#マーケティング #広告 #本
どうすればお客さんの心に響く言葉を紡げるでしょうか?
2024年に再登場した谷山雅計さんの著書 「広告コピーってこう書くんだ!読本〈増補新版〉(谷山雅計) 」 は、この問いに対して、新たな視点と具体的な方法論を教えてくれます。
良い広告コピーを書くための 「発想体質」 をどう育てるのか?それを解き明かすカギを、この本からぜひ一緒に見つけにいきませんか?
本書の概要
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著者は、コピーライターの谷山雅計さんです。主な広告コピーは、東京ガス 「ガス・パッ・チョ!」 、資生堂 TSUBAKI 「日本の女性は、美しい。」 、新潮文庫 「Yonda?」 、日本テレビ 「日テレ営業中」 です。
広告コピーは論理と感性・センスが必要ですが、谷山さんは 「論理が 70% 、センスは 30% 」 だと言います。
本書の全体を通じて書かれているのは良いコピーを書くための 「論理」 です。広告コピーを書ける 「発想体質」 になれるように導いてくれる本です。
ちなみにタイトルに 「増補新版」 と入っていますが、この本は2007年に発売された広告コピーのロングセラー書籍 「広告コピーってこう書くんだ!読本」 が、増補新版になって2024年に新たに再登場したものです。
2007年の旧版の内容に加えて、2020年代の視点から章ごとの内容を振り返った後日談が加わり、デジタルや SNS 、AI 時代の広告コピーのあり方について興味深く読めます。
発想体質になるために
では、発想体質になるためにはどうすればいいかについて、この本から得られる様々な示唆を見ていきましょう。
「なんかいいよね」 という言葉を禁句にする
何かを見ていいなと思ったときに、単に 「いいよね」 と言って終わりにしないようにするーー。これが谷山さんからのこの本の最初の教えです。
言わんとしているのは、何かに 「いいよね」 と思うこと自体を否定しているのではなく、そこで思考を止めないことが大事だということです。
思考停止にならずこう考えてみます。「なぜいいのか。これこれこうだからじゃないか」 「なぜカッコいいのか。こういう工夫をしたからじゃないのか」 と。
自分の感情や何かに違和感を持ったときに立ち止まり、なぜそう感じたのかや思ったのかを、自分なりに考えるわけです。「なぜ」 がわかれば、応用ができ再現できるようになり、"発想体質" になる方法です。
奥にある本質を捉える
広告コピーへの1つの切り口や視点を 「1枚の葉っぱ」 にたとえると、葉っぱを1枚見つけたら 「きれいな葉っぱだ」 「この葉っぱ、いいな」 と、そればかりを見ていてはいけません。
広告のつくり手としては、そこから 「この葉っぱはきれいだけど、どういう木に、どういう幹についているんだろう」 と、思考を広げていくことが大事です。つまり最初に思いついた視点や言葉の奥にある本質を捉えようとする重要性です。
そのコピーの本質となる 「幹」 の部分を考え、その幹には、他にどんな葉っぱがつくべきだろうかと考えてコピーへの視点の数を増やし、木をつくっていくわけです。
この延長線上にあるのが、広告コピーを使う広告キャンペーン、さらにはマーケティングコミュニケーションという 「森」 があります。
コピーへの視点という 「葉っぱ」 でとまるのか、幹を考え、そこから 「木」 や 「森」 をつくっていけるのかによって、最初の発想の入口は葉っぱという同じものだったとしても、その先の広げ方で広告にも大きな差が生まれます。
原稿用紙から世の中への流通 (5段階の広がり)
自分が書いた言葉やアイデアが、世の中にどう広がるかという 「流通力」 、今っぽく言えば 「バズり」 を事前にどこまでイメージできるかです。
- 原稿用紙に書いたコピー
- コピーのまわりとの関係 (例: コピーと一緒にあるビジュアルなどとの関係性、広告掲載枠と周囲との関係性)
- 広告を見た人がどう思うか (ここで受け手の視点に変換)
- 広告を見た人が他人に何と言うか、どう伝えるか
- 話題になることで世の中が変わるか
具体的に当てはめると、
- 原稿用紙にコピーを1行、たとえば 「おいしい生活」 と書いたとする。それを見て、カッコいいフレーズが書けたなと思う
- コピーとビジュアルとの関係性を考える。たとえばタレントが写っている写真にこのコピーを入れたらどうか、ステーキの写真の横にこのコピーを置いたらどうか (ただし、この段階ではまだ、つくり手としての立場での発想にとどまっている)
- 「この広告を見た人はどう思うだろうか」 と考える。ここではじめて受け手の立場がイメージできるようになる
- 「広告を見た人が他人になんと言うだろうか」 「どう伝えるだろうか」 と考える
- 広告の受け手がまわりに伝えることで、どんな話題が世の中に広まり、どのような意識の変化が起こるのかをイメージする。受け手を個人としてではなく、広い社会としてイメージすそうした話題の広まりや意識の変化によって、「顧客数が20万人くらいは増える」 などの実際の人の動きまで読めるようになる
相手に言わせてあげる
では、広告が広く世の中で話題になるためにはどうすればいいのでしょうか?
