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買い物客はそのキーワードで手を伸ばす という本をご紹介します。
エントリー内容です。
- 本書の内容。価値創造型プロモーションとは
- 価値創造型プロモーションの方法と具体例
- 思ったこと
本書の内容
以下は本書の内容紹介からの引用です。
ハウス食品、ライオン、サントリー、エバラ食品をはじめ、いま多くの消費財メーカーが注目する 「価値創造型プロモーション」 。
深層心理を用いて消費者インサイトを引き出し、安売りに頼らずとも小売店頭での販売数を高める最新の販促手法を初めて公開。熾烈な価格競争でしのぎを削るすべてのマーケター、バイヤー必読の書。
価値創造型プロモーションとは
本書は、「価値創造型プロモーション」 について、具体的な事例から詳しく説明しています。
価値創造型プロモーションとは、消費者の深層心理 (インサイト) をベースにした価値を訴求する手法です。
価値創造型プロモーションが目指すのは、メーカー、小売、消費者で win-win の関係を築くことです。商品価値を正しく訴求するプロモーションによって、過度な値下げ競争に巻き込まれずに、適正な価格で商品を提供し続けることを狙います。
価値創造型プロモーションは消費者インサイトが出発点になります。インサイトについては、別のエントリーで詳しく解説しています。よろしければ、ぜひご覧ください。
なぜ価値創造型プロモーションなのか
価値創造型プロモーションの背景にある考え方は、「人が何を考え、どういう購買行動を起こすかを深く理解していないと、人の心やマーケットは動かせない」 ということです。
もう一つの背景の考え方は、低価格販促による中長期的な損失です。低価格の販促だけでは中長期では商品やブランドの価値を下げ、商品の短命化につながってしまいます。
価値創造型プロモーションは安売りとは一線を画します。単に店頭価格を値下げして売上数を確保するのではありません。人々の感情・気持ちや、行動に結びつく深層にある心理 (インサイト) に基づいた商品の価値を提案し、適正な価格で提供することを目指します。
店頭で安値という価格を競うのではなく、商品価値を競うために価値創造型プロモーションを活用します。
価値創造型プロモーションの方法
価値創造型プロモーションは、次のプロセスで進めます。
- デプスインタビュー
- ウェブアンケート
- 調査結果の分析・解釈
- プロモーション開発
- プロモーションの実施と評価
以下、それぞれについてご説明です。
1. デプスインタビュー
インタビューから消費者の深層心理を探ります。必要に応じて、調査範囲を絞るためのプレインタビューを別に実施します。デプスインタビューは10~15名程度、プレインタビューは5名程度です。
消費者が、本人も普段は気付いていないような感情やイメージ、カテゴリーや商品に対する認識を理解します。インタビューでは、多くの浅い情報ではなく、少なくてもいいので深い情報や理解を目指します。
2. ウェブアンケート
インタビューからの仮説を補足するためのネットアンケート調査を実施します。1000名程度のサンプルサイズを確保します。
アンケートでは、聞き方にポイントがあります。
「あなたはどう思いますか?」 「なぜですか?」 などの直接的な質問ではなく、商品やブランドを人にたとえる擬人法などの 「第三者的な聞き方」 によって、人の深層心理を探る質問をします。本書では 「モチベーション・リサーチ」 と表現します (モチベーション・リサーチについては後述します) 。
3. 調査結果の分析と解釈
アンケート結果はテキストマイニングから、構造解析を行ないます。消費者の奥にある心理や抱いているイメージ (知覚) の関係性を見える化します。
インタビューの分析と併せて、「その調査から何がわかったか」 をまとめます。
4. プロモーション開発
インタビューとウェブアンケートから見い出したインサイトをベースに、どのような訴求ポイント (購入のツボ) でプロモーションをするかを決めます。プロモーション案から、実施の店頭での施策に落とし込みます。
