#マーケティング #差異化 #二階建ての価値構造
今回は、古谷乳業の 「物語のあるヨーグルト」 を取り上げます。
この事例をケーススタディに、二階建ての価値構造で選ばれる理由をつくるマーケティングについて掘り下げます。
物語のあるヨーグルト
古谷乳業は、カヤックと共同開発した 「物語のあるヨーグルト」 シリーズを2024年9月に発売しました。
製品の特徴
商品は3種類です。
蜂蜜が香る 「ぐうたら蜜バチ」 、無糖で生乳 100% の 「冬の入道雲」 、脂肪分ゼロ・低カロリーの 「姫のひとくち」 。絵本のタイトルのようなネーミングからも物語へのこだわりが伝わってきます。
「物語のあるヨーグルト」 は、商品の見た目もユニークです。
パッケージの前面から側面にかけて絵本のようなイラストがあります。ヨーグルトの蓋を開けると、物語が続きます。中蓋 (なかぶた) にはそれぞれのテーマに沿った短いストーリーがあらすじとして記載され、絵本の世界観を楽しみながらヨーグルトを味わえます。
絵本の中身は、こんな具合です。
例えば 「ぐうたら蜜バチ」 では、蜂蜜が甘い蜜を一生懸命に運んでいる姿がパッケージに描かれ、あらすじには 「まだ知られていない小さな島にとろーり蜜の実がなる不思議な森がありました。」 と書かれています。
そして 「ハチたちは蜜を抱えて町のヨーグルト工場にブンブンとはこんでいきました。」 と展開し、「この島のヨーグルトはやさしい甘みとゆたかな香りがするので町でも大人気。」 とあります。最後に 「『僕たちが一生懸命集めたハチミツだからおいしいに決まっているよね』」 、「ハチは誇らしげに羽をバタバタさせました。」 と終わります。
ちなみにパッケージの成分表示横には 「著者: 古谷乳業」 「発酵者: 乳酸菌」 「絵: 面白法人カヤック」 とあります。遊び心のある記載もされてていいですよね。
開発の背景
ユニークな 「物語のあるヨーグルト」 の開発の背景には、従来の栄養や機能性を訴求するヨーグルト商品が高齢者中心に人気だったものの、さらなる顧客拡大が難しいという古谷乳業の認識がありました (参考情報) 。
そこで、味わいやパッケージデザインを重視し、女性や子どもへのアプローチを強化することに。健康のために食べるという義務感ではなく、がんばった自分へのご褒美としてヨーグルトを楽しんでもらいたいという思いを込めました。また、ヨーグルトの製造工程における職人の技能を 「物語」 として表現するコンセプトとしました。
「物語のあるヨーグルト」 シリーズは既存商品と比較して売上が3倍に達し、顧客層も女性や子どもへと広がったとのことです。
では 「物語のあるヨーグルト」 の事例から学べることを掘り下げていきましょう。
差異化の3つの要素
ここからは差異化をテーマに、「機能」 「デザイン」 「ストーリー」 の3つの視点から見てみます。
機能・デザイン・ストーリー
差異化の方向性には大きく3つがあります。
- 機能: 性能, 商品としてできること (能力)
- デザイン: 見た目 (美しさ, かっこよさ, かわいさ) 。ユーザーフレンドリーなデザイン
- ストーリー: 商品の持つ独自ストーリー。例えば開発秘話や苦労話やつくり手の込めた想い。好きな・あこがれのインフルエンサーが使っている
イメージで言えば、機能が真ん中にあり、デザインは 「表側」 、ストーリーは 「裏側」 です。
物語のあるヨーグルトへの当てはめ
物語のあるヨーグルトは、機能・デザイン・ストーリーで見ると以下のような特徴を持っています。
■ 機能
ヨーグルトとしての基本品質や栄養価、おいしさ。従来の古谷乳業製品に期待される健康はきちんと担保されていますが、そこばかりは強調せず、自分へのご褒美的なうれしさの側面を打ち出しています。
■ デザイン
特徴は絵本風のパッケージです。子ども向けの絵本を連想させるかわいいイラスト。前面・側面で一続きのイラスト、中蓋のあらすじなど、視覚的にもストーリーを楽しめます。
■ ストーリー
デザイナーが一つひとつ手描きで描いた世界と、「ぐうたら蜜バチ」 「冬の入道雲」「姫のひとくち」 という物語性を感じさせるネーミングが読む楽しさがあります。ヨーグルトというジャンルではめずらしくファンタジーの要素を取り入れたことが、他のヨーグルト商品にはない個性を打ち出しました。
デザインとストーリーによる恩恵
ヨーグルト市場は機能面だけでは差別化が難しいカテゴリーです。
