#マーケティング #未顧客 #本
既存のお客様を大切にすれば、売上は伸びる──
そう信じてきたマーケターは多いのではないでしょうか。でも実は、その常識が成長を妨げているかもしれません。
そこでご紹介したいのは、 「 "未" 顧客戦略 - 消費者の無関心から逃げない 「記憶 × 習慣」 の科学 (村山幹朗, 芹澤連) 」 という本です。
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この本は、良い意味でマーケティングの常識を覆してくれ、「マーケティングのアンラーニング」 ができます。
未顧客にアプローチする重要性
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多くの企業が信じてきたことは、熱心なファンやヘビーユーザーを大切にし、ロイヤルティを高めれば事業は成長するというものでした。
成長の主戦場は 「ロイヤル育成」 ではない
しかし現実は少し違います。売上や成長は、実は商品にあまり関心を持たない層の取り込みによってもたらされるのです。本書はこの 「不都合な真実」 を、豊富なデータとともに示してくれます。
「未顧客」 とは、あなたの商品を買ってくれないノンユーザー、年に 1 ~ 2 回程度しか買わないライトユーザー、そして平均的なターゲット像に当てはまらない少数派の顧客のことです。どのブランドでも、市場の大部分を占めるのがこの層です。
成長戦略の力点を既存客から 「圧倒的多数の無関心層」 へシフトすること。無関心な消費者から目を背けない。これが本書の出発点です。
なぜ未顧客が重要なのか
なぜ未顧客にフォーカスすべきなのでしょうか。
それは感覚的な主張ではなく、大規模な実証研究によって裏付けられています。
消費財 200 ブランド・ 1 万世帯を 5 年間追跡した調査によれば、購入回数が 5 回以下のライトバイヤーが顧客基盤の 8 割、売上の 4 割を占めています。「ヘビーユーザー上位 20% が売上 80% を占める」 というパレートの法則は、実態では 50 ~ 60% 程度にとどまり、しかもヘビーユーザーの半分は 1 年で入れ替わってしまうのです。
他に興味深いのは 「長期客ほど利益率が高い」 という通説についてです。実際には長期客ほど価格に敏感で単価も下がる傾向にあり、維持コストは短期客とほぼ変わりません。期間と利益の相関は 0.2 程度にすぎず、長期客が必ずしも優良顧客とは限らないのです。
これらのデータが示すのは明白です。持続的成長の鍵は、既存客のロイヤルティ向上ではなく、ライトユーザー・ノンユーザーの継続的な増加 (浸透率向上) にあります。
未顧客が買わない本当の理由
それでは、なぜ未顧客はあなたの商品を買わないのでしょうか。
多くのマーケターは 「機能が劣るから」 「価格が高いから」 と考えます。でも本書が示す真実は少し違います。
未顧客が買わない最大の理由は、「単に想起しないだけ」 なのです。明確な不満や障壁があって買わない未顧客は、全体の 10% 程度、あるいはそれ以下にすぎません。
人間の脳は、そもそも全ての事象に等しく関心を払えるようには設計されていません。認知科学・神経科学の研究によれば、好きと嫌いの間には常に膨大な 「どうでもいい」 が存在します。
この無関心は脳の 「仕様」 であり、生存戦略として組み込まれたものです。変えようのない前提として受け入れる必要があります。
また、未顧客が自社ブランドを選ばないもう一つの理由があります。それは他社のブランドや代替行動がすでに 「習慣化」 していることです。
消費者の日常行動の大部分は習慣的 (オートパイロット) であり、ブランド選択も同様です。同じブランドを使い続けるのはブランド愛ではなく、脳の思考停止状態なのです。
実際の研究によれば、消費者が 「使い続けることでもっと好きになった」 と企業側が解釈しているケースの半分は、実は 「単に思考停止して同じブランドを選んでいる状態」 だったといいます。
ブランドへのロイヤルティ (感情的なつながり) による継続購入と、習慣による継続購入や使用は、本質的に異なる消費者行動なのです。
「記憶 × 習慣」 の科学的アプローチ
では、生活者の強固な無関心と習慣の壁を打破するには、どうすればよいのでしょうか。本書は 「記憶 × 習慣」 を科学的に扱う戦略を提示します。
CEP で 「想起される入口」 を増やす
未顧客へのアプローチで重要なのは、「人」 ではなく 「文脈」 をターゲットにするという考え方です。
そして、ブランドが記憶から引き出されるための 「フック (鍵) 」 となるのが、カテゴリーエントリーポイント (CEP) という概念です。
