投稿日 2025/11/16

宝酒造みりん。価値の可視化でブランドコンセプトを強化する

#マーケティング #ブランドコンセプト #価値の可視化

実際には優れた機能や便益があるのに、その魅力が伝わらずに 「買う理由が見つからない」 と思われてしまう…。少なくない企業が抱える解決したい問題ではないでしょうか?

ご紹介したいのは、宝酒造 (たからしゅぞう) の事例です。

みりんという身近な調味料において、目に見えない価値を可視化することにより、お客さんの心を動かし、確信を持った購入につなげるという取り組みです。

事例から、顧客価値を効果的に伝える 「価値の可視化」 の意義と実践のポイントを紐解きます。

宝酒造みりん


みりんは日常の料理に使われる調味料ですが、「なくてもなんとかなる」 と思われやすい一面があります。

みりんには実際には、煮崩れを防ぐ、照りを出す、味をまとめるなど多彩な効果がありますが、その価値が直感的に伝わりにくいわけです。

そこで宝酒造は、みりんが持つ価値を消費者に伝えるため 「効果を見える化する取り組み」 を始めました。

価値の見える化に注力

宝酒造は京都の伏見工場に 「調味料カスタマーセンター」 を新設しました。食品分析機器や調理器具がずらりと並び、まるで研究室のような空間です。日々 「おいしさの可視化」 が行われています。

注力したのは、みりんの煮崩れを防ぐ効果の伝え方です。これまで経験的に知られていた効果を、宝酒造は顕微鏡を使って科学的に証明しました。

具体的には、水だけで煮込んだジャガイモと、本みりんを加えて煮込んだジャガイモの比較です。両者を顕微鏡で見比べると、細胞壁の壊れ具合に歴然とした差がありました。本みりんを使ったジャガイモは、細胞壁の形がしっかり保たれていたのです。

宝酒造は、顕微鏡写真を自社のウェブサイトでも公開し、"なんとなく" だったみりんの効果を誰もが納得できる形で示しました。

BtoB への波及効果

価値の見える化は、BtoB (法人顧客) の取引においても力を発揮します。

食品加工会社やスーパー、コンビニなどから寄せられる 「肉を柔らかくしたい」 や 「総菜の見た目を良くしたい」 といった具体的な課題に対してです。科学的なデータと視覚的な証拠をもって解決策を提示できるため、提案の説得力が向上します。

顧客価値の見えにくさを可視化する意義


お客さんや消費者にとって、「なんとなく良さそう」 とか 「あったら便利かも」 という商品は数多く存在します。

しかし、それだけだと 「買わない理由も特にないけど、買う理由もない」 という曖昧な状態にとどまってしまいます。そこで有効になるのが 「価値の可視化」 です。

商品の 「なんとなく良い」 を示す

お客さんが商品やサービスに対して 「何となく良さそう」 という漠然とした感覚は持っていても、価値をしっかりと理解しているとは限りません。

この 「何となく」 を 「こうだから良い」 という確信に変えるのが、価値の可視化なのです。目に見える形で効果やメリットを示すことで、お客さんに商品への理解を深めて、信頼感を抱いてもらえます。

百聞は一見にしかず

日本語のことわざにもあるように、「百聞は一見にしかず」 です。

言葉を尽くして百回も説明するよりも、ひとつの分かりやすいデータや画像のほうが、相手の心を動かすことがあります。宝酒造の顕微鏡写真が良い例です。複雑な説明は不要で、写真を見ればみりんの効果が一目瞭然です。

価値を可視化することは、お客さんの購買意欲を刺激し、最終的な購入決定を後押しする上で重要な意味を持ちます。

ブランドコンセプトを目指して価値を可視化する


では、可視化する対象をどのように見極めればいいのでしょうか?

ここでポイントになるのが 「ブランドコンセプト」 です。

ブランドコンセプト

ブランドコンセプトとは、消費者に持ってほしい商品・サービスのイメージや、顧客価値を端的に言語化したものです。

調味料のみりんの例でいえば、宝酒造は 「煮崩れしない」 や 「適度に甘みや照りを加える」 という調理上のみりんのメリットを強みにし、 「伝統的な製法で作られた信頼の調味料」 というイメージを持ってもらうことをコンセプトにしていると考えられます。

