#マーケティング #ブランド拡張
自社の主力商品はこれまで順調に成長してきたとしても、いつまでも同じ商品だけに頼っていては、やがては成長の限界が訪れるでしょう。
かといって、新しい商品を開発をするのにはリスクがあります。そんなジレンマを抱えていないでしょうか?
既存のブランド力を活かしながら新しい市場に進出する方法が 「ブランド拡張」 です。今回は、腕時計の G-SHOCK が新たに独自の T シャツブランドをつくった事例をご紹介します。
あなたの会社にも応用できるヒントがあるはずです。ブランド拡張の可能性と落とし穴、そして成功の秘訣を G-SHOCK の事例からぜひ一緒に学んでいきましょう。
G-SHOCK の T シャツ 「GXFAB T-SHIRT」
今回ご紹介したいのは、2024年8月にカシオ計算機が発売した G-SHOCK の T シャツです (カシオのオンラインストアで購入できます) 。ブランド名は 「GXFAB T-SHIRT」 です。
GXFAB T-SHIRT は、G-SHOCK の時計で培ったタフさと品質をアパレルに反映させたものです。黒の無地で、価格は1万円以上と高価格ですが、色落ちや変色、形崩れに対する徹底した品質保証がなされています。腕時計 G-SHOCK の開発思想を引き継ぎつつ、時代を超えた 「タイムレス」 なアイテムとしての価値を追求しています。
開発ではカシオ社内でも異なる分野のメンバーが集まり、G-SHOCK の世界観をアパレルに落とし込むという自由な発想で進められました。
T シャツの品質へのこだわりは、次のようなものです。
- 双糸を使用した厚手で丈夫な生地
- G-SHOCK 開発用の試験機で耐摩耗性を評価
✓ 変色対策
- 原着糸の採用
- 塩素系漂白剤での検証した耐薬品試験
- 10年分相当の日光暴露した耐光堅ろう度試験
✓ 形崩れ対策
- 首回りのリブ幅を 30mm に拡大
- ダブルステッチやタコバインダーでの補強
- 首回り耐久試験と洗濯試験の実施
このように素材や縫製 (ほうせい) にこだわり、品質と着心地のバランスを取り、商品化に成功しました。
ブランド拡張の成功例
G-SHOCK の T シャツである 「GXFAB T-SHIRT」 の事例は、マーケティングの視点では 「ブランド拡張」 の成功例として注目に値します。
そもそもブランドとは
ブランドとは、商品やサービスが持つ独自の価値観やイメージ、ストーリー、体験の総体を指します。ブランドは長年にわたる一貫した品質と信用の積み重ねによってつくられ、お客さんの頭や心の中に根付いた信頼の証のような存在となります。
ブランドが持つ特有の "らしさ" は、ブランドが体現するブランドの理念や価値観、品質や価値へのイメージ、感情的な結びつき (例: 共感, 憧れ, 誇りなど) などで形作られます。
ブランドは特有のらしさを持つことで他とは違うものだと認識され、かつその違いがお客さんにとって価値となります。だからこそブランドはお客さんから 「これでいいかな」 というよりも、もっと能動的に 「これ “が” いい」 と選ばれる存在となるわけです。
ブランド拡張とは
ブランド拡張とは、既存のブランド資産、具体的には知名度や信用を新しいカテゴリーでの商品やサービスに適用するアプローチのことです。
すでにお客さんが知っていて信用しているので、そのブランドから新しいカテゴリーやジャンルの新商品が出たら、期待値が自然と高まり買ってもらえることを期待するわけです。
ブランド拡張の注意点
ただし、ブランド拡張には注意点があります。
ブランド拡張を目指した新商品が既存のブランドイメージから逸脱しすぎると、ブランドを毀損するリスクがあります。
例えば、高級車メーカーが突如としてあまりに廉価な自動車を出した場合です。低価格によって確かに売れますが、それは一時的で、長い目で見れば今まで積み上げてきた高級でラグジュアリーなブランドイメージは崩れてしまうでしょう。
ブランドとは本質的にはお客さんの頭や心の中にある商品やサービスへの価値イメージです。そのイメージが大きく変わると、これまで積み重ねてきたブランド資産を一気に失うことすらあるのです。
G-SHOCK 腕時計からのブランド拡張
ここで G-SHOCK に話をつなげます。
G-SHOCK はもともと腕時計のカテゴリーにおいて、「タフさ」 を打ち出してきたブランドです。耐久性や信頼性が40年間の歴史を通じて広く認知され、支持されてきました。
アパレルの GXFAB T-SHIRT は腕時計で培ってきた G-SHOCK からのブランド拡張です。
