商品を 「買う人」 と 「使う人」 、この両者の間には微妙なバランスが存在します。
マーケティングで成功を収めるためには、このバランスをいかに取るかがカギを握りますが、ではどうすれば実現できるのでしょうか?
今回は、ダイソーの 「100均トレカ」 を取り上げ、マーケティングへの学びとして 「顧客設定」 と 「価値提供」 をテーマに解説します。
ダイソーが 「100均トレカ」
100円ショップのダイソーが独自開発の 「100均トレカ (トレーディングカード) 」 を展開しています。
カードはポケモンや遊戯王のようなものではなく、「蟲神器 (むしじんぎ) 」 という大創産業のオリジナル商品です。
蟲神器
出典: ファミ通
蟲神器は、昆虫をモチーフにしたカードで対戦するトレーディングカードのゲームです。
昆虫のキャラクターとして、カブトムシ、ギンヤンマ、ナミテントウなど、小学生の特に男の子が好きそうな昆虫が各カードにイラストで描かれています。
蟲神器の遊び方は、1人20枚ずつ手持ちにカードを用意し、1枚ずつ場に出していきます。カードに書かれた体力や得意とする技で勝敗を競います。
ダイソーで販売されている蟲神器のカードには、ゲームに必要なスターターセットに加えて、ブースターパックというものもあり、勝負を有利に進める希少性の高いレアカードもあります。
勉強になるから親が買う
蟲神器のトレカが人気になっている理由は、100円 (税込み110円) という小学生でも買いやすい価格、ポケモンカードなどと同じようなゲーム性やカードデザインですが、これらだけではありません。
蟲神器の1枚1枚のカードを通して昆虫の生態や食性などを学べるという、子どもからおねだりに親が応えやすい要素もヒット商品につながっています。
というのも、蟲神器のカードには、昆虫の名前や分類、体長、分布、食性などの説明文が書かれており、遊びながらにして昆虫のことを詳しく学べるようになっています。
例えばトノサマバッタのカードには、次のような解説文が書いてあります。
バッタ科。体長 35 ~ 65mm 。北海道から南西諸島に分布。広い草むらや河原、荒れ地で見られる。エノコログサ、オヒシバ、ススキなどのイネ科植物の葉を食べる
さらに、「肉食ならば赤」 といったように、それぞれのカードは昆虫の食性によって赤や青などの属性に分けられています。学校の授業や教科書での勉強は好きになれなくても、カード対戦を通じて生態系のことを自然と学べる工夫がされています。
この勉強になるというのがポイントです。「他のおもちゃをねだられるより、勉強にもなりそうだし、100円ならいいか」 と、親が子どもに買い与えるハードルが低くなるわけです。
蟲神器から学べること
ではダイソーの 「蟲神器」 から、学べることを掘り下げていきましょう。
商品を 「使う人」 と 「買う人」
この事例から学べるのは、「商品を使う人」 と 「お金を払って買う人」 を分けて考える重要性です。
それぞれにとって価値をもたらし、欲しくなる買いたくなる理由を用意することが大事です。
蟲神器の場合は、カードを使う人は子ども、お金を払う人は親になります。
それぞれの蟲神器からの提供価値は次のとおりです。
✓ 子ども (使う人) にとっての価値
- 蟲神器は昆虫をモチーフにしたトレーディングカードゲームであり、子どもたちはカードで友だちと対戦する楽しさがある
- 多様なカードやレアカードを集めることで、集める楽しみや達成感を得られる
- 各カードに昆虫の生態や食性などの詳細な説明が記載されており、遊びながら自然と昆虫についての知識を深められる
- 昆虫の種類や特徴について学ぶことで、自然や生物などの理科科目への関心を持ったり、探究心が育まれる
✓ 親 (買う人) にとっての価値
- 蟲神器は昆虫に関する知識を教える子どもへの教育ツールにもなる
- 100円 (税込み110円) という低価格であるため、子どもがねだっても気軽に応えやすく、おサイフにやさしい
- 子どもが興味を持っている昆虫やゲームを通して、親子間のコミュニケーション、共通の話題を増やすことができる
使う人と買う人が別々の場合、どちらか一方にしか魅力や価値がなければ、購入や継続利用は起こりません。いくら使いたい人が欲しいと言っても、財布を管理している人が紐を緩めなければ買われることはないわけです。
また、お金を払う人が買ったとしても、実際に商品やサービスを使う人に価値がなければ買っただけの無用の長物になり、ホコリを被ってしまうでしょう。
自社商品のお客さんについて、「使う人」 と 「買う人」 と分けて顧客設定と顧客理解の解像度を高め、両者で Win-Win を目指すことが大事なのです。
目的の手段化
蟲神器のトレカから学べるもう1つの視点は、「目的の手段化」 です。
ビジネスでよく言われる 「手段の目的化」 とはあえて逆にした捉え方です。意味は、目的としていたことを 「その先にあることを達成するための手段」 と位置づけることです。
目的の手段化を蟲神器に当てはめると、子どもにとってはカ-ドで遊ぶことが目的です。しかし、親が蟲神器を子どもに買う動機になる 「子どもの学びや勉強につながりそう」 という期待を加味すると、蟲神器のカードで遊ぶその先に学習できるという、遊ぶことが学ぶという目的のための手段になるわけです。
- 子どもにとっては目的はカードで遊ぶこと (狭い視野での捉え方)
- 親の目線も入れて広く捉えると、カードで遊ぶことは昆虫や生態系のことを学ぶ手段になる
このようなあえての 「目的の手段化」 によって、子どもと親、1つ目の学びで表現すれば 「使う人」 と 「買う人」 への両方への価値を蟲神器はもたらしているわけです。ここにも蟲神器からの学びがあります。
まとめ
今回は、ダイソーの100均のトレカ 「蟲神器」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 「買う人」 と 「使う人」 : 商品の購入者と最終的な利用者が同じではない場合 (例: 親が子どもに買い与える) 、両方の “お客さん” に価値を提供することが重要。このバランスが取れれば、購入から継続利用に至るまで長く価値をもたらす
- 目的の手段化: 目的としていたことを 「その先にあることを達成するための手段」 と位置づけてみるといい。自分たちの商品からの提供価値を再解釈するアイデアへの着想につながる
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