本来はそうあってほしいのに、自社の商品がお客さんの問題解決の選択肢として頭に浮かばれない…。ここにマーケティングの課題があります。
今回はこの問題に焦点を当て、ぜひ一緒にマーケティングへの学びを掘り下げていきましょう。
ピップエレキバンのファミリー層向けイベント
出典: ピップエレキバン
ご紹介したいのは、ピップエレキバンの事例です。ピップエレキバンは、1972年の誕生から50年以上も続くロングセラー商品です。
初のコンシューマー向けイベント
磁気を使う治療器のピップエレキバンが、ユニークな向けイベントを開催しました (リリースはこちら) 。
ピップは、23年5月1 ~ 7日のゴールデンウイーク期間に、ピップエレキバンブランドとしては初のコンシューマー向けイベント 「ホグシーランド」 を開催した。ファミリー層でにぎわう東京・有明の複合商業施設 「有明ガーデン」 の4階にあるキッズスペース 「キッズ有明ガーデン」 内に、マッサージ体験ができるスペースとオリジナル遊具を設置して無料で利用してもらった。
コンセプトは 「子どもが遊ぶ間、ママとパパは疲労回復」 。キッズスペースには、肩のこりなど、様々なこりの名前が記載されたブロックを崩して遊ぶ 「コリ崩しブロック」 や、ピップエレキバンのパッケージを模したオブジェの前で 「ピップエレキバン」 と大声で叫ぶ 「ピップエレキバンいえるかな」 といったオリジナル遊具を設置。
柵で囲った広場のようなスペースで子どもが遊ぶ様子を見守りながら、マッサージを受けられるようにした。マッサージスペースでは5人の整体師が施術を担当し、開催期間の7日間の合計で1113人がマッサージを体験した。
ホグシーランドはその後に関西でも実施されました (リリース) 。
ホグシーランドの狙い
では、イベント開催の背景や狙いはどこにあったのでしょうか?
子育て世代を想定顧客としたのは、市場の大きさも要因の一つだ。「マーケティング視点で考えても、毎年約70万 ~ 80万人の新生児が誕生する。出生率で考えると、毎年100万人単位のママさん、パパさんが市場に入ってくる。子育て世代に『肩こり = ピップエレキバン』のイメージを定着できればユーザーベースが広がる」 と松浦由典氏 (引用者注: エレキバンブランド ブランドマネジャー) は語る。
イベント開催の KPI (重要業績評価指標) は、純粋想起率を高めることに設定した。純粋想起率とは、製品カテゴリーや悩みの種類など、限定的な情報から特定のブランドを思い浮かべる人の割合のこと。「肩や腰のこり」 などに悩んでいるときに、解決法としてピップエレキバンを想起する人の割合を上げることが目標だ。
なぜ純粋想起率を目標として掲げるのか。背景には、ブランド認知は高いが、悩み起点でピップエレキバンを発想する人がまだまだ少ないという課題感があった。
ピップの調査によると、ピップエレキバンは全年代では約 90% のブランド認知がある。若年層である20代でも約 80% の認知を得るなど、知名度は高い。全国のドラッグストアの配荷率は約 95% と購入しやすい。それでも、 「肩や腰のこりなど悩み起点での想起がまだ不十分」 と松浦由典氏は話す。
「現状の調査では、同様の悩みの際、マッサージやストレッチなどを解決法として思い浮かべる人が多く、ここでピップエレキバンを想起する人の割合を高めて、買い上げ率を高めることがブランドの成長につながるのではないか」 (松浦由典氏)
商品認知と解決策想起のギャップ
ピップエレキバンは高い認知率を誇りますが、生活者が 「肩こりや腰痛を和らげたい」 と思ったときに選択肢として思い浮かばれませんでした。想起されるのは、マッサージやストレッチであることが多いようです。
商品やサービスの認知率が高くても、お客さんの問題解決策として選択肢に入らないというギャップは、マーケティングでの課題です。
ジョブ理論
ではピップエレキバンの事例から、学べることを掘り下げていきましょう。
ここで補助線としてご紹介したいのは 「ジョブ理論」 です。
ジョブ理論は、ハーバード・ビジネス・スクールの故クレイトン・クリステンセン教授が提唱した理論です。ジョブとはもともとの英語では 「Jobs to be done」 と表現されます。日本語にすれば 「片付けたい用事」 「済ませたい仕事」 という意味合いを持つ概念です。
ジョブ理論で特徴的なのは、人がジョブを解決するために商品やサービスを 「雇う」 と表現することにあります。商品やサービスはジョブを解決するための手段と位置づけられるわけです。
ピップエレキバンをジョブ理論の視点で見ると、商品名としての認知は高いものの、「肩や腰のこりを和らげたい」 というジョブへの雇う選択肢としてはピップエレキバンは挙がらないという状況でした。
ギャップを埋める方法
お客さんのジョブが明確でありながら、雇う候補の中に自社の商品やサービスが選択肢として想起されない場合、マーケティングはどのようなアプローチをとれば良いのでしょうか?
最後にこの問いを考えてみましょう。
商品の存在自体は認識されているので、ジョブと商品が連想されるように働きかけることで、自社の商品が選ばれる可能性が高まります。
マーケティングの具体的な手段としては、以下のようなものが考えられます。
- 体験の機会の提供
- ストーリーテリング
- 協調路線
まずは 「体験の機会の提供」 です。たとえばピップエレキバンが行ったような体験型イベントは、実際に商品を使ってもらうことで、自社商品がジョブ解決の手段として認識されやすくなるでしょう。
他には 「ストーリーテリング」 があります。お客さんの抱えるジョブをリアルな物語にして再現し提示し、共感してもらった後に解決策として自社の商品を提案します。お客さんのジョブと商品の関連性を強化できます。
そして 「協調路線」 も有効です。お客さんがジョブの解決のためにすでに思い浮かぶ選択肢に、自社の商品も入り込むアプローチです。
たとえばピップエレキバンの場合は、マッサージ師やストレッチ専門家からの推奨を得たり、マッサージ店でピップエレキバンを販売してもらうなどです。マッサージやストレッチという既存の解決策と協調することで、自社の商品が選択肢として想起されることを狙います。
お客さんの課題 (ジョブ) が明確になっている状況では、ジョブの解消のための雇う候補として自社商品をいかに結びつけられるか。ここにマーケティングの知恵の出しどころがあります。
まとめ
今回はピップエレキバンの事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 商品の認知度が高くても、お客さんのジョブへの問題解決策として頭に浮かばれない 「商品認知と解決策想起のギャップ」 はマーケティングの課題の1つ
- ギャップを埋めるためには 「ジョブ理論」 を活用し、お客さんが直面するジョブ (片付けたいタスクや課題感) と自社の商品・サービスを結びつける
- 具体的には、ジョブを再現した状況での商品の体験機会の提供、すでに想起される解決策との協調路線など。お客さんの頭の中でジョブと商品の結びつけを強化し、認知とジョブ解決策への想起を高めよう
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