#マーケティング #ビジネスモデル #顧客価値
ビジネスで成功するには、「何を捨て、何に集中するか」 という戦略的な選択が重要です。
今回は創業 3 年で店舗数を急拡大させた 「鰻の成瀬」 を取り上げます。
この事例から、ビジネスモデルの観点で学べることを解説します。
鰻の成瀬
出典: 鰻の成瀬
ウナギ料理専門店 「鰻の成瀬」 は、創業からわずか 3 年で 381 店舗まで急拡大した飲食チェーンです。
飲食業界は、原価率は 30% 前後が一般的とされます。しかし、鰻の成瀬は 40% 超という高い原価率でありながら、利益率 15% という収益性を実現しています (参考情報) 。
鰻の成瀬の調理法は鰻を蒸してから焼く関東風ですが、香ばしく焼き上げるため関西風のパリッとした食感も楽しめます。
出典: ヒトサラ
値段は、例えば 「並うな重 <梅>」 (ウナギ半尾) で 1,600 円、「並うな重 <松>」 (ウナギ 1 尾) で 2,600 円です。老舗の半額程度の価格でありながら鰻の重量は 1.5 倍を実現しています。
比較的安価な鰻重だけではなく、特上もあります。特上鰻重の松は 4,400 円です。
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では、鰻の成瀬から学べることを掘り下げていきましょう。
この事例は、ビジネスモデルの理解を深めるのに示唆があります。
「鰻の成瀬」 のビジネスモデル
ビジネスを分析する上で、ビジネスモデルを解像度高く捉えることは有効です。
今回は、以下の 5 つの要素で紐解きます。
- 注力顧客
- 競合
- 顧客価値
- 顧客価値の源泉となる事業能力
- 収益モデル
では 「鰻の成瀬」 に当てはめて、詳しく見ていきましょう。
注力顧客 - 顧客は誰か?
鰻の成瀬が狙う注力顧客は、「うなぎは好きだが、価格や待ち時間がネックで、老舗専門店を日常使いしない層」 です。
もう少し具体化すると、次のような 3 つの顧客層です。
第一には、価格に敏感だが品質も求める層が挙げられます。
ただ安さだけを求めるのであれば、より低価格なチェーン店という選択肢があります。しかし鰻の成瀬が訴求するのは、「老舗ウナギ料理専門店の半額程度の価格で、重量は 1.5 倍」 という高いコストパフォーマンス (コスパ) です。「安かろう悪かろう」 ではなく、「安くて、おいしくて、ボリュームがある」 という価値を重要視する消費者です。
第二に、時間を重視する層です。
通常のウナギ店では注文してから料理が出てくるまでに 20 ~ 30 分ほどはかかりますが、鰻の成瀬は注文後 10 分以内という早さです。ウナギを食べるために長い待ち時間を費やすことを 「非効率」 と感じる忙しい人や、手軽なランチ・ディナーとして利用したい層が注力顧客です。
第三の顧客層は、住宅街のファミリー層や個人客です。
鰻の成瀬は 「駅から少し離れた住宅街などの家賃が比較的安い二等立地」 をあえて選んでいます。「ハレの日」 の特別な食事としてではなく、「ちょっと贅沢な日常食」 として鰻を食べたい人々が注力顧客になります。
競合 - 注力顧客が想定する選択肢
競合とは、同じ商品カテゴリーのライバルだけではありません。想定するお客さんが 「何かを解決したい」 と思った瞬間に頭に浮かぶ、すべての選択肢が競合となります。
今回の鰻の成瀬の場合、注力顧客が 「ちょっと贅沢な日常食を食べたい」 と思ったときの、すべての選択肢が競合です。
直接競合としては、低価格うなぎチェーン、老舗・高価格うなぎ専門店です。
間接競合も重要です。
ファミリーレストランや和食チェーンが間接的な競合となります。他には、近隣の個人経営の飲食店 (寿司や天ぷらなど) も同様に 「ちょっと贅沢な外食」 という状況で選択肢になるでしょう。さらにデリバリー・テイクアウト (ピザや寿司など) も競合です。
そして中食・内食も間接競合として見逃せません。
スーパーで売っている鰻の蒲焼、鰻専門店のテイクアウト、通販で買った鰻などは、「ちょっと贅沢な日常食」 を家で楽しむ際の選択肢です。鰻の成瀬は、家で食べる需要とも消費者の頭の中では競合しているのです。
顧客価値 - お客さんは何がうれしいのか
では鰻の成瀬は、これらの競合に対してどのような顧客価値を提供しているのでしょうか。
注力顧客が他ならぬ 「鰻の成瀬」 を選ぶ理由は、高いコスパとタイパ (タイムパフォーマンス) の 2 点に集約されます。
まずコスパの良さからの価格以上の満足感です。
一般的な飲食店の常識を破る 40% 超という高い原価率をかけ、食材 (鰻) の品質とボリュームを実現しています。「老舗の半額程度で、重量 1.5 倍」 という誰にでも分かりやすい価値を提供し、「関東風の蒸し」 と 「関西風のパリッとした食感」 を両立させることで、安いだけでなく 「安くておいしい鰻」 を食べられます。
もうひとつが早い提供スピードによるタイパの良さです。
注文から 10 分以内に出てくるという、通常の鰻専門店 (20 ~ 30 分) ではあり得なかったスピードです。鰻をファストフード感覚で日常的に楽しめるのも、鰻の成瀬の魅力です。
顧客価値の源泉となる事業能力 - リソースと仕組み
