#マーケティング #STP #リバースSTP
市場は日々変化し、競争は激しさを増していく…。そんな中で、既存の手法だけでは突破口が見えないと感じていないでしょうか?
マーケティングには、定石とも言える STP というフレームワークがありますが、STP を逆にした 「リバース STP」 というアプローチが存在します。リバース STP を効果的に使えば、競争の少ないニッチ市場で存在感を示すことができるのです。
では、リバース STP とは一体何か?どのように活用すれば自社のビジネスを成功に導けるのでしょうか?
今回は、リバース STP について、実践するための具体的な方法をご紹介します。ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
マーケティング STP
ポジショニングを実現するために、マーケティングでは 「STP」 という方法があります。
STP とは、Segmentation (セグメンテーション) 、Targeting (ターゲティング) 、Positioning (ポジショニング) の頭文字をとったものです。
もう少し具体的にご説明すると、STP は次のようなステップで進めます。
- セグメンテーション: 市場の分解
市場を細分化し、類似のニーズや消費特性を持つグループを見つける。たとえば顧客属性 (年齢, 性別, 居住地域, 生活スタイルなど) 、ニーズ、価値観などの切り口を使い市場を分ける
- ターゲティング: 細分化した市場の中から重視するターゲット市場の選定
自社がニーズを満たせる顧客グループを決める。市場の大きさ、成長性、競争状況、自社のリソースと解決能力などを選定基準にする
- ポジショニング: ターゲット市場でのポジションの確立
選定したターゲット市場 (顧客グループ) において、自社商品・サービスへの認識や価値イメージをつくっていく。お客さんが商品に他社商品とは違う便益を持ってもらうプロセス
リバース STP (PTS)
大きな市場に参入するのは、「大きな池で魚を育てる」 ということ意味します。魚が無事に大きく育てば市場シェアを獲得できますが、大きな池ではライバルもたくさんいます。
一方、「小さな池で魚を育てる」 という、限られたニッチ市場でシェアトップを実現するというアプローチもあります。ではそのためには、どうすればいいのでしょうか?
ポイントは、他にはないユニークな価値提供から明確なポジションをとることです。
マーケティングでは通常は STP の順番で進めますが、あえて順番を逆にします。これが 「リバース STP (または PTS) 」 という手法です。
はじめに実現したい Positioning (お客さんに持ってもらいたい価値イメージ) を決めてしまい、その positining から逆算してターゲティングをするやり方です。
具体的なステップで 「リバース STP」 を見ていきましょう。
- ポジショニング
最初に自社の商品やサービスが提供する価値を定義する。価値とは、お客さんが商品・サービスを使うことで得られる具体的な体験や便益、エモーショナルな感情的価値。 自社商品がどのように認識され (パーセプション) 、そのためにどう価値提案 (バリュープロポジション) をしていくべきを決める
- ターゲティング
お客さんに提供する価値定義が最も響くであろうお客さんを特定する。様々な顧客属性、行動特性、ライフスタイル、求めるニーズ、奥にある望みなどの視点からお客さんになるであろう人たちを深く理解する。顧客理解をもとにマーケティングを企画し実施する
- セグメンテーション
定義された価値定義 (ポジショニング) に響くターゲット顧客に商品を訴求し、価値を提案する。集客できたお客さんを集団としてグループ化し、市場全体におけるその顧客グループの規模や性質、他との違いを相対的に把握する。結果として、自社商品からの提供価値に需要がある新たな市場セグメントが明確になる
以上が、一般的なマーケティング手法の STP を逆にした 「リバース STP (PTS) 」 のアプローチです。
リスキリング学習サービスの例で解説
それでは、具体的な話に落として、リバース STP についてさらに詳しく見ていきましょう。架空の事例としますが、一般教養の大人向けリスキリング学習サービスの例を用いて、リバース STP の手法を解説します。
このサービスは、社会人やキャリアを持つ人々が、仕事に直接結びつかないが知的好奇心や自己成長を満たすために学べる一般教養のリスキリング学習を提供します。学習テーマは多岐に渡り、歴史、哲学、心理学、音楽、運動、医学・健康、外国語、生物学、科学技術、数学、化学、物理、宇宙、地理、政治、経済、美術、伝統工芸などの幅広い分野をカバーする学習プラットフォームです。
ポジショニング
学習サービスの名前を 「リスキリング ルネサンス」 とします。
リバース STP でまず最初にやることは、サービスの顧客価値の明確化です。
一般教養のリスキリングサービス 「リスキリング ルネサンス」 は実用的な学習テーマだけではなく、知的成長や自己啓発、さらには人生の豊かさを感じさせる体験ができることを目指します。こうした顧客価値を一言で表現すれば、「知的好奇心を刺激し、人生を豊かにする多様な学びの体験」 です。
