#マーケティング #顧客設定 #4P
ビジネスの基本は 「顧客は誰か」 を定めることです。
注力顧客を絞ることは、最初からお客さんを減らすように感じてしまうかもしれません。しかし、本当に大切にするお客さんを見極め、顧客ニーズに徹底的に応えることで、競争が激しい市場でも独自のポジションを築くことができます。
神奈川県を拠点にする食品スーパー 「ロピア」 は、キャッシュレス決済が普及する中、現金オンリーにこだわっています。その選択の裏には、注力顧客を自然と明確にできる巧みな戦略が隠されていました。
ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
食品スーパー 「ロピア」
ロピアは、神奈川県を拠点に店舗数を急拡大させている食品スーパーマーケットチェーンです。
1971年に藤沢市で精肉店 「肉の宝屋」 として創業して以来、最近は首都圏だけでなく全国各地へと出店を進めています。やや大きめのサイズの商品をそろえる独自のスタイルから 「日本版コストコ」 と評されるほどです。
圧倒的なボリューム感
まず目に留まるのは、食品のボリューム感です。
精肉コーナーは祖業が肉の専門店だったこともあり、牛肉や豚肉などは1キロ単位の塊のサイズが並びます。そのほか鮮魚や総菜コーナーでも 「10個入り」 や 「大判サイズ」 などの大容量商品が多く、家族向けやまとめ買いを好む消費者のニーズをしっかりと捉えています。
弁当類もトレーが上げ底ではなく量がしっかりと入ったものが多く、「大盛りが当たり前」 「食べ応えがある」 といったイメージが定着しています。
個店主義
さらにロピアの特徴は、店舗運営の 「個店主義」 であることです。
一般的に、大手スーパーでは店長が全てを総括し、マニュアルに沿って運営します。しかしロピアの場合、精肉・鮮魚・青果といった各部門のチーフが、仕入れから価格設定、売場構成まで裁量を持っています。
これにより店舗ごとに棚の顔ぶれや商品のサイズ展開が異なります。同じロピアでも、ある店舗では精肉をさらにボリューム重視で展開し、また別のロピアは人気の生鮮商品を目玉特価で並べるなど、店舗ごとの違いが見られます。良い意味での雑多さや粗っぽさが買い物客を楽しませ、また来たくなるレジャー感を演出します。
コストカット
ロピアはコストカットの取り組みもユニークです。
たとえば店内カートに導入されている 「コイン式カート」 です。ロピアでは、カートを利用するには100円を投入し、買い物後にカートを指定の場所に戻すと100円が返ってくるという仕組みを採用しています。
利用者自身がカートをきちんと所定の場所まで片付けるインセンティブとして働き、ロピアにとってはカート回収の作業を減らすことができます。
もうひとつ注目したいのは、ロピアはレジでの支払い方法を基本的には現金オンリー (一部店舗で電子マネーを実験導入している場合もある) としていることです。
これもコスト削減に寄与しています。というのは、クレジットカードの利用手数料は一般的に 3% 前後とされ、薄利で大量販売が前提のスーパーにとっては手数料負担が少ないないからです。来店客の支払いを基本的に現金のみとする手数料カットは、ロピアが目指す 「低価格の理想郷」 につながります。
大容量志向、大胆な個店主義、そしてコスト削減策と、こうした仕組みが一体となってロピアの成長を支え、「日本版コストコ」 と呼ばれるまでの強い存在感を示しています。
ではここからは、現金オンリー、そこから想定されるロピアと消費者との顧客関係について、マーケティングの視点から紐解きます。
支払い方法の制限がもたらすターゲット層の明確化
マーケティングを考えるとき、製品 (Product) 、価格 (Price) 、流通 (Place) 、プロモーション (Promotion) の 4P が基本となります。
Price と注力顧客
ただし、マーケティング 4P の中心には 「自分たちが大切にするお客さんは誰か」 という問いがあるべきです。
ターゲットとなる注力顧客を明確にするからこそ、適切な 4P が定まります。4P をどのように組み立てるかによって、結果的に自分たちが向き合う顧客層も変わってきます。