ビジネスモデルにおいて重要なのが 「顧客価値の源泉となる事業能力」 です。事業能力が他の競合が簡単には真似できない価値の源となります。
高いコスパとタイパという顧客価値を安定的に提供するための、鰻の成瀬には独自のリソースと仕組みがあります。
リソースとして、鰻の成瀬は国産鰻の安定調達先を持っています。日本有数の鰻の養殖地である愛知県西尾市の 「一色産うなぎ」 を仕入れ、安定かつ高品質な国産うなぎを調達する体制を構築しました。
専用調理器も顧客価値を生むリソースです。ボタンを押せば、自動で鰻の蒸しと焼きの調理ができるという機器は、鰻の職人の技術を不要にし、かつ味を標準化する中核のリソースです。
運営本部のフランチャイズノウハウも鰻の成瀬のリソースです。運営会社の 「フランチャイズビジネスインキュベーション」 は元々フランチャイズ支援の会社であり、短期間で多店舗展開する能力 (加盟店開発やオペレーション構築) もリソースです。
次に、事業能力の仕組みとしては、鰻の成瀬は一次加工済みの鰻を各店舗で受け取り、店舗オペレーションを単純化し、日持ちもするので廃棄ロスをなくします。これは顧客価値を生む高い原価率を支える仕組みです。
一次加工済みの鰻という日持ちする食材を使い、販売状況に応じて柔軟に調理することによって、成瀬の鰻は廃棄ロスを計算に入れなくて良い店舗運営体制を構築しました。
職人不要・少人数オペレーションも大事な仕組みです。専用調理器により、調理をアルバイト 2 ~ 3 人で回せるオペレーション体制を築き、職人技術をシステムで代替しています。
また、新規出店には基本的には居抜き物件を利用するという方法も仕組み化されています。新たな出店のオペレーションとして、居抜き物件をわずか 3 日間で改装してスピード出店します。
店舗ごとの内装の統一感を求めないという割り切りが、このリソースの活用を最大化しています。
ちなみに、鰻の成瀬が出店攻勢を開始したのは 2022年 の後半頃でした。新型コロナウイルス禍が終息しかけていた時期だったので、コロナ禍の退店ラッシュというタイミングを逃すことなく、一気にシェアを握り面を押さえることに成功しました。
収益モデル - どう利益に変えるか
最後に、収益モデルです。提供した価値を、どうやって事業の利益に変えるのかは、事業を継続させるための財務的な設計図です。
鰻の成瀬の収益モデルは、食材原価にコストを集中させ、それ以外のコストを徹底削減するというアプローチをとります。原価率 40% 超でも利益 (想定利益率 15%) を生み出すロジックは、実に明快です。
まず売上の確保です。「高いコスパとタイパ」 という魅力的な顧客価値を掲げ、1,600 円から鰻重が食べられるという、高すぎず安すぎない値段で売上 (月商 300 万 ~ 400 万円) を確保します。
変動費の最適化では、食材原価率を 40% 超と意図的に高く設定し、顧客価値を最大化します。通常、原価率には廃棄ロスが含まれますが、鰻の成瀬は廃棄ロスゼロのオペレーションにより、このロス分を丸ごと 「顧客価値 (ウナギの量)」 に還元します。
一方の固定費 (人件費・家賃) の最小化では、熟練の職人ではなくアルバイトでの少人数オペレーションにより、飲食業最大のコストとなる人件費を圧縮しています。二等立地や居抜き活用により、家賃と初期投資を最小限に抑えます。
利益の方程式をイメージすると、従来のうなぎ店は、
売上 - 高い食材原価 - 高い人件費 (職人) - 高い家賃 (良い立地) - 廃棄ロス = 利益 (薄い)
それに対して、鰻の成瀬は、
売上 - 高い食材原価 - 低い人件費 (バイト中心) - 低い家賃 (二等立地) - 廃棄ロスほぼゼロ = 十分な利益 (15%)
このように、鰻の成瀬は 「何を捨て、何に集中するか」 を明確にしたビジネスモデルです。
具体的には、「職人の技術」 「立地」 「店舗の統一感」 を捨てる代わりに、「ウナギの原価 (量・質)」 「人件費を抑え廃棄ゼロの仕組み」 にリソースを全集中させることにより、競合が真似できない独自の顧客価値 (高コスパ・短時間) をつくり、高い利益率を生み出しています。
飲食業界の常識を覆し、鰻の成瀬ならではの顧客価値を実現するために、他のあらゆる要素 (特にコスト) を大胆に再構築したビジネスモデルです。
まとめ
今回は 「鰻の成瀬」 を取り上げ、ビジネスモデルをテーマに学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 注力顧客: 顧客は誰か。注力顧客の設定がすべての戦略的思考の出発点となる
- 競合: 注力顧客が想定する選択肢 (自社以外の候補) 。必ずしも同じカテゴリーとは限らない。その状況で、お客さんが何かを解決したいと思ったその瞬間に、頭に思い浮かぶ全ての選択肢、同じような顧客価値を提供する存在が競合となり得る
- 顧客価値: 注力顧客にどのような独自の価値を提供するか。競合よりも相対的に優位な強み
- 事業能力: 顧客価値をどのようにして提供するか。必要な内部資源 (リソース) とプロセス (オペレーション) を含む
- 収益モデル: 生み出した顧客価値をどのように利益として獲得するか。収益モデルは持続可能性を確保する財務的な論理

