです。差別化できたとしても、自分たちの強みに基づいていないと、いずれは競合に真似され中長期に勝ち続けることが難しくなります。
強みを活かして差別化し、お客さんに価値やベネフィットを実感してもらうことです。時代が変わろうとも、マーケティングの本質は変わりません。
横石さんや上勝町の人たちの努力によって、葉っぱビジネスは成長しました。
マスコミにも取り上げられるようになり、人口が2000人ほどの町に年間にその2倍もの人が視察に訪れるような町になりました。株式会社いろどりという会社ができました。
「葉っぱが売れたら、逆立ちして歩いたるわ」 とまで言われた葉っぱが、それだけの価値を生んだのです。
当事者意識が人々と町を変える
本書を読むと、葉っぱビジネスにより、上勝町の人たち、そして町自体が変わっていったことがよくわかります。
雨の日は朝から役場に集まり酒を飲むだけだった人たち、近所の悪口をしゃべってばかりだった人たちも、「彩 (いろどり) 」 という自分たちの葉っぱビジネスを担いそのような暇がなくなりました。
何よりも 「住民みんなが町のことを自分たちの問題として考えられるようなった」 と著者である横石さんは言います。
見聞きしたことを、自分の商品のことにだけではなく、葉っぱ事業全体のこととして捉えているそうです。「彩」 という自分たちの葉っぱブランドを守るため、自分の住んでいる町のことを誇りに思っている様子がうかがえました。
誇りに思っているから町を環境を守ろうとするし、葉っぱビジネスにもやりがいを感じています。
あるおばあちゃんが横石さんにこんなことを言ったそうです。「世界中探したって、こんな楽しい仕事はないでよ」 。
葉っぱを売るという生きがいがあり、自分の取った葉っぱがお店でどう使われているかという自分がやっていることの価値を実感しています。女の人もお年寄りもみんなが働いている社会です。
「ここに生まれて、本当によかった」 と笑顔で言うおばあちゃん。自分が住んでいる町を誇りに思っている。実現されたのは横石さんのビジョンでした。