投稿日 2023/05/14

大人気 「ヤクルト1000」 の戦略。これが新商品のマーケティングだ


新商品はどのように成功へ導くことができるのでしょうか?

今回は、ヤクルト1000のマーケティング戦略を徹底解剖し、その成功の秘密に迫ります。大ヒット商品になった道のりには、ランチェスター戦略を駆使した独自のアプローチがありました。

この記事から新たなマーケティングのヒントを見つけて、ビジネスの成功に一歩近づくことができるはずです。興味を持っていただけましたか?それでは、一緒に学んでいきましょう!

✓ わかること
  • 「マーケター・オブ・ザ・イヤー 2022」 の大賞を受賞したヤクルト1000
  • 発売前の不安と打ち手
  • ランチェスター戦略への当てはめ
  • 新商品のマーケティング

よかったら最後までぜひ読んでみてください。

ヤクルト1000


出典: ITmedia

ご紹介したいのは 「ヤクルト1000」 「Y1000」 です。

新しい市場を創造


ヤクルト1000 と Y1000 は日経クロストレンドの 「マーケター・オブ・ザ・イヤー 2022」 の大賞を受賞しました (正確に表現をするとヤクルト1000 と Y1000 を成功へと導いたヤクルト本社 業務部 企画調査課 課長の金安輝起氏が大賞を受賞) 。

以下は日経新聞の記事からの引用です。

驚異的な売れ行きで品薄状態が続く 「Yakult (ヤクルト) 1000」 (宅配用) と 「Y1000」 (店頭用) は、ストレスを抱え睡眠時間が短い日本人の悩みにアプローチする新しい市場を作り出した。

 「ヤクルトといえば乳酸菌 シロタ株」 。こう連想する人は多いかもしれない。だが、「あのヤクルトで私の睡眠が変わるの!?」 という驚きは大きかった。多くの消費者が抱える悩みに応える新規性と期待感がヒットを生んだ。

市場が未成熟ゆえの発売前の不安


ヒット商品となったヤクルト1000 や Y1000 ですが、発売前は不安があったとのことでした。

脳と腸がお互いに密接に影響を及ぼしあうことを 「脳腸相関」 と呼ぶ。ストレスを感じると腹痛が起き、便意をもよおすなどが分かりやすい脳腸相関の例だ。

ヤクルトの研究機関が脳腸相関に注目して研究を進めた結果、「乳酸菌 シロタ株」 がストレス緩和などの機能を果たすには、菌の数だけではなく菌の密度が重要ということが分かった。

 (中略) 

試行錯誤の結果、2019年10月に菌数が1000億個、菌の密度は1ミリリットルあたり10億個という Yakult1000 の発売にたどり着いた。

ただ、良い商品が必ず売れるとは限らない。ヤクルト本社業務部企画調査課の金安輝起課長は 「商品としてはエビデンスがあるので自信を持っていたが、市場はほとんどないようなものだった。本当に売れるのか、不安は常にあった」 と話す。

というのは、Yakult1000 を発売した19年当初、睡眠やストレスにアプローチする飲料の市場はまだ小さく、脳腸相関の考え方も消費者に理解されるかが不透明だったからだ。

ヤクルトレディにアプローチ


そこで何をしたかと言うと、ヤクルトレディに白羽の矢を立てました。

そこで、「まずは限られた地域の宅配で、ヤクルトレディによる丁寧な説明が重要」 (金安氏) と判断し、まずはストレスを抱えやすいビジネスパーソンが多いとみられる関東1都6県で宅配の商品として展開することにした。効果を正しく伝え、価値を理解してもらうには対面での説明が不可欠だった。

 「ヤクルトレディにも実際に飲用してもらい、その感想や効果を直接説明してもらうようにした。SNS などネットの情報が過多になっている今だからこそ、顔を知っている信頼できる人からの説明は大きな力になった」 。

さらに、宅配をメーンにしながらも一部の百貨店や高級スーパーで販売し、消費者の間口を広げる工夫をした。店頭であっても担当者を置くなどして、丁寧な説明に力を入れた。

ここまでの整理


一度ここまでの内容の整理をしておきましょう。

✓ 発売前の解決すべきだった問題
  • 乳酸菌飲料で睡眠を改善できる認識やイメージを生活者は持っておらず市場がない
  • 脳腸相関に消費者は馴染みがない。効果を理解されるか不透明

✓ 打ち手
  • 宅配地域は、最初はターゲットをビジネスパーソンが多い地域に絞る
  • ヤクルトレディにも飲んでもらう
  • 見込み客へはヤクルトレディから自身の感想や効果の話も交えて丁寧に説明してもらう
  • 宅配をメインにしつつ、一部の百貨店や高級スーパーで販売
  • ヤクルトレディや売場の担当者から対面で直接説明をする


学べること


ではヤクルト1000から学べることを掘り下げていきましょう。

自分たちが手掛けたことのない新商品をどうやってマーケティングや販売をしていくかに学びがあります。

ランチェスター戦略


商品の市場性があるのかが発売前の段階ではまだ十分にわからず、始めから大々的に展開できないケースにおいてヤクルト1000のアプローチは参考になります。

補助線で使いたいのがランチェスター戦略の 「弱者の戦略」 です。最初はリソースを大きくかけられない新商品を 「弱者」 と見立てることで、ランチェスター戦略の弱者の戦略が当てはまります。

✓ ランチェスター戦略の 「弱者の戦略」 の実践
  • 注力するリソースの明確化 (商品やターゲット顧客) [一点集中]
  • 市場やカテゴリー、展開エリアを絞る [局地戦]
  • エンドユーザーや顧客に直接アプローチをする [接近戦]
  • 直接対決する相手はなるべく少なくする [一騎打ち戦]
  • 大手プレイヤーにはできない泥臭い打ち手を展開する [陽動戦]

新商品のマーケティング


ヤクルト1000や Y1000 が発売前後でやったことをランチェスター戦略に当てはめると、戦略から実行に一貫性があることがわかります。

✓ ヤクルト1000 の戦略と実行
  • 一点集中: 脳腸相関に注目した健康訴求。効果効能を睡眠の質向上に特化した,。最初はターゲットをビジネスパーソンに絞った
  • 局地戦: 宅配エリアや販売チャネルを限定
  • 接近戦: ヤクルトレディや販売員が対面で直接お客さんに丁寧に説明
  • 一騎打ち: 睡眠の質を向上させ眠りを良くするという飲料の競合商品はまだ少なかった
  • 陽動戦 (ゲリラ戦) : 最初はスモールスタートで小さく展開

学びを一般化して捉えると、ヤクルト1000 や Y1000 の戦略や施策はランチェスター戦略を見事に体現し、新商品のマーケティングに示唆があります。


まとめ


今回はヒット商品 「ヤクルト1000」 と 「Y1000」 を取り上げ、戦略やマーケティングに学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

✓ 新商品のマーケティング
  • 最初はリソースを大きくかけられない新商品を 「弱者」 と見立てれば、ランチェスター戦略の弱者の戦略が新商品のマーケティングに有効
  • ① 注力するリソースの明確化 (商品やターゲット顧客) [一点集中]
  • ② 市場やカテゴリー、販売エリアを絞る [局地戦]
  • ③ エンドユーザーや顧客に直接アプローチをする [接近戦]
  • ④ 直接対決する相手はなるべく少なくする [一騎打ち戦]
  • ⑤ 大手プレイヤーにはできない泥臭い打ち手を展開する [陽動戦]


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。