#マーケティング #ブランドコンセプト #ロングセラー
ブランドを長期的に維持し成長させていくためには、中心に通る軸となるコンセプトが大事な役割を果たします。
たとえ優れた商品であっても、価格競争や一時的な話題性に頼っていては、消費者の心に存在し続けることは難しいでしょう。新商品を投入する際にも、ブランドのコンセプトに沿った商品開発とマーケティングを行うことにより、ブランド全体の評価や好感度を底上げし、長期的な成長を実現できます。
今回は、ロッテのチョコパイを取り上げます。発売から40年以上たった今も、チョコパイはブランド価値を高め続けている代表例です。
チョコパイから得られる新商品開発とブランド構築について、ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
ロッテ 「チョコパイ」
40年以上続くロングセラーの課題
ロッテのチョコパイは、1983年に発売されて以来、40年以上にわたって愛され続けてきたロングセラーブランドです。
チョコパイはケーキ生地とクリームを重ね、その周囲をチョコレートでコーティングしたお菓子です。手軽に食べられるケーキのようなおいしさが支持を集め、子どもから大人まで幅広い層に浸透してきました。
しかし、ここ数年続く原材料高騰は菓子業界全体に影響を及ぼし、チョコパイも例外ではありませんでした。ブランド史上初の値上げに踏み切ったこともあり、一時的に売上が落ち込むという局面を迎えました (参考記事) 。
他にも、コンビニスイーツの台頭や専門店レベルのクオリティをもつ他社製品が増加する中で、チョコパイはコスパが良いけれども新鮮味に欠けるというイメージを抱かれていたことを打破するのが、チョコパイの課題でした。
ブランドのコア価値を再定義
このままではチョコパイという存在が過去の遺産に埋もれてしまうかもしれない――。そう危惧したロッテは、大規模な調査を実施し、チョコパイが本来もつ価値をあらためて洗い直す作業に取り組みました。
具体的には、消費者へのデプスインタビューやアンケート調査などを実施し、なぜチョコパイを買うのか・どんなときに食べるのか・どのような思い出やイメージがあるのか、といった定性・定量の両面から意見を集めました。
調査から聞こえた消費者の声は、「実はコスパがいい」 というチョコパイへの評価でした。また、チョコパイへの捉え方として 「普段食べるお菓子というより、いいことがあったときのご褒美」 や 「友だちの家に遊びに行くと出されるおもてなしのお菓子」 という位置づけであることが判明しました。
ここからさらに掘り下げると、消費者が持っていたチョコパイへの価値イメージは、「手軽にケーキを食べるような満足感」 と 「少し特別な気持ちになれるご褒美感」 というチョコパイの二大要素だったのです。
ここに着目し、ロッテが打ち出したチョコパイの新たなコンセプトが 「手の届くご褒美」 というもの。手頃な価格でありながら、ケーキのような豊かな味わいが楽しめる点がチョコパイの強みであると、あらためてブランドのコアバリュー (中心的な価値) を定義し直したのです。
ほんの少しだけ上質なひとときを提供するというメッセージも織り込み、消費者に 「日常に彩りを添える特別なお菓子」 としてチョコパイを再認識してもらうことを目指しました。
ブランドコアに沿った新商品の展開
再定義したコアバリューを具現化する取り組みのひとつが、ロッテ初のチルドスイーツ 「生 チョコパイ」 です。
それまでのチョコパイよりもサイズが大きく、クリームは 350% 増。生菓子ならではのやわらかな口あたりを追求したチョコパイです。消費期限は5日と短いものの、フレッシュ感を前面に打ち出すことで、今までのチョコパイにはなかった特別な体験価値を打ち出しました。
他には、チョコレートやクリームの配合比率を変えた限定商品も相次いで登場しています。
「チョコレートの沼にようこそ」 や 「クリームにおぼれる」 といった尖ったネーミングで話題を集めたチョコパイや、通常のチョコパイの味の三層構造ではなくソースを追加し四層の味を取り入れた 「プレミアムシリーズ」 です。
手の届くご褒美というチョコパイのブランドコンセプトをさらに強化するような、よりリッチな価値をもたらす新商品展開です。
新商品が定番商品の再注目につながる好循環
新しい商品の投入によって、その都度メディアや SNS などでチョコパイの話題が広がり、新しいお客さんや久しぶりにチョコパイを口にする人も戻ってきたとのことです (参考記事) 。
新商品だけにとどまらず、定番商品である通常のチョコパイも買われるという好循環も起こります。新商品によってブランド全体の存在感が高まり、消費者がチョコパイを思い出す機会が増え、定番商品にも注目が集まるというポジティブな循環が生まれているわけです。
この事象は新商品で一時的に売上を上げるやり方とは異なります。新たなバリエーションを提供しながらブランドのイメージを強化し、定番商品も含めた総合的な売上増に貢献するという、長期的なブランド構築にもつながっているのです。
学べること
チョコパイの事例から学べることを掘り下げていきましょう。
新商品はブランド価値を高めるか?