CEP とは、消費者が特定のカテゴリーの利用や購入を考え始めるきっかけとなる、記憶や状況的な手がかり (文脈) のことです。たとえばソフトドリンクであれば 「暑い」 「子どもが好き」 「健康に良い」 「ご褒美」 「食事に合う」 といった文脈が CEP にあたります。消費者が日常生活から 「カテゴリー購入モード」 に切り替わる際のスイッチとしての役割を果たします。
重要な洞察は、ブランドが多くの、そして市場規模の大きい CEP と結びついているほど、想起される確率 (メンタルアベイラビリティ) は高まり、結果として市場シェアが拡大するという点です。
95% の未顧客期間で下準備をしておく
消費者が商品を認知してから実際に購入するまでには、数ヶ月、時には数年といった 「未顧客期間」 が存在します。
本書では BtoB における 「95 : 5 ルール」 が示されますが、四半期ベースでカテゴリー需要が発生する潜在顧客は全体のわずか 5% で、残り 95% は需要未発生の未顧客なのです。
次に需要が発生したときに、どのブランドが選ばれるかは、カスタマージャーニーの 95% を占める 「未顧客期間」 にどれだけブランドを構築できたかによって大方決まります。5% のほうの消費者が市場に入ってきてから選択を変えようとしても、ほぼ手遅れなのです。
95% の未顧客期間に必要なのは、直接的な 「買ってください」 というメッセージではありません。特定の生活文脈 (子どもの進学, 引っ越し, 深夜の残業など) とブランド名を繰り返し結びつけるナラティブ (物語) の提供です。
そして、購入文脈が発生し、消費者がその状況に置かれた瞬間に、過去に触れたブランド情報が 「あ、そういえば」 と蘇る状態を作っておく。これが市場拡大の鍵を握ります。
広告の役割 - 記憶を買う投資
従来、広告は 「説得の手段」 と考えられてきました。しかし本書は根本的に異なる視点を提示します。
広告とは、消費者の記憶を買う投資です。
「今まで興味を持ってくれなかった未顧客が、広告を見ることで『このブランドは他より機能やコスパが高そうだ』『よし次からはこのブランドにしよう』と説得されて買う」 というカスタマージャーニーは、マーケターが思うよりずっと少ないと本書はいいます。
広告が効くのは、認知や想起を高めることです。ブランドが選択肢に入る回数を増やすことで、間接的に売上に寄与するというのが広告の役割です。
考慮集合に入る前が勝負
広告の主戦場は 「考慮集合に入る前」 にあります。95% の未顧客期間です。
考慮集合が形成されるプロセスにこそ、未顧客の思考停止を解除する主要な介入点となります。伝統的なマーケティングの多くは 「考慮集合に入った後の打ち手」 に偏る傾向がありますが、考慮集合内の評価を高めるより、考慮集合に入らない問題を解決したほうが、ビジネスへのレバレッジを得られます。
広告が効くのは主に考慮集合に入る前の 「認知・想起段階」 です。逆に考慮集合に入った後の 「選好・選択段階」 に対しては限定的な効果しか持ちません。一般的に、広告によって消費者の知覚品質に大きな影響を与えることは難しいのです。
ターゲットを絞り込んで広告をたくさん見せたからといって、特徴や効用を深く理解してくれたり、差別化ポイントやベネフィットの評価が高まったりはしません。
だからこそ、ターゲットを絞り込んでフリークエンシーを高めるより、カテゴリーユーザーに対するリーチを優先すべきというのが本書の主張です。短期間で同じ人に何回も広告を見せるより、別の人になるべくたくさん 1 回ずつ見せたほうが確度は高くなります。
第一想起である必要は必ずしもない
もう一つ重要な洞察があります。第一想起である必要はないというものです。
消費者は 「頭の中に 1 番目から 5 番目までブランドのリストがあって、常に 1 番上のブランドを選ぶ」 ような決定論的な選び方をしているわけではありません。
いったんブランドが頭の中に入ってしまえば、最初だろうが最後だろうが大した違いはないといいます。考慮集合というのは 「1 等賞をとること」 ではなく、「入賞すること」 が重要なのです。
習慣の綻び目を突く
習慣は未顧客攻略の最大の障壁ですが、同時に最大の武器でもあります。
鍵となるのは 「習慣の不連続性」 です。競合ブランドに対する不満や障壁が生じる瞬間、例えば、商品が売り切れている、使いにくさを感じる、引っ越しや転職などの環境変化が起きるなど、こうした 「習慣の綻び目 (ハビットスリップ) 」 に介入することにより、思考停止状態を解除できます。
