#マーケティング #PJMメソッド #本
今回は書評です。
読んでおもしろかったマーケティングの本をご紹介します。
書籍 「クリエイティブなマーケティング (藤平 (とうへい) 達之) 」 から、この本の骨子になっている 「PJM メソッド」 を紐解いていきます。
本書の概要
この本で新しいマーケティングのアプローチとして解説しているのが、「PJM メソッド」 です。
PJM はそれぞれマーケティング用語の頭文字で、P はパーパス (Purpose) 、J はジョブ (Job) 、M はモーメント (Moment) です。
それぞれの解説は平易に書かれ、そして具体的な実践方法が詳しく解説されています。
PJM メソッド
PJM メソッドには、4つの項目があります。
- 自社やブランドのパーパス (存在意義) をまず掲げる
- お客さんの本当の望み (ジョブ) を把握する
- その望みが表面化する瞬間 (モーメント) を見出す
- お客さんの望みを叶えるユーザー体験をもたらす
PJM メソッドの全体像についてもう少し補足をすると、
- パーパス: ブランドが打ち出したい理念や世界観を掲げる
- ジョブ: お客さんのジョブ (本当に望んでいる気持ち) を定め、ジョブという顧客文脈を通してお客さんを理解し、競合も把握する
- モーメント: ジョブが発生する "あるあるな瞬間" やシチュエーションをモーメントとして見極める
- ユーザー体験: 狙うモーメントとジョブに対して、お客さんにどのような価値を届けるかを設計する
ちなみに、PJM メソッドは戦略のフレーム 3C に沿ってつくられています。顧客 (Customer) 、競合 (Competitor) 、自社 (Company) の3つの C です。
PJM メソッドで特徴的なのは、最初にパーパスを掲げているように、3C における自社の Company から入るところです。
では PJM メソッドのパーパスから順番にさらに詳しく見ていきましょう。
パーパス
パーパスとは、企業やブランドからの 「未来に向けた選手宣誓」 のようなものです。自分たちはこうしたいこう、こうありたいという存在意義がパーパスです。
もう少し解像度を上げると、パーパスは次の問いに答えを出すものです。ブランドを言葉の主語にして、
- ブランドは 「なぜこの社会に存在している」 のか?
- ブランドは、社会に 「どんないいことを増やせる」 のか?
- ブランドは 「何を愛するプロ」 なのか?
- ブランドは 「何のテーマのリーダー」 なのか?
良いパーパスは、シンプルだが具体的、言語化された言葉の純度が高く、どこにでもあるようなありきたりな内容ではなく自分たちならではの "らしさ" があります。それだけエッジが効いています。
パーパスを見出すためには、より高い次元に上がってみるといいでしょう。ただし、抽象的すぎないように注意が必要です。
ジョブ
次に PJM の2つ目のジョブです。
ジョブと似た概念にニーズがありますが、本書での2つの違いは、ニーズは手段への想起、ジョブは気持ちの想起と棲み分けます。
ジョブはもともとの意味は 「Jobs to Be Done (片付けたい仕事) 」 です。ジョブの定義は 「人が特定の状況で遂げたい進歩 (progress) 」 です。本書の文脈でのジョブは、「ブランドが応えたい望みや解消したい不満」 と捉えることができます。
ちなはにこれは私の解釈ですが、本書でのジョブの捉え方はマーケティングの概念の 「顧客インサイト」 に通じます。
顧客インサイトとは、「お客さんを動かす隠れた気持ち」 です。普段は無意識下に眠っていますが、そうだと気づかされれば表面に出てきて態度や行動に影響を与える心理です。顧客インサイトのことを 「心のホットボタン」 や 「心のツボ」 と言ったりしますが、心のスイッチボタンを押すことで人を動かすイメージです。
"フレネミー" の発見
ジョブの理論では、ジョブという叶えたい望みや解消したい不満のために、商品やサービスを "雇う" という考え方をします。
マーケティングでは、お客さんのジョブのために自社商品が雇われることを狙うわけです。自社商品の他にお客さんの選択肢として頭に思い浮かぶのが競合商品という構図になります。
この本でおもしろい概念だと思うのは、ジョブのための雇う候補の中に 「フレネミー」 という存在をつくっていることです。
