マーケティングの本でおすすめの1冊が エスキモーに氷を売る - 魅力のない商品を、いかにセールスするか です。
本書の内容
以下は、本書の内容紹介からの引用です。
なかなかおもしろいタイトルだが、その内容は営業のノウハウというよりは、マーケティングよりである。
著者のジョン・スポールストラは、NBA (全米バスケットボール協会) で観客動員数最下位だったニュージャージー・ネッツを、27球団中チケット収入伸び率1位にまで導いた人物である。
本書の魅力は、このスポーツビジネスを通して彼が商品を売るためにとった数々のマーケティング手法を、そのドキュメンタリーのなかで学ぶことができるところにある。
魅力のない商品に付加価値を
サブタイトルは 「魅力のない商品を、いかにセールスするか」 です。魅力のない商品として本書で扱われるのは NBA チームのニュージャージーネッツでした。著者はネッツの社長兼 CEO として、マーケティング施策を展開します。
その内容は奇をてらったものではなく、基本に忠実に1つ1つを実行していった印象を受けました。
どうやってお荷物球団の魅力を高めたか
本書の一番最初に書かれているのが、自分たちが提供するものは顧客にとってどのような価値があるかを明らかにすることです。
ニュージャージーネッツの場合は対戦相手でした。マイケル・ジョーダンやシャキール・オニールなどの NBA を代表するスターがいるような人気チームです。ネッツのホームゲーム観戦で人気チームが見られることに価値を見出したのです。
著者の言葉を借りれば 「ネッツを売り込むのではなく、対戦相手を売ろうとした」 わけです。
他にも興味深かった付加価値事例は、知名度の高い講演者のゲストスピーチをバスケットの試合前に行ない、講演と試合をセットにしたチケットでした。講演の追加料金は不要にし、対戦相手に魅力がないゲームでもゲストスピーチという付加価値を売ったのです。
結果は完売でした。著者曰く、講演者がネッツや対戦相手の魅力がないことを目立たなくした、とのことです。
価格を下げずに価値を上げる
もう1つ、おもしろいと思ったのは、値下げではなく別の価値をつけて価格を維持するやり方でした。同じコストでも値下げに使うのではなく、別のものを追加することにお金を使うアイデアです。
具体的には、チケットを値下げするのではなく、帽子やバスケットボールなどのネッツのグッズをチケットと一緒に売る。値段はチケットだけのときと同じです。チケット +α でも赤字にはならない範囲でです。
価値がない商品でも、価値を見い出す
本書のタイトルは 「エスキモーに氷を売る」 です。この表現はあくまでたとえで、エスキモーや氷そのものをどう売るかのことは本書では書かれていません (本来はイヌイットと表現すべきですが、このエントリーでは本書に合わせてエスキモーとしています) 。
ポイントは、相手にとっては一見すると何の価値もない商品を、そのまま無理やりに売るのではなく、顧客視点で価値をつくり、それを魅力と思う顧客に適切にアプローチすることです。
マーケティングのたとえとして 「エスキモーに氷を売る」 と似た表現、「エスキモーに冷蔵庫を売る」 があります。
冷蔵庫は何を意味しているかと言うと、外に置いておくと凍ってしまう環境では、冷蔵庫に入れておけば凍らないことに価値があるということです。例えば、生の肉を凍らせずに、生で新鮮なまま冷蔵庫で保存できる価値です。
北極圏は普通にモノが凍るほど寒い世界です。その環境下での冷蔵庫の価値は、私たちの冷蔵庫への利用価値と違うのです。
「氷を売る」 と 「冷蔵庫を売る」 はそれぞれ違ったマーケティングの意味をたとえで表しています。ただし、顧客視点で価値を提供するという本質は共通しています。
誰に売るか (ターゲット顧客)
本書での NBA のチームであるニュージャージーネッツに話を戻します。
ターゲットにした顧客は 「ネッツに関心のある人たち」 でした。著者はこのセグメントを重視し、「ただ一つのセグメント」 と表現します。
著者がネッツの社長に就任した当時、前年のシーズンチケット購入者リストが社内でデータベース化がされていませんでした。
過去にチケットを買ってくれた顧客であるにもかかわらず、アプローチがうまくできませんでした。この状況で著者は、既存顧客一人ひとりにあと少しだけ買ってもらうという 「カンフル策」 が大切だと説明します。
カンフル剤とは、顧客を新規顧客と既存顧客に分けたときに、まずは既存顧客に適切にアプローチをすることでした。「誰も欲しがらない商品」 に対して、
- 顧客にとっての価値を見出し、買わずにはいられない商品にする
- 顧客が買いたがる商品だけを売るように努めよ
- 顧客が買いたがるより少しだけ多く売るように努めよ
新規顧客には、社長自らが率先して動いたエピソードが紹介されます。既存顧客に比べて新しい顧客を獲得するのは難く、時にはクレイジーな予算も投入する必要性を説きます。
投資対効果を常に見る
著者が本書で何度も強調していたのは投資対効果でした。その費用コストや投資に対して、何ドルの収益を得られたかを明らかにすることの重要性です。1ドルの投下に対して、直接の収入が何ドル得られたのかです。
マーケティングアイデアに対して、まずは小さく実行し投資対効果を見ます。例えば、広告掲載費用1ドルに対して少なくとも4ドルを超えれば、実施規模も大きくする、という投資判断です。
最後に
本書を読んであらためて考えさせられたのは、相手にとっては一見すると何の価値もない商品を、そのまま無理やりに売ることはしないことです。顧客視点で価値をつくり、それを魅力と思う顧客に適切にアプローチすることが本来です。
そのようなエピソードが書かれている本です。やり方はマーケティングの基本に忠実です。だからこそ、読み手にとって応用の効く内容になっています。