#マーケティング #経営 #本
「自社の事業は何か?」 と聞かれたとき、すぐに即答できるでしょうか?
P. F. ドラッカーは 「事業を決めるのは企業や生産者ではない」 と喝破しました。ドラッカーが指摘するのは、事業を決めるのは顧客であり、お客さんが価値を感じるものこそが事業の本質だということです。
では、顧客への価値をつくり続けるために企業は何をすべきなのでしょうか?
今回は、ドラッカーの著書 「現代の経営 [上] (P F ドラッカー, 上田惇生) 」 をもとに、企業の目的と責任、そしてマーケティングの本質や役割に迫ります。
現代の経営 (P F ドラッカー)
事業を決めるのは 「顧客は誰か」
事業を決めるのは企業や生産者ではありません。顧客こそが、事業のあり方を決める存在です。
事業は何かを決めるのは、生産者ではなく顧客である。社名や定款ではない。顧客が製品やサービスを購入して、自らを満足させる欲求が何であるかが事業を決める。
したがって、「われわれの事業は何か」 という問いに対する答えは、事業の外部、すなわち顧客や市場の立場から事業を見ることによってのみ得られる。
(中略)
われわれの事業は何かを知るための第一歩は、「顧客は誰か」 という問いを発することである。「現実の顧客は誰か」 「潜在的な顧客は誰か」 「顧客はどこにいるか」 「顧客はいかに買うか」 「顧客にいかに到達するか」 を問うことである。
そしてドラッカーはこのようにも言っています。
企業が何かを決定するのは顧客である。
財やサービスへの支払いを行うことによって、経済的な資源を富に変え、ものを商品に変えるのは顧客だけである。企業が自ら生み出していると考えるものが重要なのではない。特に企業の将来や成功にとって重要ではない。顧客が買っていると考えるもの、価値と考えるものが重要である。
企業が何であり何を生み出すかを規定し、企業が成功するか否かを決めるのは、それらのものである。 顧客が企業の土台として企業の存在を支える。顧客だけが雇用を創出する。社会が企業に資源を託しているのは、その顧客に財とサービスを供給させるためである。
顧客や市場の視点から見た事業のあり方こそが、事業を本質的に決めます。
例えば、どんなに技術的に優れた製品を開発しても、お客さんが価値を感じなければ、市場で成功することはありません。お客さんが求めているのは、製品やサービスそのものというよりも、製品・サービスを所有したり使うことで得られる価値です。
企業が最初に問うべき問いは 「顧客は誰か」 であり、「顧客がどこにいるか」 「何を買うか」 「何を価値と見なすか」 を考えることが重要なのです。
企業の目的は 「顧客の創造 (create a customer) 」
ドラッカーは企業の目的を 「顧客の創造」 と断言します。
企業とは何かを理解するには、企業の目的から考えなければならない。
企業の目的は、それぞれの企業の外にある。事実、企業は社会の機関であり、その目的は社会にある。企業の目的として有効な定義は一つしかない。すなわち、顧客の創造である。
市場は、神や自然や経済によって創造されるのではなく、企業によって創造される。
注目したいのは、ドラッカーが 「顧客の創造」 について、もともとの英語の原文では 「create a customer」 と表現している点です。「the purpose of business is to create a customer」 であると。
顧客のことを単数形の 「a customer」 とする捉え方が示唆的です。顧客創造の出発点が 「ひとりの顧客」 であるという考え方です。つまり、まずはひとりのお客さんに価値を提供し、信頼を獲得することが、企業の目的を達成する第一歩であるとドラッカーは示しているわけです。
顧客の創造は、一人ひとりのお客さんを積み重ねていくことによって成り立ちます。この積み重ねが企業の存続を可能にし、さらには成長の基盤を築くのです。
企業の責任は 「存続」
1人ひとりの顧客創造という使命のために、企業にとっての最も基本的な責任は存続することです。
企業にとって第一の責任は、存続することである。言い換えるならば、企業経済学の指導原理は利益の最大化ではない。損失の回避である。
企業は事業に伴うリスクに備えるために、余剰を生み出さなければならない。リスクに備えるべき余剰の源泉は一つしかない。利益である。