フレネミーは friend + enemy の造語です。協力者 (友だち) と敵の要素の両方を持った存在がフレネミーです。普通に考えれば、自社商品以外の雇われる候補はすべて競合で 「敵 (ライバル) 」 ですが、考えようによっては直接の競合でなければ、たとえばコラボをしたりタッグを組むことによって 「フレンド」 にもなるという考え方です。
フレネミーの例は、美容院の場合はフレネミーは 「加工アプリ」 や 「ファッションウィッグ」 です。
美容院を経営している立場では、他の美容院とお客さんを取り合っているというのが一般的な競争環境です。
しかしもっと広く捉えると、スマホの加工アプリが使われることで、美容院で髪の毛をきれいにしたり髪型を整えなくても、気に入った髪型にできます。また、ファッションウィッグを買えば、わざわざ髪にダメージを与えてまで髪を染めなくても、明るい色の髪型に変身できます。
このように考えると、お客さんが持つ 「髪型をおシャレにしたい」 「写真でかわいい自分でありたい」 「髪型や色合いを変えて新しい自分になりたい」 というジョブがあり、そして、ジョブのために雇う候補として、美容院の直接の競合は他の美容院、競合にも協力相手にもなりえる "フレネミー" は加工アプリやファッションウィッグになるわけです。
モーメント
モーメントとは、生活者がブランドのことを思い出したり買うきっかけになる瞬間、使われるシーンなどのことです。ブランドと生活者との接点となり、生活者にとってブランドやそのカテゴリーにまつわる "あるある" な瞬間がモーメントです。
モーメントは自社ブランドが 「お客さんから選ばれる瞬間」 です。別のマーケティングの専門用語に近いものとして、モーメントはカテゴリーエントリーポイントとも言えます。
ジョブとモーメントの関係は、ジョブというお客さんの望みややりたいことが具体的に発生する瞬間がモーメントです。
たとえば、健康食品メーカーにとっては、「今まで不健康な生活を変え、健康的になりたい」 というジョブは、健康診断の結果が手元に返ってきたときに一年の中で最も強く引き起こされるでしょう。診断項目に 「C」 や 「D」 があるのを見て、ちょっとこれは食生活や生活習慣を見直さないとやばいかもと思った瞬間です。
ビジネス事業者は、狙うジョブが表れる生活者にとってのあるあるな瞬間 (モーメント) を捉えることで、ブランドへの関与や接点をつくることができます。健康診断の結果を見たというモーメントに健康食品メーカーが的確に訴求できれば、普段よりも意識を向けてもらいやすいでしょう。
捉えるモーメントの候補を出していく際には、モーメントの数は単純に多いから良いというわけではなく、視点や切り口が網羅されていることが大事です。
顧客体験につなげる
PJM メソッドは4つの項目から構成されます。
- パーパス (存在意義)
- ジョブ (お客さんの望み)
- モーメント (ジョブが表面化しブランドがつながれる瞬間)
- 顧客体験
これら4つをつないだ PJM メソッドシートは次のようになります。このシートを埋めていくことで PJM メソッドの実践に入ります。
シートの項目は以下です。
- 解決すべき最大の課題
- 定量的 / 定性的ゴール
- パーパス
- パーパス傘下での注力領域
- 生活者のジョブ
- 狙っていくモーメント
- 提供する顧客体験を司るコンセプト
まとめ
今回は、書籍 「クリエイティブなマーケティング (藤平達之) 」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にまとめとして PJM メソッドのポイントです。
- パーパス
企業やブランドの存在意義を掲げ、社会にどんな良い影響を与えるかを明確にする。シンプルかつ具体的な理念を持ち、高い次元でのパーパスを定める - ジョブ
もともとの意味は 「Job to Be Done (片付けたい仕事) 」 で、ジョブとは 「特定の状況下で人が遂げたい進歩 (progress) 」 。ジョブのニュアンスは、ブランドが応えたいお客さんが本当に望むことや解消したい不満。商品やサービスはジョブを済ませるためにを雇うもの - モーメント
モーメントはお客さんの中でジョブが発生する "あるあるな瞬間" やシチュエーション。ブランドとお客さんの接点となる瞬間になるよう、モーメントが生まれたときに競合やフレネミーではなく、いかに自社ブランドが選ばれるかが大事 - 顧客体験
パーパス、お客さんのジョブ、狙っていくモーメントをもとに顧客体験を設計し、お客さんに価値を提供する
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