一般的に、新商品を投入すると短期的には売上が伸びることでしょう。
しかし、一過性のブームやキャンペーン頼みで終わってしまうと、肝心のブランド価値を高めるには至りません。長期的な成功を望むのであれば、新商品を通じてブランドのコアバリューをさらに強化できるかが大事になります。
ロッテのチョコパイのように、根幹となるブランドのコンセプトを明確に定義し、その上で新商品の投入やマーケティングもコンセプトに合っているかを徹底して考え抜くことで、ブランド全体の方向性がブレにくくなります。
ブランドのコアコンセプトを体現する新商品を
重要なのは、新商品開発はブランドの根本を体現する手段だと捉えることです。目先の売上などの数値だけではなく、中長期視点でブランドコンセプトとなるコアバリューを育むという観点が大切です。
新商品を開発する際には、ブランドコンセプトというブランドの1本の軸がしっかりと通っているかを見るべきです。いくら魅力的なアイデアであっても、ブランドの世界観や思想から外れていれば、何を大切にしているブランドか分からないという印象を消費者や顧客に与えかねません。
新商品のコンセプトや商品名、パッケージデザイン、価格、キャンペーン施策などを決めていく各段階で、新商品はブランドのコンセプトを反映しているのかという問いを常に投げかけることが重要なのです。
チョコパイは 「手の届くご褒美」 というコアバリューを土台にしているので、たとえ生菓子のチルド商品を新たに投入しても、また、プレミアム感を強調する限定版をつくっても、消費者は 「同じチョコパイのブランド体験 (少し手の届く贅沢) ができる」 と受け取ってもらいやすくなるわけです。
新商品を通じて定番商品への需要を再喚起する
ロングセラーブランドにおいて、定番商品は安定的な売上を生む存在です。
消費者にとっては昔からある定番だからこそ、飽きるなどの要因で手にとってもらえなくなる消費者は一定数でどうしてもいます。そこで効果的なのが、新商品をフックとした導線をつくり、ブランド全体への注目度を高めるというアプローチです。
チョコパイのように新しいフレーバーや形態の商品を世に送り出すと、離反していたお客さんの中にも一度試してみたいという気持ちが芽生えます。その際に一緒に思い出されたり、お店の棚で目にするのが定番のチョコパイです。
ロングセラーブランドは長年の実績による認知度があります。新商品で興味を生んだり実際に試したお客さんが、次に定番商品のほうも食べ比べたくなるような自然にブランド内の定番商品へと誘導するという流れです。
ブランドコアコンセプトの定義がすべての土台になる
ここまで見てきたような状態を実現するためには、ブランドコンセプトが明確であることが大前提となります。
ブランドとして掲げる世界観や、消費者にとっての本質的な体験価値など、根幹部分を的確に言語化できていないと、戦略の軸が定まらないまま商品企画やマーケティングが進んでしまいます。その場しのぎのアイデアに流され、中長期的なブランド構築が難しくなるでしょう。
ロッテが行ったように、定量調査と定性調査を組み合わせ、多角的な視点から消費者の声を汲み上げ、消費者情報や顧客情報から洞察をし、得られたインサイトを短いフレーズやキーワードにまとめるというプロセスは泥臭いものながらとても重要です。
長期的な視点からのブランド運用と継続的なアップデート
ブランドは一度コンセプトを確立したら終わりではありません。時代やトレンド、競合環境、生活者環境は少しずつ、またときにはドラスティックに変化するため、その時々の消費者文脈や顧客ニーズに合わせてアップデートをすることが大事です。
変化に対して敏感でありながら、一方でブレない軸を守るという "二律背反" をどう実践するかが、ロングセラーブランドの要となるでしょう。
変わらない信頼感と新鮮な驚きをうまく両立させているのがチョコパイです。40年を超える歴史を持ちながら、今までの常温のお菓子にとどまらないチルド商品やプレミアム仕様にまで攻めの姿勢を続け、昔からのファンも新しいお客さんも同時に魅了しています。
長期視点でブランドを運用していくうえでは、チョコパイのような 「守るべきもの (ブランドのコンセプト) 」 と 「変えるべきもの (例: 新商品の展開) 」 を捉え、何よりも継続的に実行していくことが大事です。
まとめ
今回は、ロッテのチョコパイの事例から、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ブランドコンセプトの明確化がマーケティング戦略の基盤。ブランドの本質的価値を定義し言語化することで、一貫性のある商品展開と戦略策定が可能になる
- 新しい商品はブランドのコンセプトを体現するものであるべき。新商品は一時的な売上向上ではなく、ブランドの根本価値を体現し強化することが重要
- 定番商品と新商品の好循環を狙う。新商品が話題になることで、ブランド全体への関心が高まり、結果的に定番商品の売上増加につながるという好循環を生み出す
- 「変えないもの」 と 「変えるもの」 のバランスを取る。ブランドのコアバリューは守りながらも、時代やトレンド、消費者ニーズの変化に合わせて商品やマーケティングを変える
- 長期視点での継続的なブランド運用を実践する。一度コンセプトを確立したら終わりではなく、環境変化に応じた継続的なアップデートが必要
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