みんなが言いたいことを言わせてあげるように仕掛けることです。ここでのポイントは、広告がそれを 「言ってあげる」 のではなく、人々に 「言わせてあげる」 ことにあります。
人が何となく日頃から感じていること、まだ言語化されていなかったことを提示し、見たり聞くことで言語化され、思わず他人に言いたくなるようにすることを狙うわけです。
常識と芸術の間を狙う
谷山さんの 「常識とコピーと芸術の三分類」 の考え方がおもしろかったです。
優れた広告コピーは "常識" と "芸術" の間にあるというものです。
常識とは言われたり見せられたときに 「そりゃそうだよね」 となる浅いこと、一方の芸術は見せられても 「さっぱりわからない」 という意味合いが深すぎるものです。
- そりゃそうだよね → 常識
- そういえばそうかも → コピー ※ ここを狙う
- さっぱりわからない → 芸術
常識と芸術の間にある広告コピーは、「そういえばそうだね」 という気づきを与えてくれます。コピーの言わんとすることがわかり、ただしそれば普段は意識の下に眠っていたものです。これはマーケティングの顧客インサイトの概念に通じます。
伝えたいことを広告コピーにして 「当たり前 (常識) 」 と 「意味がわからない (芸術) 」 のちょうど中間を狙うわけですが、その落としどころは時代の価値観によって変わります。
昔のかつての 「そういえばそうかも」 は今とっては常識になっていたり、昔は 「さっぱりわからない」 が、時代が追いつき今なら 「そういえばそうかも」 なることもあるでしょう。
良いコピーを書くために
それではここからは、良い広告コピーを書くためにヒントになると思ったことをご紹介していきます。
「散らかす → 選ぶ → 磨く」
この順番は広告コピーを書いていく流れです。
はじめに様々な切り口や視点からたくさんのコピー案を出していき、散らかします。
次のステップが 「選ぶ」 です。散らかしたたくさんの切り口の中から、単に 「自分はこれが好きだ」 というお気に入りを選ぶのではなく、「受け手にとって本当に意味があるものはどれか」 という視点で選び出すことが重要です。
3つ目のステップが 「磨く」 です。選んだものを、受け手にとってわかりやすく印象深いものにするために、言葉をブラッシュアップして磨いていきます。
これら3つのステップの中で、1つ目の散らかす作業が大きな意味を持ちます。
というのは、最初の散らかしが足りないと、その中から選ぼうとしても選ぶ能力が身につかず、その無理やり選んだものを磨こうとしても、磨く能力も向上しないからです。
1つ目の 「散らかす」 は、コピーを書きながら視点を広げ、積み上げていくプロセスです。とはいえ、ただ単に量を出せばいいということではありません。
ノートや紙に自分が文字として書いたものを土台にし、「これを書いたということは、それにつながって、こんな見方もできるんじゃないか」 「そこからナナメ上に行くと、こういう可能性もあるんじゃないか」 などと考えをふくらませます。散らかして書いたものを呼び水にして、さらに発想を広げていくわけです。
こうすることでたくさん書く以上の意味が生まれます。一定の時間で続け量を出していくと、書きはじめたときには 「まさか自分がこんなコピーを書くとは思わなかった」 というコピーを生み出せます。
量で多角的な視点を増やす
広告コピーのよしあしは、文章力で決まるものではなく、広告対象の商品やサービスの思考の深さで決まります。
広告コピーの文が書けないのは、文章が下手とか書くのが苦手とかという以前の問題で、広告商品やターゲット顧客、競合などの広告に関連する論点を深く考えていないからです。
そこで、著者の谷山さんが推奨するのは、まずはキャッチコピーを100本書いてみることです。