ブランド拡張で重要になるのは、お客さんが持つ既存のブランドイメージを新たなカテゴリーに自然に受け入れてもらえるかです。G-SHOCK の腕時計が持つ 「耐久性」 や 「タフな日常使い」 という G-SHOCK らしさは、T シャツという異なるカテゴリーにも同じように適用できるという仮説にもとづき、T シャツの開発が進められました。
具体的な取り組みとしては、通常の T シャツによくありがちな 「色の変色」 と 「首周りの形崩れ」 という、消費者が普段から感じている問題点に着目しました。
色落ちへは G-SHOCK ブランドが持つ技術や知見を活かし、洗濯や日光による色落ち・色褪せを防ぐことを徹底的に追求。また、T シャツの首周りが伸びたり形が崩れたりする問題に対しては、通常よりも太いリブ幅を採用し、ダブルステッチやタコバインダーで強化するなど、細部に至るまで G-SHOCK らしいタフさを反映させました。こうして GXFAB T-SHIRT は長期間使用しても型崩れしにくい T シャツを実現しています。
このように、カシオは G-SHOCK の腕時計でのブランドイメージであるタフさを T シャツに注ぎ込むことで、G-SHOCK ブランドの中核となる要素を腕時計とは別のアパレルのカテゴリーへのブランド拡張を成功させました。
共通するブランドアイデンティティが土台としてあるので、消費者は、G-SHOCK の T シャツである GXFAB T-SHIRT のことを 「高い品質と耐久性に裏打ちされた信頼できる服」 だという価値イメージを持てるわけです。
学びの汎用化
では、カシオの GXFAB T-SHIRT の事例から、ブランド拡張への汎用的な学びを整理してみましょう。
コアバリューの一貫性
ブランド拡張においては、拡張する際にブランドの世界観を損なわないことが大事です。ブランドのコアバリューを新たなカテゴリーにもしっかりと反映させるられるかが成功のカギを握ります。
G-SHOCK は、40年にわたり発信してきた 「タフで日常使いできる」 ブランドの世界観を、T シャツという異なる商品カテゴリーにも反映させました。消費者が顧客価値を新しいカテゴリーの商品でも一貫して認識できることによって、ブランドの信頼性が新たな市場でも維持されます。
タフさというブランドアイデンティティを異なる商品カテゴリーで一貫して表現することで、G-SHOCK のブランドエクイティ (ブランド資産の集合体) を強化しています。ブランド全体の価値向上と、将来的な更なる拡張の可能性を開きました。
お客さんの既存の問題点を解決する
新しいカテゴリーへのブランド拡張では、お客さんがその領域で直面している具体的な問題を理解し、問題を解決する商品を提供することが求められます。
GXFAB T-SHIRT では、黒色の変色や首周りの形崩れといった T シャツ特有の問題点に焦点を当て、解決する技術が導入されました。ブランド拡張にもマーケティングで大切な顧客視点を取り入れることが大事です。
技術的な強みを異業種にも適用する
ブランドの技術的な強みを異なるカテゴリーに応用することは、ブランド拡張において有効なアプローチです。
カシオは G-SHOCK という腕時計で鍛え上げた耐久性への技術をアパレルにも転用し、品質保証を実現するための検証を徹底的に行いました。このような技術の応用は、新たな市場でも差異化の源泉となります。
ここまで見てきたブランド拡張への学びは、様々な業界や商品カテゴリーにおけるブランド拡張の戦略立案と実行に応用できる、汎用的な知見になります。
まとめ
今回は、G-SHOCK の T シャツ 「GXFAB T-SHIRT」 の事例から、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ブランドは、商品やサービスが持つ独自の価値観やイメージ、ストーリー、体験の総体。長年の品質と信用の積み重ねで形成される。ブランドは特有の "らしさ" を持つことで他とは違うものだと認識され、かつその違いがお客さんにとって価値となっている
- ブランド拡張とは、既存のブランド資産、具体的には知名度や信用を新しいカテゴリーでの商品やサービスに適用する。すでにお客さんが知っていて信用しているので、そのブランドから新しいカテゴリーやジャンルの新商品が出たら、期待値が自ずと高まり買ってもらえることを狙う
- ブランド拡張において重要なのは、既存ブランドのコアバリュー (中核となる顧客価値) を新たなカテゴリーに反映させること。G-SHOCK は腕時計において 「タフさ」 というブランドイメージを持ち、T シャツ 「GXFAB T-SHIRT」 にも注ぎ込んだ
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