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今回のエントリーはマーケティングについてです。消費者インサイトを解説します。
- インサイトとは何か (what)
- なぜインサイトが重要なのか (why)
- インサイトをどのように見い出すか (how)
インサイトとは何か (what)
消費者インサイトとは一言で言えば、「人を動かす隠れた心理」 です。消費者自身も普段は意識していませんが、気付かされれば行動を起こす気持ちです。
消費者インサイトのポイントは3つあります。
1. 隠れている
1つめは、隠れているということです。人が日頃は意識していない、自分自身でも気付いていない無意識の領域にある心理です。インサイトは、表面的な行動や振る舞いの奥にある価値観や心理です。
2. 行動につながる (ビジネスにつながる)
2つめは、その心理が訴求され生活者に気付かせられれば、行動につながることです。
マーケティングの文脈で言えば、インサイトという心の琴線に触れられれば、購入などの行動が喚起され、インサイトは自分たちの商品やブランドにポジティブな影響を与えます。
インサイトは、ビジネスにつながることが重要です。単に消費者の本音というだけではインサイトとは言えません。
3. おもしろいと思えるか
3つめは、消費者インサイトのことを 「おもしろい」 と思えるかどうかです。
インサイトという人に隠れた心理のことを、その新しさやこれまでにない切り口としておもしろいと思えるかです。発見、新しい発想や施策に発展するかです。
ここまでの 「消費者インサイトとは何か」 で参考にした本は、以下の2冊です。
インサイトではないもの (what)
消費者インサイトとは何かを知るには、「インサイトでないもの」 と併せて見ると理解が深まります。具体的には次の3つです。
- ニーズではない
- 不満ではない
- 建前や意見・考えではない
以下、それぞれの補足です。
1. ニーズではない
1つめは 「インサイト」 と 「ニーズ」 との区別です。
インサイトとニーズの共通点は、人の気持ちです。どちらも、人の行動につながります。
しかし、違いがあります。ニーズとは、本人が明確に認識している欲求です。すでに顕在化された心理です。一方、インサイトは、普段は隠れて意識されていない心理です。
2. 不満ではない
2つめは、インサイトは顕在化した不満ではないことです。人がすでに意識できている不便に思うこともインサイトではありません。
厳密に言えば、すでに日頃から感じている不満はインサイトではなく、人から言われて初めて 「そう言われてみれば不満かも」 と、無意識だった感情が意識されるレベルになるものがインサイトです。
3. 建前や意見・考えではない
3つめは、インサイトは表向きの建前や意見・考えではありません。
例えば、アンケート調査で回答者が書いた答えそのもの、インタビュー調査で調査対象者が直接語ったこと自体は、インサイトではないです。インタビューやアンケートで聞かれ、人が考えて話したり記述した内容は、無意識のレベルではないためです。
インサイトは、アンケート回答情報やインタビューでの発言から、その背後にある隠れた心理として、自分たちが主体的に見い出すものです。
なぜインサイトが重要なのか (why)
マーケティングで消費者インサイトが必要な背景は、日本の社会が成熟していることです。どのカテゴリーにおいても、商品を買って不満を感じるレベルものはほとんどありません。
市場が成熟すると、消費者が 「自分はこれが欲しい」 と強く思える商品に出会うことは少なくなります。どの商品もそこそこ良く、可もなく不可もありません。商品を提供する側から見ると、生活者の本当に欲しいものが何なのかが見えにくい状況です。
こうした環境でこそ、人々の隠れた心理というインサイトを満たすことが重要です。
インサイトは、マーケティングにおいて他社との差別化の源泉になります。
先ほど、インサイトとニーズの違いを解説しました。ニーズとは顕在化された欲求であり、競合他社も同じニーズは見つけられます。ニーズを基にマーケティング活動をしても、他社との差別化にはつながりません。
インサイトは主体的に見い出すもの (how)
ここまでは、消費者インサイトは何か (what) 、なぜインサイトが重要なのか (why) を見てきました。
ここからは、インサイトをどのように見い出すかの how を解説します。まずはインサイトへのマインドセットです。
インサイトを得るために求められる姿勢は、受け身ではなく主体的な態度です。インサイトは、人から聞いたり教えてもらうのではなく、能動的に自分たちで見い出すものです。
インサイトは新しくつくるというよりも、すでに生活者が奥の気持ちとして持っているものを、見つけ出すことです。
ただし、インサイトはすんなりと出てくるものではありません。
調査から発言や行動などのファクトを知り、分析、気づきや考察を統合して、インサイトを見い出します。何か調査をすれば自ずと出てくるものではなく、自分たちで考え抜いて初めて得ることができます。
私の経験から、インサイトを得る際の感覚は、ある瞬間に自分の目の前に現れます。頭の中で色々と考え、ああでもないこうでもないと試行錯誤をした後に、突然降ってくるような感覚です。
インサイトを評価するフレームワーク (how)
消費者インサイトを見い出すために有効なフレームワークをご紹介します。これを覚えておけば、ヒット商品の裏にあるインサイト、日常生活でも人々のインサイトを理解するのに役立ちます。
