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行動分析学で社員のやる気を引き出す技術 という本をご紹介します。
エントリーの内容です。
- 本書の概要
- 行動分析学とは
- 問題解決に、行動分析学をどう使うか
本書の概要
以下は、本書の内容紹介からの引用です。
様々な手法を使っても、なかなか社員のモチベーションが上がらない。会社はどんよりとした雰囲気で息苦しい。業績も低迷している。いま、多くの会社が直面している厳しい現実…。
何故なのでしょうか?上司であるあなた、経営者であるあなたの、考え方がそもそも間違っているのではないでしょうか?あなたは、社員の行動を本気で 「観察」 したことがありますか?
「行動の科学」 として注目されている心理学、行動分析学。著者は社長時代にこの手法で業績を拡大させました。あなたも今すぐ、この驚くべき効果を体験してください。
行動分析学とは
行動分析学は心理学の1つです。行動の分析から原因を解明し、行動に関する法則を科学的に見い出します。1930年頃に、米国の心理学者 B. F. スキナーによって確立された行動の科学です。
応用範囲は広く、企業などの組織行動マネジメント、教育、家族関係、環境問題、スポーツのコーチング、医療、看護、リハビリテーション、動物のしつけやトレーニングなどの様々な分野で活用できます。
人の行動を決定づける原理
本書で紹介されるのは、3つの原理から人の行動を分析し、予測や制御することです。3つとは、「強化」 「消去」 「弱化」 です。
- 強化:行動直後に 「良いことがある」 (例: 心地よさ、苦痛からの解放) 。その行動をもっとするようになる
- 消去:行動直後に 「何も変わらない」 (例: 心地よくもならない、苦痛からの解放がない) 。その行動をしなくなる
- 弱化:行動直後に 「嫌なことがある」 (例: 不快や苦痛を感じる、心地よさが失われる) 。その行動をしなくなる
人がある行動をしたり、しなかったりするのは、必ず理由があります。
理由は、強化・消去・弱化で説明ができます。このシンプルな考え方は行動分析学の特徴です。行動分析学は、実践のための心理学です。
行動の 「直後」 の目安は、60秒以内
行動分析学では、行動直後にどういう状況の変化 (強化や弱化) 、あるいは変化しないこと (消去) に、行動の原因を見い出します。
ここで言う 「直後」 とは、行動分析学では60秒以内という目安があります。60秒は研究から導き出されました。60秒以内の直後であれば、行動に強く影響を与えると考えます。
もちろん、60秒を1秒でも過ぎれば効果が全く無いわけではありません。行動直後の1秒でも早く強化や弱化が起これば、それだけ行動への影響が大きくなるという考え方です。
問題を行動として再定義する
本書は、前半で行動分析学の説明、後半でビジネスでの組織マネジメントへの実践について書かれています。
行動分析学がおもしろいと思うのは、行動という切り口で、部下の育成や上司への働きかけなどの組織マネジメントの問題を解決することです。
問題解決では、問題をいかに解くべき課題に落とし込むかが重要です。行動分析学のアプローチに当てはめると、問題を 「観察し測定できる行動」 に再定義することです。
例えば、問題を 「社員の覇気がない」 「リーダーシップがない」 だとします。問題を解決するためには、この状態からどう解決するかの課題設定をする必要があります。
行動分析学の考え方は、それぞれの問題を以下のように測定できる行動に解釈し、問題を課題として再定義します。
「社員の覇気がない」 を行動で再定義
- あいさつをしない。すれ違う時も黙って通り過ぎる
- 話をしていても目を伏せる。明るい表情をしない
- 会議で発言をしない
「リーダーシップがない」 を行動で再定義
- 構想 (チームが目指す理想の絵) を描けない
- 優先順位をつけられない
- やらないことを決断できない
