#マーケティング #市場創造 #未顧客
多くの企業は、既存の市場の中での競争に注力し、競合他社と同じパイを奪い合ってしまいがちです。
そうではなく、既存のお客さんとは異なる新しい層に目を向けることで、新たな市場創造が可能になるかもしれません。市場の外へ目を向け、未顧客という新しいターゲット層に向けた価値提案を行うことが、長期的な成長のカギを握ります。
では、どうすれば未顧客の心をつかみ、新しい市場をつくりだすことができるのでしょうか?
今回は、未顧客へのアプローチの重要性と、潜在的ニーズを引き出す市場創造を目指すマーケティングについて事例から考察します。
オンライン・ピル処方サービス 「スマルナ」
スマルナは、アプリを使ってピルのオンラインでの相談、診察・処方ができます。医師の診察によりピルが処方されれば、最短で翌日には自宅にピルが届くというサービスです。
スマルナを運営するのは、ネクイノです。ネクイノは、医療空間と体験の再定義を目指して創業され、女性の健康課題 (月経や更年期など) に取り組む医療系ベンチャー企業です。
スマルナのユーザー層は広がりを見せ、累計110万以上のダウンロードを達成しています (公式ページより) 、ピル処方の新しい形として注目されています。
学べること
では、スマルナの事例から学べることを掘り下げていきましょう。
新規事業として新しいサービスを展開する際、既存市場にのみ焦点を当てることは、期待するビジネスの成長や長期的な成功にはつながらない可能性があります。
スマルナの事例は、既存の市場の中でパイを奪うのではなく、ピル処方という新規の市場そのものを育て、恩恵をまだ受けていない層へ価値を提供することで、新たな市場を創造するという取り組みです。
スマルナのアプローチから学べるのは、新規市場の創造です。既存市場の外に目を向け、カテゴリー新規のお客さんを取りに行く重要性です。
既存のパイを奪うのではなく、新しい市場を創る
スマルナを運営するネクイノ代表の石井健一さんは、次のように言っていました。
我々はすでにピルを服用している 2 ~ 3% の人に 「スマルナ」 の利用を促すのではなく、まだピルを服用したことがない人 (= 医療機関にたどり着いていない層) にアプローチすることにしました。
これは、医療業界とパイを奪い合わないためでもあります。2 ~ 3% の人はリアルな病院に紐づいているお客様なので、我々側に引っ張ってきてしまったら病院にとっては不利益ですよね。
スマルナはピルの処方という分野で、すでに利用している 2 ~ 3% ではなく、医療機関にまだアクセスしたことがない、つまりピル処方の未経験層にフォーカスを当てました。
すでに市場にいる既存顧客ではなく、サービスの存在に気づいていなかったり、知っているけれども使ったことのない新しい層へ向けて市場を広げようとしているわけです。この戦略により、既存の業界プレイヤーと競合せず、同時にカテゴリー自体の市場規模を拡大させることが期待できます。
限られた市場をめぐる争いはリソースの浪費につながることもあり、そうなれば最終的には業界全体にとって利益を生みません。一方で既存層に固執せず新規層を注力顧客にすることで、新しい市場創出が実現できれば、既存の市場で競合他社とお客さんを取り合うことはなく、市場自体の拡大と成長が促されます。
思考の外に出る 「Out of the Box」 の発想の重要性
従来の市場の外にいる新しいお客さん (未顧客) を取り込むには、既存の枠組みを超えた 「アウト オブ ザ ボックス (Out of the Box) 」 という発想になることが大事です。
通常のビジネスでは、既存顧客やターゲット層を狙い、より効率的なサービスや価値訴求を行う方法を模索します。しかし、新規市場を狙うには、今まで注力顧客として捉えてこなかった層の潜在的ニーズを理解し、コミュニケーションによって潜在ニーズを顕在化させ、未顧客の文脈に沿った顧客価値を再定義するところから見直す必要があります。
