投稿日 2025/01/25

リスクを最小化、成功を最大化。テストマーケティングの実践ガイド

#マーケティング #テストマーケティング #PDCA

どんなにすばらしいアイデアを形にしても、その商品が本当に求められているかどうかは、販売前には結局のところはわかりません。特に、これまでにない画期的な商品ほど、お客さんにその良さが伝わりにくいものです。

そこでカギとなるのが 「テストマーケティング」 です。

小規模で始め、実際の市場やお客さんからの反応を見ながら戦略を練り上げていく。この方法で、新製品の成功確率を高められるのです。では、どうやって効果的にテストマーケティングを実施すればいいのでしょうか?

ぜひ一緒に、詳しく見ていきましょう。

テストマーケティングの役割


テストマーケティングについて、深掘りをしていきましょう。

新製品の市場導入における課題

まずはそもそもの前提からです。

テストマーケティングの前提として、自分たちが 「いける!」 と信じている商品でも、とりわけ今までにない新しい商品ほどお客さんに良さが伝わるとは限りません。

また、既存の販売ルートや販売チャネルに乗せて売るためにはハードルが高いということもあります。生産量の確保、流通や販売店との協力などやることは多岐にわたり、それぞれの関係者・関係各社との調整も必要になるからです。

このようなコールドスタート問題、いわゆる "卵と鶏のジレンマ" が新商品の立ち上げには存在します。

小さく始めてのニーズ検証

そこで、特に新しいカテゴリーの商品、ありそうでなかった商品においてはテストマーケティングが有効です。

テストマーケティングの意味合いは 「小さく始めてのニーズ検証」 にあります。いきなり大々的な告知や広告、店頭展開はせずに、知る人ぞ知るぐらいの小さい規模で始めるわけです。

具体的な方法

テストマーケティングのやり方は一般的には、販売エリアやお客さんあえて限定させるという方法があります。

例えばエリアなら、ひとつの県だけに絞ったり (ちなみによく使われるのは静岡・福岡・広島・北海道・石川です) 、会員限定の先行販売などです。

他には、無料でサンプル品 (試供品) を渡して商品の感想を集める手法もあります。

このときに担当者がお店に入り、直接お客さんの接客をするというアプローチも可能ならやってみると良いでしょう。お店に立つことで、売場の現場でのリアルな生活者や購入者のことを知ることができます。

クラウドファンディングを使ったテストマーケティング

テストマーケティングの比較的新しいアプローチとして、クラウドファンディングを使うという手もあります。

クラウドファンディングや応援購入サービスを利用することで、製品の市場性があるかが把握できます。クラウドファンディングのサービスでは、予算を多くかけず、手間や時間をかけすぎることなく新製品の市場性があるかを見定められます。

クラファンでのテスト販売は、テストをある程度でスピーディに実施でき、お客さんからの反応やニーズがダイレクトにわかる良さがあります。

マーケティングの観点で注目したいのは、実際にお金を払ってくれた人は誰か、購入者からの生の声がわかることです。

無料ならということで使った人と、身銭を切って使ってくれた人では、得られるフィードバックの質的な意味が異なります。後者のお金を払ってくれた人は誰なのか、どのように使い、使ってどう思ったのかという顧客理解をより深くできます。

応募者数や集まった金額、ついたコメント内容からコンセプトや商品特徴にどれだけのニーズがあるかがわかるので、貴重なフィードバック情報になります。

魅力を持っているのは既存顧客なのか、それともこれまではいなかった新しいお客さんなのか。彼ら・彼女らは商品のどこに魅力を感じているのか。その金額で妥当か、あるいはもっと高くても買ってくれそうなのか。こうした顧客文脈と購入意向、その理由など心理面まで理解できます。

どういう人たちがどのように評価をするのかへの洞察が得られるところに、売り手にとってクラファンでテストを実施する価値があるわけです。

本格販売前の段階でお客さんの行動と心理を理解し、商品そのものの改善、マーケティングや販売プランの反映に活かすことが、テストマーケティングを有効に使う方法です。

テストマーケティングによる社内への影響

テストマーケティングというステップをひとつ踏むことで、社外だけではなく社内には変化が起こります。

これまで常識を打ち破るような画期的な商品やサービスは、本当にお客さんに買ってもらえるのかという疑問は少なからず社内からは起こるでしょう。開発担当者にとっても自信はあるもの、同時に不安感が消えることはありません。言ってしまえば、市場に出すまでには誰にもわからないのです。

そこでテストマーケティングです。

小規模でのテストでの販売やマーケティングに限定して展開することで、予算や時間をかけすぎることなくスピーディに新製品の市場性を検証することができます。

また、既存のお客さんや新規でのお客さんからの反応を直接集めることで、誰が、具体的にどこを評価しているのかがわかります。何に興味や関心があるのか、ときには予想外の使用方法が提案されるなどです。

こうしたお客さんのリアルな声を社内にも共有することで、新製品の市場性への確信度合いが高まります。新製品発売前に顧客理解を深められ、市場性があると見極められれば、本格的な販売につなげていけます。

テストマーケティングを有意義なものにする方法


では最後のパートです。

ここでは、テストマーケティングを有効に機能させるためには、どうすればいいかを考えていきます。

勝ち筋の見極め

あらためて俯瞰すると、テストマーケティングの役割は 「勝ち筋の見極め」 です。

勝ち筋とは別の表現をすれば、成功要因、勝つためのポイント、勝ちパターン、勝利の方程式です。テストマーケティングで小さく始めてニーズを検証しながら、勝ち筋を探っていくわけです。

