#マーケティング #未充足ニーズ #コアバリュー
自社の商品やサービスは、本当にお客さんが求める 「本質的な価値」 をもたらしているでしょうか?
市場でのこれまでの常識や競合他社の動向に目を奪われすぎていないでしょうか?
企業が陥る罠は、業界の 「当たり前」 に安住してしまうことです。ご紹介したい I-ne (アイエヌイー) の新しい柔軟剤ブランド 「ReWEAR (リウェア) 」 の事例は、当たり前を疑い従来の柔軟剤とは一線を画すコンセプトを打ち出しました。
I-ne はどのようにして新たな価値を生み出したのでしょうか。ぜひ一緒に探っていきましょう。
I-ne の柔軟剤の新ブランド ReWEAR
I-ne が柔軟剤市場に再参入しました。新しいブランド名は ReWEAR (リウェア) です。
開発背景
I-ne は BOTANIST (ボタニスト) や SALONIA (サロニア) など、美容やライフスタイルに関連するブランドを展開している企業です。
I-ne は、実は過去に FULLERY BOTANICAL (フレリーボタニカル) というブランドで柔軟剤市場に一度挑戦したことがありました。しかし、当時は計画通りの販売に至らず、製造を中止してしまったという経緯があります。
そのリベンジとも言える今回の ReWEAR は、コンセプトを 「洗うたびに衣類がよみがえる再生ファブリックケア」 に掲げています。ちなみに、製造を中止した FULLERY BOTANICAL は 「香りは心を洗い情景を彩る」 という情緒的な価値をコンセプトに、香りのやわらかさを第一に訴求していました。
ReWEAR のコンセプトとなる 「衣類再生柔軟剤」 は、I-ne の事業戦略とサステナビリティの両立を前提とする 「Social Beauty Innovators」 という I-ne の考え方にも合致します。
ReWEAR のコンセプトの背景には、衣類廃棄への解決すべき現状や、消費者のサステナブルの意識への高まりから 「服をできるだけ長く大切に着たい」 という消費者ニーズもあるでしょう。
こうした市場環境を捉え、ただ香りを楽しむだけではなく、衣類そのものをケアして長持ちさせるという新しい切り口から、I-ne は柔軟剤市場への再参入を果たしました。
商品の特徴
ReWEAR の特徴は、デンマークで開発された酵素を主成分として配合している点です。
この酵素が、衣類のけば立ちや毛玉ができてしまった部分にだけ作用して繊維を分解します。毛玉やけば立ちを除去し、洗濯を繰り返すほどに衣類がなめらかな質感へ近づくことが期待できる柔軟剤です。
従来の柔軟剤では 「香り」 を軸に展開する製品が多い中、ReWEAR は機能面を打ち出しています。衣類の再生を目指すという機能です。
香りも 「クラシックローズ & ムスク」 と 「フレッシュシトラス & グリーン」 の2種類を用意しており、香りを楽しめるようにはなっているものの、香りだけの柔軟剤ではなく衣類を大切にできる本質的な価値を提供したいという狙いを見てとれます。
環境への配慮も ReWEAR の特徴です。衣類の毛玉やヨレが気になって着なくなった服が増えてしまうと、捨てる量も多くなります。ReWEAR を使い着られる期間が少しでも伸びれば、廃棄の削減といったサステナブルな面でもメリットにつながります。
学べること
では、I-ne の柔軟剤の新ブランド 「ReWEAR」 から、学べることを掘り下げていきましょう。
事例からの学びは、そのカテゴリー本来の 「根本的な便益」 を再確認し、そこにこそ顧客価値をもたらすことで競合優位性を打ち出せるという点です。
カテゴリーの本質的ニーズの見極め
それぞれのカテゴリーごとに、製品やサービスの訴求内容が定着しているケースは少なくありません。
柔軟剤であれば、パッケージや CM を見ても、ふんわり感、いい香り、おしゃれな容器などを各社が強調しています。このように従来の柔軟剤では、「香り」 や 「使用感」 のことを各製品が特徴をアピールするポイントでした。
