投稿日 2026/01/04

男性用ボディシェーバー BEAUM (ビューム) 。ビジネスで重要なのは、「どこで戦うか」 という戦場の見極め

#マーケティング #戦場 #戦力と戦い方

どんなに優れた技術や商品があっても、強い競合に勝てずに撤退を余儀なくされる――。

新規事業や新商品の発売後の失敗のひとつに、「どうやって戦うか」 ばかりを考えて、そもそもの 「どこで戦うか」 を軽視していることにあります。

どんなに優れた戦力も、戦場を間違えれば活きることはありません。逆に、限られた戦力でも適切な戦場を選べば、大手プレイヤー企業に勝つことも夢ではありません。

今回は、男性用ボディーシェーバー 「BEAUM (ビューム) 」 の事例から、戦場選択の重要性と、戦力を最大限に活かす秘訣を紐解きます。

男性用ボディーシェーバー BEAUM


出典: BEAUM

BEAUM (ビューム) は、アピックスインターナショナルが新たに立ち上げた男性向けグルーミングブランドです (グルーミングとは髪・肌・体などを清潔に整えてケアすること) 。2024年12月に発売されました。

アピックスインターナショナルはこれまでデザイン性の高い扇風機やヒーターといった季節家電を主力としてきました。しかし、売上が季節に大きく左右されるという構造的な問題を抱えており、通年で安定した収益を生み出す商品を模索していました。

その中で着目したのが 「男性向け美容家電」 というジャンルでした。10 ~ 20代男性の体毛処理ニーズの高まりを見て取れたからです。

BEAUM のシェーバーは、全身の体毛に対応した 「7ヘッドボディーシェーバー」 (8800円前後) や、持ち歩きに適したコンパクトな 「2ヘッドシェーバー」 (3960円前後) などをラインナップしています。

BEAUM で特徴的なのは、ユーザーの使いやすさを追求している点です。若者の間で高まる体毛処理のニーズに応えつつ、肌への負担が少なく、浴室で丸洗いできる防水仕様としています。

* * *

では、BEAUM の事例から学べることを掘り下げていきましょう。

この事例からは戦場を決める重要性と、戦力と戦い方が活きるのは戦場次第ということを学べます。

 「戦場」 を見極める重要性


ビジネスで重要なのは、「どこで戦うか」 という戦場の見極めです。「どうやって戦うか」 の前に 「どこで戦うか」 という戦う場所を定めることが大事です。

段階的な戦場選択

アピックスインターナショナルは最初から 「男性用ボディーシェーバー」 という戦場を選んだわけではありません。段階的に戦場を絞り込んでいきました。

第1段階では 「通年型家電」 という大きなカテゴリーから 「美容家電」 へと絞り込みました。美容家電はすでに一定数の人が知っている確立されたカテゴリーです。

全く新しい市場を開拓するのではなく、既存市場の中で勝負することを選択したのです。

第2段階では 「女性向け」 から 「男性向け」 へとシフトしました。女性向け美容家電市場にはパナソニック、ヤーマン、ダイソンといった強力なブランドが君臨しています。新規参入で勝つのは困難と判断し、まだ開拓の余地がある男性向け市場を選びました。

さらなる絞り込み

第3段階では 「男性向け美容家電」 の中でも 「ボディーシェーバー」 に特化しました。

ひげそり市場ではブラウンやフィリップスといった技術力の高い企業との競争は避け、まだ競合が少ないボディーシェーバーという戦場を選んだわけです。

このように、どこで戦うか、あるいは戦わないかを見極めることによって、戦場の選択は、この後に大事になってくる、お客さんへの価値につなげ、お客さんから選ばれる存在になれるかのカギを握ります。

戦いの前提となる 「戦場」 の選択と理解


ここまで、BEAUM の戦場について見てきましたが、戦い方という方法論の前に、前提として選んだ戦場の特性を理解することが大切です。

BEAUM が選んだ戦場の特性

アピックスインターナショナルは 「10 ~ 20代男性のボディケア市場」 という戦場の特性を以下のように分析しました。

市場環境は、若年層男性の体毛処理が一般化しつつある成長市場です。一方で脱毛サロンの利用者は4割程度に留まり、料金の高さ、面倒さ、恥ずかしさといった課題から残り6割は潜在顧客として存在していました。

