出典: サントリー
今回のテーマは、マーケティングの 「消費者インサイト」 です。
興味深いと思った商品リニューアルの失敗事例を取り上げ、学べることとして消費者インサイトの解説をしていきます。
✓ この記事でわかること
- サントリー天然水がリニューアルをするも、前代未聞の大失敗に
- 失敗の本質は 「消費者インサイトと施策との乖離」
- サントリー天然水のインサイトとは?
- 消費者インサイトに応えるマーケティングを (学べること)
よかったら最後までぜひ読んでみてください。
かつてのサントリー天然水の大失敗
2013年の話ですが、サントリー天然水がリニューアルで大きな失敗をしたことがありました。
リニューアルの内容
まずどんなリニューアルだったかと言うと、日経クロストレンドの記事に詳しく書かれていたので見ていきましょう。
当時、天然水チームは小容量での1位奪取を狙った戦略の一環として、パッケージのリニューアルに取り組んでいた。
前任者から引き継いだ資料では、消費者イメージ調査の結果から 「あれだけ自然環境に配慮した活動をしているのに伝わっていない」 「若い人たちに自分向けのブランドだと思われていない」 という2点を課題として特定。
環境をアピールし、かわいいパッケージにして若い人たちに振り向いてもらおうと、13年5月に 「天然水の森」 に生息する動物のイラストをデザインしたラベルに。「未来へ森を贈ろう。Gift!」 をキーメッセージにした黄色の首掛け POP も付けた。
2013年5月のリニューアル後の 「天然水の森」 に生息する動物のイラストを入れたラベル (出典: 日経クロストレンド)
「未来へ森を贈ろう。Gift!」 のメッセージを入れた黄色の首掛け POP (出典: 日経クロストレンド)
シェアの低下
リニューアルした直後に、想定とは逆のことが起こりました。
ところが発売した途端、社内に激震が走った。シェアが上がるどころか、急激に下がり始めたのだ。
当時指標にしていた一部コンビニでのシェアが約 47% から一気に約 38% と 10% と下落 (数字はサントリー推計) 。「首掛け POP を付けてシェアが落ちるのは前代未聞だった」 (小南氏) 。
調査からわかった消費者の声
サントリー天然水のチームは失敗の要因を分析するために、ミネラルウォーターを買った人への調査を実施しました。
何が原因なのか。
チームはまずコンビニで水を購入した買い物客の出口調査を1週間行った。すると、いつも天然水を選ぶ買い物客が 「棚のどこにあるのか分からなかったから、仕方なく他の商品を買った」 という。
* * *
学べること
ここからは、サントリーの天然水の失敗事例から、学べることを掘り下げていきましょう。
リニューアルの失敗について、結論から先に言えば失敗の本質は 「消費者インサイトとかけ離れた施策」 だったからです。
消費者インサイトとは
マーケティングの重要な概念が消費者インサイトです。BtoC だけではなく BtoB にも共通するのでより一般的な表現をするなら 「顧客インサイト」 です。
顧客のインサイトとは 「人を動かす隠れた気持ち」 です。
普段はお客さん本人も自覚していませんが、そうだと気づかされれば、買うなどの行動につながる奥にある本音がインサイトです。マーケティングでは顧客インサイトのことを 「心のツボ」 や 「心のホットボタン」 と言ったりします。
サントリー天然水のインサイト
ではサントリー天然水の消費者インサイトは何かを考えると、一言で言えば 「南アルプスにいるような体験をしたい」 です。
あらためてサントリー天然水のボトルを見ると、ラベルには南アルプスのイメージが強調されています。
出典: 日経クロストレンド
たとえ南アルプスには行けなくても、サントリー天然水を飲んでいる時は南アルプスの大自然の水を飲み、気持ちだけでも南アルプスにいたい奥にある望みです。
消費者はサントリー天然水を買っていると同時に、無意識のレベルですが南アルプスという大自然の体験を買っているわけです。ここに価値があります。
サントリー天然水ウォーターサーバーの話
ここまでの内容につながる話として取り上げたいのが、ここらで広告コピーの本当の話をします。(小霜和也) という本に書かれていたことです。
著者の小霜さんが手がけたサントリー天然水のウォーターサーバーの案件の話です。
以下は本から該当箇所の引用です。
先ほど事例で出てきたサントリー天然水サーバー。章の最後に、僕がどういう思考でこの広告キャンペーンを作ったかという話をします。
僕はウォーターサーバーの水を生活 「環境」 を作るものと考えました。空気と水は人間にとって重要な生活環境。健康のために田舎に越す人もいるぐらいで。飲用だけでなく、料理や赤ちゃんのミルクにも使うウォーターサーバーの水を新しくするということは、生活環境を変えるに等しいのではと。
それで、「サントリー天然水サーバー」 を導入するのは、いわば南アルプスに引っ越すようなものだ、というコンセプトにしました。コピーは、「わが家は、南アルプスです。」 これはタグラインでもあり、キャッチフレーズでもあります。
CM のオンエアが始まった途端、注文の電話が殺到しました。
僕は仕事の便宜のために都心に住んでいますが、子どもが産まれた時、はたしてこれでいいのかなと悩みました。軽井沢とか、環境のいいところに住んで、そこから通うべきなのではと。そんな気持ちは子を持つ親なら誰しも持っているものです。そういった親たちの心に刺さったのだと思います。
モノとヒトとの新しい関係、天然水サーバーと子を持つ親との関係をクリエイトしたわけです。
サントリー天然水の、「わが家は、南アルプスです。」 のクリエイティブがこちらです。
消費者インサイトに応えているか
そろそろ今回のまとめに入っていきますね。
サントリー天然水のリニューアル失敗の本質は、「消費者インサイトと施策の乖離」 と捉えました。
南アルプスにいるような体験をしたいという消費者インサイトに対して、パッケージデザインの変更と首掛け POP を付けた意図は次のようなものでした。
✓ リニューアルの狙い
- 自社がやっている環境保護活動をもっと知ってほしい
- 新しいパッケージデザインにかわいい動物のキャラクターを入れれぱ、若者が好んでくれるはず
ここには消費者インサイトが少しも入っていなく、顧客不在です。自分たち本位で、売り手と買い手のギャップが生まれ、消費者がサントリー天然水から離れてしまったのです。
学びとして最後に残しておきたいのは、「自分たちがやろうとしていることは、顧客インサイトに応えるものか」 を常に意識する重要性です。
まとめ
今回はサントリー天然水のリニューアルを取り上げ、失敗から学べることを見てきました。
最後にまとめです。
消費者インサイト
- 消費者インサイトとは 「人を動かす隠れた気持ち」
- 普段はお客さん本人も自覚していないが、そうだと気づかされれば、買うなどの行動につながる奥にある本音
インサイトとマーケティング
- サントリー天然水のリニューアル失敗の本質は、「消費者インサイトと施策の乖離」
- 南アルプスにいるような体験をしたいという消費者インサイトに対して、リニューアルの狙いは自社の環境保護活動をもっと知ってほしいという自分たち本位だった
- 自分がやろうとしていることは 「顧客インサイトに応えるものか」 を常に意識することが大事
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