#マーケティング #新規事業 #本
新規事業において企業が陥る失敗は、机上の空論に終始したり、早すぎる売上目標の達成のために闇雲に大規模な投資を行ったりすることです。
では、成功している企業は、どのように新規事業を生み出しているのでしょうか?
本書 「インサイト中心の成長戦略 - 上場企業創業者から学ぶ事業創出の実践論 (中村陽二) 」 は、新しいビジネスを立ち上げる実践的な方法を示してくれます。
事業領域の選定から、成長の核となる 「インサイト」 の見つけ方、そして具体的な実行プロセスまで。現場で使える実践知を得るために、ぜひ一緒に学んでいきましょう。
本書の概要
本当に実践的な新規事業の立ち上げ方を知りたい人にとって、こちらの本の 「インサイト中心の成長戦略 - 上場企業創業者から学ぶ事業創出の実践論 (中村陽二) 」 は、示唆に富む一冊です。
本書は、新しい事業をどうやって始めるのか、どこに勝ち筋を見出すのか、そのために必要な組織力や投資の仕方はどうあるべきかといったポイントを、リアルな経験則や上場企業創業者の実例を交えながら解説しています。
新規事業の創出プロセス
本書では、新規事業を生み出すプロセスとして、
- 事業領域の選定
- インサイトの発見
- 事業の立ち上げ
という3つのステップが提示されています。
事業領域選定と能力
新規事業の成否を分けるのが、どこで戦うかという 「事業領域の選定」 です。
事業領域を選ぶにあたっての大事な視点は 「自社の能力を正確に把握すること」 です。本書での能力には、次のようなものが想定されています。
- 営業やマーケティング: 他社より売る能力が強い
- 製品企画・開発: 他社より優れた製品を企画しデザインできる
- 製造・サービス提供: 他社より安定的かつ大規模に商品を製造したり、サービスを提供し続けられる
- マネジメント: 他社より大規模かつ効率的な組織を形成し運用できる
企業には強みと弱みがあります。例えば 「営業やマーケティングが強い」 、「製品企画と開発は得意だが、拡大しスケールする生産能力が追いついていない」 、 「マネジメント能力が足りない」 など、企業や組織によって持っている強みのカードは異なります。
自社が何を得意としているのか、どの領域ならば自分たちは強さを発揮できるのかを見誤ってしまうと、せっかく見つけたインサイトがあっても実力不足で自滅してしまいます。
特に、今まで経験のない飛び地領域へ挑む場合には 「能力獲得フェーズ」 と 「事業拡大フェーズ」 を区切ることでリスクを軽減していきます。あまりにも飛躍的な目標設定をしてしまうと、投資コストや学習期間が膨大になり、結果的に撤退を余儀なくされる可能性が高まるからです。
そこで、成長市場や儲かっている領域を模倣という形でもいいので小さく試し、そこで徐々に能力を獲得することが大事になります。大きな収益を求めすぎず、あくまで業界の慣習や顧客の声、競合他社のサービス内容などのリアルな経験値を得る段階と捉えます。
変化は機会を生む
事業領域の選定において注目したいのは 「構造変化」 です。
たとえ他社が目をつけていない有望な市場を発見したとしても、自社が参入できる保証はありません。市場での変化がなければ、自分たちが入れる隙間はないからです。
隙間は顧客の需要とサービスを提供する企業の間に生まれます。変化が大きい領域では参入に値する隙間が発生しやすく、変化が少ない市場ではこのような隙間は生まれにくいのです。その意味で、変化が大きい領域ほどチャンスが生まれやすく、新規参入企業が付け入る隙ができるということになります。
市場を理解する視点
競合や市場、想定顧客についてどこまで調査すればいいのかという悩みは、新規事業担当者なら誰もが抱えるはずです。
そこで、次に挙げる項目を調べることによって、市場のルール(どうすれば買ってもらかるか, 儲かるか)を把握できます。
- 上位の企業はどこか?
- 上位企業の売上と利益はどの程度か?
- なぜその企業は上位なのか?
- 急成長している企業はいるか?
- なぜその企業は急成長できているのか?
