投稿日 2025/09/09

ミンティア "息みがき" 。ブランドエクイティから選ばれる理由をつくるマーケティング

#マーケティング #ブランディング #コンセプト

同じような商品やサービスが並ぶ中で、消費者や企業から選ばれるブランドには理由があります。その理由をつくっているのが 「ブランドエクイティ」 です。

では、どうすれば商品・サービスのことをお客さんの頭の中にしっかりと定着させられるのでしょうか?

今回は、コロナ禍で売上が大きく減少しながらも見事に V 字回復を果たした 「ミンティア」 の事例を取り上げます。ミンティアから、ブランドの価値を見直し、伝え、選ばれるためのブランディングを紐解きます。

ブランドエクイティ


ブランドエクイティとは、好意的なイメージなどの総体的なブランド価値を指します。

具体的には、消費者やお客さんの頭の中に蓄積されるブランドへの信頼、愛着、あるいは 「なんとなく好き」 や 「このブランドなら買ってもいい」 と思わせるものです。

ブランド価値がしっかりと消費者の頭の中に根付いているかどうかで、ブランドが際立てるかが決まってきます。

たとえば、似たような性能や味の商品が並んでいるときでも、この会社の商品なら安心だという過去の信用、商品を買ったことがなくても信頼があれば購買を後押しするでしょう。これがブランドエクイティによる効果です。

ブランドエクイティを構築する起点は消費者理解

とはいえ、消費者からの 「なんとなく好き」 といった感覚は自然発生的に生まれるものではありません。売り手である企業が消費者のことを理解し、消費者が本当に求める価値を提供できるように設計し訴求していく必要があります。

ここでカギになるのが、消費者を深く理解することです。ブランドエクイティを構築するにあたっての出発点は、消費者やお客さんの持つ価値観、置かれた状況、その状況下で生じているニーズ、満たさせれていない未充足ニーズ、困りごとや課題を知ることです。

マーケティングコミュニケーション

消費者に共感したり理解することから 「自社商品がどんな理由で選ばれるのか」 が見えてきます。消費者理解こそがブランドエクイティの原点になるわけです。

ブランドが人の本能にまで刺さるような価値をもたらすものであるほど、消費者から選ばれる存在としての魅力が強くなります。

もちろん、消費者理解をすればあとは勝手にブランドエクイティができるわけではありません。

消費者の頭の中にブランドエクイティを形づくるためには、マーケティングコンセプトをしっかりと据えて、ブランドエクイティをつくるために継続的にコミュニケーション活動を行わなければなりません。

たとえば SNS や広告を使い、このブランドを選ぶとこんないいことがある、こんな顧客価値があるという訴求を消費者に伝えていきます。そうすることで消費者からのこのブランドが欲しいという意識が芽生え、商品を買うという行動につながりやすくなります。

では、実際にどのようにブランドエクイティを定義し、マーケティングに落とし込んでいけばいいのでしょうか?

ここからは、清涼タブレットの 「ミンティア」 の事例を例に詳しく見ていきましょう。

ミンティアの V 字回復


ミンティアは、コロナ禍で大きな打撃を受けながらも見事に V 字回復を遂げました。

ではミンティアがどのように V 字回復をしていったのかを、順を追ってみていきましょう。

発見した新たなニーズ

コロナ禍による人々の外出機会の減少やマスク着用が当たり前になるにつれ、清涼タブレット市場全体が冷え込んでいました。それまでの人と会う前に口臭ケアをするという需要が落ち込んでしまったからです。

ミンティアは、消費者の生活実態や困りごとを探ってみると、想定とは違うニーズが見えてきました。マスクの内側の息が気になるという悩みです。まわりの人に対して自分の口臭を気にするのではなく、自分自身への息の不快感を何とかしたいという新たなニーズが顕在化していたわけです。

ミンティアはコロナ禍でエチケット需要が減ったり、それにより売上が落ちて大変だと嘆くはかりではなく、マスクを着用するシーンや時間が増えたこそ生まれる消費者の 「不」 に注目しました。「他人のためのエチケット」 から 「自分のために息をケアする」 というシフトに至るのです。

コアバリューを再定義

もともとミンティアは、口臭エチケット、眠気覚まし、口直しによる気分転換といったシーンや用途で食べられる清涼菓子でした。しかし、コロナ禍による生活者環境の変化により訴求価値が弱まってしまいました。