一方の I-ne が ReWEAR で選んだアプローチは、「衣類再生」 という機能を中心にすることです。いわば市場でまだ捉えきれていなかったニーズを捉える戦略でした。
ReWEAR が示すのは、カテゴリー本来の根本的な求められる便益に焦点を当てることが、競合優位性を生むカギであるということです。
ここで重要なのは、カテゴリーでの本質的な役割となる 「消費者がその製品・サービスを本当に必要としている理由」 をあらためて問い直すことです。
多くの柔軟剤が良い香りを重視している一方で、ReWEAR は衣類をケアして質を長く保つという、より本質的な役割にフォーカスしました。良い香りも大事ですが、衣類のダメージが目立つようになって、せっかくのお気に入りの服が着れなくなるという現実的な悩みのほうが、衣類を日常的に使う人にとってはより深刻な場合もあるでしょう。
柔軟剤ならば、衣類を傷みにくく、より長く快適に使えるようにすることが、本来の役割といえます。ReWEAR はこの部分を深掘りし、実は毛玉やけば立ち、色あせを抑えることが消費者にとって最優先なのではないかという発想に至りました。
未充足ニーズに刺さる顧客価値の提案
カテゴリー内での製品の本来の役割を見定めたら、どうやって 「ど真ん中のニーズ」 となるようなコミュニケーションをしていくかが大事になります。
これまでの柔軟剤では、気分を変えられるような香りや、洗濯後の服のふわふわ感をどれだけ出せるかが消費者への訴求点でした。消費者にとっても柔軟剤とはこういうものであるという固定観念ができている状態です。
それに対して、衣類をもっと大事に使いたい、お気に入りの服を長持ちさせたいという消費者の望みを、柔軟剤によって叶えられるということを消費者に知ってもらう必要があります。
I-ne の ReWEAR は、衣類をよみがえらせるという印象的なコンセプトを掲げ、消費者への衣類へのより本質的なニーズにアプローチしました。消費者からの 「そうそう、着るたびに洗濯をすると、すぐダメになっちゃうからお気に入りの服は着るのを我慢してたんだよね」 という気持ちに応えようとしています。
付加価値ではなく、中核的価値 (コアバリュー) で勝つ
製品やサービスの開発やマーケティングでは、競合製品との差異化を図るために機能性・デザイン性などの付加価値に注目しがちです。
柔軟剤であれば香りがそれです。柔軟剤は本来は、名前の通り衣服をやわらかくし、服の肌触り感を良くするなど素材をより良く維持するためのものです。このようなカテゴリーで求められる中核的価値 (コアバリュー) は、消費者が求める根本的な便益そのものです。
ReWEAR が打ち出した 「衣類を再生し、長く着続けられるようになる」 という便益は、他の柔軟剤がまだカバーしていない顧客価値です。そこには大量生産・大量消費による環境負荷をやわらげるというサスティナブルな時代の潮流とも合う要素も含まれます。
ReWEAR から学べるのは、カテゴリーで本来求められる便益を見極め、自社製品のコアバリューを再定義し、お客さんの心に響く提案をすることの重要性です。
まとめ
今回は、I-ne の柔軟剤の新ブランド 「ReWEAR (リウェア) 」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- カテゴリーの本質的ニーズを見極める。今の市場にある 「当たり前の訴求ポイント」 にとらわれず、本来の役割 (柔軟剤なら衣類の品質維持) に焦点を当て深掘りすることにより、新たな価値創出につながる
- 未充足ニーズに刺さる顧客価値を提案する。消費者が今なお抱えている悩み・困りごとにフォーカスし、解決する商品を提供することで新たなポジションを築ける
- コアバリュー (中核的価値) で勝つ。付加価値の前に、そのカテゴリーの商品が本来持つべき価値を強化することによって、持続的な競争優位性を発揮できる
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