#マーケティング #顧客セグメント #価値提案
J リーグは、日本において知名度を持つプロサッカーリーグですが、実際にスタジアムに足を運んで観戦するかどうかは人によって大きな差があります。
そこで J リーグが取り組んでいるのが、顧客層を特徴ごとにセグメントに分け、各顧客層にぴったりのアプローチを打ち出すという方法です。
マーケティングの視点から見てもこの取り組みは興味深く、私たちが学べるヒントが数多く隠されています。
J リーグのマーケティング
J リーグの試合に興味を抱く人の数は決して少なくない一方で、「存在は知っているけれど、行ったことはない」 という層も多く存在します。
そこへ一律の同じメッセージやキャンペーンを届けても、なかなか相手には響かないでしょう。マーケティングでは、お客さんのことを "ひとつのかたまり" と考えるのではなく、関心度合いや価値観によって分け、それぞれが求めている情報を適切に届けることが大切です。
J リーグもこの考え方を則り、低関心層や離反した層、ライト層やコア層などに分け、個々の顧客層の心を動かす施策を行っています。
低関心層へのアプローチ
まずは J リーグの 「低関与層」 への取り組みから見ていきましょう。
テレビ番組や CM の活用
サッカーにさほど興味がない人に向けて、SNS だけで情報発信しても届きにくいでしょう。というのも、SNS は自分が関心を持つ情報を優先表示する仕組みのため、そもそもサッカー情報に触れる機会が少ない人に対してはリーチが難しいからです。
一方のテレビ番組や CM であれば、サッカーに興味がない人でも偶然目にしたり耳にしたりするチャンスが生まれます。J リーグは在京キー局との連携を強化し、選手の素顔を見せる番組、観戦の楽しさを伝える番組、プレーを深掘りする番組など、視聴者の特性に合わせた内容を作っています。
ゴールデンタイム前後の枠では、短い枠で選手の魅力を伝えるミニ番組 「オフ・ザ・ピッチ」 などでライト層にも届きやすくし、深夜枠の 「KICK OFF! J (ジャパン) 」 や 「ラブ!! J リーグ」 、「サタデーナイト J」 などでは、コアファン向けにマニアックな情報を盛り込むなどの工夫がされています。
ホリデーシーズンのキャンペーン
ゴールデンウイークや夏休みといった期間には 「無料招待」 や 「お得な割引」 を展開し、初めての観戦へのハードルを下げています。
特に4月末から5月にかけてのゴールデンウイークは、長期旅行を計画しづらい層にとっては J リーグは1日レジャーとしての選択肢になりやすい存在です。こうした時期にスタジアムに足を運んだ人たちが J リーグは意外と楽しいと感じてくれれば、そのままファン予備軍として次の試合も観に来てくれる可能性が高まります。
インフルエンサー施策
J リーグはインフルエンサーとの連携にも積極的です。
サッカー好きの配信者ではなく、グルメや旅行、ファッションなど、サッカーと馴染みが薄いジャンルのインフルエンサーにも広げることによって、J リーグの新規層にも魅力をアピールしています。
例えば、サッカースタジアムで撮影した写真や動画を SNS にアップしてもらうことで、それを見たフォロワーの人たちには、自分がフォローしているインフルエンサーがサッカー観戦しているという意外性が話題になります。
低関与層にも J リーグの存在が広がり、試合そのものだけでなくスタジアムグルメや非日常感を楽しむレジャーとしての側面が認知されていきます。
離反層を呼び戻す
次に、J リーグの 「離反顧客」 への取り組みについても見ていきましょう。
ノスタルジーへの刺激
かつて J リーグの試合に足を運んでいたものの、家庭の事情などで離れてしまった人も多いでしょう。そうした層に向けて J リーグが取り組んでいるのが懐かしさを刺激するアプローチです。
代表例が 「J リーグカレーの復活 CM」 です。1993年の J リーグが誕生した当時の CM をオマージュし、当時の出演者を再登場させました。
1993年当時の CM に出演していたラモス瑠偉さんだけでなく、あのときは子役だった 「まさおくん」 も父親役として出演しました。
昔を知るファンがあの時の熱狂を思い出すきっかけになり、「そういえば最近は J リーグを観ていなかったけど、また行ってみようかな」 という気持ちに変えていくことを狙ったものです。記憶のスイッチポタンを押すアプローチです。
OB 選手を使ったコンテンツ
もうひとつの離反顧客層へのコミュニケーション方法が、かつて J リーグで活躍した OB 選手を前面に出した企画です。
元日本代表クラスの知名度のある選手が 「今の J リーグはすごくおもしろいんだよ」 と紹介する動画や解説番組です。1990年代の J リーグブームを覚えている世代にとって親近感がわきやすく、もう一度スタジアムへ向かうきっかけになります。