このタイミングで自社ブランドを試せるサンプル提供やクーポン配布を行います。実際に行動を促す施策が重要です。なぜなら、利用経験に基づくブランドへの態度は購買行動をよく予測する一方、広告だけに基づく態度では態度と行動の一貫性が低下してしまうからです。
確率論的に試行回数と想起確率を上げる
誰がどんなマーケティングを行おうが、売上がすぐ大きく動くことはまずないと本書はいいます。市場の構造的にも、成長の規則性的にも、記憶や習慣の仕組み的にも 「当たり前」 のことだと。むしろ売上は大きくいきなり伸びないという期待値で市場と向き合うほうがよいといいます。
特定時期の施策に反応する潜在顧客数には上限があり、そこを超えたらどれだけターゲット顧客層を絞り込もうが、インサイトを突こうが、価値提案を磨きこもうが、購買は起こりません。
マーケティングにできることは、本質的に 2 つに集約されます。「試行回数を増やすこと」 と 「想起・選択される確率を高めておくこと」 です。
実践のための 5 つのステップ
未顧客戦略の理論を実践へと落とし込むため、本書は具体的な 5 つのステップを提示してくれます。
[ステップ 1] 既存顧客の習慣を観察する
まず行うのは、自社商品がどのような文脈で利用や購入されているか、消費者の行動を観察することです。
実際の利用シーンを把握することで、ブランドと結びついている文脈 (CEP) を発見できます。
[ステップ 2] 新しい習慣を介入する文脈を見つける
次に、自社商品が利用・購入されている文脈のうち、既存の習慣が途切れやすい文脈を選抜します。
CEPの規模や、競合ブランドの連想の強さなど、市場を俯瞰できるように定量調査などでデータを取得できればより望ましいでしょう。
[ステップ 3] 文脈とブランドをリンクさせる
未顧客の 「こんな時はこのブランド」 という文脈とブランド利用が結びつくような働きかけを設計し、広告や製品利用体験に組み込みます。
消費者の記憶の中で、特定の文脈とブランドが自然につながるよう仕掛けていきます。
[ステップ 4] 文脈から得られる報酬 (ベネフィット) を定義する
自社商品の利用によって、どのような 「脳が喜ぶ報酬」 を提供できるかを踏まえ、商品のベネフィット (顧客価値) を提示します。
ここでは、機能説明だけにとどめず、その文脈において消費者が得られる報酬を明確にすることが重要です。
[ステップ 5] 文脈・行動・報酬をセットで連想させる顧客体験を設計する
定義した利用文脈とそこから得られる顧客価値 (報酬) を消費者に伝えるために、売り場、広告、パッケージなどを統合して設計します。
ここでは 「文脈 → 行動 → 報酬」 という一連の流れが、消費者の記憶の中でセットで連想されるよう、あらゆるタッチポイント (顧客接点) を最適化していきます。
読み終わっての所感
本書が強調するのは、無関心な消費者の脳内に記憶の構造を築き、習慣を操作してブランドを成長させるという戦略です。これは 「顧客ロイヤルティを高めれば成長できる」 という従来のマーケティングの定説に対するパラダイムシフトであり、アンチテーゼです。
同時に、「ではどうすればいいのか」 という実践的な回答を、認知科学と確率統計の両面から提示した点に本書の特徴があります。
未顧客という圧倒的多数の無関心層から目を背けない。未顧客の記憶と習慣を科学的に理解し介入していく。こうした視点の転換こそが、成熟市場における持続的成長への道を開きます。
まとめ
書籍 「 "未" 顧客戦略 - 消費者の無関心から逃げない 「記憶 × 習慣」 の科学 (村山幹朗, 芹澤連) 」 を取り上げました。
学びのポイントをまとめておきます。
- 成長の源泉はロイヤル顧客ではなく、無関心な未顧客層にある。市場の大部分を占める未顧客へのアプローチが、持続的な事業成長の鍵となる
- 買ってくれない未顧客なのは、単に思い出さないという無関心、オートパイロット状態による他社ブランド購入の習慣化。この前提を受け入れ、記憶と習慣を科学的に扱う戦略が有効
- 広告の役割は、説得ではなく記憶への投資。カスタマージャーニーの 95% を占める未顧客期間に、いかに記憶を仕込むかが重要。この投資が 5% の購入文脈期間で思い出してもらうことにつながる
- ペルソナではなく文脈をターゲットにする。CEP (カテゴリーエントリーポイント) を通じて想起される入口を増やし、考慮集合に入る確率を高める
- マーケティングは確率のゲーム。試行回数を増やし、想起・選択される確率を高めるサイクルを回し続けることで、少しずつ市場での浸透率 (シェア) が向上する
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