#マーケティング #KPI #累積トライアル率
どれだけ多くの人に一度でも買ってもらえたが、商品やサービスの成長のカギを握ります。
ヘアケア商品を展開する I-ne (アイエヌイー) は、市場浸透 (シェア) とロイヤルティの関係を捉えた KPI を設計し、効果的に運用しています。
I-ne をケーススタディとして、KPI をキーワードに再現性あるヒット商品を生み出す仕組みづくりを考えます。
I-ne の KPI 設計
I-ne はヘアケアの 「BOTANIST (ボタニスト) 」 や 「YOLU (ヨル) 」 などの人気ブランドを展開しています。成功の背景には、ある指標を使ったマネジメント手法があります。
KPI として 「累積トライアル率」 を採用
結論からいうと、I-ne が KPI (重要業績評価指標) として重視している指標が 「累積トライアル率」 です (参考情報) 。
累積トライアル率とは、その商品の発売以降で 「お店への全来店者のうち、購入したことがある人の割合」 です。累積なので、同じ人が2回以上購入しても1人としてカウントされます。
累積トライアル率が高いほど、多くの消費者が商品を買ってくれ試しているということです。その商品が市場に浸透していることを示します。競合商品は含まれていませんが、自社商品の市場シェアに近い概念です。
導入された背景
I-ne が累積トライアル率という KPI を取り入れた背景には、過去にオンラインに偏った KPI 設定でうまくいかなかった経験があります。
EC モールのランキングで上位を取ることに注力し、はじめの段階では機能していました。しかし、やがてオンラインで KPI を達成しても、店頭 (オフライン) での売上が伸び悩む事例が増えたとのことてす。オンラインからお店への展開や波及が思ったほど伸びず、最終的なシェア獲得にはつながりにくい状況になったわけです。
そこで I-ne は、全体の収益を伸ばすために市場全体でどれだけ多くの人が商品を買ったかに注目することにしました。
自社商品を一度でも試してもらえれば、良さが伝わり次の購入にもつながりやすいという仮説から分析したところ、オフライン店舗ではまず新規顧客を取り込むことが売上に直結することが分かり、KPI とする累積トライアル率に行き着きました。
ダブルジョパディの法則との関連
I-ne が累積トライアル率を重視する意図の中に、経済学者のバイロン・シャープ氏による 「ダブルジョパディの法則」 を考慮している点もあります。
ダブルジョパディの法則とは、市場シェアの大きいブランドほどリピート率も高いし、ロイヤルティも得やすいというものです。つまり、多くの人が買っているブランドは、それだけ続けて2回3回と買ってくれ、かつ親近感や愛着を得やすいということです。裏を返せば、シェアが低いブランドはリピート購入が起こりにくくロイヤル顧客も少ないとされます。
ダブルジョパディの法則では、市場に浸透したほうが顧客ロイヤルティは高まるという構図になります。そこで大事なのはまず多くの消費者に商品を試してもらい、市場全体で 「一度は買ったことがある人」 をどれだけ増やせるかです。
I-ne の累積トライアル率は、このダブルジョパティの法則に則っているかを確認できる指標です。
KPI にもとづく施策
I-ne が累積トライアル率を追うべき指標として中心に据えています。この KPI を達成するために、I-ne は具体的には以下のような施策を展開しています。
- 自社商品が売られている店舗数を増やす。置かれている棚を広げ、店頭の目立つ場所に商品を配置する (加重販売店率を高める取り組み)
- 消費者が実際に購入を検討する際に、手に取りやすい場所に置く
✓ コミュニケーションの訴求力向上
- パッケージデザインやキャッチコピーなどから、消費者が手に取ってみたいと思うきっかけをつくる
- いかにパッと見て瞬間的に興味を引け、初回購入のトライアルをしてもらうかがカギを握る
✓ SNS や広告での認知・理解促進
- トライアルを促すために広告やタイアップ記事、口コミを活用し、商品の魅力を伝える
- 認知を高めてどんな商品なのかを理解してもらう
このような施策によって累積トライアル率を上げていき、結果としてシェア拡大とリピート購入、ブランドロイヤルティの獲得につなげるのが I-ne のマーケティングです。
学べること
では、I-ne の KPI 設定から、学べることを掘り下げていきましょう。
累積トライアル率を KPI に設定するメリット
累積トライアル率を重視することで得られるメリットを整理してみます。
市場浸透度を客観的に把握できる
売上や利益率だけでは、どれほどの人が実際に商品を試しているのかが見えにくいという側面があります。
一方の累積トライアル率をチェックすれば、来店者のうち何割の人が一度は買ってくれたのかという、市場浸透に近い指標で浸透度合いを把握できます。
累積トライアル率を見ることにより、たとえば 「まだトライアルしていない層はどんな層なのか」 についての分析を進められ、新規客拡大の施策が取りやすくなります。
施策の再現性が上がる
なぜこの商品はヒットしたのかを振り返りをする際、成功した商品とそうでない商品を比べたることが有効です。
累積トライアル率から新規購入者がどのタイミングで増え、どんな広告や販促のときに、どの販路が効果的だったかを分析すれば、ヒット施策のパターンを見出すことができます。得られた知見を組織内で共有もしやすいです。
こうした振り返りからの学習を繰り返し蓄積していくことによって、新ブランドや新製品の発売時に向けて応用でき、継続的にヒットを生み出す仕組みをつくれます。
KGI と KPI と KAI をつなげる
マーケティングや事業推進での指標の設計には、一番上に KGI (Key Goal Indicator (重要目標達成指標) ) を置き、その下に KPI (Key Performance Indicator (重要業績評価指標) ) がきます。
そして KPI にもとづいて KAI という Key "Action" Indicator (重要行動指標) まで設定するといいです (KAI はあまり見聞きしないと思いますが、私は結構大事にしてます) 。KPI を設定するだけでなく、KPI を達成するための日々のアクションに対する指標となる KAI もセットで設計することが大事です。
KAI は 「原因」 、KPI は 「結果」
KAI は行動を測る指標です。例えば、店頭プロモーションの実施回数、SNS での投稿回数、商談の実施数など、担当者やチームがコントロールしやすいものです。
KAI と KPI の関係は、起点や原因の指標となる KAI を高めることにより、結果指標である KPI の達成が近づくという構造です。
KPI はあくまでもアクションをした後の結果を見る指標です。結果を左右する要素を実行できる具体的な行動レベルに起こし込んでいなければ、KPI を改善しようとしても、どこに手を打てばいいのか分からなくなります。
KAI の実行と改善を積み上げ、KPI に寄与し、最終的に売上や利益などの KGI を達成するという流れが理想です。
まとめ
今回は、I-ne の KPI 設計の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- I-ne は市場浸透度を測る重要な KPI を 「累積トライアル率」 としている。一度でも商品を試した人の割合を累積で把握する指標
- 累積トライアル率はシェアの高いブランドほどリピート率も高いという 「ダブルジョパディの法則」 にもとづく。まずは多くの人に商品を試してもらい、市場での浸透率を高めることがロイヤルティ向上のカギを握る
- 追うべき指標の管理は KGI (最終ゴール) 、KPI (成果指標) 、KAI (行動指標) を体系的に設計し、ゴール、成果、行動を紐づける
- 成功した施策を分析し、施策の再現性を高めることでヒットの仕組みをつくることで継続的な成功に実現する
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