過去のファンと現在のリーグを結びつける架け橋として、OB 選手の知名度と影響力をうまく活用しています。
ライト層・コア層へのマーケティング
ここまで 「低関心層」 や 「離反層」 への取り組みを見てきましたが、すでに J リーグを少ない頻度ながらも楽しんでいる 「ライト層」 や、熱狂的にクラブを応援している 「コア層」 も重要な存在です。
ライト・コア層のモチベーションをさらに高めるために、J リーグではいくつか具体的な取り組みをしています。
例えば、選手と直接交流できるイベントや、試合前にピッチを見学できるツアーなど、観戦にプラスアルファの特典を設け、ファンの満足度をアップさせています。ライト層には観戦で今まで以上に楽しめると感じられるコンテンツを用意し、コア層には選手の詳しい戦術解説やクラブの舞台裏密着映像を充実させマニア心をくすぐるコンテンツ提供など、各層に合わせた情報を発信しています。
また、J リーグのクラブが独自に YouTube チャンネルや SNS を運用して、試合以外のコンテンツも継続的にアップしている点も見逃せません。地域密着型のイベントでファンと触れ合うケースにも取り組んでいます。
地元のお祭りや商店街の催しに選手やマスコットが参加し、クラブの魅力を PR することにより、ライト層や家族連れをさらに取り込み、地元全体の応援ムードを高めるという狙いです。
J リーグに学ぶマーケティング
ここまで見てきた J リーグの事例から学べるのは、消費者やお客さんのことをしっかりと理解し、それぞれに合った体験を提供することの重要性です。
顧客インサイトに合わせたマーケティングコンセプト
具体的には、J リーグは次のような活動を進めています。先ほどのまとめにもなりますが、
- 低関心層: レジャーとして楽しめる選択肢として訴求し、初めての観戦を後押し
- 離反層: あの頃の思い出や熱狂を思い起こさせ、再び観戦するきっかけをつくる
- ライト層: 観戦でわかりやすいガイドや、お得な情報を発信してスタジアムへ行くハードルを下げる
- コア層: マニアックな情報や選手との近い接触イベントなど、さらに熱狂できる仕掛けを充実させる
俯瞰すると、いかに顧客を広く取り込みながら、かつ細かく分けた層ごとに刺さる施策を展開するかが重要であるとわかります。
J リーグはお手本のような事例です。テレビや SNS、キャンペーン、OB 選手起用、そして選手との距離感を縮める多彩な仕組みがどれも連動することで、観戦者を拡大しているのです。
顧客ごとに向き合うマーケティング
J リーグが実践しているマーケティング戦略は、人の心を動かすための実践的なノウハウが入っています。
J リーグの顧客を一言で 「サッカー好き」 とまとめるのではなく、「現在どれくらい興味を持っているのか」 や 「過去にどんな体験や思い出があるのか」 、「現在の J リーグとの関わり具合」 を把握。層の今の置かれた状況、その状況下で抱える課題、生じているニーズ、まだ満たされていない未充足ニーズなどを丁寧に拾っているのです。
マーケティングは最終的に 「人と人とのやりとり」 です。どんなに AI やデータ分析が進化しても、相手の人として感情や本能的な心理、価値観、習慣やライフスタイルを想像し、顧客文脈に合った顧客価値を提示しないと、相手の心に響かず、行動には結びつきません。
J リーグは、こうした点を十分に理解しているからこそ、人間理解や洞察にもとづいてクラブやリーグ全体でマーケティングを組み立てているのです。
まとめ
今回は、J リーグのマーケティングを取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 顧客グループを、低関心層、離反層、ライト層、コア層など特性ごとに分け、それぞれに最適化されたアプローチを展開する
- 各顧客層の状況や課題を理解し、顧客文脈に応じたアプローチが大事
- 例えば、低関心層には体験のハードルを下げる施策、離反層にはノスタルジーの喚起、コア層にはさらに深い体験価値を提供するなど、顧客層に合わせた価値提案をする
- マーケティングの役割は人の心を動かすこと。人と人とのやりとりであり、お客さんの感情や人としての本能を理解し、共感を生む価値を届けることが大切
マーケティングレターのご紹介
マーケティングのニュースレターを配信しています。
気になる商品や新サービスを取り上げ、開発背景やヒット理由を掘り下げることでマーケティングや戦略を学べるレターです。
マーケティングのことがおもしろいと思えて、すぐに活かせる学びを毎週お届けします。レターの文字数はこのブログの 3 ~ 4 倍くらいで、その分だけ深く掘り下げています。
ブログの内容をいいなと思っていただいた方にはレターもきっとおもしろく読めると思います (過去のレターもこちらから見られます) 。
こちらから登録して、ぜひレターも読んでみてください!