顕微鏡写真を用いる理由も、最終的には消費者に 「宝酒造のみりんは科学的にも証明された価値がある」 と思ってもらうためでしょう。

施策をブランドコンセプトにつなげる

顧客価値を可視化すること自体は目的ではなく、あくまで手段です。

では、そのゴールは何かというと、価値の可視化によって目指すブランドコンセプトが注力顧客の頭の中にしっかりと形づくられることです。

顧客価値をわかりやすく見せることにより、商品やサービスへの価値イメージがお客さんの頭の中にできることを狙います。

これは逆からたどれば、ブランドコンセプトがまず始めにあり、そのゴールから逆算して、どんな価値をどのように可視化すれば、お客さんによりうまくブランドコンセプトをイメージとして持ってもらえるのかをデザインすることが大事だということです。

宝酒造の例で言えば、「確かな効果でおいしさを支える調味料」 というブランドコンセプトを伝えるために、煮崩れを防ぐという具体的な価値を顕微鏡写真で可視化したわけです。

顧客価値を可視化するポイント


では最後のパートでは、顧客価値を可視化する際のポイントを整理しておきましょう。

顧客価値を見える化し、ブランドコンセプトの形成につなげるためには、いくつかの重要なポイントがあります。

顧客目線で価値を再定義する

まず大切なのは、顧客価値を明確にすることです。

このときに注意したいのは、自分たちが 「これが価値だ」 と思い込んでいることではなく、「お客さんが本当に求めている価値は何か」 という顧客目線になることです。

売り手の論理や専門知識だけでは、消費者やお客さんの心には響きません。消費者日常の中で何に困っていて、何を解決したいと願っているのか。お客さんが望むニーズに応える価値でなければ、いくら見せ方を工夫しても意味がありません。

ブランドコンセプトの強化を実現する

価値を可視化する目的は、商品の良さを伝えることにとどまらず、最終的にブランドコンセプトの強化につなげる点にあります。

ブランドコンセプトは、商品やサービスを通じてお客さんの頭の中に築きたいイメージや意味づけのことです。可視化の際には、ブランドコンセプトに直結する価値を明確に打ち出すというブランドコンセプトから逆算して考えることが重要です。

裏を返せば、可視化の対象や意図がブランドコンセプトとズレていると、ブランド自体のイメージ向上にはつながりません。

顧客価値の可視化とは、相手に持ってもらいたいブランドイメージをお客さん自身が自然とイメージできるように促す戦略的な取り組みなのです。

顧客視点で最適な見せ方を追求する

お客さんにとっての価値が明確になったら、次に考えるべきは、その価値をどう表現し、見せるかです。

ここでも大事なのは、作り手・売り手の視点ではなく、買い手・使い手の視点で価値が伝わるように可視化することです。

専門用語を避け、消費者やお客さんが直感的に理解できる言葉やビジュアルを選ぶ必要があります。

商品やサービス、注力顧客に合わせて、最適な見せ方は異なります。比較データ、お客様の体験談、使い方動画、専門家による解説など、様々な手法から最も効果的にお客さんに価値が伝わる方法を選び抜くことが求められます。

たとえば 「家庭で役立つかどうかが知りたい」 という顧客層には、わかりやすい動画と実際の試食レポートが有効でしょう。一方、BtoB 向けに 「科学的根拠を示してほしい」 と求められている場合は、宝酒造がやったように顕微鏡写真や成分分析のデータをわかりやすくビジュアル化すると説得力を増します。

これを突き詰めていくと、つまりは 「お客さんが自分が使うシーンをイメージできる見せ方」 を行うということです。

宝酒造のみりんの取り組みは、目に見えにくい価値をいかに効果的に伝え、お客さんからの信頼を勝ち取るかという点でヒントを与えてくれます。

まとめ


今回は、宝酒造のみりんの事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • お客さんが 「なんとなく良い」 と感じている価値を具体的に可視化すると、商品の理解度が高まる。購買意欲を刺激し、確信を持った購入決定を促せる

  • ことわざの 「百聞は一見にしかず」 の通り、言葉だけよりも画像やデータなどの視覚的表現も入れたほうが説得力が高くなる

  • 可視化は手段であり、最終的に顧客の頭の中に築きたいブランドコンセプトから逆算して、何をどう見せるかを決める

  • 可視化する際は、売り手の論理ではなく 「お客さんが本当に求めている価値は何か」 という顧客目線に立ち、お客さんの立場で本当に求められている価値を明確化する

  • 顧客が使用シーンをイメージできる見せ方をする。専門用語を避け、お客さんが直感的に理解でき、自分が実際に使っている場面を想像しやすい見せ方をするといい


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。