学習サービスで提供されるメニューには、次のようなものを用意します。
- 多彩な分野の専門家による質の高い講義
- 実践的なワークショップ形式のセッション
- 参加者同士の知的交流の場
- 個人の興味に合わせたカスタマイズ可能な学習プログラム
- 学んだ内容を日常生活や仕事に活かすための実践的なアドバイス
会員ユーザーは学習を通して、新しい知識や視点を得る楽しさ、人生の新たな発見を味わえるようにすることが狙いです。もう少し顧客価値を言語化すると、次の通りです。
- 知的好奇心の充足
- 何歳からでも成長できる達成感
- 新たな視点や知識・思考の獲得
- 多様な分野の知識を持つことによる社会的ステータスの向上
- 生涯学習者としての自己肯定感の確立
お客さんである会員ユーザーが得られる価値を、学習の結果だけにとどまらず、学びのプロセスからも知識の獲得によって生まれる感情的な満足感や新しさとします。
ターゲティング
リバース STP では通常の STP とは逆となる、最初に決めた価値定義にもとづいてターゲットを逆算していきます。よって、定義した顧客価値が最も響くであろう顧客層を特定します。
学習サービスの 「リスキリング ルネサンス」 では、知的好奇心が強く、自己成長に意欲を持つ大人がメインターゲットになります。
ライフスタイル、価値観、求めているニーズは、次のような内容の人たちです。
- 質の高い余暇時間を大切にし、知的な趣味を持つことに価値を見出している
- 知的好奇心が旺盛で、新しい知識や視点を求めている
- 自己投資に積極的で、学びにお金をかける意欲がある
- 仕事や私生活で多様な知識を活用したいと考えている
- 社会の変化に敏感で、自身のスキルアップの必要性を感じている
- 同じ知的探求心を持つ仲間との交流を望んでいる
これらの各セグメントに対して、それぞれのニーズに合わせたコースやプログラムを用意し、また限定イベントなども企画し、マーケティングを展開していくことで、お客さんに選ばれる生涯学習サービスになることを目指します。
セグメンテーション
リバース STP の最後はセグメンテーションです。
ターゲット顧客にサービスを訴求し、実際に集まったお客さんをグループ化して市場セグメントをつくります。
- 純粋な知的好奇心から幅広い分野の知識を求める
- 多様な分野の深い知識、専門家との対話の機会
✓ 人生充実型セグメント
- 学びと知識を通じて人生の質を向上させたい
- 哲学、芸術、歴史などの人文系科目、生活に関連した実践的ワークショップ
✓ 社会貢献型セグメント
- 学んだ知識を社会問題の解決に活かしたい
- 環境問題、社会福祉、国際関係などの現代的テーマ、フィールドワークでの現場体験
✓ キャリア活用型セグメント
- 学んだ知識を仕事に活かしたいと考えている
- 実践的な知識、ビジネスケーススタディ、ネットワーキングへの機会
✓ クリエイティブ発想型セグメント
- 多様な知識を組み合わせて新しいアイデアを生み出したい
- 創造的な講座やワークショップ、他分野の専門家との交流
また、セグメンテーションについては、実際の会員ユーザーの特徴を分析すると、次のようなパターンが見つかりました。
- 30 ~ 50代のビジネスパーソン: 日常業務では得られにくい新たな学びの喜びや、今まではできなかった知的成長を求めている
- リタイア後の70代以上のシニア層: 新しい趣味や知識を獲得し、これからの人生も豊かに過ごしたいと考えている
- 育児や家庭生活に一段落した主婦や主夫: 新しいチャレンジや自分の時間を使って知識を深めたい
いずれにも共通するのは、一般教養の学習によって充実感や学ぶこと自体に喜びを感じる層です。こうした人たちを大切にするターゲット顧客として、リスキリング学習サービス 「リスキリング ルネサンス」 の魅力を伝えます。
例えば、ビジネスパーソン層には 「仕事とは違う知的刺激」 、シニア層には 「人生を豊かにする学び」 、主婦・主夫層には 「自己成長の新たな一歩」 というメッセージを訴求していきます。
まとめ
今回は、STP のプロセスを逆にした 「リバース STP」 について解説しました。
最後にポイントをまとめておきます。
- マーケティング STP : 市場を細分化し (Segmentation) 、重視する顧客グループを定め (Targeting) 、狙う市場で独自のポジションを確立する (Positioning) 。マーケ戦略の定石
- リバース STP (PTS) : 最初に提供したい価値を定義し (Positioning) 、その価値に共感するお客さんを見つけ価値提案を行う (Targeting) 。結果として市場全体の中に自分たちがビジネス活動をするセグメントができる (Segmentation)
- リバース STP は、新しい市場をつくり出したり、競争の少ないニッチな領域で生き抜くために有効な戦略
- STP は PDCA において Plan に時間をかけ、リバース STP は Do と Check に重心を置いている
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