今回は小説をご紹介します。タイトルは、食王 (楡周平) です。
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この小説からは、マーケティングで大切にしたい姿勢、筋の良いビジネスモデルをどうつくるかに学びがありました。
本書の概要
この本はビジネス小説です。
大手外食チェーンの創業者でオーナー社長である主人公の梅森大介は、文字通りの裸一貫から全国展開をする寿司チェーンを築き上げた立志伝中の人物です。
梅森は、かつて恩を受けた築地の仲卸会社のある社長から中古ビルを購入しました。しかし、このビルは麻布の一等地ですが裏通りに面し、飲食店を入れれば決して繁盛しないと業界から見られている場所にありました。
このビルを中心に、様々な人の思惑や志が入り混じり、ビルを活用する新しいビジネスが生まれていく物語です。
学べること
顧客起点の大切さ
ビジネス小説 「食王」 から学べるのは、お客さん起点に考えたりものごとを捉える重要性です。
売り手の視点では、売上を伸ばすことに目が行きがちになりますが、まずお客さんに喜んでもらうことに重きを置くべきです。
小説の物語では、飲食業界で一代で成功を収めてきた要因は、お客さんに満足してもらうか、喜んでもらうかを追い求めてきたことでした。決して 「いかにカネを儲けるか」 という態度ではなく、「どのようにしてお客さんに価値を提供するか」 という姿勢で一貫してきました。
絆の重要性
「食王」 という小説は、人と人との絆の重要性も教えてくれます。
物語の中で梅森は、かつての恩人に報いるための行動を取ったのですが、部下などの周囲の人間の多くはその決断を疑問に思いました。
しかし詳細は省きますが、経営している会社のターニングポイントにつながっていきます。当初は恩を受けた人への義理立てからだったので事業での勝算がないビル購入でしたが、結果的に自身にも返ってくるという 「情けは人のためならず」 の諺が現実のものとなっていくのです。
ビジネスでは良い関係性を築き、恩を返す心がけが予想外の好循環を生み出します。人からの恩は大切にし、その恩を返そうとする態度がめぐりめぐって自分自身にとっても良い結果を生むということです。
ビジネス創出の源泉
ビジネスをつくり出すもとになるのは、原体験や問題意識です。
小説の物語の中で梅森や他の登場人物が直面した困難や問題が、新たなアイデアやビジネスチャンスを生み出すきっかけとなりました。
ここから学べるのは、視野を広げ、多様な視点を持つことの大切さです。異なる背景を持つ人の意見がぶつかり合うことで、1人では思いつかなかったビジネスアイデアが生まれます。
ビジネスモデルの構築
ビジネスモデルの観点でも学びがありました。ステークホルダー全員に利益があるビジネスモデルを構築できるかという視点です。
小説の物語で生まれた新しい事業構想は、関わる全ての人にベネフィットをもたらすことを目指しています。梅森の経営する会社、他には金沢の老舗の懐石料理店、震災を経て復興に尽力する東北地方の人々などです。
事業がスケールし拡大していき、その成功が新しいビジネスアイデアや次の新規事業に波及していくという好循環になるビジネスモデルは、人々を巻き込む力があります。
新規事業では、波及効果があるビジネスにすることを想定し、大きな絵を描きつつ、はじめは小さく始めるという 「Think big, start small」 です。
三方よしのビジネスモデル
筋の良いビジネスモデルは、次の5つの要素がきれいにつながっているものです。
✓ ビジネスモデルの要素
- お客さん
- 顧客が抱える課題や解決したい問題
- 問題の解決策 (商品やサービス)
- お客さんが得る価値 (提供価値)
- 収益モデル (お金の流れ)
5つを 「食王」 の中で出てくるビジネスに当てはめてみましょう。
- お客さん
飲食店の来店客だけではなく、テナントに入居する飲食店オーナーや働く人、飲食店に食材を提供する会社や人 - 顧客が抱える課題や解決したい問題
東京の消費者にとって、地方のポップアップストアはあるが色々な場所に点在するために一度に行ける範囲は限られる。手軽に地方の名産を楽しむ機会が限られる。
飲食店オーナーは東京に出店をしたいと思っても、出店コストや家賃などの固定費が高くお店を持てない。
地方の食材業者や農家・漁業者は、名産や食材の品質・味には自信があるものの、他県での知名度がなく販路がない。地方での雇用をつくりたい - 問題の解決策 (商品やサービス)
※ ここは物語の肝なので詳細は省きますが、立地が悪いビルを有効活用した新ビジネスです - お客さんが得る価値 (提供価値)
来店客 (消費者) はここでしかできない飲食体験ができる。
飲食店オーナーは良好なビジネス環境を手に入れられ、食材提供者は安定した取引先を得ることができる - 収益モデル (お金の流れ)
収益は、来店客からの支払いが継続的に入り、飲食店と食材提供者へもたらされる。出店企業やオーナーは賃料や人件費などの出店コストを払っても、それ以上の売上から安定的な利益が得られる。ビルオーナー、テナントの飲食店、そして食材供給者の各々が収益を上げる機会が生まれる
小説で描かれるビジネスモデルには 「三方よし」 という、売り手よし、買い手よし、世間よしがあります。
まとめ
今回はビジネス小説 食王 (楡周平) をご紹介し、学んだことを見てきました。
最後に学びのポイントをまとめておきます。
- マーケティングで大事な姿勢・態度は、お客さん起点でものごとを捉えること。売上を追いかけるよりも、お客さんの満足を優先する。お客さんから 「買いたい」 と思ってもらい、喜んでもらうことで結果として売上はついてくる
- 小説から学べるのは人と人の絆や恩を大切することの重要性。人から助けられたりした恩をいつかは返そうとする態度、実行した行動がまわりも自分も豊かにする
- 筋の良いビジネスモデルには 「三方よし」 がある。お客さんが抱える課題や問題が解決され、ビジネスのステークホルダーも含めたお客さんがそれぞれに恩恵を得る。価値創出が収益につながる
この本は、マーケティングの視点からも学びが得られます。
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