インサイト
新規事業で要となるのが、本書の最重要キーワードである 「インサイト」 です。
この本でのインサイトとは 「背景知識に基づいた現象解釈による戦略」 を指します。
客観的な市場データだけではなく、自分たちが持つビジネスの経験や業界の歴史、顧客心理などの 「背景知識」 と照らし合わせます。そこから 「この戦い方なら勝てるはずだ」 という戦略のカギを発見できるかが、新規事業の成否を分けます。
顧客インサイトと先行者インサイト
本書では、インサイトを大きく2つに分類します。「顧客インサイト」 と 「先行者インサイト」 です。
- 顧客インサイト: 顧客の行動や本音から新たな事業アイデアを導く洞察
- 先行者インサイト: 既に成功している事業者が使っている能力やノウハウから、自社の得意分野や勝ち筋を再構成するための洞察
前者の顧客インサイトを発掘するために、想定するお客さんの潜在的な 「困りごと」 や 「欲しいけれど手に入らない不満」 などの顧客文脈を深く理解します。競合がまだ捉えていない顧客ニーズに応えてきます。
一方の先行者インサイトは、既に伸びている企業のビジネスモデルや購買決定要因 (その企業が顧客から選ばれている理由) を分析して得られる洞察です。先行者インサイトを手に入れることで、自社ならもっと高い水準やうまい方法で対応できることを見出します。
既存プレイヤーが十分に応えられていない 「能力や提供商品・サービスにおける需給ギャップ」 を、自社なら埋められるという確信を得ることを目指します。
インサイトの発掘
インサイトは簡単に手に入るわけではありません。
この本で著者は 「インサイトの発掘は偶発性に支配されることも多い」 と率直に語ります。
ただし、偶発性の確率を高めるには事業領域の 「背景知識」 を増やし、現場の一次情報を直接拾うことが近道だとします。本書のインサイトの定義を 「背景知識に基づいた現象解釈による戦略」 としているように、目の前に起こっている事象と背景知識を結びつけられるかがカギを握ります。
そこで、生活者やクライアント企業との対話をする際も、相手の表面的な 「いいですね、使ってみたいです」 という発言を真に受けません。「本当に解決したい課題のために既に何をしていて、どれだけコストを払っているか?」 を訊くことがポイントです。
具体的には、
- 課題に対して本当に困っているということは、その解決に向けてなんらかの取り組みを行っており、それに対して時間を使ったり対価を払ったりしているか? (支払い意思の確認)
- すでになんらかの取り組みをしていたり、サービスを買ったりしている場合は、どのような検討プロセスを経てそれにしたのか? (情報チャネル, 購買決定要因の把握)
こうした質問をすることにより、回答の信頼度は上がります。
発言の真意まで掘り下げないと、「痩せたいので買いたいです (でも実際には買わない) 」 、「英語をもっと仕事で活用したいです (しかし特に何かを具体的にやるわけではなく思っているだけ) 」 という声を、ニーズがあると解釈してしまうことになりかねません。
それは表面的な口だけのニーズなのか、実際に支払い意欲のある本物のニーズなのかについて、切り分けられるほどの顧客文脈や顧客心理の理解が大事になります。
戦略と実行
本書に登場する実業家たちの例を見ると、
- 事業領域の設定
- インサイトの発見
- サービスコンセプトの決定
- 事業立ち上げ
- 能力獲得
- 事業拡大
という流れが、とにかく早いスピード感で進められていることがわかります。
機動的な実行
オフィスの机で大きな戦略ばかり考えるよりも、小さく検証しながらビジネスを実際に回して学習する姿勢が貫かれています。
機動的な実行能力であり、戦略だけでなくオペレーションや組織体制もすみやかに構築していくことの重要性を見て取れます。新規事業は動かしてみないとわからない部分が多いからこそ、早く走り始めて、実行から得られる学びを次のステージに活かしていくというアプローチです。
オフィスやパコソンの中だけではわからない、経験値や暗黙知を得ることが大事です。
一点集中からの差異化
新たな領域に事業参入する場合、その時点では後発プレイヤーなので、多くの面で先行者に負けているのが通常です。
先行者は既に強固な顧客基盤やブランド力、組織的な業務遂行能力を持っているので、あれもこれもと取り組んでも勝負になりません。だからこそ、この一点だけは絶対に先行者に勝てるという要素を見極め、集中投資していくことで初めて勝算が生まれます。勝てる一点を徹底的に掘り下げるわけです。
新規事業における 「熱意」 の重要性
著者が言うには、長期的に本気で取り組み続けるという 「熱意」 が新規事業の担当者にとって必要な要件だということです。
では熱意とは次のようなものです。
- 目標と現状の差を毎日考え続け、乖離を埋めるための対処すべき課題を設定する
- その課題を実行するために必要な施策を考え、慣れていないことでも実行し続ける
- たとえ施策は頻繁に失敗したとしても、施策をやったことで得られた情報を活用し、別の方法で施策を続ける
こうした時には泥臭い試行錯誤や学習ができる担当者がいて、その人が少なくとも3ヶ月は特定の目標に集中できるかどうかが新規事業の成否を分かちます。
まとめ
今回は、書籍 「インサイト中心の成長戦略 - 上場企業創業者から学ぶ事業創出の実践論 (中村陽二) 」 を取り上げ、読んで学べたことをご紹介しました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 新規事業の立ち上げプロセスは、自社の能力を正確に理解し、適切な事業領域を選ぶことから始まる。事業領域を選定し、業界理解を深めた後、独自のインサイトを発見し、投資することで競争力を確立していく
- 新規事業を成功させるポイントは 「インサイト (背景知識にもとづいた現象を解釈して得られる洞察) 」 )を見つけ出すこと。顧客インサイト (深い顧客理解からの洞察) と、先行者インサイト (成功企業の勝ち筋への洞察) の2つがある
- 机上の戦略ではなく、実行と試行錯誤を重視し、見出した勝てる一点に集中投資する。新規事業には、長期的に取り組める熱意を持つ人材がキーパーソンになる
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