
今回は書評です。
ご紹介する本は 病巣 - 巨大電機産業が消滅する日 (江上剛) です。
この記事ではわかること
- 本書のストーリー
- [考察 1] なぜ不正会計処理をしてしまうのか?
- [考察 2] 表面的な問題解決
フィクションのビジネス小説で、興味深く読めました。
ぜひ記事を最後まで読んでいただき、よかったらこの本を手に取ってみてください。
本書のストーリー
この本のストーリーを一言で言うと、東芝の組織的な粉飾と不正会計処理事件をモデルにしたフィクション小説です。
実際の東芝の事実とは異なる点もあると思いますが、リアリティのある内容でした。
以下は本書の内容紹介からの引用です。
日本を代表する総合電機メーカー芝河電機に勤める瀬川大輔は、本社監査部勤務を命じられた。
瀬川は内部告発をきっかけに、芝河の基幹部門 PC カンパニーが危機的状況であることを知る。告発した社員は瀬川に後を託して自殺をしてしまう。
PC カンパニーだけではなくその他のカンパニーでも粉飾決算が横行していた事実をつかみ愕然とする瀬川。証券取引等監視委員会も密かに動き出した。やがて買収した原発企業 EEC の巨額損失が発覚し、芝河は経営危機に陥る。
特に考えさせられたこと
この本を読みながら考えさせれたことは、次の二つです。
考えさせられたこと
- なぜ不正を行ってしまうのか
- 表面的な問題解決
ではそれぞれについて順番にご説明します。
[考察 1] なぜ不正を行ってしまうのか
この本が問題提起で投げかけるのは、人はなぜ過ちを犯してしまうかです。
本書では粉飾などの不正会計処理が組織的に長年にわたって行われた経緯が、小説として詳細に描かれています。
不正とは一度手を染めると、やめたくてもやめられない麻薬のようなものです。嘘を一度つき道を外れてしまうと、もう戻ることはできません。落ちるところまで落ちてしまいます。
考えさせられたのは、なぜ人や組織は不正を行ってしまうのかです。私が思ったのは以下でした。
組織的な不正の要因
- 上に物申せない。「おかしい」 と言えない組織
- 上の意向を過度に気にする
- 他もやっている・昔からされていて言い逃れができる
- 会議がやたらと多く出席者も多人数で責任の所在が曖昧
- 恣意的な人事プロセス。権力者の 「子飼い」 が出世する (職務能力ではなく政治力が評価される)
- 独特な社内用語が多い。世間の常識と社内の常識がずれている
- 顧客を見ずに社内の上ばかり見て仕事をしている
以上のような、一言で言えば 「顧客不在の内向き姿勢」 が組織的な不正につながっていきます。
[考察 2] 表面的な問題解決
この小説では利益目標の必達のために 「チャレンジせよ」 という掛け声が頻発します。
チャレンジせよとは、要するに目標のために何が何でも達成せよということです。具体的な方針があるわけではなく単なる根性論・精神論です。利益が出ていないので、利益を出せと言っているに過ぎません。それを社内の共通用語として 「チャレンジせよ」 と表現します。
ちなみに当初の 「チャレンジせよ」 の意味は 「コストを下げろ」 でした。しかしいつしか暗黙の了解で不正会計をする意味も加わります。言葉ではチャレンジせよと言う綺麗な表現をしていますが、中身は組織的な粉飾会計の許容と指示です。
利益目標を達成していないから 「チャレンジせよ (コストを下げろ) 」 とは、問題解決の体をなしていません。
問題解決への掘り下げ方
本来であれば、問題の本質を掘り下げてから解決策となる課題を設定すべきです。
利益が出ていない要因となる問題箇所を特定し、なぜ問題なのかを構造要因と本質まで掘り下げます。その後に解決策という打ち手を考えます。
一方の小説の中では、利益目標を達成していないという表面的な事象から、単なる裏返しのようにコストを下げろという指示です。アプローチとしてはコストではなく売上を上げることによって利益を作るという考え方もありますが、色々な可能性への模索もされませんでした。
表面的な問題解決になっていないかは、組織だけではなく個人のレベルでも考えさせられます。
まとめ
今回は 病巣 - 巨大電機産業が消滅する日 をご紹介しました。
最後に今回の記事のまとめです。
本書のストーリー
- かつての東芝の組織的な粉飾と不正会計処理事件をモデルにしたフィクション小説
- 実際の東芝の事実とは異なる点もあるだろうがリアリティのある内容
[考えさせられたこと 1] なぜ不正を行ってしまうのか
- 不正とは一度手を染めると、やめたくてもやめられない麻薬のようなもの
- 顧客不在の内向き姿勢が組織的な不正につながっていく
[考えさせられたこと 2] 表面的な問題解決
- 小説では利益目標の必達のために 「チャレンジせよ」 という掛け声が頻発する
- 利益目標を達成していないから 「チャレンジせよ (コストを下げろ) 」 とは、問題解決の体をなしていない
- 問題箇所を特定し、問題の構造要因と本質まで掘り下げてから解決策を設定すべき
病巣 - 巨大電機産業が消滅する日 (江上剛)