
Free Image on Pixabay
子どもたちのいじめを、科学で解決することを目指すプロジェクト 「BE A HERO」 を紹介する以下の記事を読みました。
参考: 「いじめは科学で解決できる」 岩隈久志投手が発起人のいじめ撲滅プロジェクト "BE A HERO"
今回は、この記事を読んで思ったことを書いています。
エントリー内容です。
- 深刻ないじめが起こる要因
- いじめ傍観者が動けば、いじめ行動が止まる
- 思ったこと (4つ)
深刻ないじめが起こる要因
BE A HERO は 「科学でいじめのない世界を創る」 というコンセプトで、経験則ではなく科学でいじめの問題を解決することを目指しています。
上記の記事によれば、いじめが深刻化するのは 「アンバランス・パワー」 と 「シンキング・エラー」 の2つが同時に起こるからとのことです。
アンバランス・パワー
- なんとなくできあがった上下関係。例: 人気者とそうでない者、友達が多い者とそうでない者、うまい選手と下手な選手
- 弱者の側はやり返せない。嫌だと言えず、辛いとも言えない
シンキング・エラー
- これぐらいは平気だろう、遊びの範囲だろうという思い込み (しかし相手にとっては許容範囲を超えている)
- いじめ加害者側 (強い立場) は、自分がやっていることが相手を傷つけていることに気付けない
それぞれに対して、いじめをなくすアプローチは以下です。
アンバランス・パワーの改善方法
- 弱い側を大人が意図的に引き上げて、せめて 「止めて欲しい」 とか 「嫌だ」 とか言えるようにする
- 別のところで、話を聞いてもらえる状況を作る
シンキング・エラーの改善方法
- 加害者の側に、相手の気持ちを考えさせるようにして、あなたの行動が相手を傷つけていることに気づかせる
- 周りの人に共感しよう、困っている人がいたら助けよう、正しいことをしようというメッセージを送る
記事で紹介されていた子どもたちとのワークショップでは、 「その行動はヒーロー?」 や 「イキがるのはかっこわるい、正しいことをすることがかっこいい」 と教えることもあるようです。
強調されていたのは、子どもたちがいじめのことを学習するだけではなく、子どもの行動が変わらないといけないということです。
いじめをなくすプログラムにとって重要なのは、単に 「いじめは悪いことだからやめよう」 と教えるだけでは効果は期待できず、いかに具体的な行動レベルまで落とし込むことです。
BE A HERO 自体の取り組みは興味深いものの、科学的なやり方だと言われると違和感は残ります。アンバランスパワーとシンキングエラーに因数分解しているとはいえ、それぞれへのアプローチが科学的かどうかはよくわかりません。アプローチの背後にはどんなロジックや論理、科学的メカニズムがあるかはもっと知りたいです。
いじめ傍観者が動けば、いじめ行動が止まる
BE A HERO の記事で興味深いと思ったのは、いじめの傍観者の心理です。カナダの実験調査結果でわかったことです。
記事からの引用です。
1997年にカナダの実験で出た結果ですが、85% 以上のいじめエピソードには加害者と被害者以外の子どもが存在していました。この子たちの行動を観察すると、その7割近くが加害者側の行動をとったというんです。
ただ、そうしたデータがある一方で全体の8割は 「いじめは嫌だな」 と考えている。他にも、誰かが 「いじめをやめよう」 と言うと、60% が数秒以内にいじめ行動が止まったというデータがある。
7割の傍観者は加害者側についてるけど、彼らは本当はいじめを止めさせたいと考えている。その上、彼らがちょっとでもやめたほうが良いって言った瞬間にいじめは止まるんです。
つまり、我々は加害者や被害者を探し出すことにエネルギーを費やすよりも、傍観者を対象にしたほうがいいだろうと考えるべきです。彼らに正しい行動を教えたら、いじめが起きにくい集団になる、そんな風に考えることができる。
(引用: 「いじめは科学で解決できる」 岩隈久志投手が発起人のいじめ撲滅プロジェクト "BE A HERO" )
傍観者とはフォロワーです。大多数のフォロワーは表面的にはいじめる側 (強者) についていますが、本音はいじめられる側 (弱者) です。いじめをなくしたいという気持ちを持っています。
思ったこと
傍観者の調査結果は、興味深いです。
ここからは思ったことです。4つあります。
- いじめ傍観者と、腸内細菌の 「日和見菌」
- 傍観者の心理に見るインサイト
- 行動分析学から考える、傍観者に行動を起こさせるヒント
- ヒーローと自分たちが目指すビジョン
以下、それぞれについてご説明します。
[思ったこと 1]
いじめ傍観者と、腸内細菌の 「日和見菌」
傍観者で思ったのは、人の腸内にいる日和見菌です。
腸には、大きくは3つの種類の菌がいます。善玉菌、悪玉菌、日和見菌です。