テストマーケティングでいけると判断できれば、一気にアクセルを踏み込みリソースを投入します。裏を返せば、勝ち筋を見出せていない状態でリソースを全て投下するのはリスクが大きいです。とりわけ新しいカテゴリーやありそうでなかった商品では、博打のようになりかねません。

たとえば、最初に応援購入サイトなどのクラウドファンティングで小規模ではじめ、次に自社 EC サイト販売から D2C という順番で進めています。最終的にはスーパーなどの店頭、Amazon や楽天などの大手 EC モールでも買えるようにするかもしれませんが、いきなり広げずにステップバイステップで進めていくのです。

小さな PDCA をまわす

本格的な販売の前にテストをすることにより、「売り方」 と 「売り物」 の両方で改善の余地があるのかがわかります。

商品やサービスをつくる、マーケティングをする、販売するという全体のプロセスをテスト販売によって小さく早くまわせます。

勝ち筋をなるべく早く見極め、実際にどれほど機能するのかのテストにかけ、勝ち筋の有効性を検証する。こうした小さな PDCA をまわしていくのです。

マクアケの 「ヒット商品の三原則」 

応援購入サービスのひとつに Makuake (マクアケ) があります。

マクアケはこれまで、応援購入サービスによって累計数万件以上の新製品や新サービスの誕生をサポートしてきました。

そんなマクアケが、特に大きな反響を獲得していて売れ続ける商品を分析した結果、ヒット商品には共通点があることを見出しました。

共通点とは、「独自性」 「便益」 「ストーリー」 です。これらのポイントを、マクアケでは 「ヒット商品の三原則」 と呼んでいます。テストマーケティングで得られた知見や勝ち筋を、この3つに当てはめてみると教訓を整理しやすくなります。

[独自性] 他社が真似できない商品の特徴

独自性とは他社が真似できない商品の特徴のことです。

独自性があることで、他社製品との差異化につながり、加えて知的財産権などを有していれば商品自体の模倣困難性が高まります。

[便益] 顧客がその価格でもお金を払う理由

2つ目に便益がきます。便益とは 「お客さんがその価格でもお金を払う理由」 になります。

買ってもらうためには、ターゲット顧客を明確に定め、ターゲットとなるお客さんがその価格でも買いたいと思う便益を設計する必要があります。

[ストーリー] 応援につながる自社がその商品を開発した理由

3つ目のストーリーとは 「その商品を開発した理由」 のことを指します。

ストーリーを明らかにすることによって、自社がその商品を企画し開発した必然性がターゲット顧客に伝わり、「応援の気持ち」 を喚起することができ、購入の後押しになります。

そして商品がお客さんから応援される存在になることで、商品購入後も使い続けてもらえます。

ベネフィット設計をつくる

マクアケのヒット商品の三原則の要素を入れたものをマクアケでは 「ベネフィット設計」 としています。

ヒット商品を生み出すためのベネフィット設計では、まず既存の競合商品との差異化を図ることがスタートポイントとなります (独自性) 。

仮に発売した商品が初期に反響を得ても、独自性が弱ければ便益の模倣が簡単にできてしまうため、似たような便益を謳う競合商品の登場を招きかねません。

次に、見出した差異化できる独自の機能や性能によってもたらされるお客さんへのメリットを定義します (便益) 。これが実際のターゲット顧客にとっての価値となり、購入につながる理由をつくり出します。

そして、企画・開発に込めた思いを言語化します (ストーリー) 。便益に物語性という "スパイス" を加えるようなイメージです。

商品に関連するストーリーを入れることでお客さんの体験価値は高まり、応援したいという気持ちが芽生え、商品が長く愛されることにつながります。

* * *

ここまで見てきたように、テストマーケティングによって、

  • 小さく PDCA をまわす
  • 勝ち筋を見出す
  • ヒットの三原則で整理をしたり、ベネフィット設計に落とし込む


こうしたプロセスを進めることで、テストマーケティングを有効に活用しビジネスの成功確率を高められます。

まとめ


今回はテストマーケティングについてでした。

最後にポイントをまとめておきます。

  • テストマーケティングは、新製品の市場投入における課題を解消する手段

  • 特に新しいカテゴリーの商品は、既存の販売チャネルに乗せるハードルが高く、生産量の確保、流通や販売店との協力、関係者との調整が必要になる。そこで、小規模なテストマーケティングで市場性を検証する

  • テストマーケティングの具体的なやり方は、販売エリアやお客さんを限定したり、無料サンプルを配布するなど。他にはクラウドファンディングを使う方法もある

  • 直接お客さんとの接点をつくり、実際に使った人の声を得る。とりわけクラウドファンディングではお金を払った人からのフィードバックは貴重な情報になる

  • テストマーケティングでは大事なのは 「勝ち筋の見極め」 。小さな PDCA をまわし成功要因を特定し、段階的に拡大していく

  • マクアケが見出した、独自性、便益、ストーリーの3要素を統合したベネフィット設計を活用することによって、テストで得た知見を体系的に整理し、商品開発やマーケティングに反映する


マーケティングレターのご紹介


マーケティングのニュースレターを配信しています。


気になる商品や新サービスを取り上げ、開発背景やヒット理由を掘り下げることでマーケティングや戦略を学べるレターです。

マーケティングのことがおもしろいと思えて、すぐに活かせる学びを毎週お届けします。レターの文字数はこのブログの 3 ~ 4 倍くらいで、その分だけ深く掘り下げています。

ブログの内容をいいなと思っていただいた方にはレターもきっとおもしろく読めると思います (過去のレターもこちらから見られます) 。

こちらから登録して、ぜひレターも読んでみてください!

最新記事

Podcast

多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信中。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。