そのためには、既存の枠にとらわれない発想 (Out of the box) になり、既存のターゲット層のデータや行動をいったん横に置き、新たにターゲットにしたい層のゼロベースでの顧客理解から始めることが重要です。
新規層へ価値を届ける
スマルナのケースでは、未経験層に向けたサービス展開のアプローチは他の事業にも応用ができ、新しい市場やカテゴリーを育てるために効果的です。
スマルナは、ヨーロッパに比べて日本でピルの普及が進まない理由を理解し、技術と仕組みによってその障壁を取り除くことを目指しています。今の市場の外にいる未顧客にアプローチするためには、未顧客が抱える固定観念や不安を取り除き、利用しやすい環境を整えることが大事です。
また、スマルナの既存市場と競争しないサービス提供の方法も模索しました。医療機関とピル処方ユーザー (すでに使っている 2 ~ 3%) を奪い合うのではなく、既存サービスがまだリーチしていない残りの 97% の女性に向けて価値を提案することによって、市場を拡大しようとしているのです。
市場創造を実現するマーケティング
新しい市場をつくるためのマーケティングは、潜在的なニーズの把握と、顧客価値の定義、顧客文脈に合った価値提案を起点に、以下のようなプロセスで進めると効果的です。
まずは市場の外に目を向けます (Out of the box) 。既存市場を超えて、サービスが未顧客にもたらす 「顧客価値」 をもとに注力顧客を定め、既存市場の外側にいる未顧客の生活者文脈やビジネス文脈を理解します。そして未顧客が感じている困りごとや課題に対してどう応えられるかを検討していきます。
次に、未顧客の顧客文脈に沿っての課題感の醸成と価値訴求です。
新しい未顧客層にアプローチするには、既存ユーザーの中で表面化している顧客課題やニーズについて、未顧客の中において潜在的なレベルから顕在化させることが必要です。
そして課題感が醸成できたら、未顧客にとって何が価値として顧客文脈や課題にフィットするかを知ってもらうことが大事になります。既存のお客さんとは置かれた状況は同じではなく、顧客文脈が異なるため、ときにはカテゴリーへの啓蒙活動からやっていくことも求められます。
スマルナの場合にあてはめれば、生理などの女性の悩みや困りごとは既存ユーザーと未顧客で共通していたとしても、なんとかしたいという問題解決への意欲の強さが違ったり、解決方法の知識や選択肢も異なるでしょう。既存ユーザーは知っていることの広さや深さがある一方で、未顧客は解像度が粗いはずです。
そこで未顧客へは教育や啓蒙から丁寧にやっていくことが重要になります。スマルナも、ピルに対する誤解を解消し、新しい層にリーチするためのコミュニケーションを丁寧に展開しました。
このように、新規市場を創造しカテゴリー自体の新規のお客さんを獲得するには、他との競争というよりも、既存の市場の外に目を向けた 「Out of the Box」 な発想が大切です。従来の枠を超え、新しい視点と取り組みから戦略をつくり、実行に移すことで既存市場からマーケットが広がり、事業のさらなる成長が促進されるのです。
まとめ
今回は、オンラインでのピル処方サービスの 「スマルナ」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 新規事業の展開では、既存の市場でパイを奪い合うのではなく、未開拓の層へ向けた価値提供で新規市場をつくることができる
- 新規市場の創出のためには、既存顧客層ではなく新しい注力顧客を定める 「Out of the box」 の発想が大事
- 新規市場創造には、未顧客の生活者文脈やビジネス文脈の理解を深め、カテゴリーの新規顧客への提供価値の再定義をする。潜在的ニーズを顕在化させ、顧客文脈に沿った価値提案を行う
- 未顧客の獲得には、お客さんが持つ固定観念や不安を取り除き、教育や啓蒙活動も行うことでカテゴリーへの興味喚起や理解を促す
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