同様の栄養価や健康価値を打ち出すヨーグルトが多い中で、古谷乳業はデザインとストーリーを駆使したことにより、新しい独自性をつくりました。
■ 機能訴求からの脱却
古谷乳業は、従来の栄養や機能性訴求では顧客拡大が難しいと判断。 おいしい味であることを重視し、表現するために 「食べる絵本」 というコンセプトを採用しました。
■ 情緒的価値の創出
絵本のようなパッケージデザインと、それぞれのフレーバーに込められた物語は、消費者に楽しさ・かわいらしさ・癒しといった感情的な価値をもたらします。健康のために食べるべきという義務感からヨーグルトを選ぶのではなく、がんばった自分のためのご褒美として楽しむという新しい消費動機を喚起します。
■ SNSでの共感と拡散
ユニークなデザインやストーリーは、SNS との親和性が高く、消費者が自発的に情報を共有したくなる要素です。 広告費に頼らずに認知拡大が期待できます。
■ 子どもへのアプローチ
パッケージデザインは子どもの関心を引きやすく、店頭での購買動機にもつながっています。 これにより、従来アプローチできていなかった新たな顧客層の獲得に成功しました。
二階建ての価値構造
差異化の3つの要素である 「機能」 「デザイン」 「ストーリー」 は、それぞれが提供する価値につながります。
これを次のような 「二階建ての価値構造」 として整理してみましょう。
- 二階: 付加価値
- 一階: 土台となる基本的な価値
[一階] 土台となる基本的な価値
古谷乳業が長年培ってきた乳製品メーカーとしての信頼性や、ヨーグルト製造における職人の技能が、ヨーグルトとしてのおいしさと品質という基本的な価値を支えます。
各フレーバーが持つ独自の味わい (蜂蜜の甘さ, 生乳のコク, 脂肪分ゼロなど) もここに含まれます。
他には安全性と信頼性もあります。 食品としての基本的な安全性や、古谷乳業という企業の信頼性が土台となるのです。
[二階] 付加価値
「物語のあるヨーグルト」 の絵本のようなパッケージデザインは、置いておく喜びや視覚的な楽しさという付加価値をもたらます。
また、ストーリーによる共感と癒しも付加価値の要素です。商品に込められた物語や中蓋のあらすじは、消費者に感情的な価値を提供します。ヨーグルトを食べるという行為以上の満足感を生み出すことでしょう。
さらに、がんばった自分のためのごほうびという位置づけは、日常生活の中に小さな特別感や自己肯定感をもたらす付加価値です。
コミュニケーションにつながるのも価値としてありそうです。 ユニークなパッケージやコンセプトは、家族や友人との会話のきっかけとなることでしょう。
価値の波及効果
古谷乳業の 「物語のあるヨーグルト」 は、ヨーグルトという商品の基本的な機能的価値 (一階部分) を押さえた上で、デザインとストーリーという付加価値 (二階部分) をつくり出しました。
物語のあるヨーグルトでは、絵本のような世界観がフックとなり、「かわいいから買ってみた」 「裏の物語まで読んで楽しんでいる」 という購入と体験を生み出しました。
このように、商品を二段構えの価値で見せることにより、これまでにはなかったヨーグルトの新鮮な体験を消費者にもたらします。それがひいてはリピーターやファンを増やすことにつながることが期待できます。
まとめ
今回は、「物語のあるヨーグルト」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 差異化には3つの軸がある。機能 (性能, 能力) 、デザイン (見た目の良さ, 使いやすさ) 、ストーリー (独自の物語, 作り手の想い) という3つ
- 位置関係のイメージは、機能が中央、デザインは表側、ストーリーは裏側
- 機能面だけでの差異化が難しい成熟した市場では、見た目の楽しさや心に響く物語といったデザインとストーリーが、消費者や顧客の心をつかむ差異化要素となる
- 商品価値は、基本的な機能的価値 (一階) を土台とし、その上にデザインやストーリーがもたらす情緒的な付加価値 (二階) を積み重ねる
- 付加価値は波及効果を生む。デザインやストーリーによる付加価値は、SNS での拡散、話題性、リピート購入など、広告費に頼らない自然な認知拡大と顧客定着につながる
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