インサイトのフレームワークは、次の3つです。
- これまで当たり前だったこと
- 当たり前を覆す新しい切り口 (インサイト)
- インサイトに対して提供する価値 (バリュープロポジション)
もう少し詳しく説明すると、以下のようになります。
- これまでの当たり前:生活者や商品の作り手・売り手にとって当たり前なこと。思い込みや先入観
- 新しい切り口 (インサイト):これまでの当たり前を覆す新しい切り口。ここにインサイトがある
- バリュープロポジション:インサイトに対する提案。インサイトを満たし、心の琴線に触れるような訴求ができれば、人の行動に影響を与えられる
インサイトフレームワークで参考にしたのは、こちらの本です。
では、フレームワークを具体的な例で解説します。2つとも、私自身のことをあらためて考えた時に、インサイトのフレームワークに当てはめたものです。
インサイトフレームワーク事例 (1):Amazon キンドル
1つめのインサイトフレームワークの例は、アマゾンの電子書籍キンドルの読書体験です。
キンドルでは、本文をハイライトして保存することができます。気になる箇所を蛍光ペンでハイライトするように残せます。
ハイライトした情報は、キンドルのマイページに自動で保存されます。私は、読み終わった後に振り返りたい本は、以下のやり方をしています。
- キンドルマイページのハイライトをドキュメントファイルにコピーし、紙で印刷する
- 印刷したハイライトに、手書きで思ったことや理解したことを書き込む
- 最後に、読書後のまとめをノートの見開き (2ページ分) に書き出す
読書後のこのプロセスで、本から得られる知識や思ったことが、自分の頭の中に今まで以上に定着しました。
この読書体験から思ったのは、読書とは読んでいる最中だけではなく、読み終わった後に振り返り、自分なりに考えることも楽しいということです。
インサイトのフレームワークに当てはめると、次のようになります。
- これまでの当たり前:本は、読書をしている 「最中に」 楽しむもの。読書中の体験が重視される
- 新しい切り口 (インサイト):ハイライトを見直したり、自分が思ったことを書くなど、読み終わった 「後で」 自分なりに振り返る時間に知的楽しさがある
- バリュープロポジション:キンドルは、本で気になった箇所をなぞってハイライトをすれば、マイページにそのまま文章を保存できる。手書きで写す必要はなく、簡単に残せるので便利
なお、キンドルのハイライト保存機能は重宝していますが、まだ機能的な不便があります。例えば、以下のような機能的な制約です。
- マイページに保存されるのは文章 (テキストデータ) のみ。図やイラスト、グラフの画像は保存されない
- 保存されたテキストは改行されていない。本文と変わってしまい、後から振り返る時に読みづらい
- マイページはウェブページで提供されるが専用アプリはない。アプリがあるともっと便利
インサイトフレームワーク事例 (2):Wi-Fi 体重計
2つめの事例です。
私は毎朝の朝食前に体重と体脂肪を測っています。使っているのは Withings スマート体重計 です。
この体重計の特徴は、体重と体脂肪のデータを Wi-Fi で自動送信し、クラウドに保存されることです。体重などの情報は専用アプリやウェブのマイページで見られます。
この体重計を気に入って使っているのはなぜかを自己分析すると、インサイトのフレームワークに次のように当てはまります。ポイントは、フローからストックです。
- これまでの当たり前:体重計で測った体重や体脂肪の数字はその場で確認する。測った後は残らない (フローデータ)
- 新しい切り口 (インサイト):体重や体脂肪のデータがクラウドに保存されるので、時系列で見られる。トレンドデータから自分の身体の 「変化」 がわかり興味深い。フローではなくストックデータとして体重の数字の変化に価値がある
- バリュープロポジション:体調・体脂肪の見える化を手軽に実現。体重計に乗るという動作は通常の体重計と変わらないが、自動で送信されクラウドに保存し、アプリ等からいつでも確認できる。体調管理や健康維持に役に立つ
体重計に対するこれまでの当たり前や先入観は、体重の値はその場限りだということです。
人によっては、年に1回の健康診断の時くらいしか体重計に乗らない人もいるでしょう。体重の値を日々記録し、ストックデータとして保存するものではありませんでした。
これに対して新しい切り口は、体重や体脂肪のデータを自動保存し蓄積すれば、トレンドデータになることです。
得られる価値は、身体の変化が視覚的にわかることです。これは、経験して初めて気づくことでした。
体重の値を一日一日、積み上げていく楽しさがあります。このインサイトを刺激されれば、体重計にはたまに乗るものものではなく、毎日使うという習慣に変えることができます。
最後に
ご紹介した消費者インサイトのフレームワークはいかがだったでしょうか。
自分が買ったもの、気に入って使っているもの、あるいは世の中のヒット商品などを、自分なりに分析する時に役に立つはずです。
背景には、どのような 「これまでの当たり前」 があったか、消費者・売り手の両方で当然と思っている先入観は何か、それを覆すような新しい切り口 (消費者インサイト) は何かです。
そして、インサイトに対して、どのようなバリュープロポジション (価値の提案) がされているのかです。
インサイトという新しい切り口は、世の中のことを見るレンズの役割を果たしてくれます。