しかも、事業は自己のリスクだけに備えればよいわけではない。利益をあげられない他の事業の損失の穴埋めにも貢献することが必要である。社会には、いくつかの企業が損失を出して消滅していくという経済的な新陳代謝が不可避である。
企業が存続することには、社会的な意味もあります。
企業は顧客に価値を提供するだけでなく、雇用を創出し、納税によって教育や公共への社会的費用を負担します。経済全体の新陳代謝を支える役割も果たします。
企業の機能は 「マーケティングとイノベーション」
顧客を創造し、企業を存続させるためには、ドラッカーはマーケティングとイノベーションが企業の二つの基本的な機能とします。
企業の目的が顧客の創造であることから、企業には二つの基本的な機能が存在する。すなわち、マーケティングとイノベーションである。この二つの機能こそ起業家的機能である。
ドラッカーは、マーケティングは企業にとって基本的な活動だという考え方を示しました。マーケティングが欠落した組織やそれが偶発的に行われるだけの組織は企業ではないし、企業のようにマネジメントすることもできないと。
イノベーションは、より優れた、より経済的な財やサービスを創造する活動です。コストの引き下げ、新製品の開発、顧客サービスの改善、新しい便益の提供など、イノベーションは企業活動のあらゆる場面で必要とされます。
マーケティングへの示唆
ドラッカーが指摘するマーケティングの捉え方の特徴は、その広範な活動範囲にあります。
マーケティング活動の範囲
マーケティングは販売や宣伝活動だけではなく、企業全体が取り組むべき活動だとします。
マーケティングは企業にとってあまりに基本的な活動である。そのため、強力な販売部門をもち、そこにマーケティングを任せるだけでは不十分である。
マーケティングは販売よりもはるかに大きな活動である。それは専門化されるべき活動ではなく、全事業に関わる活動である。まさにマーケティングは、事業の最終成果、すなわち顧客の観点から見た全事業である。
したがって、マーケティングに対する関心と責任は、企業の全領域に浸透させることが不可欠である。
お客さんが価値だと実感し、選ばれる理由をつくることがマーケティングで目指すことです。
マーケティング部門だけにその責任を負わせるのではなく、企業全体の活動としてマーケティングを捉えるべきなのです。
マーケティングの本質とは
私の解釈も入れると、マーケティングの本質は 「お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般」 にあります。
この表現は、マーケティングを企業の一部門や限定された人だけが行う行為ではなく、全社的な取り組みとして捉えたいという考え方も含んでいます。
お客さんに選ばれる活動の積み重ね
お客さんから選ばれるのをただ偶然に頼るのではなく、意図的に選ばれる仕組みを構築することが大事です。1商品、1店舗ごと、本当にいい商品でいい顧客体験を提供し続けるという姿勢によって、お客さんから選ばれる理由を積み重ねていくのです。
マーケティング活動の目的は 「お客さんに選ばれること」 に尽きます。そのために、お客さんの立場になり、企業全体でお客さんに価値を提供し続けること。企業は常に顧客起点になり、全社でその目標に向かって活動することが大切なのです。
ドラッカーの示唆するマーケティングの本質は、今なお企業活動で実践したい普遍的な考え方です。
まとめ
今回は、ドラッカーの著書 「現代の経営 [上] 」 を取り上げ、ビジネスの本質、マーケティングへの示唆を考えました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ドラッカーは、事業を決めるのは 「顧客は誰か」 だとした。企業の目的は 「顧客の創造」 であり、企業の機能はマーケティングとイノベーションだと説いた
- マーケティングは全社で取り組むべき活動で広範な役割を果たす。マーケティングの本質は 「お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般」 。企業が組織全体で一体となり、選ばれるための仕組みを構築する
- お客さんに価値を提供し続けることによって、お客さんに選ばれる理由を積み重ねることが重要。この継続活動が顧客創造と企業存続を可能にする
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