数の構成比は日和見菌が最も多く、健康な成人の腸内環境では日和見菌は 70% です。善玉菌は 20% 、悪玉菌は 10% です (参考:どっさり 1Kg 以上もの菌? 「腸内細菌」 って何ですか|ウンチから、腸内環境がわかる! (大鵬薬品) ) 。
日和見菌の特徴は、腸内環境によって善玉菌にも悪玉菌にもどちらにもなり得ることです。日和見菌は、善玉菌が優勢だと良い働きをしますが、悪玉菌が優勢になると悪さをするようです。
日和見菌を状況よって、どちらへのフォロワーにもなり得ると見れば、いじめの傍観者と同じ構図です。同じ 70% を占めるというのも興味深いです。
[思ったこと 2]
傍観者の心理に見るインサイト
いじめの傍観者は、「いじめの加害者にいるが、本音はいじめをなくしたいと考えている」 というのは、マーケティングの消費者インサイトであると捉えることができます。
消費者インサイトの私の定義は、「人を動かす隠れた気持ち」 です。
普段は消費者本人も意識していませんが、そうだと気づかされれば行動につながる奥にある気持ちです。行動とは、商品を手に取る、買うことです。インサイトが刺激されれば、時には人の習慣すらも変えます。
傍観者の隠れた気持ちが 「いじめをなくしたい」 です。この気持ちから行動に移り、例えばいじめを止めたほうが良いと言えればよいわけです。記事によれば、大多数を占める傍観者が動けば、いじめはなくなると言います。
では、どうすれば傍観者のインサイトを引き出し、行動に変えられるのでしょうか?
まずは、隠れた気持ちを本人が気づくようにすることです。無意識を意識に引き上げます。
傍観者に、「いじめをなくしたいと思っているのは自分だけではない」 と気づかせてあげることも有効でしょう。同じように思っているフォロワーは大多数であると知ってもらいます。
[思ったこと 3]
行動分析学から考える、傍観者に行動を起こさせるヒント
傍観者に内面の気持ちを気づかせた後は、どうやって行動につなげるかです。記事には、傍観者がいじめを止めたほうがよいと言えば、いじめはなくなると書かれています。
行動を起こさせるために参考になるのは、「行動分析学」 です。
行動分析学は心理学の1つで、行動の分析から行動の原因を解明し、行動に関する法則を科学的に見い出します。
行動分析学では、行動前後の状況をセットで捉えます。「行動前の状況 - 行動 - 行動後の状況」 において、特に行動後に注目します。
望ましい行動を起こすためには、行動後の状況で 「メリットの出現」 か 「デメリットの消失」 を認識させます。自分にとってメリットがあると思えたり、デメリットだと思ったことがないとわかれば、行動が起こります。
行動分析学の考え方は、行動後のユーザー体験 (メリット出現やデメリット消失) をデザインすることによって、行動を起こさせることです。
いじめの傍観者に当てはめると、メリットとデメリットは次のようになります。
- メリット:いじめがなくなる
- デメリット:自分がいじめを止める行動を取った結果、いじめる側から目をつけられ、自分もいじめられる
傍観者が、いじめをなくしたいと心では思っていても、積極的な行動に移れないのは 「次は自分がいじめられる対象になるかもしれない」 というデメリットを懸念してのことです。メリットよりもデメリットが大きいからです。
自分が行動をしても、この懸念が起こらないと思え (デメリット消失) 、自分たちの行動から実際にいじめがなくなるとわかれば (メリット出現) 、行動のハードルは下がります。
より効果的なのは行動直後に、デメリット消失やメリット出現の実感が得られることです。行動分析学では、直後の目安は60秒以内です。
なお、行動分析学については、別のエントリーで書いています。よろしければ、ぜひご覧ください。
[思ったこと 4]
ヒーローと自分たちが目指すビジョン
BE A HERO のアプローチであらためて興味深いと思うのは、「その行動はヒーローなのか」 を問いかけることです。
ヒーローとは、自分たちのあるべき姿です。ヒーローになり、理想と考える世界 (学校のクラス) は、自分たちが描くビジョンと見なせます。
実現したい理想の世界観をつくり、皆で認識を合わせて合意形成をし、現実とのギャップをどうすれば解決できるかを考えることができれば、ビジョンドリブンないじめ撲滅のアプローチになります。
傍観者にとっては、自分のいじめをなくしたいという気持ちに気づき、そのための行動をすることがビジョンを実現する一歩になります。これをメリットと位置づけてあげれば、行動につながることが期待できます。
最後に
今回は、BE A HERO の記事を読んで思ったことを書きました。
考えさせられたのは、以下の3つでした。
- インサイト:人を動かす隠れた気持ち
- 行動分析学:ユーザー体験の設計から行動を促す
- ビジョン:自分たちが実現したい理想の世界観