そこでミンティアはブランドエクイティから見直すところまで立ち戻りました。導き出されたのが、自分自身の 「息をみがく」 という新たなコアバリューでした。

従来はミンティアは 「息スッキリ!」 を打ち出していましたが、「息みがき」 として歯みがきのように自分で息をケアするプロセスをイメージさせる言葉にしたわけです。

商品開発やマーケティング施策

ミンティアはコアバリューを反映した商品開発やマーケティング施策を展開しました。

変わったのはパッケージデザインです。

ミンティアブリーズ クリアプラスマイルド (左がリニューアル前 / 右がリニューアル後) (出典: 日経クロストレンド

それまでは MINTIA のロゴを強調するデザインでしたが、リニューアル後は 「息みがき」 というワードをパッケージ中央に大きく配置しました。

さらにミンティアは、若年層や新規顧客の獲得を目指した商品バリエーションを積極的に増やしました。

たとえば、香水のように香りをまとうという女性向けに注力したものや、声優事務所とのコラボで声をケアするタブレットを発売するなど、さまざまな角度から 「息みがき」 を拡張しています。さらに、人気アニメの ONE PIECE とのコラボパッケージも用意しました。

マーケティングの観点では、ミンティアは行動喚起を強調するコミュニケーションを強化しました。新しいコピーである 「息みがき」 という言葉を使い、消費者に能動的に自分の息を整える存在であることをイメージしてもらうことを狙ってのものです。

ミンティアから学べること


では、最後のパートではミンティアの事例から、汎用的に学べることを整理しておききましょう。

  • 徹底した消費者理解

    コロナ禍でタブレットタイプの清涼菓子への需要が落ち込んだが、消費者理解を進めると 「マスクの内側の息が不快」 という困りごとが生まれていた。こうした新しい事象と、それによる新しい問題に気づけるかどうかが、成功する商品開発やマーケティングにつながる

  • 新しいコアバリューの再定義

    ミンティアは 「周囲へのエチケット」 から、新たに 「自分自身のための息のケア」 へとコアバリューを定義した

  • わかりやすいブランドコンセプトの言語化

    そこから 「息みがき」 というブランドコンセプトが生まれた。自分で能動的に息を磨くというプロセスを消費者に想像させる言葉。消費者からブランドイメージや行動を連想してもらいやすい言葉は、記憶に定着しやすい

  • ブランドコンセプトを反映するマーケティング

    パッケージ、広告、SNS 、コラボ商品など、消費者とのあらゆる接点で同じブランドメッセージを届ける

  • 新規層へのアプローチ

    ミンティアは清涼タブレットという既存ジャンルの枠を超え、おしゃれ、エンタメ、声のケアといった切り口で利用用途を広げた。今までのイメージに加え、新鮮なイメージを同時に打ち出している


こうしてミンティアはコロナ禍のどん底から V 字回復を果たしたわけですが、決して偶然の産物ではありませんでした。

背景には消費者は何を求めているかを掘り下げる顧客理解を追求する姿勢と、ブランドコンセプトを明確なコピーに落とし込む言語化、そして複数のアプローチを一貫して展開する商品開発とマーケティングがありました。

自社商品・サービスをいかに消費者の頭の中に定着してもらうかへのヒントとして、ミンティアの事例は学びが得られます。

まとめ


今回は、ミンティアを取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • ビジネスの出発点は徹底した消費者理解。消費者の価値観、困りごとや課題、生活文脈を理解し、本質的な消費者ニーズに応えていく

  • ブランドエクイティは選ばれる理由をつくりだす。消費者の頭の中にある信頼や期待、愛着が、他との違いとなり、購入や共感への後押しとなる

  • コアバリューの定義からブランドコンセプトの言語化。ブランドが提供する本質的価値を言語化し、一言で伝わるコンセプトに落とし込む

  • ブランドコンセプトを反映するマーケティング。定義されたブランドコンセプトを商品開発、パッケージ、広告などのマーケティング活動に取り込む

  • あらゆる顧客接点でブランドコンセプトとメッセージを一貫させる。パッケージデザイン、店頭、SNS 発信など、消費者や顧客との接点で統一されたメッセージを届け、ブランドイメージを強化する


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。