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機会発見 - 生活者起点で市場をつくる という本をご紹介します。
エントリー内容です。
- 本書の内容。機会とは何か
- 機会の発見方法
- 読んで思ったこと
本書の内容
以下は、本書の内容紹介からの引用です。
生活の現場を取材し、これまで気づかなった視点に出合う 「社会学」 起点の調査手法。「デザインシンキング」 の本場で培った、人間理解 + 創造的アプローチ。
国内外、多業界、営利非営利の数多のプロジェクトで磨いた 「マーケティング」 の実践知。トリプルキャリアから生まれた、「生活者起点イノベーション」 を初めて体系化する。
この本を一言で表現すれば、一人の天才のひらめきではなく、組織でイノベーションを起こす方法が書かれた本です。
機会とは何か
この本のタイトルは 「機会発見」 です。
機会とは着眼点
本書で 「機会」 とは、次のように説明されます。
- 事業領域の設定と、製品企画の間にある橋渡しの役割
- 製品・サービス・事業を生み出すための見立て
- 議論や判断基準の拠り所になるもの
読んで思った機会の理解は、市場創造や新しいビジネスのための 「着眼点」 や 「切り口」 です。平たく言えば 「目の付けどころ」 です。
今はまだ人々が気づいていない、またはアイデアは他の人も持っているが実現されていない、市場を創るための着眼点です。
機会の例
本書で紹介される機会の例は、次の通りです。
ノンアルコールビール
- 生活者起点の機会:ビール気分は味わいたいけど、夜にネイルをする時に酔うとうまくできないので、お酒は飲みたくない
- 事業の機会:ビールの気分で飲めるノンアルコール飲料
カメラ・写真
- 生活者起点の機会:自分で自分を撮りたい。ツーショットを自分で撮りたい。撮ったものを見せ合ったり、シェアしたい
- 事業の機会:自分撮りができ、撮ったその場でシェアできるカメラ
機会の発見方法
ここから、機会をどのように見つけるかです。以下について順に解説します。
- 考え方
- デザイン思考がベース
- 機会発見のプロセス (全体像)
- 機会発見のための姿勢
考え方
機会発見の基本的な考え方は、以下の3つです。
- MECE ではなく枠外に着目する
- 定量情報ではなく定性情報を重視する
- 分析ではなく統合
デザイン思考がベース
機会発見の考え方のベースにあるのはデザイン思考です。生活者やユーザーへの共感を出発点にします。
デザイン思考のフレームは、次の5つのプロセスです。
- 共感:対象者が何に不便を感じているか、何に喜びを見い出しているかなど、深い理解から人のことを共感をする
- 問題定義:対象者が抱える 「不」 を、自分たちが解決する問題として定義する
- 創造:設定した問題を、自分たちはどのように解決するかを創造する
- プロトタイプ:問題解決のアイデアや仮説を検証するためにプロトタイプをつくる
- テスト:プロトタイプを使ってテストをする。対象者に使ってもらい、フィードバックや観察から学び、自分たちのやり方をより良くしていく
機会発見は、特に前半の2つである 「共感」 と 「問題定義」 に当てはまります。
対象者への共感によって、すでに対象者が認識している顕在ニーズではなく、明確に意識されていないような潜在的なニーズから機会を見極めます。
機会発見のプロセス (全体像)
本書で詳しく解説される機会発見のプロセスは、5つです。
- 課題リフレーミング
- 定性調査
- 情報の共有と整理
- 機会フレーミング
- 機会コミュニケーション
以下、それぞれの補足です。
1. 課題リフレーミング
- 目的:課題認識に対する初期視点を導出する
- 行動:外部情報をインプットしていきながら、枠外の視点を取り入れる
2. 定性調査
- 目的:初期視点を広げるために定性情報を収集する
- 行動:生活者に対してアンケート調査やインタビュー、フィールドワークを行なう
3. 情報の共有と整理
- 目的:定性情報をチームで共有し、整理する
- 行動:情報を物理化し結合して、新しい概念を生み出す
4. 機会フレーミング
- 目的:定性情報を構造化し、新しいビジネス機会を導出する
- 行動:試行錯誤をしながら、定性情報に仮説的な枠組みを与える
5. 機会コミュニケーション
- 目的:ステークホルダーから、機会に対する共感と賛同を得る
- 行動:顧客イメージを具体化し、本当にありそうだと思えるストーリーを描く
以上の機会発見のプロセスでは、発想やアイデアの発散と収束を繰り返します。
機会発見のための姿勢
新しい着眼点を得るために、チームメンバーで共通して持っておきたい姿勢は、次の通りです。
- 人間に興味があること
- おもしろがれること
- 未来志向であること
- 何でも言い合える雰囲気があること
- 躊躇なく手と足を動かせること
読んで思ったこと
ここからは、本書を読んで思ったことです。2つあります。
- MECE ではなく 「枠外」
- デザイン思考 x マーケティングリサーチ
以下、それぞれについてご説明します。
MECE ではなく 「枠外」
機会発見で興味深いと思ったのは、新しい着眼点を得るために、既知の枠内ではなく枠の外に目を向ける考え方です。
MECE が成立するのは、あらかじめ枠があってです。機会の観点で言えば、枠の中でどこに市場があるかを探すことになります。
しかし本書で書かれている機会発見は、いかに枠を出るか、枠を壊すことができるかです。どれだけ既存のものの見方、当たり前や常識から離れ、全く新しい着眼点を得ることができるかです。
創造力や発想の転換が求められます。本書を読んでいて思ったのは、人間の創造力や共感力への可能性です。機械やロボット、AI ではなく、人間だからこそできることです。
この本がおもしろく読めるのは、夢物語で語るのではなく、再現可能な方法が具体的に書かれているからです。機会とは何か、新しい着眼点をどうやって得るのかを、5つのプロセスに従ってわかりやすく詳細に説明しています。
デザイン思考 x マーケティングリサーチ
機会発見のやり方は、デザイン思考とマーケティングリサーチの掛け合わせです。私がマーケティングリサーチを専門の1つにしているので、興味深く読みました。
デザイン思考は、人への共感を起点にし、常に共感を拠り所にしながら問題解決や創造をするアプローチです。
マーケティングリサーチにデザイン思考の考え方が取り入れられることによって、マーケティングリサーチだけでは難しかったことができるようになります。
今までになかったビジネスチャンスである、着眼点・切り口・アイデア・仮説を得ることです。一人の天才によるひらめきではなく、市場を創造するというクリエイティブなことを再現性のある具体的な方法です。
機会発見の1つ1つのやり方はオーソドックスなものです。デスクリサーチ、インタビュー、エスノグラフィー調査、ユーザーマッピングによる可視化です。
これらを総動員し、アイデアの発散と収束を繰り返しながら機会発見の5つのプロセスに従い、発散と収束を繰り返しながら、新しい着眼点を見い出します。
最後に
本書は、新しいビジネスチャンス、市場創造という正解のないことに、具体的にどのような方法で取り組めばよいかをわかりやすく説明する本です。
イノベーションの起こし方を、属人的で組織での再現性が低いやり方 (例えば一人の天才のひらめきから) ではなく、組織で再現できるように、具体的にわかりやすく解説しています。