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今回は、イノベーション理論である 「両利きの経営」 を取り上げます。
イノベーションのための新しい 「知」 を獲得するために、どうすればよいかです。
エントリー内容です。
- 両利きの経営とは
- 知の探索の方法
- 「知の探索」 と 「知の深化」 のリソース配分目安
両利きの経営とは
経営学のイノベーション論理の1つに 「両利きの経営」 があります。
両利きの経営とは、次の2つをバランスよく行なうことです。
- 知の深化:すでに持っている知識に対して理解を深め、必要に応じて改良を重ねること。経営学では Exploitation と呼ぶ
- 知の探索:企業が知の範囲を広げるために新しい知を探す行動。経営学では Exploration と呼ぶ
両利きの経営のポイントは、どちらか一方だけではなく、両方をバランスよく取り組むことです。あたかも、右手と左手を同じように上手に使える人のようにです。
しかし、一般的には 「知の深化」 に偏り、「知の探索」 は怠りがちになります。知の探索は新しいことへの挑戦で、労力のわりに成果が出にくいからです。
事業が成功するほど知の探索を怠りがちになります。結果、中長期的なイノベーションが停滞するというリスクが企業組織には内在しています。
知の探索の方法
どうすれば、知の探索ができるようになるのでしょうか?
思ったのは以下の3つです。
- 遠いところを対象にする
- 「調査」 ではなく 「探索」 をする
- 問題意識と問いを持つ
以下、それぞれについてご説明します。
[思ったこと 1] 遠いところを対象にする
新しい知を探索し、既存の知との組み合わせでインパクトが大きいのは、一見すると全く異なる領域から持ってくることです。遠いところとは、ビジネスに当てはめれば例えば違う業界です。
ただし注意点は、遠いところのものを単純に真似をしても必ずしも機能するとは限らないことです。
大事なのは2つです。
- 前提の違いを明確にする
- 安易にそのまま適用しない。原理や型にまで落とし込んで理解した後に、自分たちのことに応用する
[思ったこと 2] 「調査」 ではなく 「探索」 をする
知の探索を 「知の調査」 としないことです。
調査とは、あらかじめ調査する目的を持って行なうものです。
調査設計では、調査目的、調査課題 (問い) 、課題に対する仮説を設定します。設計に沿って調査を行ない、仮説検証をして調査課題への答えを出します。答えが調査目的を果たせば、調査は成功です。
以上のように、調査とは目的を起点に構造化された行為です。
一方で、目的を明確にすると、自分で設定した枠の中にしか発見を得られにくくなります。
探索とは、あえて目的を明確にせずに、何かを探しに行くことです。時には明確な仮説すらなく、白紙のままで始めます。
探索には、以下のような姿勢が求められます。
- ありのままを見る
- 目の前の事象を一旦は受け入れる
- 自分の常識を当てはめない (色メガネを外す)
- 何にでも興味を持ちおもしろがる
- 非効率にこそ発見があると思う
[思ったこと 3] 問題意識と問いを持つ
探索では目的を明確にせず、ありのままを素直な目で見る一方で、大事なのは根底に自分の問題意識を持つことです。
既存事業の課題など、もともとの 「知の探索のコンテクストは何か」 です。問題意識がなければ、遠い領域に探索に行っても自分のアンテナには引っかかりません。
問題意識とともに、持つとよいのは 「問い」 です。
問いになるためには、気づき・違和感から始まり、疑問を持ち、質問に言語化します。
あらかじめよく使う問いを、テンプレートとして持っておくと良いです。具体的には、以下です。
- それはなぜか (why)
- 要するにどういうことか (so what)
- もし xxx ならどうなるか (what if)
- 成功要因は何か
- 前提は何か
「知の探索」 と 「知の深化」 のリソース配分目安
知の探索と知の深化は、どのくらいの時間的リソース配分をすればよいのでしょうか?
ヒントになるのは Google のプロジェクト管理のポートフォリオです。
Google が見い出したプロジェクトリソース配分
プロジェクトをコアビジネス、成長プロダクト、新規プロジェクトの3つのフェーズに分け、リソース配分を 7 : 2 : 1 にするという考え方です。
以下は、書籍 How Google Works - 私たちの働き方とマネジメント からの引用です。
2002年の時点で、グーグルはまだプロジェクトを重要な順に並べた 「トップ100リスト」 をもとに、リソースの配分やプロジェクトのポートフォリオを決めていた。
だが成長にともなって、このシンプルな仕組みではスケールすることが難しいという懸念が強まった。忌まわしき 「ノー」 の文化がじわじわと広がるのではないかという不安もあった。
そこである日の午後、セルゲイはトップ100リストを見直し、プロジェクトを三つのグループに振り分けた。
プロジェクトのほぼ 70% はコアビジネスである検索と検索連動型広告に関するもので、約 20% が成功の兆しが見えはじめた成長プロジェクト、残りの約 10% が失敗のリスクは高いが、成功すれば大きなリターンが見込めるまったく新しい取り組みだった。
それを叩き台に長い議論を重ねた結果、「70対20対10」 をリソース配分のルールにするという結論に達した。リソースの 70% をコアビジネスに、20% を成長プロダクトに、10% を新規プロジェクトに充てるのである。
(引用:How Google Works - 私たちの働き方とマネジメント)
知の探索への配分は 10% ~ 30% がよい
Google のプロジェクト管理のアプローチは、「知の深化」 と 「知の探索」 の配分への示唆が得られます。
コアビジネス (70%) 、成長プロダクト (20%) 、新規プロジェクト (10%) の3つを、知の探索か知の深化の考え方に当てはめてみます。
70% のコアビジネスは知の深化、10% の新規プロジェクトは知の探索です。残り 20% の成長プロダクトは、どちらにも当てはまります。成長プロダクトを知の深化に当てはめれば、知の深化には 90% 、知の探索は 10% です。
つまり、知の探索と知の深化の最適な配分は、知の探索は最低でも 10% 、多くても 30% 程度がよいということです。
- 既存の知の深掘りを重視: 知の探索 : 知の深化 = 1 : 9
- 新しい知の獲得を重視: 知の探索 : 知の深化 = 3 : 7
最後に
今回は、経営学でイノベーション理論の1つとして知られる 「両利きの経営」 から、知の探索をどうすればよいかを考えました。
知の深化と知の探索は、企業などの組織だけではなく、個人にも当てはまります。ビジネスキャリアをつくっていくために、専門領域の深化とともに、新しいことにどれだけ挑戦し知の探索もできるかです。