1本1本のコピーの出来栄えを気にせず量をこなすことで、少なくとも広告対象について、時間をかけてたくさんの視点から考えつくしていきます。100本という過程を通して、深く掘り下げられて考えてもいるし、広告対象についての理解も深まっているでしょう。
自分の中に書くべき内容が蓄積されて、絶対に書かなくてはいけないことと、それほど必要性のないこととの見極めができる状態になります。いきなり書いた広告コピーとは視点のユニークさで差がつき、なによりも説得力が違うはずです。
コピーは短くシンプルなほうがいい
広告への前提として、誰も広告など好きではない、誰も広告を積極的に見ようとはしないという認識が必要です。
こうした前提になると、まずは見てくれる人に広告のほうに振り向いてもらわないといけません。「これ、なんだろう?」 と広告に注目してもらい、伝えたい内容を理解してもらうところまで誘導します。
長いコピーは読む手間がかかるので、まず高いハードルになってしまいます。
「誰もコピーなんか読みたいと思ってない」 という出発点から書きはじめて、「じゃあ、どうやってそういう人を振り向いてもらえる」 と発想していくから、自然と短く、強く、シンプルになっていきます。
ただし、どんな場合でも短いコピーが良いかというと、必ずしもそうとは限りません。
受け手が積極的に見て、理解したいと思うようなジャンルの広告の場合は、コピーが長くとも受け入れられるでしょう。
たとえば求人広告です。求人誌は、読者が求人情報を知りたいと思って見るので、求人誌に掲載される求人広告も見てもらいやすいわけです。広告コピーの文が長かったとしても読んでもらえ、むしろ情報量の多い説明された文章のほうが好ましいでしょう。
ポイントは、広告コピーは、見る人のかかわり方、姿勢、意欲の強さで、適切な長さが変わることというです。
「描写」 ではなく 「解決」 するコピーを書く
広告コピーでは、描写をしているだけでは不十分で、何かの解決につながることまで踏み込んで書きます。解決まで踏み込むことでコピーは人を動かします。
コピーライターは、ペンを片手に原稿用紙に向かう仕事をする人です。意識として重要なのは、「このペンの力で、すばらしい言葉をつづってやろう」 と考えるのではなく、「自分のペンの力で、いまある状況をなんとか変えてみせよう」 という言葉での解決への意欲と挑戦です。
広告コピーを書く際には、「描写」 ではなく 「解決」 を目指すのです。
まとめ
今回は、書籍 「広告コピーってこう書くんだ!読本〈増補新版〉(谷山雅計) 」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 「なんかいいよね」 という言葉を禁句にする。いいと感じたことの理由を掘り下げて言語化する
- 奥にある本質を捉える。広告の奥行きを考え 「葉っぱ (広告への切り口) 」 だけでなく 「木」 や 「森」 へと思考を広げる
- 広告からの波及を考える。広告を見た人の心理や行動、世の中への影響
- 広告内容や思ったこと、相手に自然と言わせてあげるような設計をする
- 広告コピーを 「常識 (当たり前) 」 と 「芸術 (わからない) 」 の間を狙う
✓ 良いコピーを書くために
- 「散らかす → 選ぶ → 磨く」 。広い範囲からのアイデアを考え、選定、そして精緻化していく
- 量で多角的な視点を増やす。100本のコピー案を書くことで広告商品への視点が増え、理解が深まる
- コピーは、どうやって広告に人を振り向かせるかという発想から、短く、強く、シンプルにする
- 「描写」 ではなく 「解決」 するコピーを書く
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