ここで食品スーパーマーケットチェーンのロピアに話をつなげると、ロピアは 「Price」 の面で も特徴を持っていました。現金という支払い方法の限定です。
クレジットカードや電子マネー、QR 決済サービスといったキャッシュレス決済を基本的には導入しないことによって、現金ではなくキャッシュレスとしたい消費者は来店しづらくなります。キャッシュレス利用率には所得の高さや IT リテラシーの高さが相関し、ロピアが現金のみでの支払い方法を採ることで、高所得層やデジタルでの利便性を重視する層の足が遠のくのは自然な流れでしょう。
一方、現金オンリーにより、低価格を好み、現金での支払いに抵抗がない消費者が必然的に集まりやすくなります。
注力顧客を絞る仕組み
現金オンリーを貫く方針により、結果的にロピアでは来店客層が選別されています。
キャッシュレスやクレジットカード払いに慣れた層は 「現金での支払いはわずらわしいのでキャッシュレスアプリで支払いたい」 や 「クレカでのポイント還元がないならロピアに行きたくない」 と考えるかもしれません。しかし、そもそもロピアが注力したいお客さんは 「量を重視して家で料理をがっつりする層」 や 「とにかく実際の食卓が潤うことに価値を感じる層」 でしょう。
こうした人たちはキャッシュレスの利便性やポイント還元よりも、現金支払いでも安価で大容量を求める傾向が強いことでしょう。言い換えれば、現金オンリーであることでキャッシュレスの利便性やポイント還元を優先する層よりも、代わりに価格と量を重視する層が集まりやすくなる構造をロピアはつくっているわけです。
ターゲットとなる注力顧客が、低価格を優先し、現金払いの手間を不便に感じない層であるからこそ成り立ちます。
「顧客は誰か」 を定める
マーケティング 4P は 「自分たちが本当に大切にする顧客」 を最初に想定し、そのニーズに合わせて商品設計や価格設定、販売チャネル、宣伝を整えていくのが基本です。
他方で、4P を先に定義した結果として 「自然とそのようなお客さんだけが集まる」 という逆のプロセスもあり得ます。
ロピアの場合は、創業時から精肉のボリューム販売を得意とし、低価格の理想郷を目指す形へ発展しました。ここに現金オンリーという壁を設定することによって、高所得層やキャッシュレス派からは自然に敬遠され、結果的に自分たちにとって来店してほしい客層がお客さんになっています。
もちろん、この戦略が全ての客層にウケるわけではありません。キャッシュレスで支払えないから不便などの理由で好ましく思われない面は否めません。しかし、それでもロピアの売上規模が右肩上がりを続け、新規出店も続いているという事実は、特定の顧客セグメントから確実に支持を得ている証拠です。
スーパーマーケットという成熟産業の中で、明確にターゲットを絞り、お値打ち価格とボリュームに振り切った戦略を取っている例はそう多くないでしょう。だからこそ、いつ行っても大盛り祭りのような光景が店内で広がり、ロピアでの買い物が楽しくなる体験を消費者にもたらすわけです。
ロピアの事例は 「自社のお客さんは誰か」 を定め、注力顧客が望むものに徹底的にリソースを投入することの重要性を示しています。
価格や販売チャネルからのマーケティング戦略を設計するときに、すべての人に好かれるのではなく、特定の注力顧客層に特化して自社の強みを最大化することが、ロピアの躍進を支える要因となっているのです。
まとめ
今回は、神奈川を地盤にする食品スーパーの 「ロピア」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 自分たちが大切にしたいお客さんを明確にすることで、商品の価格やサービスの方向性などのマーケティング 4P を顧客ニーズに最適化できる
- 食品スーパーマーケットのロピアは、キャッシュレス決済を導入しないという方針とし、逆説的に自社の注力したい顧客層 (価格と量を重視する層) をお客さんとする仕組みを確立している
- 全ての顧客に支持される必要はなく、特定の顧客層に絞って自社の強みを最大化することによって、そのお客さんから選ばれる存在になれる
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