#マーケティング #ジョブ理論 #顧客価値
お客さんの多様なニーズには、どうすれば応えることができるのでしょうか?
同じお客さんでも、置かれている状況によって異なるニーズを持っていたりします。ニーズは十人十色というだけではなく、「一人十色」 なのです。
そこで今回は、ジョブ理論を活用し、お客さんの本当の望みを理解し、商品開発やマーケティングにつなげる方法を解説します。
より効果的なマーケティングのためのヒントを、ぜひ一緒に学んでいきましょう。
ジョブ理論
ジョブ理論では、お客さんがある商品やサービスを選ぶ背景には、「ジョブ」 が存在すると考えます。
ジョブとは
ジョブの定義は 「人が特定の状況で遂げたい進歩 (Progress) 」 です。
ジョブ理論で特徴的なのは、目指したい進歩を達成するために、お客さんは商品やサービスを 「雇う」 と捉えることにあります。商品・サービスを働き手である 「ワーカー」 として雇用するわけです。
ジョブ理論において重要なのは、お客さんの置かれた状況を理解することです。その状況下でどのような進歩を求めているか、つまりどんなジョブが存在するかを把握することが大事です。
ジョブの例
たとえば、ファミリーレストランを利用するお客さんについて考えてみましょう。
あるお客さんは、ひとりで静かに勉強や仕事をするためにファミリーレストランを利用します。この場合、このお客さんのジョブは 「街中で静かに作業をしたい」 ことです。
一方で同じ人でも、今度は休日に子連れの家族として同じファミリーレストランを利用する場合、ジョブは 「子どもが多少騒がしくてもまわりに迷惑にならず、子ども連れでも気兼ねなく食事をしたい」 となります。
このように、同じお客さんでも平日のひとりの時と、休日での家族が一緒の時では置かれた状況が異なり、その時々で違うジョブが生まれることがわかります。ひとりで仕事や勉強をしたり、家族と食事をする時以外にも、友人とおしゃべりを楽しむ時など、それぞれの状況の下で、お客さんがファミレスに求める 「ジョブ (進歩) 」 は異なるわけです。
もうひとつ別の例を挙げると、例えば、コンビニエンスストアです。
一人暮らしの若者が、夜遅くにすぐに食べられる食事のためにコンビニを利用する場合、ジョブは 「自宅で用意をする必要がなく、さっと手軽に食事を済ませること」 です。
一方、同じコンビニを利用するお年寄りの人が、毎日の買い物で利用する場合はどうでしょうか。ジョブは 「日常の必要品を、歩いても疲れる距離ではない近所のお店で手に入れること」 になります。
ワーカーとして選ばれるために
同じプロダクトであっても、お客さんの置かれた状況によって、プロダクトは全く異なるジョブを遂行するために雇われます。ひとつのプロダクトが 「複数の役割を持つワーカー」 として機能し、多様なお客さんのニーズに応えているわけです。
ジョブを完了できるスペックがあるか
企業がお客さんの抱える様々なジョブに対応するためには、お客さんの置かれた状況を解像度高く理解し、それぞれのジョブに対してどのように自社のプロダクトを雇用してもらえるかを考える必要があります。
ファミレスの例で続ければ、ひとつで利用するお客さんに対しては、静かな空間や Wi-Fi の提供がうれしい顧客価値につながります。一方、子連れのファミリーのお客さんに対しては、子ども向けのメニューや広い席、騒いでも大丈夫な環境が価値となるでしょう。
ジョブ理論で変化する市場環境を捉える
ジョブ理論に時間軸の視点を入れることで、変化するお客さんのニーズにも対応できます。
ロングセラー商品は時代とともに変わるお客さんのニーズに合わせて適応し続けています。ジョブ理論の観点から見れば、時代とともに変化するお客さんの 「状況」 と 「ジョブ」 に合わせて、プロダクトの 「ワーカーとしての機能」 を進化し続けているということになります。
たとえば、今までは Wi-Fi がファミレスをひとりで使うお客さんのジョブにとって重要でした。しかし、今後は Wi-Fi がなくても携帯回線の通信速度や品質がもっと高く安定するようになれば、そのジョブスペック (ジョブを完了させるために必要なワーカーとしての条件) の重要性は低下します。それよりも、全席に充電が可能な電源コンセントだけではなく、テーブルごとにスマホに直接つなげられる Type-C の充電器を設置しておくほうが良いでしょう。
ジョブを活用するマーケティングを
このように、お客さんの状況とジョブの変化を常に捉え、それに合わせて商品やサービスの機能を適応していくことが、長期的な成功につながります。
ジョブ理論という視点を持つことで、「うちのお客さんはこうだから」 「自社商品の強みはこれ」 という固定観念にとらわれることを防げます。商品・サービスを特定のジョブに固定して考えるのではなく、お客さんの変化する状況とジョブに応じて柔軟にジョブスペックを変化させていくことが大事になるのです。
ジョブ理論を活用することで、企業は市場を単一の層として捉えるのではなく、それぞれのお客さんの具体的な状況と求める進歩に応じた価値をもたらすことが可能となります。
さらに、現時点でのお客さんの色々なニーズに応えられるだけでなく、変化する市場環境にも柔軟に対応できます。より多くのお客さんに選ばれる存在となり、長期的な成功を収めることにつながります。
ジョブ理論を取り入れることで、企業は自社の商品やサービスが実際にどのような 「ワーカー」 として機能しているかを、より具体的かつ多面的に理解することができます。
ジョブ理論を活用するメリットは、ターゲットとするお客さんの具体的な状況とジョブを理解することで、より的確な顧客価値を提供できる点にあります。市場全体を漠然と捉えるのではなく、お客さんの個別の状況とジョブに焦点を当てることで、より精度の高いマーケティング活動になるのです。
まとめ
今回はジョブ理論を取り上げました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ジョブとは、お客さんが特定の状況で遂げたい進歩を指す。商品やサービスは、ジョブを達成するための 「ワーカー」 として雇用される
- 自社商品やサービスがワーカーとして選ばれるためには、ジョブに対応できるジョブスペックを持つことが必要になる
- お客さんの状況を解像度高く理解し、その状況でどのようなジョブを求めているかを把握する。見出した状況とジョブに対して、どのように自社の商品・サービスを雇ってもらえるかを考えることが大事
- ジョブを活用するマーケティングでは、お客さんの状況とジョブの変化をとらえ、プロダクトがジョブスペックを持つよう柔軟に調整することが求められる。市場をひとつのかたまりとして見るのではなく、固定観念にとらわれず、お客さんの具体的な状況とジョブに応じた価値を提供することが重要
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