今回は、ファーストリテイリングの柳井さんの言葉と、ドラッカーの言葉をつなぎ、企業活動やマーケティングの本質に迫りたいと思います。
ファストリ柳井さんの原点重視
ファーストリテイリングの2023年8月期の決算会見で、次の2024年8月期にはファストリの連結売上高3兆円を超える見通しが示されました。
3兆円という大台が現実的になっても、柳井正会長兼社長は決して高揚感をみせる様子はありませんでした。会見では柳井さんはこれまで以上に、商売の原理原則、地道な努力を繰り返すことを訴え続けました。
決算会見での柳井さんの発言をいくつか見てみましょう。
一枚一枚、毎日毎日、こつこつと作り続けてきた。そこには何の秘訣も、楽にゆける近道もない。店舗が1店舗でも1万店舗でもやることは同じ。日本企業の生きる道はこうした真摯な精神しかない
10兆円への具体的な戦略を問われた際には、柳井さんは次のように答えています。
道筋は見えていませんよ。世界中で商売をして各地のいいものを取り出せば、10兆円はみんなが考えるほど難しいことではない。それは1店舗ずつ、1単品ごと、本当にいい商品でいいサービスで満足してもらう。お客さんが全部決めることなんで我々はそれに向かって努力するだけだと考えています
自身の後継者に必要な条件という質問には、以下のような返答でした。
経営というのは服を変え、常識を変え、世界を変えていくというんですけど、その前に普遍的な原理原則、僕は真善美 (しんぜんび) と言うのですけど、人間の良識的なものですよね。それを大事にした経営、それと売り場の人が主役になるような、そういう経営をやってもらえたらいい
柳井さんの発言には、商品、お店、人を1つ1つ愚直に取り組んでいくというユニクロやご自身の原点をあらためて重視している印象が見て取れます。
お客さんに価値をもたらし、喜んでもらったその先に、年間売上5兆円や10兆円が見えてくるという、達観の境地を感じます。
ドラッカーのマーケティング論
ここまで、ファストリの2023年8月期の決算会見での柳井さんの発言を見てきました。
柳井さんの言葉である、「1店舗ずつ、1単品ごと、本当にいい商品でいいサービスで満足してもらう。お客さんが全部決めること」 とつながるのは、ドラッカーの指摘です。
現代の経営[上](P F ドラッカー, 上田惇生) という本に書かれていたことです。
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企業の目的は 「顧客の創造 (create a customer) 」
ドラッカーは 現代の経営[上]の中で企業の目的を 「顧客の創造」 と言っています。
企業とは何かを理解するには、企業の目的から考えなければならない。
企業の目的は、それぞれの企業の外にある。事実、企業は社会の機関であり、その目的は社会にある。企業の目的として有効な定義は一つしかない。すなわち、顧客の創造である。
市場は、神や自然や経済によって創造されるのではなく、企業によって創造される。
ドラッカーは企業の目的をたった一言で 「顧客の創造」 と断言しています。
ちなみにもともとの英語の原文では 「the purpose of business is to create a customer」 と表現されています。注目したいのは、顧客を customers と複数形ではなく、単数形で 「a customer」 としていることです。まずは1人のお客さんからつくっていくべきであると。
顧客の創造とは1人ひとりのお客さんを獲得し積み重ねていくことで、これが企業の目的になるとドラッカーは主張しているのです。
企業の2つの機能
ドラッカーは企業の目的を 「create a customer」 とした上で、企業には2つの基本的な機能があると言っています。
企業の目的が顧客の創造であることから、企業には二つの基本的な機能が存在する。すなわち、マーケティングとイノベーションである。この二つの機能こそ起業家的機能である。
マーケティングは企業に特有の機能である。財やサービスを市場で売ることが、企業を他のあらゆる人間組織から区別する。教会、軍、学校、国家のいずれも、そのようなことはしない。
財やサービスのマーケティングを通して自らの目的を達成する組織は、すべて企業である。逆に、マーケティングが欠落した組織やそれが偶発的に行われるだけの組織は企業ではないし、企業のようにマネジメントすることもできない。
マーケティング活動の範囲
では、ドラッカーのマーケティングの捉え方を見てみましょう。企業の中でのマーケティングの位置づけについてです。
マーケティングは企業にとってあまりに基本的な活動である。
そのため、強力な販売部門をもち、そこにマーケティングを任せるだけでは不十分である。マーケティングは販売よりもはるかに大きな活動である。それは専門化されるべき活動ではなく、全事業に関わる活動である。
まさにマーケティングは、事業の最終成果、すなわち顧客の観点から見た全事業である。したがって、マーケティングに対する関心と責任は、企業の全領域に浸透させることが不可欠である。
ドラッカーが書いているのは、マーケティングは専門化された機能にとどまらず全社的に関わる活動だということです。
マーケティングとは
マーケティングの本質
ドラッカーの主張はマーケティングとは何かに示唆があります。
結論から先に言うと、マーケティングとは 「お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般」 です。
マーケティングのことを 「活動全般」 と表現していますが、ドラッカーの話の文脈にも沿っています。マーケティングは社内の一部門だけがやるものではなく、会社全体で取り組む活動であるべきものです。
お客さんから選ばれる活動
ドラッカーの言う企業の目的は 「顧客の創造 (create a customer) 」 でした。
A customer という1人のお客さんを獲得するためには自分たちがお客さんから選ばれることが必要です。それもたまたまの偶然で選ばれるのではなく意図的に選ばれる状況を目指し、そうなる仕組みをつくることが求められます。
今回の前半でご紹介した柳井さんの言葉には 「1店舗ずつ、1単品ごと、本当にいい商品でいいサービスで満足してもらう。お客さんが全部決めること」 とありました。商品、お店、人を1つ1つ磨き続け、お客さんに価値を提供した結果、自分たちは選ばれ、1人ひとりのお客さんをつくっていった先に3兆円を超えたもっと大きな売上を達成できるという考え方です。
起点になっているのは、お客さんから選ばれるための活動の積み重ねです。
たとえ自分はマーケティング部門に所属していないとしても、また、直接的にお客さんと接する機会がない部署においても、各業務は 「お客さんに選ばれるため」 につながっていることが大事です。
「自分 (たち) がやっている仕事は、最終的にお客さんに選ばれることにつながっているか」 。
マーケター、ドラッカーの考え方で言えば全てのビジネスパーソンが持っておきたい問いかけです。
まとめ
今回はファストリの柳井さんの決算会見での言葉、ドラッカーの言葉を結びつけ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ドラッカーは企業の目的を 「顧客の創造 (create a customer) 」 と定義し、1人ひとりのお客さんを大切にすることが企業活動の根本であると説いた
- マーケティングとはお客さんから選ばれるために全社的に取り組む活動
- マーケティング部門だけではなく、どの部署においてもやっている業務は最終的にお客さんに選ばれることにどうつながっているかに立ち返り、マーケティングを会社全体の活動として位置づける
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