5. プロモーションの実施と評価
価値創造型プロモーションは、メーカーだけでは実施できません。小売店との共通理解と協業関係が不可欠です。小売店との関係では、現場の理解のために、店長だけではなく現場のバイヤーへの丁寧な説明が必要になります。
プロモーションを評価し、実績と効果を検証します。
検証は、プロモーションを実施する店としない店、あるいはプロモーション時期の前後の一定期間も含めた売上やアンケートから、プロモーションを評価します。プロモーション期間中の短期的な売上だけではなく、終了後の持続効果も検証します。
優れたプロモーションは、プロモーション期間中だけで終了後に元の売上に戻る (あるいは需要の先食いで前より落ち込む) のではなく、終了後も以前よりも高い売上で推移するなど、中期的な効果が得られます。
※ モチベーション・リサーチ (ウェブアンケート) の補足
価値創造型プロモーションで消費者インサイトを見い出す方法は、インタビューとウェブアンケートを組み合わせます。定性調査と定量調査の両方を実施します。
インタビュー調査と同様に、ウェブアンケートでも、消費者自身も日常では気付いていないような深層心理を探ることが目的です。そのため、アンケートの質問の仕方も、通常の聞き方ではないような工夫をします。
ポイントは、直接聞くのではなく、「第三者的な聞き方」 です。
前者の直接聞くというのは、「あなたはこの商品をどう思いますか」 や 「なぜあなたはこの商品を買いましたか・使っていますか」 という質問です。このような質問では、消費者の本音を知ることは難しいです。
なぜなら、聞かれた人は 「こう思われたい」 「こう思われたくない」 という意識が邪魔をしてしまうからです。本音と建前で、調査して知りたいのは本音ですが、建前としての答えが返ってきてしまいます。
建前だけからは、人の潜在意識は引き出せません。私の経験から言えるのは、インサイトにつながるのは、本音や、本音と建前のギャップからだということです。
第三者的な聞き方の具体例
では、第三者的な聞き方とは、どのような質問なのでしょうか。本書からいくつか具体例をご紹介します。
繰り返しますが、ポイントは 「あなたはどう思うか」 と直接尋ねるのではなく、第三者的な立場で質問をすることです。例えば、次のような聞き方です。
「○○ を人間にたとえると、どのような人になりますか?」
商品やブランドなどの物を、人間にたとえて答えてもらう質問です。
質問:
「ビーフシチュー」 を人間にたとえるとどのような人になるでしょうか?理由を含めて50字以上で自由にお書きください。
回答例:
上質なスーツをまとった老紳士
太ってにっこりとしているお母さん
1つめの回答例 「上質なスーツをまとまった老紳士」 から、回答者はビーフシチューのことを、「フォーマルな料理」 「あらたまった気持ちになって食べる」 というイメージを抱いていることがわかります。
価値創造型プロモーションの事例
この本では、価値創造型プロモーションの事例を、2つのケースから具体的にわかりやすく解説しています。2つとは、ハウス食品のシチュー、エバラの焼肉用タレの 「黄金のタレ」 です。
以下で、実際に行われた事例から、消費者のどのようなインサイトに基いて、どのようなプロモーションだったのかをご紹介します。
事例 1. ハウスシチュー
インサイトと、インサイトを満たす提供価値 (バリュープロポジション) は次の通りです。
- インサイト:手軽に野菜を多く取れる料理だが、一方で、クリームシチューへのマンネリ化を感じている。いつも同じ具材や味で、個性がないと思っている
- 提供価値:具材・トッピング・スパイスの工夫次第で、クリームシチューは様々なアレンジができる
事例 2. 黄金の味
事例のもう1つは、エバラの 「黄金の味」 です。インサイトと提供価値は以下です。
- インサイト:タレの味に飽きている。焼肉料理には、「自分は手抜きをしている」 と思われているのでないかという罪悪感がある。焼肉はどうしても肉が多くなり、もっと野菜を取りたい
- 提供価値: 「黄金の味」 に色々なアレンジをして、いつもと違う焼肉を提案