問題である 「社員の覇気がない」 「リーダーシップがない」 に対して、課題設定を単に 「社員に覇気が出るようにする」 「リーダーシップを持ってもらう」 としただけでは、問題をただ裏返しにしたにすぎず解決しません。
問題を行動として再定義すれば、解決に向けて具体的な方法につなげられます。
行動なので、「やったか」 「やらなかったか」 を測定できます。より効果的な行動は具体的にどうすることなのかを伝えたり見せることができます。
自分を褒める 「自己評価」
行動分析学の 「強化」 とは、行動直後に起こる良いことです。
本書では、ぜひ取り入れたいこととして 「自己強化」 を挙げています。自己強化の例は、自分で自分を褒めることです。自分が望ましい行動をしたと思ったら、直後に自分を褒めるのです。
チーム内で、お互いに褒め合ったり称え合うことも有効です。メンバー同士で、お互いに望ましい行動を褒め合えれば強化の効果も高まります。
小さな目標を多くし、強化の機会を増やす 「シェイピング」
行動分析学には、目標を少しずつ上げていく 「シェイピング」 という方法があります。
最終ゴールを達成するために小さな目標を用意し、目標を少しずつ上げていきます。現時点で達成可能な目標をまずは設定し、安定して達成できるようになれば、次の目標に引き上げます。
シェイピングが効果を発揮するのは、目標を達成する回数を増やせるからです。自己強化の機会を増やすことができます。目標は達成してこそ、自己強化として機能します。
1つずつできるようにする 「チェイニング」
もう1つ、行動分析学のアプローチで興味深かったのは 「チェイニング」 です。
チェイニングとは、プロセスを細かく分解し、各プロセスを順番に鎖でつなぐように、1つ1つのプロセスを順序立ててできるようにするやり方です。
チェイニングには、順行チェイニングと逆行チェイニングの2つがあります。
順行チェイニングは、1から10までプロセスであれば、始めの1から順番にできるようにするやり方です。逆行チェイニングは、終わりの10からできるようにするやり方です。
おもしろいと思ったのは、後者の逆行チェイニングです。
逆行チェイニングを具体例でご説明します。例えば、子どもに歯磨きを1人でできるように教える場合です。分解したプロセスは以下です。
- 歯ブラシを手に取る
- 歯磨き粉を歯ブラシにつける
- 歯を磨く (実際は歯を磨くプロセスはもっと細かいほうがいいですが、説明を簡単にするため1つにしています)
- 口を水でゆすぐ
- 歯ブラシを洗い元の場所に戻す
逆行チェイニングでは、プロセスの最後から1人でできるようにします。
具体的には、1の 「歯ブラシを手に取る」 から4の 「口を水でゆすぐ」 までを子どもは親と一緒にやります。最後の 「歯ブラシを洗い元の場所に戻す」 だけを、子どもが自分1人でやるようにします。
これができれば、次は1~3までを親子で一緒に、4と5を子ども1人でやります。次は3~5までを1人で、その次は2~5までを1人で、というように後ろのプロセスからできることを1つずつ増やします。
分解したプロセスの順番に沿って難易度が上がらなければ、最後からできるようにする逆行チェイニングが効果的です。途中までは一緒にやったりサポートがあったとしても、最後の完了自分でできるのでいつも達成感が得られるからです。
レースに例えると、逆行チェイニングは途中まで補助の伴走者がいてり、最後のゴールテープを切るところは1人でやります。伴走距離を少しずつ短くしていき、1人になってからゴールまでの距離を長くするアプローチです。
最後に
本書 行動分析学で社員のやる気を引き出す技術 が興味深く読めたのは、2つの理由からです。
1つめは、行動分析学のことがわかりやすく書かれているからです。初めて行動分析学のことを知る方にとっても、専門用語は少なく読みやすい内容になっています。
2つめは、社員のマネジメントへの応用が、事例とともに具体的に書かれているからです。事例を通して行動分析学への理解が深まり、具体的な内容なので自分もやってみようと思えたり、ヒントがたくさんあります。