投稿日 2022/08/10

サントリー天然水の果汁飲料 「きりっと果実 オレンジ & マンゴー」 。ブランド拡張の新商品に学ぶ、ブランドのつくり方


今回のテーマは、マーケティングでのブランドです。

サントリーの果汁飲料を取り上げ、ブランディングに学べることを見ていきます。

✓ この記事でわかること
  • サントリー天然水から初の果汁飲料が新発売
  • 「きりっと果実 オレンジ & マンゴー」 は天然水のブランド拡張
  • ブランド拡張から考えると、新商品は成功する?
  • 南アルプスの体験施設に学ぶ、ブランドのつくり方

よかったら最後までぜひ読んでみてください。

サントリー天然水の果汁飲料


サントリーのミネラルウォーター 「天然水」 から、初の果汁飲料が登場しました (リリース (2022年5月) はこちら) 。

きりっと果実 オレンジ & マンゴー


商品名は 「きりっと果実 オレンジ & マンゴー」 です。


オレンジは、バレンシア系とマンダリン系の2種類が入っています。他にも特徴は、コロナ下での健康志向の高まりを背景に、1本で1日分のビタミン C などの栄養素が摂取できること、また熱中症対策になります。

ブランド拡張の商品


パッケージにも 「天然水」 の文字とロゴが入っているように、「きりっと果実 オレンジ & マンゴー」 はミネラルウォーターの 「天然水」 から派生させた商品です。

マーケティングで言うところの 「ブランド拡張 (Brand extension) 」 です。

ブランド拡張とは、すでに確立しているブランドネームやイメージを利用し、新しいカテゴリーや新商品を出すことです。これまで築き上げてきたブランドという資産を別のところで活かします。

きりっと果実 オレンジ & マンゴーは、ミネラルウォーターの 「天然水」 のブランドを活用した商品です。


ブランド拡張の成功ポイント


 「ブランドらしさ」 での整合性


ブランド拡張の成功の明暗を分けるのは、新商品のコンセプトやイメージが活用する元のブランドのイメージと合致しているかです。同じような 「そのブランドらしさ」 で統一されていることが大事です。

人々が持っているブランドイメージとかけ離れた商品だと、新商品は知られたとしても売れないということが起こります。そればかりか、もとのブランドイメージを悪化させ、ブランドという資産を毀損させてしまうこともあります。

この意味で、ブランド拡張は諸刃の剣なのです。

サントリー天然水のブランドイメージ


ここで話を 「きりっと果実 オレンジ & マンゴー」 につなげます。ミネラルウォーター 「天然水」 と 「きりっと果実 オレンジ & マンゴー」 はイメージでの整合性はあるのでしょうか?

2つの商品について、人々が持つイメージは違うというのが自分の見解です。もとのブランドである 「天然水」 へのイメージと、「きりっと果実 オレンジ & マンゴー」 で打ち出しているイメージに乖離があります。

サントリーの天然水のブランドイメージについて、これは持論ですが、生活者がサントリー天然水に対して、無意識的にも求めているのは 「南アルプスにいるような体験をしたい」 という気持ちです。

あらためてサントリー天然水のボトルを見ると、ラベルには南アルプスのイメージが強調されています。


たとえ南アルプスの現地には行けなくても、サントリー天然水を飲んでいる時は南アルプスの大自然の水を飲み、気持ちだけでも南アルプスにいる気分になりたいという奥にある望みです。

表面的には消費者はサントリー天然水を買っていますが、無意識のレベルではあるものの 「南アルプスという大自然の体験」 を買っているわけです。ここに価値があり、サントリー天然水のブランドイメージなのです。

ひるがえって、「きりっと果実 オレンジ & マンゴー」 は果実感を全面に打ち出しています。


天然水の南アルプスのイメージとは違うんですよね。「きりっと果実 オレンジ & マンゴー」 は、同じ南という文字でも南国のイメージです。


南アルプスでのブランド体験


サントリー天然水がやっている別の取り組みが、消費者が本当に天然水に求めていることとブランドイメージが合っていたので紹介したいです。

こちらの記事に詳しく書かれていた体験施設です。

サントリー天然水新工場に 「ブランド体験施設」 - 見学超える新発想|日経クロストレンド

サントリー天然水 北アルプス信濃の森工場 (出典: 日経クロストレンド

施設では、製造プロセスの展示や工場見学、試飲ができるだけでなく、周囲の環境も含めてブランド体験ができます。ここで言うブランド体験とは、南アルプスでの大自然での体験です。

記事から詳しく見てみましょう。

この施設を訪れてまず驚いたのは、駐車場でクルマを降りたところからブランド体験が始まっていること。まず駐車場から工場の入り口に向かう途中の散歩道は木々に覆われているだけでなく、北アルプスに源流を持つ乳川 (ちがわ) が流れており、乳川を望むテラスが設置されている。川のせせらぎを堪能しながら向かうわけだ。

すると、今度は大きなコンクリートの壁が現れ、小さな入り口を入ると、中はひんやりとして青い照明でライティングされたトンネル空間になっている。青のトンネルを抜けて散歩道を進むと、サントリー天然水にまつわる展示やオリジナルグッズを販売するショップのある 「天然水ハウス」 にたどり着く。

 「乳川テラスで都会とは異なる景色を見ながら自然に身を委ねる準備をすると同時に、『これから何が始まるんだろう』というわくわく感を醸成。青のトンネルで音や光を遮断することで五感を研ぎ澄まし、緑の散歩道で五感を一気に解放するというカスタマージャーニーを描いている」 (サントリー) という。
北アルプスに源流を持つ乳川 (ちがわ) を望む 「乳川テラス」 (出典: 日経クロストレンド

 「南アルプス」 を現地に訪れることで、サントリー天然水のブランド体験ができます。

ブランドとはお客さんの頭の中にできる価値イメージです。価値への認識やイメージ形成は、商品にかかわるあらゆる体験が積み重なってできあがります。

1つ1つの良い体験が記憶として残り、総体として頭の中にブランド (価値認識) がつくられます。

サントリー天然水の新工場は、見学などの体験にとどまらず、ブランドの世界観である 「南アルプス」 の中心地でブランディングを狙っている興味深い取り組みです。


まとめ


今回はサントリーの 「天然水」 と 「きりっと果実 オレンジ & マンゴー」 を取り上げ、ブランドに学べることを見てきました。

最後にまとめです。

ブランド拡張
  • すでに確立しているブランドネームやイメージを利用し、新しいカテゴリーや新商品を出すこと。ブランド資産を別のところで活かす
  • 成功のポイントは、新商品のイメージが元のブランドのイメージと合致していること
  • ブランドイメージとかけ離れた商品だと、新商品はブランド名から知られたとしても売れない。もとのブランドイメージを悪化させ、ブランド資産を毀損させてしまうことも

ブランドのつくり方
  • ブランドとはお客さんの頭の中にできる価値イメージ
  • 価値への認識やイメージ形成は、商品にかかわるあらゆる体験が積み重なってできる
  • 1つ1つの良い体験が記憶として残り、総体として頭の中にブランド (価値認識) がつくられる


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。