- 例えば、きゅうりの千切りを加える、トマト、オリープオイル、カレー粉、マヨネーズでタレの味を変える
- 野菜も取れ、普段とは異なる焼肉を楽しむ
読んでおもしろいと思ったこと
ここからは本書を読んで、おもしろいと思ったことです。3つあります。
- メーカーの具体的な見解
- 安売りではなく 「価値訴求 + 適正価格」
- インサイトを見い出すための調査手法
以下、それぞれについてご説明します。
1. メーカーの具体的な見解
この本が興味深く読めるのは、ハウス食品とエバラの実際に関わった担当者のコメントや振り返りが、随所に入っていることです。
価値創造型プロモーションのプロセスに沿って、それぞれのステップにおいて、メーカー側の視点でどのように思ったか、想定外や苦労したこと、プロモーション自体を自分たちはどう評価したかなど、コメントを通して具体的に理解できます。
また、メーカーから見た、プロモーションを開発し実施して、効果を検証するにあたって、特に小売店側との協力関係を築くことの重要性を当事者の言葉で知ることができます。
この手の本は通常、メーカーの中だけか、メーカーの外部であるコンサルティング側の立場で書かれ、内容はいずれも一方向からの視点になりがちです。しかし本書は、メーカーの見方も二社それぞれで入っているので、複眼的な気づきが得られます。
2. 安売りではなく 「価値訴求 + 適正価格」
本書の事例であらためて考えさせられたのは、値下げによる販売促進ではないやり方です。商品の価値を消費者視点で訴求し、適正な価格でプロモーションをすることの重要性です。
安売りをすれば短期的には売上は伸びますが、値下げを止めた途端に売上は下がります。値下げをする前の水準に戻るならまだしも、消費者は安売りに慣れたり、次の安売りに期待すると、元の値段では売れなくなります。
価値創造型プロモーションのアプローチは、安売りによる販売増とは一線を画します。
訴求する価値を消費者のインサイトをベースに再設定し、インサイトという心の琴線に触れる価値提案をします。価値は、インサイトと自社の強みに基いて提供するという考え方です。
決して企業本意の単純な値上げではありません。だからこそ、適正価格を維持できるのです。
3. インサイトを見い出すための調査手法
興味深いと思ったのは、消費者インサイトとプロモーション案の示唆を得るための調査方法です。
デプスインタビューの定性調査だけではなく、1000人規模のサンプルサイズを確保するネットアンケートの定量調査も行ないます。
一般的に、アンケートなどの定量調査は、インサイトを見い出すためには不向きであるとされます。しかし、本書でおもしろいと思ったのは、定量アンケート調査であっても、質問の聞き方と、データの処理や分析方法を工夫すれば、インサイトにつながる情報が得られることです。
先ほどご紹介したような、自由回答で 「あなたはどう思いますか」 「なぜ買ったのですか」 などと直接聞くのでありません。
「この人はどう考えていると思いますか」 や 「人にたとえるとどのような人物ですか」 「 (このブランドや商品は) あなたのことをどう思っていると思いますか」 と、擬人法によって聞くやり方です。
第三者的な聞き方で質問し、聞かれた本人も普段は意識していないような回答情報を期待できます。
消費者インサイトとは、消費者自身も普段は意識していなく、気づかされて初めて思い出したり行動につながる気持ちです。そこで、第三者的な聞き方で、インサイトを見い出します。
調査から人を深く理解し、自分たちでインサイトを抽出するやり方に、このような方法があるのかと参考になりました。
最後に
本書の内容紹介には次のように書かれています。
深層心理を用いて消費者インサイトを引き出し、安売りに頼らずとも小売店頭での販売数を高める最新の販促手法を初めて公開。熾烈な価格競争でしのぎを削るすべてのマーケター、バイヤー必読の書。
読んでの所感は、このように書かれていることに偽りはないということです。
価値創造型プロモーションとは何か、なぜ重要なのか、読み手にとって自分のビジネスにどのように活かすことができるかが、具体的にわかりやすく解説されています。