競合状況を見ると、ボディーシェーバー専用製品は少なく、多くはひげそりの延長線上の製品でした。高価格帯には4万円超のラムダッシュ パームインがありましたが、手頃な価格帯の選択肢が不足していました。

純粋想起を獲得できる戦場か

その戦場において、消費者が自社商品を思いつくかどうかが勝敗のカギを握ります。「〇〇 と言えば…」 というフレーズの後に自社商品が続くかどうかです。

BEAUM のケースでは、「ひげそりと言えばブラウン」 「美顔器と言えばヤーマン」 といった消費者からの強い純粋想起が確立された市場は避けました。代わりに 「若い男性の手軽なボディケアと言えば BEAUM」 という絞り込んでの純粋想起を獲得できる可能性のある戦場を選択したわけです。

このように、自社の強みを活かせる戦場を選択し、戦場の特性を自社のビジネスにうまく接続できることで、大きな企業ではない小さな企業や商品が生き残り、成長する道を見つけることができます。

戦力の適応


戦場の後に戦力がきます。

戦場を理解した後で次に考えるべきは自身の 「戦力」 、持っているスキルや利用可能なリソースのことです。

持っていた戦力

アピックスインターナショナルは自社の戦力を冷静に分析しました。

持っている戦力は、デザイン性の高い季節家電を開発してきた実績、手頃な価格帯での製品提供能力、そして通年型商品への強い進出意欲でした。

一方で持っていない戦力も明確でした。ひげそりのような高度な切れ味技術、美容家電における強いブランド認知、女性向け美容家電市場での実績などです。

戦力と戦場のマッチング

大きい市場 (戦場) で戦うための高いスキルと豊富な経験を持っていたとしても、市場データがまだ乏しいスタートアップ、自分たちの知見や実績が少ないビジネスの状況では、過去の成功体験や獲得したスキルが十分に活かされないことがあります。

アピックスインターナショナルは、ひげそりの技術競争という戦場では勝てないと判断したことでしょう。そこで 「手頃な価格で魅力的なデザインの家電を作る」 という自社の戦力が最も活きる戦場として、男性用ボディーシェーバー市場を選んだと考えられます。

戦場によって活かせる戦力は変わります。逆に言えば自分たちの戦力を理解し、戦力をどの戦場で活かすかを考えることが重要だということです。

戦場と戦力があっての 「戦い方」 


戦場の特性と自らの戦力を理解した上で、戦い方を決めることが大事になります。

アピックスインターナショナルは戦場と戦力を踏まえ、次のような戦い方を選びました。

価格戦略では、高級路線ではなく入門機としてのポジションを明確にしました。

10 ~ 20代でも手が届く3,960円 ~ 8,800円という価格は、いきなり4万円のメンズ美容家電を買うのはハードルが高いという若年層の注力顧客の消費者心理にもとづいています。

BEAUM の製品特性では、切れ味競争ではなく肌への負担が少ないという別の価値軸で勝負しました。防水仕様で丸洗い可能という実用性も、若年層のライフスタイルでの求める便益に合わせた戦い方です。

BEAUM は、脱毛サロンに行きたくても行けない層、初めてボディケアをする若年層といった明確な注力顧客に向けて、限られたリソースで価値を提供するという戦い方を選択しました。

戦場の状況と持っている戦力に応じて、適切な戦い方を選ぶことが成功につながります。BEAUM の2カ月で販売計画の3.6倍という成果は、戦場・戦力・戦い方の整合性が取れていたからこそ実現できたのです。

まとめ


今回は、男性用ボディーシェーバーの 「BEAUM」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • ビジネスの成功は 「どう戦うか」 という戦術の前に、「どこで戦うか」 という戦場の見極めが重要。戦場を誤るといかに優れた戦術だとしても活きない

  • 戦う場を定めたら、選んだ戦場の特性 (市場環境, 顧客の課題, 競合状況) を深く理解することが不可欠

  • 自社の持っている強みと持っていない能力を冷静に把握し、戦力が最大限に活かせる戦場を選ぶ

  •  「戦い方」 は 「戦場」 と 「戦力」 によって規定される。選んだ戦場の特性と自社の戦力に応じて、価格戦略やターゲティングなど適切な戦い方を選択する


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。